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最終話
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ついさっきまで、この上なく幸せだったのに。
黄葉くんを失った悲しみに、絶望した。
いい年こいた大人が、大声を張り上げて泣きじゃくるくらい愛していた。
部屋を見渡せば、黄葉くんがいた証が残っている。
黄葉くんが寂しくないようにと買った、携帯ゲーム機。
動物園で買った、パンダのぬいぐるみ。
夢の国で買った、キャラクターの被り物。
黄葉くんが関わったものは、全部大切な宝物だ。
スマホやカメラに、大量に保存してある黄葉くんの写真。
冷たい画面越しに、黄葉くんの笑顔を指でなぞる。
黄葉くんがいてくれた過去は、何もかも尊い。
思い出に浸り、愛しさと切なさに胸が締め付けられる。
ときどき、黄葉くんの御霊が昇っていった空を見上げてため息を吐く。
黄葉くんは、確かにここにいた。
人間でも天使でも堕天使でもいい。
ただ、俺の側にいてくれるだけで良かった。
どうして、今ここにいないんだ。
何もする気が起きず、体調不良を理由に仕事も休んだ。
来る日も来る日も黄葉くんに思いを馳せ、時間が無限に溶けていく。
꒰ঌ♥໒꒱꒰ঌ♡໒꒱
ある日、チャイムが鳴った。
正直、誰とも会いたくなかった。
けれど何故か、「出なければ」という思いに突き動かされて、玄関へ向かう。
玄関の扉を開けると、そこに立っていたのは満面の笑みを浮かべた黄葉くんだった。
「藍染さん、来ちゃった」
「えっ? 黄葉くん? 嘘っ? 本当に、黄葉くんっ?」
「うん! ぼくだよ、藍染さんっ!」
「黄葉くんっ!」
俺は感極まって泣きながら、黄葉くんを抱き締めた。
黄葉くんの小さな体は、俺の腕の中にすっぽりと収まった。
この匂い、この感触、間違いなく俺の黄葉くんだ。
全身で黄葉くんを感じると、幸せで胸がいっぱいになる。
黄葉くんも俺の背中に腕を回して、抱き返してくれた。
泣きじゃくる俺の背中を、何度もさすって慰めてくれる。
「もぉ~っ、藍染さん! 泣きすぎっ!」
「だって俺、ずっと黄葉くんに逢いたかったから……っ!」
「ぼくも、藍染さんに逢いたかったよっ!」
「ありがとう! 逢いに来てくれて、本当に嬉しいよっ! 立ち話もなんだから、とりあえず上がって」
「うん」
もう離さないとばかりに恋人繋ぎをして、一緒にベッドに腰掛けた。
ピッタリとくっ付きながら、気になっていたことを聞く。
「黄葉くん、死んだんじゃなかったの?」
「『天使は死なない』って言ったのに、信じてくれなかったの?」
「『黄葉さんの御霊は、神様の御許へと召された』って言われたら、普通死んだと思うだろ」
「それは『神様の下へ帰る』って意味だから、死んでないの。天界へ帰っただけだから」
「でもあの時、死んだよね?」
「人間の体はね。神様に、新しい体を作り直してもらったんだ」
「だったら、神様に感謝しないとな」
「うん! 神様はね、誰よりも偉くてめちゃくちゃスゴいんだよっ!」
「そうだね」
「あとね、天使のみんなが『勘違いして襲っちゃってごめん』って伝えといてって言ってたよ」
「ああ、うん。いや、まぁ、それは、その、うん……分かった」
勘違いじゃなくて、あの時はマジで堕天させようとしてたんだけどね。
それはさておき。
黄葉くんに頬を寄せて、愛を囁く。
「これからもずっと、俺と一緒にいてくれる?」
「うん、藍染さんが死ぬまで側にいるよ。死んだら、天界へ連れて行ってあげる」
「死んでも、側にいてくれるの?」
「もちろん。人間を導くのが、天使の仕事だからね」
「だったら、永遠に一緒にいられるんだね。黄葉くん、好きだ、愛してる」
「ぼくも、愛してる」
黄葉くんと唇を重ねようとした時、またチャイムが鳴った。
鍵を閉めていなかった玄関の扉が勢いよく開いて、紫牟田が怒鳴り込んでくる。
「ちょっと待ったぁ~っ!」
「うわっ! ビックリしたぁ~っ!」
「おいっ、紫牟田! 無断で入ってくんなっ! あと、土足厳禁っ!」
「藍染さん、ボクは黄葉ちゃんとの仲を、認めていませんからね!」
紫牟田は土足で部屋に踏み込んでくると、俺から黄葉くんを引き剥がした。
黄葉くんを後ろから抱き締めて、俺に向かって牽制してくる。
「死ぬまで黄葉ちゃんを堕天させないと誓うなら、一緒にいることだけは許してあげます」
「マジかよ?」
「マジです」
それって、愛し合っているのに抱くなってことだろ?
そんなの、無理に決まっている。
黙り込んだ俺を、紫牟田が睨み付けてくる。
「妙な気を起こそうとしたって、無駄ですからね。ボクたち天使は、いつでも藍染さんを監視していますから」
「そんなぁ……」
俺はガックリと、肩を落とした。
だけど堕天させなければ、一生黄葉くんと一緒にいられる。
俺はもう黄葉くんがいなければ、生きていけないんだ。
覚悟を決めると、紫牟田に向かって真剣な顔で誓いを立てる。
「分かった、堕天させないと誓う。だから、俺から黄葉くんを奪わないでくれ」
「ええ、良いですよ。というか、ボクたちがさせません。だから安心してね、黄葉ちゃん」
紫牟田は満足げに笑ったかと思うと、編み上げロングブーツを脱ぎ出した。
「それはそうと、雑巾ってあります?」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
紫牟田に雑巾を渡してやると、きちんと床を掃除した。
「ご迷惑をお掛けして、すみませんでした。お邪魔しました」と、ひとこと謝って帰っていった。
失礼なヤツなのか律儀なヤツなのか、ハッキリしろよ。
良いところを邪魔されたが、俺の元へ黄葉くんが戻ってきた。
それだけで、充分だ。
これから一生、死ぬまで一緒、死んでからもずっと。
まずは、カップル寮へ引っ越すところから始めようか。
【おしまい】
黄葉くんを失った悲しみに、絶望した。
いい年こいた大人が、大声を張り上げて泣きじゃくるくらい愛していた。
部屋を見渡せば、黄葉くんがいた証が残っている。
黄葉くんが寂しくないようにと買った、携帯ゲーム機。
動物園で買った、パンダのぬいぐるみ。
夢の国で買った、キャラクターの被り物。
黄葉くんが関わったものは、全部大切な宝物だ。
スマホやカメラに、大量に保存してある黄葉くんの写真。
冷たい画面越しに、黄葉くんの笑顔を指でなぞる。
黄葉くんがいてくれた過去は、何もかも尊い。
思い出に浸り、愛しさと切なさに胸が締め付けられる。
ときどき、黄葉くんの御霊が昇っていった空を見上げてため息を吐く。
黄葉くんは、確かにここにいた。
人間でも天使でも堕天使でもいい。
ただ、俺の側にいてくれるだけで良かった。
どうして、今ここにいないんだ。
何もする気が起きず、体調不良を理由に仕事も休んだ。
来る日も来る日も黄葉くんに思いを馳せ、時間が無限に溶けていく。
꒰ঌ♥໒꒱꒰ঌ♡໒꒱
ある日、チャイムが鳴った。
正直、誰とも会いたくなかった。
けれど何故か、「出なければ」という思いに突き動かされて、玄関へ向かう。
玄関の扉を開けると、そこに立っていたのは満面の笑みを浮かべた黄葉くんだった。
「藍染さん、来ちゃった」
「えっ? 黄葉くん? 嘘っ? 本当に、黄葉くんっ?」
「うん! ぼくだよ、藍染さんっ!」
「黄葉くんっ!」
俺は感極まって泣きながら、黄葉くんを抱き締めた。
黄葉くんの小さな体は、俺の腕の中にすっぽりと収まった。
この匂い、この感触、間違いなく俺の黄葉くんだ。
全身で黄葉くんを感じると、幸せで胸がいっぱいになる。
黄葉くんも俺の背中に腕を回して、抱き返してくれた。
泣きじゃくる俺の背中を、何度もさすって慰めてくれる。
「もぉ~っ、藍染さん! 泣きすぎっ!」
「だって俺、ずっと黄葉くんに逢いたかったから……っ!」
「ぼくも、藍染さんに逢いたかったよっ!」
「ありがとう! 逢いに来てくれて、本当に嬉しいよっ! 立ち話もなんだから、とりあえず上がって」
「うん」
もう離さないとばかりに恋人繋ぎをして、一緒にベッドに腰掛けた。
ピッタリとくっ付きながら、気になっていたことを聞く。
「黄葉くん、死んだんじゃなかったの?」
「『天使は死なない』って言ったのに、信じてくれなかったの?」
「『黄葉さんの御霊は、神様の御許へと召された』って言われたら、普通死んだと思うだろ」
「それは『神様の下へ帰る』って意味だから、死んでないの。天界へ帰っただけだから」
「でもあの時、死んだよね?」
「人間の体はね。神様に、新しい体を作り直してもらったんだ」
「だったら、神様に感謝しないとな」
「うん! 神様はね、誰よりも偉くてめちゃくちゃスゴいんだよっ!」
「そうだね」
「あとね、天使のみんなが『勘違いして襲っちゃってごめん』って伝えといてって言ってたよ」
「ああ、うん。いや、まぁ、それは、その、うん……分かった」
勘違いじゃなくて、あの時はマジで堕天させようとしてたんだけどね。
それはさておき。
黄葉くんに頬を寄せて、愛を囁く。
「これからもずっと、俺と一緒にいてくれる?」
「うん、藍染さんが死ぬまで側にいるよ。死んだら、天界へ連れて行ってあげる」
「死んでも、側にいてくれるの?」
「もちろん。人間を導くのが、天使の仕事だからね」
「だったら、永遠に一緒にいられるんだね。黄葉くん、好きだ、愛してる」
「ぼくも、愛してる」
黄葉くんと唇を重ねようとした時、またチャイムが鳴った。
鍵を閉めていなかった玄関の扉が勢いよく開いて、紫牟田が怒鳴り込んでくる。
「ちょっと待ったぁ~っ!」
「うわっ! ビックリしたぁ~っ!」
「おいっ、紫牟田! 無断で入ってくんなっ! あと、土足厳禁っ!」
「藍染さん、ボクは黄葉ちゃんとの仲を、認めていませんからね!」
紫牟田は土足で部屋に踏み込んでくると、俺から黄葉くんを引き剥がした。
黄葉くんを後ろから抱き締めて、俺に向かって牽制してくる。
「死ぬまで黄葉ちゃんを堕天させないと誓うなら、一緒にいることだけは許してあげます」
「マジかよ?」
「マジです」
それって、愛し合っているのに抱くなってことだろ?
そんなの、無理に決まっている。
黙り込んだ俺を、紫牟田が睨み付けてくる。
「妙な気を起こそうとしたって、無駄ですからね。ボクたち天使は、いつでも藍染さんを監視していますから」
「そんなぁ……」
俺はガックリと、肩を落とした。
だけど堕天させなければ、一生黄葉くんと一緒にいられる。
俺はもう黄葉くんがいなければ、生きていけないんだ。
覚悟を決めると、紫牟田に向かって真剣な顔で誓いを立てる。
「分かった、堕天させないと誓う。だから、俺から黄葉くんを奪わないでくれ」
「ええ、良いですよ。というか、ボクたちがさせません。だから安心してね、黄葉ちゃん」
紫牟田は満足げに笑ったかと思うと、編み上げロングブーツを脱ぎ出した。
「それはそうと、雑巾ってあります?」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
紫牟田に雑巾を渡してやると、きちんと床を掃除した。
「ご迷惑をお掛けして、すみませんでした。お邪魔しました」と、ひとこと謝って帰っていった。
失礼なヤツなのか律儀なヤツなのか、ハッキリしろよ。
良いところを邪魔されたが、俺の元へ黄葉くんが戻ってきた。
それだけで、充分だ。
これから一生、死ぬまで一緒、死んでからもずっと。
まずは、カップル寮へ引っ越すところから始めようか。
【おしまい】
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