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12 擬態
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「クロ。お前、サージャを……食べたのか?」
皆が出て行ってしまってから、俺はクロを服の中から出して訊いた。
クロは何度も飛び跳ねて肯定する。
スライムにこんな機能があるとは思ってもみなかった。しかも目の前でサージャが捕食された姿を見てしまった。今頃になってショックで体が震える。
クロが怖いかと思えば……あんなに簡単に人が飲み込まれていく恐怖はある。ただ、クロ自体は今までと何も変わっていない。俺を慕い、守ってくれようとしたただの魔物だ。
そう、あの場でサージャが剣を抜かなければ、敵意を向けなければ、食べられることもなかった。クロは俺と自身の危険を感じて反撃しただけ。
この世界は弱肉強食なのだと痛感する。魔物と人間が共存する世界では、人間も食物連鎖に組み込まれているのだ。殺さないと殺される、純然たる共存の世界。
「……サージャはもういないのか?」
訊く声が震える。クロは斜めに体を動かしていたが、やがて体を溶かし、そこから縦に伸びて形どっていく。
そこに現れたのは、先ほどまでいたサージャの姿だった。
「え? サージャ?」
サージャは何も喋らない。ただ時折、唇がありえないほど下がったり、鼻が顔いっぱいに膨らんだりしている。それは、クロが擬態したサージャの姿だった。
「そんなこともできるのか?」
クロは次の瞬間、サージャの姿を溶かし、元の丸い姿に戻った。だが、また体を溶かして違う人間になる。それは、厳つい男の姿も、年老いた女性の姿も、年端もいかない男の子の姿もあった。
吐き気がこみ上げて、俺は口を手で覆う。クロが捕食したのはサージャがはじめてではない。今まで何度も捕食してきたのだ。
多分、身の危険を感じたのだろう。そう思いたい。でなければ俺も捕食されていた。
人間だけでなく、動物や魔物も色々捕食してきたようだった。熊や狼、それから蛇もあった。どれも肉食の生物だ。
そう、踏みつぶされたり、殺される前の必死の反撃、それが捕食なのだ。
大きく深呼吸する。何度も何度も息を吸って吐いては、気持ちを落ち着かせる。
クロは決して攻撃的な魔物ではない。俺の前に現れたとき、ぼよんぽよんして肩や手に体当たり……というか、じゃれてきた。その後、俺に懐いた。
顔を手で覆う俺の膝の上にクロが乗ってきて、無邪気に飛び跳ねる。
人や動物を捕食する邪悪な存在なのかもしれないが、俺にその邪悪さは感じない。
「クロは……この世界でたった一人……いや、一匹の俺の友達だもんな」
俺がそう呟くと、クロは頷くように飛び跳ねる。可愛いいつものクロだ。
「よし!」
気分を切り替えるためにも、手で顔を叩き、ぎゅっと目をきつく瞑った後、大きく目を見開く。
過ぎてしまったことを考えるのは無意味だ。
これから考えることが沢山ある。
俺は自分の腹に手を当てて、クロを見る。
「ここにクロの子がいるのか?」
クロは俺にすり寄り、撫でるように丸い体で腹を摩る。
「まじかー。男で妊娠とかありなのか。しかも人間と魔物って……異種でも孕むって信じられないんだけど。そういえばやったあと俺の尻から出てたのクロの精液だったのか。それとも細胞か何かか? というか俺に子宮なんてないし……」
いくら考えても信じられる要素は一つもない。ただ確かなのは俺の腹に浮き出た文様と少し腹が膨れていること。それを見たサージャが妊娠だと断定したことだ。
この腹を他の人間に見せることはできない。今回はサージャがいなくなったことでうまく躱せたが、一週間後、腹を確認しに来たときにどうやって騙すのか……。
それに出て行ったという俺の言葉を信じて、従者たちは今頃サージャの姿を探しているはずだ。どこにもいないとわかれば、近いうちにここにもまた確認にくるだろう。俺を問い詰めるかもしれない。
ここから逃げたほうがいいのか? そんな思いが頭を過る。
ここにいても選択肢はない。従者たちが殺すと判断したら、逃げ場がない俺は確実に殺される。クロも殺される。
逃げることができたなら……なんとかなりそうな気はする。文字も読めないし、この世界のことも何もわからないけど、ここにいるよりは生き延びる可能性はある。それに一人じゃない。今はクロがいる。
俺は迷う気持ちを振り切るように、クロに向き合った。そして静かにこれからの計画を話し出した。
皆が出て行ってしまってから、俺はクロを服の中から出して訊いた。
クロは何度も飛び跳ねて肯定する。
スライムにこんな機能があるとは思ってもみなかった。しかも目の前でサージャが捕食された姿を見てしまった。今頃になってショックで体が震える。
クロが怖いかと思えば……あんなに簡単に人が飲み込まれていく恐怖はある。ただ、クロ自体は今までと何も変わっていない。俺を慕い、守ってくれようとしたただの魔物だ。
そう、あの場でサージャが剣を抜かなければ、敵意を向けなければ、食べられることもなかった。クロは俺と自身の危険を感じて反撃しただけ。
この世界は弱肉強食なのだと痛感する。魔物と人間が共存する世界では、人間も食物連鎖に組み込まれているのだ。殺さないと殺される、純然たる共存の世界。
「……サージャはもういないのか?」
訊く声が震える。クロは斜めに体を動かしていたが、やがて体を溶かし、そこから縦に伸びて形どっていく。
そこに現れたのは、先ほどまでいたサージャの姿だった。
「え? サージャ?」
サージャは何も喋らない。ただ時折、唇がありえないほど下がったり、鼻が顔いっぱいに膨らんだりしている。それは、クロが擬態したサージャの姿だった。
「そんなこともできるのか?」
クロは次の瞬間、サージャの姿を溶かし、元の丸い姿に戻った。だが、また体を溶かして違う人間になる。それは、厳つい男の姿も、年老いた女性の姿も、年端もいかない男の子の姿もあった。
吐き気がこみ上げて、俺は口を手で覆う。クロが捕食したのはサージャがはじめてではない。今まで何度も捕食してきたのだ。
多分、身の危険を感じたのだろう。そう思いたい。でなければ俺も捕食されていた。
人間だけでなく、動物や魔物も色々捕食してきたようだった。熊や狼、それから蛇もあった。どれも肉食の生物だ。
そう、踏みつぶされたり、殺される前の必死の反撃、それが捕食なのだ。
大きく深呼吸する。何度も何度も息を吸って吐いては、気持ちを落ち着かせる。
クロは決して攻撃的な魔物ではない。俺の前に現れたとき、ぼよんぽよんして肩や手に体当たり……というか、じゃれてきた。その後、俺に懐いた。
顔を手で覆う俺の膝の上にクロが乗ってきて、無邪気に飛び跳ねる。
人や動物を捕食する邪悪な存在なのかもしれないが、俺にその邪悪さは感じない。
「クロは……この世界でたった一人……いや、一匹の俺の友達だもんな」
俺がそう呟くと、クロは頷くように飛び跳ねる。可愛いいつものクロだ。
「よし!」
気分を切り替えるためにも、手で顔を叩き、ぎゅっと目をきつく瞑った後、大きく目を見開く。
過ぎてしまったことを考えるのは無意味だ。
これから考えることが沢山ある。
俺は自分の腹に手を当てて、クロを見る。
「ここにクロの子がいるのか?」
クロは俺にすり寄り、撫でるように丸い体で腹を摩る。
「まじかー。男で妊娠とかありなのか。しかも人間と魔物って……異種でも孕むって信じられないんだけど。そういえばやったあと俺の尻から出てたのクロの精液だったのか。それとも細胞か何かか? というか俺に子宮なんてないし……」
いくら考えても信じられる要素は一つもない。ただ確かなのは俺の腹に浮き出た文様と少し腹が膨れていること。それを見たサージャが妊娠だと断定したことだ。
この腹を他の人間に見せることはできない。今回はサージャがいなくなったことでうまく躱せたが、一週間後、腹を確認しに来たときにどうやって騙すのか……。
それに出て行ったという俺の言葉を信じて、従者たちは今頃サージャの姿を探しているはずだ。どこにもいないとわかれば、近いうちにここにもまた確認にくるだろう。俺を問い詰めるかもしれない。
ここから逃げたほうがいいのか? そんな思いが頭を過る。
ここにいても選択肢はない。従者たちが殺すと判断したら、逃げ場がない俺は確実に殺される。クロも殺される。
逃げることができたなら……なんとかなりそうな気はする。文字も読めないし、この世界のことも何もわからないけど、ここにいるよりは生き延びる可能性はある。それに一人じゃない。今はクロがいる。
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