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第55話 撮影順調
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ベテランの俺に掛かれば、どんな演技だってお手の物。
怒るシーンは真剣に怒声を放ち、笑うシーンは時に無邪気に、時に朗らかに。
シリアスなシーンは、張り詰めた緊張感が漂った。
監督の希望通りの演技をこなし、一度としてNGを出すことなく、撮影はスムーズに終わった。
俺の迫真の演技に、プロデューサーも満足げだ。
「昨日の演技が、ウソのようですね。やれば、出来る人だったんですね! 見直しましたよっ!」
「当たり前だろ。俺は演技派のベテラン俳優だからな」
得意になって胸を張ると、プロデューサーは眉をひそめて苦笑する。
「あ、うん、そう……まぁいいわ。溜まっていたシーンは全部撮れましたし、文句なしの出来でしたわ。主役のブレイカータイガー役川崎虎河さん、all up(撮影終了)です! お疲れ様でしたっ!」
「スタッフの皆さんも、お疲れ様でした! この度は、主演を務めさせて頂きまして、誠にありがとうございましたっ!」
「「「お疲れ様でしたーっ! ありがとうございましたっ!」」」
お辞儀をすると、スタッフ達は盛大な拍手を送ってくれた。
笑顔で手を振って、俺はスタジオを出て行く。
俺の背中に、誰かが声を掛けてくる。
「ご主人様があんなに演技がお上手だなんて、知りませんでしたっ!」
振り返ると、そこには興奮気味のあの桜庭春樹が立っていた。
なんだ、お前か。
お前なんかにいくら褒められても、ちっとも嬉しくない。
無表情で冷たい視線を向けると、桜庭春樹は傷付いたような顔をして黙り込む。
その顔を見ると、罪悪感のようなもので、胸が痛む。
少しイジメすぎたか。
先輩に教えを乞うのも、新人にとっちゃ大事な勉強。
次の世代を育てるのも、ベテランの務め。
まぁ、いいだろう。
俺も大人だ、ベテランの余裕ってヤツを見せつけてやろう。
コーヒーの一杯くらいは、付き合ってやる。
「来いよ」
「は?」
「いいから、ついて来い」
俺が歩き出すと、桜庭春樹は叱られた犬みたいな顔でついてきた。
辿り着いたのは、「シュブニグラス・エンターテインメント」社内にある喫茶店。
テーブルに着くと、桜庭春樹に命令する。
「座れ。奢ってやるから、好きなもん頼め」
「は、はい、ありがとうございます。あ、あの、今日の演技は本当に素晴らしくて、とても感動しました。僕もあなたを見習って、頑張りたいと思います」
真っ直ぐな目で見つめられて褒められると、悪い気はしない。
俺はふっと、小さく笑う。
手を伸ばして、桜庭春樹の頭を軽くポンポンと叩いてやった。
「なんだ、生意気な新人野郎かと思ってたけど、結構可愛いとこあんじゃねぇか」
☆
ふいに、何かが割れる音がした。
「申し訳ございません! 失礼致しましたっ!」
「え?」
声がした方へ目を向けると、喫茶店の店員さんが割れたコップを片付けていた。
気が付くと、社内にある喫茶店のテーブル席に、桜庭と向かい合わせで座っていた。
あれ?
俺がはっきりと思い出せるのは、椿に催眠術を掛けられたところまでだ。
それ以降の記憶は、ぼんやりと霞掛かっている。
でも完全に、何も覚えていないという訳ではない。
なんとなく、スタジオで撮影をしたという記憶はある。
まるで、夢でも見ていたかのようだ。
それにしたって、これはどういう状況なんだ?
俺の右手は、桜庭の頭を撫でていた。
桜庭は、褒められた犬みたいな嬉しそうな顔をしている。
なんだこれ?
とりあえず、右手を引っ込めた。
おい、残念そうな顔をするな、桜庭。
年下の俺に頭撫でられて、嬉しいの?
困惑する俺に、椿がクスクス笑いながら近付いてくる。
「あらあら、魔法が解けたようですわね、ご主人様。ご気分はいかがですか?」
「あ、あぁ……別に悪くはねぇけど」
「うふふっ、それは何より。ご主人様は、ブレイカータイガーを演じられていただけですわ」
「そ、そうか、全然覚えてねぇけど……俺、ちゃんと演技出来てたのか?」
「ええ、もちろん。とっても素晴らしい演技で、アタシ、ご主人様に惚れ直してしまいましたわぁ♡ 本放送が楽しみですわね♪」
「俺主演のドラマなんて黒歴史確定で、観るのがスゲェ怖いんだけど……」
怒るシーンは真剣に怒声を放ち、笑うシーンは時に無邪気に、時に朗らかに。
シリアスなシーンは、張り詰めた緊張感が漂った。
監督の希望通りの演技をこなし、一度としてNGを出すことなく、撮影はスムーズに終わった。
俺の迫真の演技に、プロデューサーも満足げだ。
「昨日の演技が、ウソのようですね。やれば、出来る人だったんですね! 見直しましたよっ!」
「当たり前だろ。俺は演技派のベテラン俳優だからな」
得意になって胸を張ると、プロデューサーは眉をひそめて苦笑する。
「あ、うん、そう……まぁいいわ。溜まっていたシーンは全部撮れましたし、文句なしの出来でしたわ。主役のブレイカータイガー役川崎虎河さん、all up(撮影終了)です! お疲れ様でしたっ!」
「スタッフの皆さんも、お疲れ様でした! この度は、主演を務めさせて頂きまして、誠にありがとうございましたっ!」
「「「お疲れ様でしたーっ! ありがとうございましたっ!」」」
お辞儀をすると、スタッフ達は盛大な拍手を送ってくれた。
笑顔で手を振って、俺はスタジオを出て行く。
俺の背中に、誰かが声を掛けてくる。
「ご主人様があんなに演技がお上手だなんて、知りませんでしたっ!」
振り返ると、そこには興奮気味のあの桜庭春樹が立っていた。
なんだ、お前か。
お前なんかにいくら褒められても、ちっとも嬉しくない。
無表情で冷たい視線を向けると、桜庭春樹は傷付いたような顔をして黙り込む。
その顔を見ると、罪悪感のようなもので、胸が痛む。
少しイジメすぎたか。
先輩に教えを乞うのも、新人にとっちゃ大事な勉強。
次の世代を育てるのも、ベテランの務め。
まぁ、いいだろう。
俺も大人だ、ベテランの余裕ってヤツを見せつけてやろう。
コーヒーの一杯くらいは、付き合ってやる。
「来いよ」
「は?」
「いいから、ついて来い」
俺が歩き出すと、桜庭春樹は叱られた犬みたいな顔でついてきた。
辿り着いたのは、「シュブニグラス・エンターテインメント」社内にある喫茶店。
テーブルに着くと、桜庭春樹に命令する。
「座れ。奢ってやるから、好きなもん頼め」
「は、はい、ありがとうございます。あ、あの、今日の演技は本当に素晴らしくて、とても感動しました。僕もあなたを見習って、頑張りたいと思います」
真っ直ぐな目で見つめられて褒められると、悪い気はしない。
俺はふっと、小さく笑う。
手を伸ばして、桜庭春樹の頭を軽くポンポンと叩いてやった。
「なんだ、生意気な新人野郎かと思ってたけど、結構可愛いとこあんじゃねぇか」
☆
ふいに、何かが割れる音がした。
「申し訳ございません! 失礼致しましたっ!」
「え?」
声がした方へ目を向けると、喫茶店の店員さんが割れたコップを片付けていた。
気が付くと、社内にある喫茶店のテーブル席に、桜庭と向かい合わせで座っていた。
あれ?
俺がはっきりと思い出せるのは、椿に催眠術を掛けられたところまでだ。
それ以降の記憶は、ぼんやりと霞掛かっている。
でも完全に、何も覚えていないという訳ではない。
なんとなく、スタジオで撮影をしたという記憶はある。
まるで、夢でも見ていたかのようだ。
それにしたって、これはどういう状況なんだ?
俺の右手は、桜庭の頭を撫でていた。
桜庭は、褒められた犬みたいな嬉しそうな顔をしている。
なんだこれ?
とりあえず、右手を引っ込めた。
おい、残念そうな顔をするな、桜庭。
年下の俺に頭撫でられて、嬉しいの?
困惑する俺に、椿がクスクス笑いながら近付いてくる。
「あらあら、魔法が解けたようですわね、ご主人様。ご気分はいかがですか?」
「あ、あぁ……別に悪くはねぇけど」
「うふふっ、それは何より。ご主人様は、ブレイカータイガーを演じられていただけですわ」
「そ、そうか、全然覚えてねぇけど……俺、ちゃんと演技出来てたのか?」
「ええ、もちろん。とっても素晴らしい演技で、アタシ、ご主人様に惚れ直してしまいましたわぁ♡ 本放送が楽しみですわね♪」
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