ある日突然、知らないおじいちゃんから莫大な遺産を相続させられて、全裸の執事と地獄がもれなくセットでついてきた

橋元 宏平

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第65話 ファン第1号

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「川崎さん、こんにちは」
「加藤先生じゃないっすか、お久し振りです」

 ある日、花束を抱えた加藤先生が見舞いに来てくれた。
 加藤先生が来てくれたのは嬉しいんだけど、警備上けいびじょう、医療関係者以外の立ち入りは禁止だったはず。
 不思議に思って、桜庭に問い掛ける。

「あれ? 面会謝絶めんかいしゃぜつじゃなかったの?」
「弁護士先生は、ご主人様の『恩人おんじん』と呼べる大事なお人ですので、特別にお通し致しました」
「うん。加藤先生は、俺の恩人だよ」

 桜庭が言う通り、加藤先生には、とてもお世話になった。
 この人に出会ってから、俺の人生は大きく変わり始めた。
 加藤先生の助言があったからこそ、大きなあやまちをおかさずに済んだ。

 ブレイカータイガーが有名になったのも、加藤先生の発案によるものだ。
 本当に、加藤先生には感謝してもしきれない。
 加藤先生は優しい笑顔で、話し掛けてくる。

「川崎さん、ご無沙汰ぶさたしていましたが、お体の具合はいかがですか?」
「死に掛けましたが、今はこうしてピンピンしてますよ。ご心配をお掛けしました」
「いえいえ、川崎さんがお元気で何より。しばらくお会いしないうちに、ずいぶん有名になられましたね」
「加藤先生のアドバイスのお陰で、今や大人気ですよ。本当にありがとうございました」

 俺が満面の笑みで感謝すると、加藤先生は照れ臭そうに笑う。

「私はほんの少しばかり、お力添ちからぞえをしたまで。人気を確立かくりつしたのは、川崎さんの実力によるものですよ。お恥ずかしながら、私も『ブレイカータイガー』の大ファンでしてね」

 加藤先生は、カバンから一枚のカードを取り出して、俺の前に差し出した。
 それは「ブレイカータイガー」の特製とくせいキラカード。
「なかなか手に入らない」と、噂のレアカードじゃん。
 俺ですら、サンプル品しか持ってないのに。
 キラカードを持ってるって、よっぽど好きなんだな。
 見せられたカードを見て、俺は思わず吹き出してしまう。

「ファンになって頂けて、ありがとうございます。良かったら、サインしましょうか?」
「はい。ぜひ、お願いします」

 用意が良いことに、加藤先生は胸ポケットからサインペンを差し出した。
 もしかしたら、見舞いはこれが目的だったのかもしれない。
 今や、俺の直筆サイン入りグッズはお宝らしい。
 俺のサインなんかで良かったら、いくらでも書くけどね。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」

 俺のサイン入りカードを受け取ると、加藤先生は大事そうに、カード専用ファイルにカードを仕舞しまった。
 チラッと見えただけでも、かなりの枚数が入っていた。
 加藤先生は、欲しかったおもちゃを買ってもらった子供みたいな顔をしている。
 青白かった顔色も、ずいぶんと良くなった。
 こんなに楽しそうな加藤先生は、初めて見るかも。

「ああ、そうそう、これお見舞いのお花です」
「そんな……手ぶらで良かったのに。気を遣ってもらって、すみません」

 加藤先生が花束を差し出したが、俺は手を出さず、代わりに桜庭が受け取った。
 桜庭は「誠に申し訳ございませんが、あらためさせて頂きます」と、ひとこと断って病室を出て行った。
 俺は命を狙われている身なので、相手が誰であろうとも全部検品ぜんぶけんぴんすることになっている。
 加藤先生は、嫌な顔ひとつせず「どうぞ」と頷いた。

「あまり長居ながいすると、川崎さんのお体にさわりますから、そろそろ、おいとまさせて頂きます。どうか、お大事になさって下さい」
「はい。お見舞い、ありがとうございました」
「ファン一号として川崎さんの、いえ、『ブレイカータイガー』の活躍を楽しみにしていますよ。これからも、頑張って下さいね」
「応援して下さって、ありがとうございます。期待に応えられるように、頑張ります」 

 加藤先生が右手を差し伸べて来たので、俺も右手を差し出して握手に応じた。
 加藤先生は感激した様子で、めちゃくちゃ良い笑顔で握った手を上下に大きく振った。
 もう完全に、ファンの顔じゃん。

 握手の後、加藤先生は上機嫌で、スキップでもしそうな軽い足取りで帰って行った。
 弁護士先生でも、ハイテンションではっちゃけることがあるのか。

 そういえば、さっきの花束もブレイカータイガーのイメージカラーで作られていた。
 見舞いの花束じゃなくて、ファンからの花束ってこと?
 俺のこと、大好きすぎか。
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