嚆矢

山吹レイ

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7 一週間

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 神と交わり、子を産むとは一体どういう意味なのか。
 精神的に繋がり概念を授かる比喩的なものなのか、それとも本当に肉体を交わすのか……意味がわからない。また神という存在もまったく感じ取れずにいた。
 もちろん、この神殿には一人きり。誰もいない。何も来ない。果たして神子とは? と首を傾げざるを得ない。
 というか、一週間経つ頃にはそんなことも忘れていた。
 あまりにも過酷な環境で常に寝不足、食べ物も少ない、体を水で洗うことはできても風呂にも入れない。こんな状況では、この世界に呼ばれた意味とやらも理解できそうにない。
 一週間が経ち、サージャが正面の扉を開けて現れた。
 生気のない俺の姿を見て何を思ったか……常に穏やかな表情から読み取ることはできない。腹を見せろと言われ「はあ?」と訝しんだ俺を、数人の人たちが取り囲んで、無理やり服を剥ぎ取る。
 俺の平らな腹をしげしげと見て「まだなのか」と呟き、供の人たちに何やら命令した。
 あっという間に取り囲まれ、庭園の方へと連れていかれたと思うと、噴水の前で髪や体を隅々まで洗われた。それから、はじめて温かい食事が運ばれて、感涙しながら食べた。
 その様子をサージャが側を離れず見守っている。
 無下に扱われているのではないと感じたので、俺はサージャを見上げて、溜まっていた鬱憤を吐き出すように喋った。
「夜に魔物みたいなのがずっと飛んでいるんだよ。怖くて煩いし、眠れない」
「結界で守られているだけでは不安ですか?」
「不安だよ」
「でしたら今夜から対処しましょう」
 まるでゴミを片付けるかのように簡単に言うので拍子抜けした。連夜悩まされていたことがこんなにもあっさりと片付くとは思ってもみなかった。
 味はほとんど感じられなかったが、温かいだけでこんなにも美味しく感じた食事に手を合わせて、満腹になった腹を撫でる。そこでおずおずと訊いてみる。
「あのさ……神って何?」
 本当にいるのか? とは訊かない。神に存在を問う意味はないのだ。
「我々の救いです」
「子を産むってその……俺が妊娠するの?」
「そう言われています」
 間髪入れず答えるサージャに揺らぎは一切ない。神を信じ、俺が裸になった姿を見てもなお子をなすことを疑ってはいないのだ。
「俺は本当に神子なの?」
 信じられない気持ちでサージャの目を見る。交差した視線は、一瞬だけ気持ちが伝わったような気がしたが、先に視線を逸らしたのはサージャだった。何も言わずに、出て行こうとする。
 せっかく話ができたのに、また一人ぼっちになるのは嫌だと、扉から出ようとしたサージャの腕を掴んだ。
「夜、明かりがない」
「蝋燭があるでしょう」
「火がないんだよ」
「わかりました。暗くなる前に一人寄越します。それと魔物退治に数人ほど来るようにします」
 ほっとして腕を放すと、扉から外が見えた。
 今なら、サージャを押しのけて逃げられるんじゃないかと頭を過るが、逃げたとしてもどこに行けるだろう? 文字も読めない、この世界のことを何一つ知らない、魔物が蔓延るこの世界で、一人で生きていく術はない。
 恨めしい思いで隙間から覗いていると、従者の一人が慌てたように足をあげた。ゼリーのようにぷるぷると動く十センチほどの水色の丸い生物が、彼の足にまとわりついている。
「スライムごときに何やってんだ」
 時折飛び跳ねて攻撃しているようにも見えるが、従者に痛がっている様子はなく、ただ邪険に足で蹴ったりしている。
「遊ぶな。殺してしまえ」
 もう一人の従者はおもむろに、足をあげるとスライムを踏みつぶした。液体のようなものが飛び散り、散り散りになったスライムはぴくりとも動かない。
 その姿がなぜか神子としての役目を果たさない自分の将来を示しているようにも思え、閉じられ施錠された扉をただ黙って見つめていた。
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