その後も幸せに暮らしました

山吹レイ

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思いやり

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 翌朝、俺は人の気配で目を覚ました。
 うっすらと目を開けると、唇に軽く触れるだけの口づけが落ちてくる。
「ガイア……さん」
 呟いた声はかさかさで、喉が渇いていて痛い。
「まだ寝ていろ」
 幸せそうに微笑んだガイアは俺の頬を撫でるとベッドからおりた。
 俺も体を起こそうとして、腕も腰も重くて動かないのに気づく。
 昨夜の情事が蘇り、羞恥心から枕に顔を伏せる。
 大きなベッドが狭く感じるほど乱れて……死ぬほど気持ちよかった。同性に抱かれて、あんなにも快感を得ることができると、はじめて知った。
 尻の鈍い痛みもなんだか甘く感じて、抱かれたばかりなのにまた抱きしめられたいと強請ってしまいそうになる。
 枕の隙間から窺うように、こちらに背中を向けて服を着ているガイアの美しい裸体を見つめる。隆々としたとした背中から臀部に向けての滑らかな曲線が艶めかしい。
 視線を感じたガイアが振り向いた。目が合い、ガイアは身を屈めて俺の髪を梳く。
「なるべく早くに戻ってくる」
「もう行くんですか?」
 勢いで起き上がると体が悲鳴をあげる。ぐっと奥歯を噛みしめて崩れ落ちそうになるのを堪えてベッドの上に座る。
「食べるものはあるんですか?」
「宿屋なら何かしらあるだろう」
 俺は痛みに耐えつつベッドからおりて服を拾った。
「お風呂に入ってきてください。王都まで行くとなれば当分お風呂には入れないでしょうから。その間に俺が準備をしておきます」
 体内から溢れたものが太腿に伝って流れていくのを感じ、慌てて内股になって歩いて拭くものを探していると、ガイアが俺の太腿の裏をつーと撫でた。あやしいさざめきに体を震わせる。
「一緒に体を洗い合うのは?」
 持っていた服で太ももを乱暴に拭うと、ドアを開けてガイアを部屋の外に押しやった。
「俺は後でいいので、行ってください」
「わかったよ」
 ガイアが大人しく行ったのを確認して、すぐに服を身に着ける。キキが「キュン」と鳴きながらベッドの下から出できた。
「昨夜はごめんな、キキ」
 キキにも俺の痴態を知られたのかと思うと、申し訳ないやら恥ずかしいやらで、顔を伏せたまま謝る。
「キュンキュン」
 キキはどうってことないよ、というように二度鳴いて呑気に欠伸をする。
 寝室を出て一階におりると、まずはキッチンに行ってキキの食事を準備した。キキが食べている間に地下倉庫に行き、干し肉やドライフルーツ、ナッツなどの保存食を持ってくる。
 それを小分けにして大きな葉っぱで包み、麻袋に入れる。パンも入れたので三、四日はもつだろう。
 それから朝食を作っていく。街で買ってきた肉をさっと焼いて横に卵を落としてベーコンエッグ風に作る。ガイアは多く食べるだろうから、肉は二切れにして卵も二つだ。パンは手籠いっぱいに盛り、あとは根菜類のスープ。林檎は丸々一個とビスケットも添えた。
 ガイアが風呂場から出てきた。
「朝から風呂なんて本当に贅沢だ」
 すっきりとした様子のガイアに朝食をすすめる。
「食事できましたよ」
「ああ、ありがとう」
 二人で食事をして、もう食べ終えたキキにも林檎とビスケットを与えた。
「一か月ほどで戻ってくる予定だが……もしかしたら遅くなる可能性もあるかもしれない。結婚してすぐに一人にさせてしまうこと申し訳なく思う」
 ガイアは深く頭を下げた。
 この人は騎士だというのに、街の人に対しても俺に対しても偉ぶったところがまったくない。この世界に国があるように王も存在している。クエストで爵位がある人から依頼をされることもあったから身分もあるのだろう。騎士はどういう位置づけなのか知らないが、少なくともなんの地位もないただの平民プレイヤーより、尊敬される立場にあるのはわかる。街の人も騎士様と呼んでいた。それでも俺に対して頭を下げるのだ。
 慌てて俺も頭を下げた。
「大丈夫です。今までもキキと一緒に暮らしてきたので、一人は慣れています」
 それから言葉を切り、少し考えてから話を続けた。
「ただ、日にちはかかってもいいので仕事の引継ぎは必ずちゃんとしてきてください。蔑ろにしないように」
 何も言わずいきなり仕事を辞めていく人ほど恨めしいものはない。残された人の大変さは社畜の俺にはよくわかっている。
「わかった。キキもよろしく頼む」
「キュン」
 すっかり仲良しのガイアとキキは通じ合って頷いている。
 食事を終えると、食料を詰めた麻袋を渡した。
 ガイアは昨夜磨いていた大盾と弓を軽々と背負い、剣を腰に差す。
 馬を連れていくガイアの隣に並んで、ずっと気になっていることを訊く。
「ガイアさんは、騎士団を辞めることになっても未練はないんですか?」
「俺に家族はいない。だからずっと家庭を持つことに憧れを抱いていた。でも今まで出会いもなかったし、そういう人もいなかった。シノを見たとき運命だと思ったんだ。未練はない」
 突発的に結婚したとはいえ、ガイアの真面目で情熱的な性格を知るにつれ、よかったのではないかと思いはじめていた。恋愛対象は女性だと思っていた頃、何人かと付き合ったことがあったが、ちょっとしたことで喧嘩したりして長続きしなかった。しっくりきた相手はいなかったのだ。それなのに、ガイアとなら、うまくやれそうな気がする。
 そんな大事なことを簡単に決めて、なんて言われそうだが、こういう直感こそ大切なのだと思う。
「俺のことはガイと呼び捨てにしてくれ」
「わかりました。ガイ」
「その改まった口調もキキに話しているような感じで普通でいい」
「う、うん」
 戸惑いながら頷くと、ガイアは笑って俺の頬に手を当てる。
 顔が近づいてきたので、上向いたまま目を閉じてキスを受け止めた。
 舌を絡めて、たっぷりと唇を吸われて十数秒、離れたとき、二人とも息が上がっていた。
「このままだと離れられなくなってしまう」
 抱きしめられて、俺もガイアの大きな体に腕を回す。
 頬を擦り合わせて、再び重なった唇はすぐに離れる。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
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