拗らせリアコネクト

山吹レイ

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 平日の夜の八時過ぎ。オフィス街が近いこの居酒屋は仕事帰りのサラリーマンで混雑している。チェーン店とは違い、個人経営のため、若干値段が割高ではあるが、食材はこだわっていて、国内の農家から直接買い取りをしている。新鮮で添加物を使わない優しい味付けは、酒を飲まないサラリーマンにも好評だ。
「今日も激混みだね」
 休憩に一緒に入ったバイトの女性とバックヤードに向かいながら、息をつく。
 目が回るほど忙しいが、その分に見合った時給をもらっているし、たまに嫌なお客さんもいるが人と接するのが楽しい。
 椅子に座ってバッグから携帯電話を取り出し画面を確認すると、健斗から写真付きのメールが来ていた。
 なんでも野菜炒めを作ったらしく『しょっぱくて、キャベツがべったりであまり美味しくなかった』と書かれているが、写真を見る分には豚肉も入っていてうまそうである。
 信じられないが、健斗はあの日以来料理をするようになった。頑張ると言っていたが、実はあまり本気にしていなかった。ゴミが溜まれば大変なことになるが、料理はできなくても生活ができる。それで今まで暮らしていたのだから。
 言われたこと、決めたことは、きちんと実行する性格なのだろう。そういう所は好ましい。
 健斗に『調味料は控えめに入れろ。味が薄いのはいくらでも調節できるけど、濃いと食えない。キャベツは生で食えるから色が変わったら火を止めろ』とメールを打つ。
 すぐさま『わかった。今度からそうする』と返事があった。
 ほぼ毎日のように顔を合わせている相手だが、バイトの日で、夕食を一緒に食えない時は、ちょくちょくメールを寄越したりする。
「彼女?」
 笑ってメールを打っていたのを見られたらしい。彼女は俺の手元を覗き込んだ。
「いないっすよ。彼女」
「へえ、意外。生田君、絶対もてるでしょ」
「もてませんよ」
「なら……私と付き合う?」
 天気の話をするかのようにあまりにもさらっと言うので、一瞬何を言われたのか、のみこめなかった。思わずじっと見つめ、彼女が本気なのかそれとも冗談なのか見極めようとするが、生憎女心がわかるほど女性慣れしてない俺は判断がつかなかった。
「すいません。今、彼女とかそういうの余裕がないんで気が回らないというか、いらないというか……」
 頭を下げて正直に言うと、彼女はぷっとふきだして笑った。
「冗談よ、冗談」
 全く気にしてないように、ケタケタと笑う彼女にほっとする。シリアスな展開だとこの後の仕事もやりにくい。
 高校の時と大学に入ったばかりの頃に付き合った女性はいたが、どちらも気持ちが盛り上がることがなく、半年も経たずに自然消滅した。気を使ったりだとかエスコートしたりが苦手で、一緒にいて心から楽めたという記憶がない。キスやセックスですら雰囲気に流されてしたような気がする。思ったことは口に出して言うし、行動力はある方だが、そのせいで、ぐいぐい引っ張って行く男らしさを期待させてしまうらしい。思ったのと違うと言われることもよくあった。
 今は友人や隣人の健斗がいるから、彼女が欲しいとか、いちゃいちゃしたいとか、まったく必要性を感じない。
 それでも大学を卒業し就職したら、彼女や結婚を意識したりするのだろうか……俺にはとても遠い存在のような気がした。
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