その後も幸せに暮らしました

山吹レイ

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ガイアの帰り

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 ある夏の日、やっと馬小屋が完成した。馬は一頭だけだと告げたが、もしかしたら増えるかもしれないし、どうせ作るなら広いほうがいいと言われて、馬三頭分のスペースができてしまった。でも天井は高く頑丈な作りなので文句はない。
 それと大きな畑も作った。夏野菜がすくすくと育ち実をつけている。
 野生の鳥獣やモンスターから食害や侵入を防ぐために、畑の周りには自分で簡単な柵を作り、不格好なかかしも立てた。
 それでも不安なので、家と畑を囲う大きな柵を大工さんに建ててもらった。
 これなら安全だろう。キキも十分に遊べる。
 薬草も定期的に山や川辺に採取しに行って、地下倉庫には結構な量が溜まっている。
 雨が降っている今日は、ちょうどいい機会だと思って薬を作っていた。
 キキは匂いを嫌がって作業部屋には入ってこない。
 そんなときに、ガイアが戻ってきたのだ。
 本人は一か月で戻ると言っていたが、あれから三か月は経っている。すぐに辞められるわけがないし、冬までには帰ってくるかもと気楽に考えていたので、俺としては意外と早かったとびっくりしたくらいだ。
 驚いて見上げる俺に、無精ひげが生え、髪もろくにとかしていないような恰好のガイアが満面の笑みで「ただいま」と告げた。
「お、お帰りなさい……」
 長い腕が伸びて俺の腰に絡みつくと、瞬く間に抱きしめられて唇を貪られた。
「んっ……んっ!」
 あまりにも強い腕の締めつけと隙間なく塞がれた唇に息が苦しくなる。
「ぷはっ……ガ、ガイアさん」
 やっと唇が離れたが、次には頬ずり攻撃だ。伸びた髭が痛い。あと、足がつま先立ちになっていて今にもつりそうだ。
 ガイアの腕を何度も軽く叩くとやっと体を離してくれたが、今度は俺の顔を大きな両手でそっと包み込んで「会いたかった」と感極まった声で何度も呟く。
 それから、また抱きしめられた。
「シノが恋しかった」
 そこまで言われたら、苦しいとか落ち着けとか言えない。もうされるがままだ。
 玄関先で浴びるような口づけと、体が伸されるような熱い抱擁を繰り返し受けた後、やっとガイアは俺の足元で「キュンキュン」鳴いているキキに気がついた。
「キキ! 元気だったか?」
 腕が解かれ、唾液で濡れて髭までふやけた顔が離れていく。
「キュン!」
 ガイアはキキを抱き上げた。嬉しそうにキキはガイアの顔を舐める。ひとしきりキキとじゃれたあと、俺に向かってガイアは深く頭をさげた。
「長い間留守にして悪かった」
 ガイアがいない間、やることがありすぎてあっという間に過ぎていたが、ガイアにとっては俺と離れている間とても長かったのだろう。
「いいえ、ガイアさんが無事に帰って来て何よりです」
「ガイでいいと言っただろう。言葉遣いも普通でいい」
「うん」
 視線が交わり、互いに微笑みあう。
「留守の間、何かあったのか?」
 ガイアは振り向いて、家の周りに建てた柵や馬小屋に目を向ける。
「あの柵は野生の動物に侵入されないように作っただけで、別に深い意味はないよ」
「馬小屋も建てたんだな。ありがとう」
「あ、馬は今どこに? 案内する」
「ああ。助かる」
 ガイアと並んで歩きながら、ちらちらと隣を見上げる。彼が大きいのはわかっていたが、隣にいると改めてその大きさに驚く。前は大盾と弓を背負っていたが、よく見ると大剣まで背負っている。腰に差しているのとは別にだ。
「あの……重くない?」
 背中を指さすと、ガイアはなんでもないように笑った。
「このくらいは平気だ」
 馬は近くの木に繋いでいた。馬小屋に案内しながら、これから一緒に生活するのだからと一応馬にも挨拶する。
「えっとアルドだよな。こんにちは」
 アルドは優しい目で俺を見ている。
「触っても大丈夫だ」
「いいの?」
 そっと体に触れてみると、アルドは嫌がらずに俺を受け入れてくれた。
「俺も世話していい?」
「ああ、もちろんだ」
 キキも興味を示していたので、抱き上げてみた。
「狐のキキだよ」
 腕に抱いたままアルドに見せる。
「キュン」
 キキはアルドと遊びたそうにしていたが、体格が違いすぎる。
「キキと一緒に遊んだりできる?」
「どうだろうな。アルドは大人しい馬だが敏感なんだ。飛びかかって行ったら蹴られるかもしれないし、あまり近づないほうがいいかもしれない。キキはやんちゃだからな」
「キキ。アルドは優しいけどあまり近づいちゃいけないんだって」
「キューン」
 悲しそうに鳴いたキキは俺の腕からするりと地面におりた。そして少し離れた場所でくるりと宙に飛び上がり一回転してみせる。
「おお、キキは凄いな」
 ガイアは褒めたが、アルドは関心がないように干し草を食んだ。
「キュンキュン」
 こっちを見て、というように二度鳴いてさらに宙返りをしてみせるが、アルドは目も向けない。
「キューン」
 しょんぼりしたキキは俺の足に飛びついて甘えてきた。
「アルドはキキを嫌ってはいない。ただちょっと……疲れているだけだ」
 そう言ってガイアはキキを慰めて撫でて抱き上げる。
「ガイも疲れたんじゃない? お風呂に入ったら?」
 先ほどから気になっているのは、伸びた髭にぼうぼうの髪だ。それにガイアから……言い表せないような匂いがしていた。
「ずっと風呂に入りたかった。キキも一緒に入るか?」
「キュン」
 元気よくキキが返事をする。
「シノもどうだ?」
 訊くガイアの目が少しだけ細められて、俺の全身を見る。
 その意味を察した俺は、顔を赤くしながら答えた。
「先にどうぞ」
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