13 / 20
思いやり
しおりを挟む
翌朝、俺は人の気配で目を覚ました。
うっすらと目を開けると、唇に軽く触れるだけの口づけが落ちてくる。
「ガイア……さん」
呟いた声はかさかさで、喉が渇いていて痛い。
「まだ寝ていろ」
幸せそうに微笑んだガイアは俺の頬を撫でるとベッドからおりた。
俺も体を起こそうとして、腕も腰も重くて動かないのに気づく。
昨夜の情事が蘇り、羞恥心から枕に顔を伏せる。
大きなベッドが狭く感じるほど乱れて……死ぬほど気持ちよかった。同性に抱かれて、あんなにも快感を得ることができると、はじめて知った。
尻の鈍い痛みもなんだか甘く感じて、抱かれたばかりなのにまた抱きしめられたいと強請ってしまいそうになる。
枕の隙間から窺うように、こちらに背中を向けて服を着ているガイアの美しい裸体を見つめる。隆々としたとした背中から臀部に向けての滑らかな曲線が艶めかしい。
視線を感じたガイアが振り向いた。目が合い、ガイアは身を屈めて俺の髪を梳く。
「なるべく早くに戻ってくる」
「もう行くんですか?」
勢いで起き上がると体が悲鳴をあげる。ぐっと奥歯を噛みしめて崩れ落ちそうになるのを堪えてベッドの上に座る。
「食べるものはあるんですか?」
「宿屋なら何かしらあるだろう」
俺は痛みに耐えつつベッドからおりて服を拾った。
「お風呂に入ってきてください。王都まで行くとなれば当分お風呂には入れないでしょうから。その間に俺が準備をしておきます」
体内から溢れたものが太腿に伝って流れていくのを感じ、慌てて内股になって歩いて拭くものを探していると、ガイアが俺の太腿の裏をつーと撫でた。あやしいさざめきに体を震わせる。
「一緒に体を洗い合うのは?」
持っていた服で太ももを乱暴に拭うと、ドアを開けてガイアを部屋の外に押しやった。
「俺は後でいいので、行ってください」
「わかったよ」
ガイアが大人しく行ったのを確認して、すぐに服を身に着ける。キキが「キュン」と鳴きながらベッドの下から出できた。
「昨夜はごめんな、キキ」
キキにも俺の痴態を知られたのかと思うと、申し訳ないやら恥ずかしいやらで、顔を伏せたまま謝る。
「キュンキュン」
キキはどうってことないよ、というように二度鳴いて呑気に欠伸をする。
寝室を出て一階におりると、まずはキッチンに行ってキキの食事を準備した。キキが食べている間に地下倉庫に行き、干し肉やドライフルーツ、ナッツなどの保存食を持ってくる。
それを小分けにして大きな葉っぱで包み、麻袋に入れる。パンも入れたので三、四日はもつだろう。
それから朝食を作っていく。街で買ってきた肉をさっと焼いて横に卵を落としてベーコンエッグ風に作る。ガイアは多く食べるだろうから、肉は二切れにして卵も二つだ。パンは手籠いっぱいに盛り、あとは根菜類のスープ。林檎は丸々一個とビスケットも添えた。
ガイアが風呂場から出てきた。
「朝から風呂なんて本当に贅沢だ」
すっきりとした様子のガイアに朝食をすすめる。
「食事できましたよ」
「ああ、ありがとう」
二人で食事をして、もう食べ終えたキキにも林檎とビスケットを与えた。
「一か月ほどで戻ってくる予定だが……もしかしたら遅くなる可能性もあるかもしれない。結婚してすぐに一人にさせてしまうこと申し訳なく思う」
ガイアは深く頭を下げた。
この人は騎士だというのに、街の人に対しても俺に対しても偉ぶったところがまったくない。この世界に国があるように王も存在している。クエストで爵位がある人から依頼をされることもあったから身分もあるのだろう。騎士はどういう位置づけなのか知らないが、少なくともなんの地位もないただの平民プレイヤーより、尊敬される立場にあるのはわかる。街の人も騎士様と呼んでいた。それでも俺に対して頭を下げるのだ。
慌てて俺も頭を下げた。
「大丈夫です。今までもキキと一緒に暮らしてきたので、一人は慣れています」
それから言葉を切り、少し考えてから話を続けた。
「ただ、日にちはかかってもいいので仕事の引継ぎは必ずちゃんとしてきてください。蔑ろにしないように」
何も言わずいきなり仕事を辞めていく人ほど恨めしいものはない。残された人の大変さは社畜の俺にはよくわかっている。
「わかった。キキもよろしく頼む」
「キュン」
すっかり仲良しのガイアとキキは通じ合って頷いている。
食事を終えると、食料を詰めた麻袋を渡した。
ガイアは昨夜磨いていた大盾と弓を軽々と背負い、剣を腰に差す。
馬を連れていくガイアの隣に並んで、ずっと気になっていることを訊く。
「ガイアさんは、騎士団を辞めることになっても未練はないんですか?」
「俺に家族はいない。だからずっと家庭を持つことに憧れを抱いていた。でも今まで出会いもなかったし、そういう人もいなかった。シノを見たとき運命だと思ったんだ。未練はない」
突発的に結婚したとはいえ、ガイアの真面目で情熱的な性格を知るにつれ、よかったのではないかと思いはじめていた。恋愛対象は女性だと思っていた頃、何人かと付き合ったことがあったが、ちょっとしたことで喧嘩したりして長続きしなかった。しっくりきた相手はいなかったのだ。それなのに、ガイアとなら、うまくやれそうな気がする。
そんな大事なことを簡単に決めて、なんて言われそうだが、こういう直感こそ大切なのだと思う。
「俺のことはガイと呼び捨てにしてくれ」
「わかりました。ガイ」
「その改まった口調もキキに話しているような感じで普通でいい」
「う、うん」
戸惑いながら頷くと、ガイアは笑って俺の頬に手を当てる。
顔が近づいてきたので、上向いたまま目を閉じてキスを受け止めた。
舌を絡めて、たっぷりと唇を吸われて十数秒、離れたとき、二人とも息が上がっていた。
「このままだと離れられなくなってしまう」
抱きしめられて、俺もガイアの大きな体に腕を回す。
頬を擦り合わせて、再び重なった唇はすぐに離れる。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
うっすらと目を開けると、唇に軽く触れるだけの口づけが落ちてくる。
「ガイア……さん」
呟いた声はかさかさで、喉が渇いていて痛い。
「まだ寝ていろ」
幸せそうに微笑んだガイアは俺の頬を撫でるとベッドからおりた。
俺も体を起こそうとして、腕も腰も重くて動かないのに気づく。
昨夜の情事が蘇り、羞恥心から枕に顔を伏せる。
大きなベッドが狭く感じるほど乱れて……死ぬほど気持ちよかった。同性に抱かれて、あんなにも快感を得ることができると、はじめて知った。
尻の鈍い痛みもなんだか甘く感じて、抱かれたばかりなのにまた抱きしめられたいと強請ってしまいそうになる。
枕の隙間から窺うように、こちらに背中を向けて服を着ているガイアの美しい裸体を見つめる。隆々としたとした背中から臀部に向けての滑らかな曲線が艶めかしい。
視線を感じたガイアが振り向いた。目が合い、ガイアは身を屈めて俺の髪を梳く。
「なるべく早くに戻ってくる」
「もう行くんですか?」
勢いで起き上がると体が悲鳴をあげる。ぐっと奥歯を噛みしめて崩れ落ちそうになるのを堪えてベッドの上に座る。
「食べるものはあるんですか?」
「宿屋なら何かしらあるだろう」
俺は痛みに耐えつつベッドからおりて服を拾った。
「お風呂に入ってきてください。王都まで行くとなれば当分お風呂には入れないでしょうから。その間に俺が準備をしておきます」
体内から溢れたものが太腿に伝って流れていくのを感じ、慌てて内股になって歩いて拭くものを探していると、ガイアが俺の太腿の裏をつーと撫でた。あやしいさざめきに体を震わせる。
「一緒に体を洗い合うのは?」
持っていた服で太ももを乱暴に拭うと、ドアを開けてガイアを部屋の外に押しやった。
「俺は後でいいので、行ってください」
「わかったよ」
ガイアが大人しく行ったのを確認して、すぐに服を身に着ける。キキが「キュン」と鳴きながらベッドの下から出できた。
「昨夜はごめんな、キキ」
キキにも俺の痴態を知られたのかと思うと、申し訳ないやら恥ずかしいやらで、顔を伏せたまま謝る。
「キュンキュン」
キキはどうってことないよ、というように二度鳴いて呑気に欠伸をする。
寝室を出て一階におりると、まずはキッチンに行ってキキの食事を準備した。キキが食べている間に地下倉庫に行き、干し肉やドライフルーツ、ナッツなどの保存食を持ってくる。
それを小分けにして大きな葉っぱで包み、麻袋に入れる。パンも入れたので三、四日はもつだろう。
それから朝食を作っていく。街で買ってきた肉をさっと焼いて横に卵を落としてベーコンエッグ風に作る。ガイアは多く食べるだろうから、肉は二切れにして卵も二つだ。パンは手籠いっぱいに盛り、あとは根菜類のスープ。林檎は丸々一個とビスケットも添えた。
ガイアが風呂場から出てきた。
「朝から風呂なんて本当に贅沢だ」
すっきりとした様子のガイアに朝食をすすめる。
「食事できましたよ」
「ああ、ありがとう」
二人で食事をして、もう食べ終えたキキにも林檎とビスケットを与えた。
「一か月ほどで戻ってくる予定だが……もしかしたら遅くなる可能性もあるかもしれない。結婚してすぐに一人にさせてしまうこと申し訳なく思う」
ガイアは深く頭を下げた。
この人は騎士だというのに、街の人に対しても俺に対しても偉ぶったところがまったくない。この世界に国があるように王も存在している。クエストで爵位がある人から依頼をされることもあったから身分もあるのだろう。騎士はどういう位置づけなのか知らないが、少なくともなんの地位もないただの平民プレイヤーより、尊敬される立場にあるのはわかる。街の人も騎士様と呼んでいた。それでも俺に対して頭を下げるのだ。
慌てて俺も頭を下げた。
「大丈夫です。今までもキキと一緒に暮らしてきたので、一人は慣れています」
それから言葉を切り、少し考えてから話を続けた。
「ただ、日にちはかかってもいいので仕事の引継ぎは必ずちゃんとしてきてください。蔑ろにしないように」
何も言わずいきなり仕事を辞めていく人ほど恨めしいものはない。残された人の大変さは社畜の俺にはよくわかっている。
「わかった。キキもよろしく頼む」
「キュン」
すっかり仲良しのガイアとキキは通じ合って頷いている。
食事を終えると、食料を詰めた麻袋を渡した。
ガイアは昨夜磨いていた大盾と弓を軽々と背負い、剣を腰に差す。
馬を連れていくガイアの隣に並んで、ずっと気になっていることを訊く。
「ガイアさんは、騎士団を辞めることになっても未練はないんですか?」
「俺に家族はいない。だからずっと家庭を持つことに憧れを抱いていた。でも今まで出会いもなかったし、そういう人もいなかった。シノを見たとき運命だと思ったんだ。未練はない」
突発的に結婚したとはいえ、ガイアの真面目で情熱的な性格を知るにつれ、よかったのではないかと思いはじめていた。恋愛対象は女性だと思っていた頃、何人かと付き合ったことがあったが、ちょっとしたことで喧嘩したりして長続きしなかった。しっくりきた相手はいなかったのだ。それなのに、ガイアとなら、うまくやれそうな気がする。
そんな大事なことを簡単に決めて、なんて言われそうだが、こういう直感こそ大切なのだと思う。
「俺のことはガイと呼び捨てにしてくれ」
「わかりました。ガイ」
「その改まった口調もキキに話しているような感じで普通でいい」
「う、うん」
戸惑いながら頷くと、ガイアは笑って俺の頬に手を当てる。
顔が近づいてきたので、上向いたまま目を閉じてキスを受け止めた。
舌を絡めて、たっぷりと唇を吸われて十数秒、離れたとき、二人とも息が上がっていた。
「このままだと離れられなくなってしまう」
抱きしめられて、俺もガイアの大きな体に腕を回す。
頬を擦り合わせて、再び重なった唇はすぐに離れる。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
10
あなたにおすすめの小説
腹を隠さず舌も出す
梅したら
BL
「後悔はしてるんだよ。これでもね」
幼馴染の佐田はいつも同じことを言う。
ポメガバースという体質の俺は、疲れてポメラニアンに変化したところ、この男に飼われてしまった。
=====
ヤンデレ×ポメガバース
悲壮感はあんまりないです
他サイトにも掲載
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。
キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、
ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。
国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚――
だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。
顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。
過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、
気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。
「それでも俺は、あなたがいいんです」
だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。
切なさとすれ違い、
それでも惹かれ合う二人の、
優しくて不器用な恋の物語。
全8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる