ある日突然、知らないおじいちゃんから莫大な遺産を相続させられて、全裸の執事と地獄がもれなくセットでついてきた

橋元 宏平

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第53話 脚本を生かすも殺すも俳優次第

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 ふたりめのヒロインは、宝龍ほうりゅうすず
 大人顔負けの演技力をすると有名の天才子役で、10歳の女の子。
 つい最近まで放送されていた家族ドラマでは、鈴ちゃんのけなげな演技に誰もが涙した。

 演技ばかりではなく、本格的なアクションもこなすというから驚きだ。
 本人は元々アクション女優か、スタントマンを希望していたらしい。
 女の子だけど、お父さんの趣味で一緒に特撮物を良く観るそうだ。
 特撮ヒーローが大好きで、将来は戦隊物の戦うヒロインになるのが夢なんだとか。

 たまたまドラマで人手ひとでが足りなかった時に、子役に起用きようしたところ自然な演技が好評こうひょうで、そのまま子役になった。
 そんなちょっと変わった経歴《けいれき》を持つ子役らしい。

「初めまして、川崎さん、よろしくお願いしまーすっ!」

 明るい笑顔と元気な声で、宝龍さんが挨拶あいさつしてきた。
 思わず嬉しくなって、俺も満面まんめんの笑みで挨拶を返す。

「初めまして、宝龍さん。こちらこそ、よろしくお願いします」
「川崎さんはすっごいお金持ちで、とっても優しい人だって聞いています! あこがれちゃいますっ!」
 
 小さな女の子から尊敬そんけい眼差まなざしを向けられて、ちょっとむずがゆい。
 俺は照れ笑いをしながら、正直に打ち明ける。

「いやいや、俺は宝龍さんが憧れるような立派な人じゃないよ。たまたまお金持ちになっちゃったから、お金の使い道が分かんなくて、みんなにバラまいちゃっだけなんだよ」
「またまた、そんなご謙遜けんそんを! 私のことは気軽に『鈴ちゃん』と、呼んで下さいねっ!」

 宝龍さん、いや、鈴ちゃんが子供らしくない言葉を使った。
 やっぱりこういう世界で生きてるから、そういう言葉をおぼえるのか?
 さっきの誉め言葉も、やっぱり演技なのかな。

 俺は児童養護施設じどうようごしせつにいた頃、ずっと年下の子の遊び相手ばかりしてたから子供の扱いには慣れてんだよね。
 一緒に遊んでいるうちに、すっかり鈴ちゃんに懐かれてしまった。
 撮影さつえいが始まるまで、鈴ちゃんとずっと遊んでいた。

 ☆

 なかなか撮影がはかどらない状況に、麗華さんがイラ立っている。

「ちょっと、川崎専務! いい加減かげんにして下さらないっ? 何回NG出せば、気が済むんですかっ?」
「そ……そんなこと言ったって……」

 情けない声を出す俺をギロリとにらんで、麗華さんが頭ごなしに怒鳴り散らす。

「やることはいっぱいあるんですから、余計よけいなことは考えずに言われた通りやって下さいよっ!」
「す、すみません……」

 俺の演技は、お粗末そまつもいいとこだ。
 だいたい俺は、施設のお楽しみ会や学校の文化祭くらいでしか、演技なんてやったことがない。
 その時だって、名前もセリフもない村人C役だった。
 いきなり主役を割り振られても、出来っこない。

 監督かんとくから何度も注意されるが、カメラを向けられると緊張して体が硬くなり、セリフも上手く喋れない。
 あまりに出来なさすぎて、自己嫌悪じこけんおおちいる。

 結局、俺のシーンだけ別撮べつどりりで、他のシーンを先に撮ることになってしまった。
 なんで、俺は何をやってもダメなんだ。
 でも、麗華さんが「やる」と決めたからには、やらざるを得ないだろう。

 肩を落として深々とため息を吐き出し、脚本に目を落とす。
 有名な脚本家が書いてくれた、大事な脚本だ。
 何本も有名なドラマを執筆している脚本家なだけあって、張り巡らされた伏線ふくせん伏線回収ふくせんかいしゅうが素晴らしい。

 どんなに良い脚本も、俳優の演技がダメだったら何もかも台無しになる。
 逆に大したことない脚本でも、俳優や演出家が素晴らしかったら、良いものが出来上がる。
 脚本を生かすも殺すも、俳優と演出家と脚本家の力量りきりょうに掛かっている。
 この素晴らしい脚本をダメにしないように、頑張らなくちゃ。
 どうしてもダメそうだったら、監督に頼んで俺の出番を大幅《おおはば》に削《けず》ってもらって、他の演者の場面を増やしてもらおう。

 俺は撮影の邪魔じゃまにならないように、スタジオのはしっこでこっそりと練習する。
 すると、桜庭が俺の側へやって来た。

桜庭さくらば……」
「僕も今、出番がなくて待ち時間なのです。もしよろしければ、読み合わせして頂けませんか?」

 桜庭が微笑みながら脚本を開いたので、俺は申し訳なくておずおずと謝る。

「ご……ごめんな、俺、演技下手で。お前、俺とのシーン多いから、後回あとまわしになったんだろ?」
かまいませんよ。ご主人様の為でしたら、いくらでもお付き合い致します」

 桜庭は優しくフォローしてくれたが、優しくされればされるほど申し訳ない気持ちが強くなった。
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