ある日突然、知らないおじいちゃんから莫大な遺産を相続させられて、全裸の執事と地獄がもれなくセットでついてきた

橋元 宏平

文字の大きさ
55 / 68

第55話 撮影順調

しおりを挟む
 ベテランの俺に掛かれば、どんな演技だってお手の物。
 怒るシーンは真剣に怒声を放ち、笑うシーンは時に無邪気に、時にほがらかに。
 シリアスなシーンは、張り詰めた緊張感がただよった。

 監督の希望通りの演技をこなし、一度としてNGを出すことなく、撮影はスムーズに終わった。
 俺の迫真はくしんの演技に、プロデューサーも満足げだ。

「昨日の演技が、ウソのようですね。やれば、出来る人だったんですね! 見直しましたよっ!」
「当たり前だろ。俺は演技派のベテラン俳優だからな」

 得意になって胸を張ると、プロデューサーは眉をひそめて苦笑する。

「あ、うん、そう……まぁいいわ。溜まっていたシーンは全部撮れましたし、文句なしの出来でしたわ。主役のブレイカータイガー役川崎かわさき虎河たいがさん、all upオールアップ(撮影終了)です! お疲れ様でしたっ!」
「スタッフの皆さんも、お疲れ様でした! この度は、主演を務めさせて頂きまして、誠にありがとうございましたっ!」
「「「お疲れ様でしたーっ! ありがとうございましたっ!」」」

 お辞儀をすると、スタッフ達は盛大な拍手を送ってくれた。
 笑顔で手を振って、俺はスタジオを出て行く。
 俺の背中に、誰かが声を掛けてくる。

「ご主人様があんなに演技がお上手だなんて、知りませんでしたっ!」

 振り返ると、そこには興奮気味こうふんぎみのあの桜庭さくらば春樹はるきが立っていた。
 なんだ、お前か。
 お前なんかにいくら褒められても、ちっとも嬉しくない。

 無表情むひょうじょうで冷たい視線を向けると、桜庭春樹は傷付いたような顔をして黙り込む。
 その顔を見ると、罪悪感ざいあくかんのようなもので、胸が痛む。
 少しイジメすぎたか。
 先輩に教えをうのも、新人にとっちゃ大事な勉強。
 次の世代を育てるのも、ベテランのつとめ。

 まぁ、いいだろう。
 俺も大人だ、ベテランの余裕よゆうってヤツを見せつけてやろう。
 コーヒーの一杯くらいは、付き合ってやる。

「来いよ」
「は?」
「いいから、ついて来い」

 俺が歩き出すと、桜庭春樹はしかられた犬みたいな顔でついてきた。
 辿り着いたのは、「シュブニグラス・エンターテインメント」社内にある喫茶店きっさてん
 テーブルに着くと、桜庭春樹に命令する。

「座れ。おごってやるから、好きなもん頼め」
「は、はい、ありがとうございます。あ、あの、今日の演技は本当に素晴らしくて、とても感動しました。僕もあなたを見習って、頑張りたいと思います」

 真っ直ぐな目で見つめられてめられると、悪い気はしない。
 俺はふっと、小さく笑う。
 手を伸ばして、桜庭春樹の頭を軽くポンポンと叩いてやった。

「なんだ、生意気なまいきな新人野郎かと思ってたけど、結構可愛いとこあんじゃねぇか」

 ☆

 ふいに、何かが割れる音がした。

「申し訳ございません! 失礼致しましたっ!」
「え?」

 声がした方へ目を向けると、喫茶店の店員さんが割れたコップを片付けていた。
 気が付くと、社内にある喫茶店のテーブル席に、桜庭と向かい合わせで座っていた。

 あれ?
 俺がはっきりと思い出せるのは、椿に催眠術さいみんじゅつを掛けられたところまでだ。
 それ以降の記憶は、ぼんやりと霞掛かすみがかっている。

 でも完全に、何も覚えていないという訳ではない。
 なんとなく、スタジオで撮影をしたという記憶はある。
 まるで、夢でも見ていたかのようだ。
 それにしたって、これはどういう状況なんだ?

 俺の右手は、桜庭の頭を撫でていた。
 桜庭は、褒められた犬みたいな嬉しそうな顔をしている。
 なんだこれ?
 とりあえず、右手を引っ込めた。

 おい、残念そうな顔をするな、桜庭。
 年下の俺に頭撫あたまなでられて、嬉しいの?
 困惑こんわくする俺に、椿がクスクス笑いながら近付いてくる。

「あらあら、魔法が解けたようですわね、ご主人様。ご気分はいかがですか?」
「あ、あぁ……別に悪くはねぇけど」
「うふふっ、それは何より。ご主人様は、ブレイカータイガーを演じられていただけですわ」
「そ、そうか、全然覚えてねぇけど……俺、ちゃんと演技出来てたのか?」
「ええ、もちろん。とっても素晴らしい演技で、アタシ、ご主人様にれ直してしまいましたわぁ♡ 本放送ほんほうそうが楽しみですわね♪」
「俺主演のドラマなんて黒歴史確定くろれきしかくていで、観るのがスゲェ怖いんだけど……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

泣き虫だったはずの幼なじみが再会したら僕を守るために完璧超人になっていた話。

ネギマ
BL
気弱で泣き虫な高校生、日比野千明は、昔からいじめられっ子体質だった。 高校生になればマシになるかと期待したが状況は変わらず、クラスメイトから雑用を押し付けられる毎日を送っていた。 そんなある日、いつものように雑用を押し付けられそうになっている千明を助けたのは、学校中が恐れる“完璧超人”の男子生徒、山吹史郎だった。 文武両道、眉目秀麗、近寄りがたい雰囲気を纏う一匹狼の生徒だったが、実は二人は、幼い頃に離れ離れになった幼なじみだった――。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...