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今日だけ女の子!
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【男女不平等 後輩視点】
「……女に生まれたかったなぁ……」
連休前の金曜日。
仕事を終えた俺と先輩は、居酒屋で呑んでいました。
先輩はアルコール度数の低い甘いカクテルを呑みながら、愚痴り始めました。
お人好しで気遣い屋だから、ストレスを溜め込みやすい人なんですよね。
だから、たまに吐き出さないと、心が荒んでしまうんだとか。
そんな面倒臭い先輩を、俺は何故か放っておけないんですよね。
なんか構いたくなる可愛いオッサンって、たまにいるじゃないですか。
先輩って、そういうオッサンなんです。
店員さんから新しいおしぼりをもらって、先輩の顔を拭きながら話を聞きます。
「先輩は、女に生まれたかったんですか?」
「うん。それも、可愛い女の子に、生まれたかったんだよね」
「可愛い女の子ですか」
「だってさぁ、『可愛い』ってだけで、周りの男達がちやほやしてくれて、人生勝ったも同然じゃん」
「まぁ、そうかもしれませんが」
「頭が悪くても、性格が悪くても、何したって、許されるんだよ?」
「それは偏見(偏った意見)では……」
俺が苦笑すると、先輩は頬を膨らませて、唇を尖らせます。
なんですか? その顔。
アラサーのオッサンがする顔じゃないですよ、それ。
俺が声を立てて笑うと、先輩はますます面白くなさそうに、ブツブツ言います。
「元バンドマンのイケメンって、モテ要素しかない人生勝ち組のお前には、僕の気持ちは分かんないよ……」
「それは、褒められていると、受け取って良いんですかね?」
「別に、褒めてないけどぉ……」
お酒を飲んで赤くなっていた顔が、さらに耳と首まで赤く染まったから照れているのでしょう。
この人は、思っていることが全部顔に出るタイプなんですよ。
そんな可愛い先輩に、俺はポケットからあるものを取り出しました。
「では、先輩にこれを差し上げましょう」
カバンから取り出したのは、栄養ドリンクが入っているような茶色の小ビン。
「は? なにこれ? 栄養ドリンク?」
「違いますよ。これは、『変身ドリンク』です」
「『変身ドリンク』? じゃあ、これ飲んだら女の子になれるの?」
「はい、そうですっ!」
俺が大きく頷いても、先輩は半信半疑……。
いや、疑いの眼差しでビンを見つめています。
「ウッソだぁ。また、そうやって僕を騙す気だろ~?」
「違いますって。マジで、変身出来るらしいですよ。効果は一日くらいみたいですから、試しに飲んでみたらどうです?」
「え~? 信じらんねぇ~……」
全然、信じてくれそうにありません。
胡散臭さ、プンプンですもんね。
俺だって、同じようにこんなもん渡されたら、信じる気ゼロです。
先輩は、チョンチョンとビンを突きながら、問い掛けてきます。
「だいたいさぁ、お前、こんなもん、どこで買ってくんの?」
「ネット通販です(ウソ)」
「ネットで、こんなもんまで売ってるのっ?」
「ジョークグッズのようなもんですよ(ウソ)」
「へぇ~、最近のジョークグッズって、こんなもんあるんだ?」
先輩は興味津々といった顔で、ビンを見つめています。
チョロすぎです、先輩。
完璧に、騙されてますよ。
酔ってるってのもありますが、それにしたってチョロすぎです。
まぁ、それを狙ってたんですけど。
実はこれ、俺がひそかに作った性転換薬なんです。
動物実験は成功しているんですけど、まだ人体実験はないんですよね。
だからぜひとも、先輩に飲んで欲しいんです。
でも、この調子じゃ、飲んでくれそうにありません。
こうなったら、最後の手段です。
「分かりました、俺も飲みます。効果があってもなくても、一蓮托生(運命を共にする)なら、いいでしょう?」
「マジかっ? お前、ホント良いヤツだなっ!」
変身ドリンクをもう一本取り出すと、先輩の顔がパァッと花が咲いたようにほころびました。
チョロいなぁ、ホント。
俺がビンのフタを開けると、先輩も恐る恐るフタをひねりました。
「じゃあ、同じタイミングで一気に飲み干しましょう」
「う、うん……。飲んだふりすんのはなしな?」
「当たり前じゃないですか」
「絶対だかんな? じゃあ、約束の『指切りげんまん』しよう」
先輩が真剣な顔で、俺に小指を差し出してきました。
指切りげんまんって、子供じゃないんだから。
俺と先輩は、いい年こいて指切りをしました。
こんな恥ずかしいこと、酔ってなきゃ出来ませんよ。
「じゃあ、行きますよ?」
「うん!」
顔を見合わせて頷き合うと、変身ドリンクを一気に飲み干しました。
先輩の喉から、ゴクンッと音がして、ちゃんと飲んだことが分かりました。
よっしゃっ!
先輩は、空になったビンの匂いをふんふんと嗅いでいます。
「味も匂いも、普通の栄養ドリンクって感じだな」
「そうですね、美味くもなく、不味くもなく」
飲んでしまえば何事もなかったかのように、先輩は自分の体を触って確かめます。
「なんも、変化ねぇけど? やっぱ、ニセモノかぁ?」
「ラベルに書かれた説明文によると、『変身には、全身の細胞を作り変える為、ある程度の時間を要する』とありますから。ゆっくり待ちましょう」
このラベル作ったのも、俺なんですけどね。
「なぁんだぁ、すぐには変わんないのかぁ……」
先輩はつまらなそうに、グラスに残ったカシスオレンジをあおりました。
そんな先輩に、俺は笑いながら問います。
「先輩は、女の子になったら、何したいんですか?」
「う~ん……、そうだなぁ」
先輩は、首を傾げたり腕を組んだりして、しばらく考えた後、語り出しました。
「女同士ってさ、なんで公共の場でもイチャイチャ手ぇ繋いだりベタベタ抱き合ったりしても、許されるの?」
「男同士でも、スポーツの試合とかで抱き合って喜びを分かち合ってるの、よくあるじゃないですか」
「あれは、ああいう状況だから許されるの。普通の時に男同士で抱き合ったり手ぇ繋いでたりしたら、絶対変な目で見られてホモ扱いされるだろ?」
「俺でも、それ見たら『ホモかな?』って思っちゃいますね」
「女同士はじゃれ合って良くて、男同士はダメっておかしくない?」
先輩は不服そうに頬杖をついて、むくれました。
なるほど、その考えは分かります。
「そうですねぇ、見た目の問題でしょうか? 可愛い女の子たちがキャッキャウフフしてたら、可愛いですけど。ムチムチぱっつんぱっつんの男同士が、くんずほぐれつしてたらむさ苦しくて見苦しいじゃないですか」
「『ぱっつんぱっつん』とか『くんずほぐれつ』って……。お前、言葉選びがヤバい。でもまぁ確かに、見苦しいよな」
俺の例えがツボにハマったのか、先輩は声を立てて笑い出しました。
その後、ひとしきり呑んで、居酒屋を出ました。
酔っ払った俺と先輩は肩を組みながら、先輩のアパートへ行って呑み直した。
そのまま酔い潰れて、眠ってしまいました。
変身ドリンクを飲んだことも、すっかり忘れて。
👨➡👩
【消えたMagnum 先輩視点】
僕は温かい何かに、顔をうずめて眠っていた。
幼い頃、お母さんの胸に抱かれて、眠った時のような安心感。
息を吸い込むと、お母さんの優しい匂いがした。
すぐ近くで聞こえる心臓の鼓動が、心を落ち着かせる。
そうか、僕は今、赤ちゃんの頃の夢を見ているんだ。
思えば、赤ちゃんの頃が、一番幸せだったかもしれない。
無条件で愛されていた、僕の黄金期。
黒歴史製造機になる人生なんて、全く知らなかったあの頃。
戻れるなら、あの頃に戻りたい。
このまま、目覚めたくないとすら願う。
しかし、偏に風の前の塵に同じ。
あっけなく風に吹き飛ばされる塵のように、儚かった。
「先輩。くすぐったいんで、ぱふぱふ(胸の谷間に顔を挟む)するの、やめてもらえません?」
その声を聞いて、僕の意識は完全に覚醒した。
男の永遠の野望である「ぱふぱふ」は、現実だった。
いや、そうじゃない。
なんで、朝目覚めたら、いきなりぱふぱふしてんだよ。
いや、幸せだったけど!
僕のBigMagnumが、Erect(立ち上がる)リカルパレードになるわっ!
咄嗟に(瞬間的に)、股間を抑えて気付く。
あれ? エレクトリカルパレードしてないんだけど。
っていうか、僕のBigMagnumが装備から外れてんだけどっ!
どこへ行ったっ? 僕のBigMagnum!
混乱していると、ふわふわマシュマロおっぱいが離れていった。
もうちょっと、ぱふぱふを堪能したかった……じゃなくて!
見上げると、前下がりで黒髪のボブヘアーをした、えらい美人がそこにいたっ!
出るとこ出てて腰回りはキュッとしまっている、魅惑のワガママボディ。
なんでこんなモデルさんみたいな美人さんが、僕にぱふぱふしてくれてんのっ?
何のサービス?
いくら、ぼったくられるのっ?
大混乱しながら顔を真っ赤にして、美人さんから目をそらして、うつむいた。
すると、その美人さんが楽しげに笑い出した。
「何、『ひとりあっちむいてほい』してるんですか、先輩。俺ですよ、俺」
「は?」
恐る恐る視線を上げて、美人さんの顔を良く観察する。
言われて見れば、女になってはいるものの見慣れた後輩の特徴を残していた。
声も、後輩の声をそのまま高くしただけって感じ。
例えるなら、宝塚の男役みたいなイケメン美女って感じ。
相手が後輩と分かれば、遠慮することはない。
僕は全身の力を抜いた……と同時に、湧き上がった疑問を投げ掛ける。
「なんで、女になってんのっ?」
「忘れちゃったんですか? 昨晩、変身ドリンク飲んだじゃないですか。あれで先輩のお望み通り、女になったんですよ」
「あ。あぁぁああぁぁぁあああ~っ!」
言われて、思い出した。
昨夜、呑んだ勢いで胡散臭いドリンクを飲み干した。
それで、後輩は女になったのか。
謎は、すべて解けた!
真実は、いつもひとつ!
……いや、謎と真実が分かっても、それだけじゃダメだ。
あの時、僕も同じものを飲んだってことは。
外せないはずだったBigMagnumを、装備から外してしまったのか。
自分の姿を確認したくなって、鏡の前に立ってみる。
鏡に映った僕の姿は、アイドルみたいな美少女だった。
あまりの可愛さに、見惚れてしまう。
「まぁっ? これが私っ? 何これ、めっちゃ可愛いじゃんっ! あ、そうだ。お前におっぱいが出来てたんだから、僕にも……ってあれ?」
確かに、おっぱいはある。
「つるぺた」とまではいかなくとも、「控えめなおっぱい」だ。
僕は思わずムッとして、後輩のおっぱいをワシ掴みにする。
「なんで、お前はこんなボインボインなのに、僕はペッタンコなんだよっ!」
「そんなこと、俺に言われても困りますよ。元の体の違いじゃないですか? 先輩、あんまし食わないから痩せすぎなんですって」
笑いながら、後輩も僕の胸を揉み返してくる。
「ほらほら、ペッタンコじゃないですって。先輩にも、ちゃんとおっぱいがあるじゃないですか。ちっぱいですけど、美乳ですよ」
「おっぱいは、質より量だろっ? 悔しい……っ!」
「俺は好きだけどなぁ、美乳。それに、美脚じゃないですか」
後輩は右手で僕のちっぱいを揉みながら、左手で僕の足を撫でまくる。
後輩は、美脚フェチである。
すかさず、その手を叩き落とした。
「おい! やめろっ! それ以上触るようなら、金取るよっ?」
「先にぱふぱふしたり、ワシ掴みしてきたのは、先輩の方じゃないですか。で? どうです?」
「どうって? 何が?」
「女の子になった感想は?」
「まぁ、可愛いっちゃ可愛いけど。それだけだよね」
「じゃあ、出掛けて、女の子を実感してみませんか?」
後輩が満面の笑みで、僕の両手を握った。
突拍子もない発言に、僕は目を丸くする。
「は? 何言ってんの?」
「せっかく女の子になったのに、出掛けなきゃ面白くないですよ。普段は出来ない可愛い服着て、女の子扱いされてみませんか?」
「それは……っ!」
確かに、魅力的なお誘いではある。
普段モテない地味なオッサンの僕が、ちやほやされる。
ちょっと想像しただけで、顔がニンマリしてしまった。
僕の顔を見て「Yes」と判断したのか、後輩がニコニコと楽しげに笑い出す。
「ちょっと待ってて下さい。先輩に似合う服、買ってきますから」
後輩がいそいそと、出掛ける用意を始めた。
女になって10㎝以上縮んだのか、男物の服はブカブカだ。
代わりに、胸は大きく膨らんでいて、しかもノーブラ。
不自然な胸を隠すように、後輩は上着を着ながら聞いてくる。
「あ、そうだ。化粧は、どうします?」
「化粧は、いらないだろ。だってこれ、一日も持たないんだろ? その後、絶対使わないって」
「それもそうですね。それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
仕事以外は引きこもり気味の僕が、今日だけは遠足が楽しみで仕方がない子供みたいに、珍しくワクワクしていた。
🚹➡🚺
【サイズ 後輩視点】
俺は先輩のアパートの前に止めて置いた、自転車にまたがりました。
あ、なんか股間に違和感が……。
今まであるのが当たり前だったBigMagnumとGolden Ballsが、今はない訳ですから。
代わりに現れたおっぱいの、重たいこと。
首から、1kgのネックレスを下げているかのようです。
胸の大きな女性は、肩が凝って大変ですね。
動く度に、ユッサユッサ揺れて、正直邪魔です。
男だった時は、巨乳の女性を見る度に「ウッヒョーッ☆ マジマジヤバい! マジデカいっ!」って、ハイテンションになりましたけど。
巨乳の女性は、こんなにも大変だったんですね。
今度、巨乳の女性を見かけたら気遣ってあげようと思います。
今日しか着ない訳ですから、あまり高い服を買うのは、もったいないですね。
安価でそこそこおしゃれな「ウニクロ」で買うのが、妥当でしょう。
さっそく、近場のウニクロまで自転車を走らせました。
入店すると、まずはブラジャーを買う為に普段は行かない女性下着売り場へ。
女性物のパンツやブラがずらりと並んでいるのを見ると、なんとなく気まずい気分になります。
今日は女の子になので、そんな考えは無用なんですけど。
でも、俺の胸のサイズってどのくらいなんでしょうか。
当たり前ですが、ブラジャーなんて初めて買うので、選び方が分かりません。
困り果てて女性の店員さんに相談したら、メジャーで測ってもらえました。
「お客様、大きいですね。Eカップありますよ」
「Eカップですか」
まぁ、自分で見ても大きいと思います。
乳房の大きさは、大ぶりな梨1個分くらいあります。
(Eカップの乳房の重さは、ひとつ約500g)
店員さんに教えてもらって、Eカップのブラジャーを購入しました。
ブラジャーを着けると、胸がちゃんと支えられてるという安心感が得られました。
ブラジャーって、大事なんですね。
そこで、気が付きました。
しまった、先輩の胸のサイズが分からない!
手のひらサイズの美乳だったんですけど、それだけじゃ測りようがありません。
悩みながら、下着売り場をウロウロしていると、良いものを発見しました。
フリーサイズブラ。
Sサイズの黒を選びました。
黒って、なんかエロくて萌えるじゃないですか。
次は、服ですね。
身長は俺とだいたい同じくらいだったので、自分を基準に選べば良さそうです。
アイドルみたいなスレンダーな美少女になったので、何を着せようか迷います。
せっかくだから、思いっきり可愛い服を選びましょう。
自分の服は、サイズが合えばどうでもいいです。
👨➡👩
【今日だけ女の子 先輩視点】
「ただいま」
「お帰り~」
1時間後、後輩が「ウニクロ」の大袋を提げて帰って来た。
後輩もさすがに着替えたらしく、女性物の服を着ていた。
モスグリーンのアウターに、オフホワイトのVネックの長袖Tシャツ。
Vネックシャツって胸の谷間がチラ見えして、なかなかエロい。
ブラジャーも着けたらしく、たゆんたゆんしていた胸の形が整っていた。
下は「カットソーイージースカンツ」っつぅ、一見ロングスカートに見えるズボンを穿いている。
イケメン美女に、とても似合っていた。
ウニクロの壁に貼ってある、ポスターのモデルさんみたいだ。
「おぉ! カッコイイなっ!」
僕が素直な感想を述べると、後輩は嬉しそうにはにかむ。
「ありがとうございます。でも、これ全部で8000円ぐらいなんですよ」
「これで?」
さすがは、天下のウニクロ様々。
一式揃えても、1万未満とは恐れ入る。
「で? 僕の分は?」
「もちろん先輩には、可愛いのを見繕ってきましたよっ」
後輩はいそいそと、服を取り出して床に並べる。
「これがインナーで、ブラウスとアウターとスカートです」
シックな後輩とは違い、僕の服は可愛いデザインだった。
リボンタイ付きで、オフホワイトのサテン素材ブラウス。
赤茶色のポンチョみたいなニットのストール。
スカートは、紺色のプリーツミニスカート。
ミニスカートに合わせるように、やたら長い靴下。
「えぇ~……? この可愛いの、僕が着るの?」
「せっかく、女の子になったんだから可愛い服着て下さいよ。きっと似合いますよ」
後輩になだめられて、渋々と着替えた。
ブラウスのリボンタイは上手く結べなかったので、後輩に整えてもらった。
ひざ上ミニスカートは、股間のあたりが頼りなくてスースーする。
靴下は履いてみると、膝上まであった。
後輩の脚フェチが、モロに反映されている。
こんな服、一生着ないと思ってたのに。
これで、女装癖とかに目覚めたら、どうしてくれるんだ。
身に着けると、見せつけるように立ってみせた。
「どうよ?」
「おぉ~っ! めちゃくちゃ可愛いですよ、先輩っ! でも、髪がまだですね。ポニーテールにしますから、後ろ向いて下さい」
「はいはい」
背を向けると、ブラシで僕の長い髪を梳かして、後頭部でひとつにまとめられた。
ちょっと頭が重くなった気がするけど、しっぽみたいになった髪の毛がユラユラ揺れる感覚が楽しい。
「はい、出来ましたよ。ほら、鏡見て下さい。とっても可愛いですよ」
「どれどれ?」
僕は、部屋に置いてある姿見(全身が映る大きな鏡)の前に立った。
鏡には、ポニーテールがよく似合う可愛らしい女の子が映っていた。
クルリと回ってみると、ミニスカートとリボンタイがふわりと舞い上がった。
ポニーテールをまとめている髪飾りも、キラキラとキレイで可愛い。
「これは……! 可愛いぞ、僕っ!」
馬子にも衣裳(どんな人間も、身なりを整えれば立派に見える)とは、良く言ったものだ。
思わずニンマリすると、鏡の中の女の子も愛らしくにっこりと微笑んだ。
でも、肉付きが悪くて痩せすぎな気もしなくはない。
ブラジャーにパットが入ってるけど、明らかにちっぱい。
僕がベースになっているのだと考えれば、こんなもんか。
姿見の前で様々な表情やポーズを取ってみると、なかなか面白い。
世の女性達が、おしゃれに気合いを入れるのが、分かる気がした。
「先輩は『化粧なんていらん』って、言いましたけど、これくらいは良いでしょう?」
そう言って、後輩が僕のアゴを取った。
リップクリームを塗られると、少しかさついて血色の悪かった唇がプルプルうるうるのピンク色になった。
カラーリップって、ヤツだ。
後輩も自分の唇に塗って、満足げに笑う。
「うん。やっぱり、俺が見込んだ通り可愛くなりましたね」
「巨乳美女のお前に褒められたって、嬉しくない」
ムッとして唇を尖らせると、後輩がニヤニヤ笑う。
「またまたぁ~。でも、これならお出掛け出来るでしょ?」
「うん。これで出掛けないのも、もったいないからな」
「じゃあ、行きましょうか」
後輩が僕の手を握って、玄関へ向かって歩き出した。
いきなり手を握られて、ビックリした。
「なんで、手ぇ繋ぐんだよっ?」
「腕組んだ方が、良かったですか?」
「そうじゃないよ。だって、手ぇ繋ぐとか恥ずかしいだろ」
振りほどこうとしたら、逆に強く握られた。
「いいじゃないですか。今日だけは、女の子にしか出来ないこと、いっぱいしましょうよ! 手ぇ繋いで歩くの、やってみたかったんですよねっ!」
後輩が物凄く良い笑顔で言うから、断れなくなってしまった。
もしかするとコイツは、女の子のこういうやりとりに憧れていたのかもしれない。
でも、男だから出来なかった。
女の子になっている、今だけは許される。
その気持ちは、分からなくはない。
僕だって可愛い女の子になって、こういうことをしてみたかったんだ。
「分かった分かった。可愛い後輩の為だ、今日くらいは付き合ってやる。優しい先輩に、感謝しろよ?」
「はい! ありがとうございます、先輩っ!」
手を握り返してやると、後輩はますます嬉しそうに笑った。
こうして僕達は、今日だけ女の子を満喫するのだった。
「……女に生まれたかったなぁ……」
連休前の金曜日。
仕事を終えた俺と先輩は、居酒屋で呑んでいました。
先輩はアルコール度数の低い甘いカクテルを呑みながら、愚痴り始めました。
お人好しで気遣い屋だから、ストレスを溜め込みやすい人なんですよね。
だから、たまに吐き出さないと、心が荒んでしまうんだとか。
そんな面倒臭い先輩を、俺は何故か放っておけないんですよね。
なんか構いたくなる可愛いオッサンって、たまにいるじゃないですか。
先輩って、そういうオッサンなんです。
店員さんから新しいおしぼりをもらって、先輩の顔を拭きながら話を聞きます。
「先輩は、女に生まれたかったんですか?」
「うん。それも、可愛い女の子に、生まれたかったんだよね」
「可愛い女の子ですか」
「だってさぁ、『可愛い』ってだけで、周りの男達がちやほやしてくれて、人生勝ったも同然じゃん」
「まぁ、そうかもしれませんが」
「頭が悪くても、性格が悪くても、何したって、許されるんだよ?」
「それは偏見(偏った意見)では……」
俺が苦笑すると、先輩は頬を膨らませて、唇を尖らせます。
なんですか? その顔。
アラサーのオッサンがする顔じゃないですよ、それ。
俺が声を立てて笑うと、先輩はますます面白くなさそうに、ブツブツ言います。
「元バンドマンのイケメンって、モテ要素しかない人生勝ち組のお前には、僕の気持ちは分かんないよ……」
「それは、褒められていると、受け取って良いんですかね?」
「別に、褒めてないけどぉ……」
お酒を飲んで赤くなっていた顔が、さらに耳と首まで赤く染まったから照れているのでしょう。
この人は、思っていることが全部顔に出るタイプなんですよ。
そんな可愛い先輩に、俺はポケットからあるものを取り出しました。
「では、先輩にこれを差し上げましょう」
カバンから取り出したのは、栄養ドリンクが入っているような茶色の小ビン。
「は? なにこれ? 栄養ドリンク?」
「違いますよ。これは、『変身ドリンク』です」
「『変身ドリンク』? じゃあ、これ飲んだら女の子になれるの?」
「はい、そうですっ!」
俺が大きく頷いても、先輩は半信半疑……。
いや、疑いの眼差しでビンを見つめています。
「ウッソだぁ。また、そうやって僕を騙す気だろ~?」
「違いますって。マジで、変身出来るらしいですよ。効果は一日くらいみたいですから、試しに飲んでみたらどうです?」
「え~? 信じらんねぇ~……」
全然、信じてくれそうにありません。
胡散臭さ、プンプンですもんね。
俺だって、同じようにこんなもん渡されたら、信じる気ゼロです。
先輩は、チョンチョンとビンを突きながら、問い掛けてきます。
「だいたいさぁ、お前、こんなもん、どこで買ってくんの?」
「ネット通販です(ウソ)」
「ネットで、こんなもんまで売ってるのっ?」
「ジョークグッズのようなもんですよ(ウソ)」
「へぇ~、最近のジョークグッズって、こんなもんあるんだ?」
先輩は興味津々といった顔で、ビンを見つめています。
チョロすぎです、先輩。
完璧に、騙されてますよ。
酔ってるってのもありますが、それにしたってチョロすぎです。
まぁ、それを狙ってたんですけど。
実はこれ、俺がひそかに作った性転換薬なんです。
動物実験は成功しているんですけど、まだ人体実験はないんですよね。
だからぜひとも、先輩に飲んで欲しいんです。
でも、この調子じゃ、飲んでくれそうにありません。
こうなったら、最後の手段です。
「分かりました、俺も飲みます。効果があってもなくても、一蓮托生(運命を共にする)なら、いいでしょう?」
「マジかっ? お前、ホント良いヤツだなっ!」
変身ドリンクをもう一本取り出すと、先輩の顔がパァッと花が咲いたようにほころびました。
チョロいなぁ、ホント。
俺がビンのフタを開けると、先輩も恐る恐るフタをひねりました。
「じゃあ、同じタイミングで一気に飲み干しましょう」
「う、うん……。飲んだふりすんのはなしな?」
「当たり前じゃないですか」
「絶対だかんな? じゃあ、約束の『指切りげんまん』しよう」
先輩が真剣な顔で、俺に小指を差し出してきました。
指切りげんまんって、子供じゃないんだから。
俺と先輩は、いい年こいて指切りをしました。
こんな恥ずかしいこと、酔ってなきゃ出来ませんよ。
「じゃあ、行きますよ?」
「うん!」
顔を見合わせて頷き合うと、変身ドリンクを一気に飲み干しました。
先輩の喉から、ゴクンッと音がして、ちゃんと飲んだことが分かりました。
よっしゃっ!
先輩は、空になったビンの匂いをふんふんと嗅いでいます。
「味も匂いも、普通の栄養ドリンクって感じだな」
「そうですね、美味くもなく、不味くもなく」
飲んでしまえば何事もなかったかのように、先輩は自分の体を触って確かめます。
「なんも、変化ねぇけど? やっぱ、ニセモノかぁ?」
「ラベルに書かれた説明文によると、『変身には、全身の細胞を作り変える為、ある程度の時間を要する』とありますから。ゆっくり待ちましょう」
このラベル作ったのも、俺なんですけどね。
「なぁんだぁ、すぐには変わんないのかぁ……」
先輩はつまらなそうに、グラスに残ったカシスオレンジをあおりました。
そんな先輩に、俺は笑いながら問います。
「先輩は、女の子になったら、何したいんですか?」
「う~ん……、そうだなぁ」
先輩は、首を傾げたり腕を組んだりして、しばらく考えた後、語り出しました。
「女同士ってさ、なんで公共の場でもイチャイチャ手ぇ繋いだりベタベタ抱き合ったりしても、許されるの?」
「男同士でも、スポーツの試合とかで抱き合って喜びを分かち合ってるの、よくあるじゃないですか」
「あれは、ああいう状況だから許されるの。普通の時に男同士で抱き合ったり手ぇ繋いでたりしたら、絶対変な目で見られてホモ扱いされるだろ?」
「俺でも、それ見たら『ホモかな?』って思っちゃいますね」
「女同士はじゃれ合って良くて、男同士はダメっておかしくない?」
先輩は不服そうに頬杖をついて、むくれました。
なるほど、その考えは分かります。
「そうですねぇ、見た目の問題でしょうか? 可愛い女の子たちがキャッキャウフフしてたら、可愛いですけど。ムチムチぱっつんぱっつんの男同士が、くんずほぐれつしてたらむさ苦しくて見苦しいじゃないですか」
「『ぱっつんぱっつん』とか『くんずほぐれつ』って……。お前、言葉選びがヤバい。でもまぁ確かに、見苦しいよな」
俺の例えがツボにハマったのか、先輩は声を立てて笑い出しました。
その後、ひとしきり呑んで、居酒屋を出ました。
酔っ払った俺と先輩は肩を組みながら、先輩のアパートへ行って呑み直した。
そのまま酔い潰れて、眠ってしまいました。
変身ドリンクを飲んだことも、すっかり忘れて。
👨➡👩
【消えたMagnum 先輩視点】
僕は温かい何かに、顔をうずめて眠っていた。
幼い頃、お母さんの胸に抱かれて、眠った時のような安心感。
息を吸い込むと、お母さんの優しい匂いがした。
すぐ近くで聞こえる心臓の鼓動が、心を落ち着かせる。
そうか、僕は今、赤ちゃんの頃の夢を見ているんだ。
思えば、赤ちゃんの頃が、一番幸せだったかもしれない。
無条件で愛されていた、僕の黄金期。
黒歴史製造機になる人生なんて、全く知らなかったあの頃。
戻れるなら、あの頃に戻りたい。
このまま、目覚めたくないとすら願う。
しかし、偏に風の前の塵に同じ。
あっけなく風に吹き飛ばされる塵のように、儚かった。
「先輩。くすぐったいんで、ぱふぱふ(胸の谷間に顔を挟む)するの、やめてもらえません?」
その声を聞いて、僕の意識は完全に覚醒した。
男の永遠の野望である「ぱふぱふ」は、現実だった。
いや、そうじゃない。
なんで、朝目覚めたら、いきなりぱふぱふしてんだよ。
いや、幸せだったけど!
僕のBigMagnumが、Erect(立ち上がる)リカルパレードになるわっ!
咄嗟に(瞬間的に)、股間を抑えて気付く。
あれ? エレクトリカルパレードしてないんだけど。
っていうか、僕のBigMagnumが装備から外れてんだけどっ!
どこへ行ったっ? 僕のBigMagnum!
混乱していると、ふわふわマシュマロおっぱいが離れていった。
もうちょっと、ぱふぱふを堪能したかった……じゃなくて!
見上げると、前下がりで黒髪のボブヘアーをした、えらい美人がそこにいたっ!
出るとこ出てて腰回りはキュッとしまっている、魅惑のワガママボディ。
なんでこんなモデルさんみたいな美人さんが、僕にぱふぱふしてくれてんのっ?
何のサービス?
いくら、ぼったくられるのっ?
大混乱しながら顔を真っ赤にして、美人さんから目をそらして、うつむいた。
すると、その美人さんが楽しげに笑い出した。
「何、『ひとりあっちむいてほい』してるんですか、先輩。俺ですよ、俺」
「は?」
恐る恐る視線を上げて、美人さんの顔を良く観察する。
言われて見れば、女になってはいるものの見慣れた後輩の特徴を残していた。
声も、後輩の声をそのまま高くしただけって感じ。
例えるなら、宝塚の男役みたいなイケメン美女って感じ。
相手が後輩と分かれば、遠慮することはない。
僕は全身の力を抜いた……と同時に、湧き上がった疑問を投げ掛ける。
「なんで、女になってんのっ?」
「忘れちゃったんですか? 昨晩、変身ドリンク飲んだじゃないですか。あれで先輩のお望み通り、女になったんですよ」
「あ。あぁぁああぁぁぁあああ~っ!」
言われて、思い出した。
昨夜、呑んだ勢いで胡散臭いドリンクを飲み干した。
それで、後輩は女になったのか。
謎は、すべて解けた!
真実は、いつもひとつ!
……いや、謎と真実が分かっても、それだけじゃダメだ。
あの時、僕も同じものを飲んだってことは。
外せないはずだったBigMagnumを、装備から外してしまったのか。
自分の姿を確認したくなって、鏡の前に立ってみる。
鏡に映った僕の姿は、アイドルみたいな美少女だった。
あまりの可愛さに、見惚れてしまう。
「まぁっ? これが私っ? 何これ、めっちゃ可愛いじゃんっ! あ、そうだ。お前におっぱいが出来てたんだから、僕にも……ってあれ?」
確かに、おっぱいはある。
「つるぺた」とまではいかなくとも、「控えめなおっぱい」だ。
僕は思わずムッとして、後輩のおっぱいをワシ掴みにする。
「なんで、お前はこんなボインボインなのに、僕はペッタンコなんだよっ!」
「そんなこと、俺に言われても困りますよ。元の体の違いじゃないですか? 先輩、あんまし食わないから痩せすぎなんですって」
笑いながら、後輩も僕の胸を揉み返してくる。
「ほらほら、ペッタンコじゃないですって。先輩にも、ちゃんとおっぱいがあるじゃないですか。ちっぱいですけど、美乳ですよ」
「おっぱいは、質より量だろっ? 悔しい……っ!」
「俺は好きだけどなぁ、美乳。それに、美脚じゃないですか」
後輩は右手で僕のちっぱいを揉みながら、左手で僕の足を撫でまくる。
後輩は、美脚フェチである。
すかさず、その手を叩き落とした。
「おい! やめろっ! それ以上触るようなら、金取るよっ?」
「先にぱふぱふしたり、ワシ掴みしてきたのは、先輩の方じゃないですか。で? どうです?」
「どうって? 何が?」
「女の子になった感想は?」
「まぁ、可愛いっちゃ可愛いけど。それだけだよね」
「じゃあ、出掛けて、女の子を実感してみませんか?」
後輩が満面の笑みで、僕の両手を握った。
突拍子もない発言に、僕は目を丸くする。
「は? 何言ってんの?」
「せっかく女の子になったのに、出掛けなきゃ面白くないですよ。普段は出来ない可愛い服着て、女の子扱いされてみませんか?」
「それは……っ!」
確かに、魅力的なお誘いではある。
普段モテない地味なオッサンの僕が、ちやほやされる。
ちょっと想像しただけで、顔がニンマリしてしまった。
僕の顔を見て「Yes」と判断したのか、後輩がニコニコと楽しげに笑い出す。
「ちょっと待ってて下さい。先輩に似合う服、買ってきますから」
後輩がいそいそと、出掛ける用意を始めた。
女になって10㎝以上縮んだのか、男物の服はブカブカだ。
代わりに、胸は大きく膨らんでいて、しかもノーブラ。
不自然な胸を隠すように、後輩は上着を着ながら聞いてくる。
「あ、そうだ。化粧は、どうします?」
「化粧は、いらないだろ。だってこれ、一日も持たないんだろ? その後、絶対使わないって」
「それもそうですね。それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
仕事以外は引きこもり気味の僕が、今日だけは遠足が楽しみで仕方がない子供みたいに、珍しくワクワクしていた。
🚹➡🚺
【サイズ 後輩視点】
俺は先輩のアパートの前に止めて置いた、自転車にまたがりました。
あ、なんか股間に違和感が……。
今まであるのが当たり前だったBigMagnumとGolden Ballsが、今はない訳ですから。
代わりに現れたおっぱいの、重たいこと。
首から、1kgのネックレスを下げているかのようです。
胸の大きな女性は、肩が凝って大変ですね。
動く度に、ユッサユッサ揺れて、正直邪魔です。
男だった時は、巨乳の女性を見る度に「ウッヒョーッ☆ マジマジヤバい! マジデカいっ!」って、ハイテンションになりましたけど。
巨乳の女性は、こんなにも大変だったんですね。
今度、巨乳の女性を見かけたら気遣ってあげようと思います。
今日しか着ない訳ですから、あまり高い服を買うのは、もったいないですね。
安価でそこそこおしゃれな「ウニクロ」で買うのが、妥当でしょう。
さっそく、近場のウニクロまで自転車を走らせました。
入店すると、まずはブラジャーを買う為に普段は行かない女性下着売り場へ。
女性物のパンツやブラがずらりと並んでいるのを見ると、なんとなく気まずい気分になります。
今日は女の子になので、そんな考えは無用なんですけど。
でも、俺の胸のサイズってどのくらいなんでしょうか。
当たり前ですが、ブラジャーなんて初めて買うので、選び方が分かりません。
困り果てて女性の店員さんに相談したら、メジャーで測ってもらえました。
「お客様、大きいですね。Eカップありますよ」
「Eカップですか」
まぁ、自分で見ても大きいと思います。
乳房の大きさは、大ぶりな梨1個分くらいあります。
(Eカップの乳房の重さは、ひとつ約500g)
店員さんに教えてもらって、Eカップのブラジャーを購入しました。
ブラジャーを着けると、胸がちゃんと支えられてるという安心感が得られました。
ブラジャーって、大事なんですね。
そこで、気が付きました。
しまった、先輩の胸のサイズが分からない!
手のひらサイズの美乳だったんですけど、それだけじゃ測りようがありません。
悩みながら、下着売り場をウロウロしていると、良いものを発見しました。
フリーサイズブラ。
Sサイズの黒を選びました。
黒って、なんかエロくて萌えるじゃないですか。
次は、服ですね。
身長は俺とだいたい同じくらいだったので、自分を基準に選べば良さそうです。
アイドルみたいなスレンダーな美少女になったので、何を着せようか迷います。
せっかくだから、思いっきり可愛い服を選びましょう。
自分の服は、サイズが合えばどうでもいいです。
👨➡👩
【今日だけ女の子 先輩視点】
「ただいま」
「お帰り~」
1時間後、後輩が「ウニクロ」の大袋を提げて帰って来た。
後輩もさすがに着替えたらしく、女性物の服を着ていた。
モスグリーンのアウターに、オフホワイトのVネックの長袖Tシャツ。
Vネックシャツって胸の谷間がチラ見えして、なかなかエロい。
ブラジャーも着けたらしく、たゆんたゆんしていた胸の形が整っていた。
下は「カットソーイージースカンツ」っつぅ、一見ロングスカートに見えるズボンを穿いている。
イケメン美女に、とても似合っていた。
ウニクロの壁に貼ってある、ポスターのモデルさんみたいだ。
「おぉ! カッコイイなっ!」
僕が素直な感想を述べると、後輩は嬉しそうにはにかむ。
「ありがとうございます。でも、これ全部で8000円ぐらいなんですよ」
「これで?」
さすがは、天下のウニクロ様々。
一式揃えても、1万未満とは恐れ入る。
「で? 僕の分は?」
「もちろん先輩には、可愛いのを見繕ってきましたよっ」
後輩はいそいそと、服を取り出して床に並べる。
「これがインナーで、ブラウスとアウターとスカートです」
シックな後輩とは違い、僕の服は可愛いデザインだった。
リボンタイ付きで、オフホワイトのサテン素材ブラウス。
赤茶色のポンチョみたいなニットのストール。
スカートは、紺色のプリーツミニスカート。
ミニスカートに合わせるように、やたら長い靴下。
「えぇ~……? この可愛いの、僕が着るの?」
「せっかく、女の子になったんだから可愛い服着て下さいよ。きっと似合いますよ」
後輩になだめられて、渋々と着替えた。
ブラウスのリボンタイは上手く結べなかったので、後輩に整えてもらった。
ひざ上ミニスカートは、股間のあたりが頼りなくてスースーする。
靴下は履いてみると、膝上まであった。
後輩の脚フェチが、モロに反映されている。
こんな服、一生着ないと思ってたのに。
これで、女装癖とかに目覚めたら、どうしてくれるんだ。
身に着けると、見せつけるように立ってみせた。
「どうよ?」
「おぉ~っ! めちゃくちゃ可愛いですよ、先輩っ! でも、髪がまだですね。ポニーテールにしますから、後ろ向いて下さい」
「はいはい」
背を向けると、ブラシで僕の長い髪を梳かして、後頭部でひとつにまとめられた。
ちょっと頭が重くなった気がするけど、しっぽみたいになった髪の毛がユラユラ揺れる感覚が楽しい。
「はい、出来ましたよ。ほら、鏡見て下さい。とっても可愛いですよ」
「どれどれ?」
僕は、部屋に置いてある姿見(全身が映る大きな鏡)の前に立った。
鏡には、ポニーテールがよく似合う可愛らしい女の子が映っていた。
クルリと回ってみると、ミニスカートとリボンタイがふわりと舞い上がった。
ポニーテールをまとめている髪飾りも、キラキラとキレイで可愛い。
「これは……! 可愛いぞ、僕っ!」
馬子にも衣裳(どんな人間も、身なりを整えれば立派に見える)とは、良く言ったものだ。
思わずニンマリすると、鏡の中の女の子も愛らしくにっこりと微笑んだ。
でも、肉付きが悪くて痩せすぎな気もしなくはない。
ブラジャーにパットが入ってるけど、明らかにちっぱい。
僕がベースになっているのだと考えれば、こんなもんか。
姿見の前で様々な表情やポーズを取ってみると、なかなか面白い。
世の女性達が、おしゃれに気合いを入れるのが、分かる気がした。
「先輩は『化粧なんていらん』って、言いましたけど、これくらいは良いでしょう?」
そう言って、後輩が僕のアゴを取った。
リップクリームを塗られると、少しかさついて血色の悪かった唇がプルプルうるうるのピンク色になった。
カラーリップって、ヤツだ。
後輩も自分の唇に塗って、満足げに笑う。
「うん。やっぱり、俺が見込んだ通り可愛くなりましたね」
「巨乳美女のお前に褒められたって、嬉しくない」
ムッとして唇を尖らせると、後輩がニヤニヤ笑う。
「またまたぁ~。でも、これならお出掛け出来るでしょ?」
「うん。これで出掛けないのも、もったいないからな」
「じゃあ、行きましょうか」
後輩が僕の手を握って、玄関へ向かって歩き出した。
いきなり手を握られて、ビックリした。
「なんで、手ぇ繋ぐんだよっ?」
「腕組んだ方が、良かったですか?」
「そうじゃないよ。だって、手ぇ繋ぐとか恥ずかしいだろ」
振りほどこうとしたら、逆に強く握られた。
「いいじゃないですか。今日だけは、女の子にしか出来ないこと、いっぱいしましょうよ! 手ぇ繋いで歩くの、やってみたかったんですよねっ!」
後輩が物凄く良い笑顔で言うから、断れなくなってしまった。
もしかするとコイツは、女の子のこういうやりとりに憧れていたのかもしれない。
でも、男だから出来なかった。
女の子になっている、今だけは許される。
その気持ちは、分からなくはない。
僕だって可愛い女の子になって、こういうことをしてみたかったんだ。
「分かった分かった。可愛い後輩の為だ、今日くらいは付き合ってやる。優しい先輩に、感謝しろよ?」
「はい! ありがとうございます、先輩っ!」
手を握り返してやると、後輩はますます嬉しそうに笑った。
こうして僕達は、今日だけ女の子を満喫するのだった。
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