ある日突然、知らないおじいちゃんから莫大な遺産を相続させられて、全裸の執事と地獄がもれなくセットでついてきた

橋元 宏平

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第64話 本物のヒーロー

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「うわぁ、マジかぁ……心配掛けちまって、ごめんな、みんな」
「いえ。ご主人様が生きてさえいれば、僕たちはそれで良いのです」

 桜庭さくらばが、安堵あんどした表情でそう言った。
 そうだよな、俺が生きてさえいれば、遺産いさんがヤツらの手に行くことはない。
 生きていなければならないんだ。

 桔梗ききょうが優しい笑みで、恐ろしいことを口走る。

「どうか、ご安心下さい。ご主人様に仇成あだなす『Great Old Onesグレートオールドワン』には、『正義の鉄槌てっつい』をくだしておきましたから」
「『正義の鉄槌』って、アジトに乗り込んでって、フルボッコ(フルでボッコボコ)にしただけだろ?」
「ええ、もちろん、ご主人様のお命を狙うおろかなやから容赦ようしゃなど一切致いっさいいたしません。二度とご主人様に手出し出来ないように、全員病院送りにやりましたよ」

 桔梗よ、お前……可愛い顔して、やること結構エグいよな。
「病院送り」って、何やったんだ。
 聞くのが怖い。
 桔梗の横にいた椿つばきが、くやしそうにハンカチをむ。

「本当は、本拠地ほんきょちを見つけ出して、壊滅かいめつさせてやりたいところですわ! けど、なかなか尻尾しっぽを出さないんですっ。ホンット、にくったらしいったらっ!」
「いつか、組織を壊滅させてやりたいですっ!」

 無駄に正義感の強いたちばなが、真面目な口調で言うと、桔梗もそれに釣られて大興奮だ。

「ヤツらは、ご主人様がいかに素晴らしい人物か、知らないんです。ちゃんと、分からせてあげなくてはっ!」
「俺、そんな立派な人物じゃねぇんだけど?」

 気満々きまんまんの執事たちに、俺はただ笑うしかなかった。
 笑うと腹筋が小刻こきざみに震えて、その振動が傷に響いて痛い。
 コイツらは、必要以上に俺を評価すぎだ。

 もしくは、大きな勘違かんちがいをしている。
 俺はそんな、出来た人間じゃない。
 基本、おおざっぱで適当だし、ガキ臭ぇし、ドン臭ぇし、頭も悪い。
 いったい、どこにめる要素があるってんだ。

 ……ああ、そうか。
 桔梗たちは、金でやとわれている執事なんだ。
 雇い主である、俺のことは立てなきゃいけない。
 俺が死んだら、お前ら、生活の手段を失って、困るもんな。
 そうだよな、雇い主の命を守り、たたえることも仕事のうちなんだ。

 ☆

 凶弾きょうだん(凶悪犯が撃った銃弾)に倒れてから、しばらくは入院せざるを得なくなった。
 執事たちがボディーガードとして、病室内で見張りに付いている。
 病室の外にも、要人警護ようじんけいごの警察官が警備けいびに当たっているそうだ。

 二度も死に掛けているから、慎重しんちょうにもなろうというもの。
 医療関係者以外は、面会謝絶めんかいしゃぜつという徹底てっていぶり。
 もちろん、仕事は全てキャンセル。

「ブレイカータイガー、大いなる犯罪組織の凶弾に倒れる」は、世界的ニュースとなったから、堂々と休めるってもんよ。
 多忙な撮影スケジュールから解放かいほうされて、久し振りにのんびり出来ている。
 傷がふさがるまでは寝たきりで、ベッドから降りられなくて退屈たいくつだけど。

 次々と、運び込まれる見舞いの品も、危険物がないか、警察が徹底的にひとつずつあらためている。
 警察の報告によると、今のところ、危険物は届いていないらしい。
 ほとんどが、ファンレターやファンからのプレゼントだそうだ。
 ファンや関係者から、花屋が出来そうなくらい、大量の花束が届く。
 気持ちは嬉しいけど、物が増えすぎて、置くところがない。

 ヒマつぶしにテレビを付けると、ブレイカータイガーについての報道特番がや放送されていた。 
 それによれば、俺が拉致らちられた後、通報つうほうを受けた爆発物処理班ばくはつぶつしょりはんがスタジアムへ突入し、爆発物は無事に全て回収されたらしい。
「もし、設置されていた爆発物が全て爆破していたら、死傷者は恐ろしい数に上っただろう」と、爆発物に詳しい専門家は語った。

 インターネットの掲示板でも、ずっとその話題が続いているそうだ。
 多くの人間がブレイカータイガーをヒーローとして尊敬し、その勇姿ゆうしたたえた。
 ブレイカータイガーはフィクションのヒーローではなく、名実めいじつともに「本物のヒーロー」となった。
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