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番の引力(前編)
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目を閉じ、イヤホンから流れる音楽に意識を向けると、外界から切り離されて音の中へと身を浸しているような心地よさを感じる。一時的な現実逃避ともとれる習慣は、すでに己の中で日常化され、今ではこうして電車に乗るときも、街を歩くときも、学校の休憩時間も欠かせないものとなっていた。
聴覚以外のすべての感覚を鈍らせていくような、水底に沈んでいくかのような恍惚の中、この世界だけは傷つかずに自由に泳げる。何もかもを忘れ、ひたすら音という波に漂えば、自分の存在すら溶けてなくなるような気がした。
曲が終わり、イヤホンが音を発しなくなったタイミングで、浮上していく鯨のように意識が水面まで引き戻される。
息継ぎには水面に顔を出さないと、空気が吸いこめない。それでも息を吸うより溺れていたいと願うのは、たゆたうだけこの世界が現実より優しいことを知っているから。自殺願望があるわけではなく、傷つくことも傷つけることもない柔らかな波間に時間が許す限り身を任せていたかった。
膝に誰かが触れたタイミングで、無理やり意識が現実に戻る。反射的に目が開き、波間から顔を出した鯨のように、眩しさに目を眇めて、目の前に立っている男の膝をぼんやりと見つめる。
隣に座っている女性のきつい香水の匂いが鼻を掠め、握り締めていたウォークマンの滑らかで冷たい金属の感触が指先に伝わってくると、不規則に揺れる電車の振動に僅かに揺れる自分の体が波間に漂うものとは似ても似つかないものだとわかり、失望に変わる。
次の曲が始まっていたが、耳を素通りしていく音は虚しいだけだった。無視するべきは現実のほうであるが、意識が戻ってしまえば、再び沈むには時間もかかれる。億劫にもなる。
目線を上げると、窓から西日が差しこんでいて、電車内はビルの合間から伸びるオレンジの線が消えては現れて、また消えていく。
不意に目の前の男が大きく右に傾いた。男は隣に立つ男に凭れかかり、親しげ……というより甘えたように胸元に頭を押しつけている。
男のシャツの間から覗く革の首輪が見えた瞬間、嫌なものを見たという嫌悪は、そのまま俺を見た誰かにもあてはまる。顔が歪み、無意識のうちにそっと自分の首輪を撫でていた。
この先、死ぬまで俺や目の前にいる男がオメガという性に振り回されることは明白だ。アルファ以上の希少種であるにもかかわらず、常に発情に苛まされ、他人に疎まれ、蔑まれ、社会的な地位の低さや、偏見に晒され続ける。もっともこんな種などアルファ以上いたところで、人類のゴミが増えるだけだ。
呪われた性、と誰よりも痛感しているのはオメガ自身だ。
今年十七歳になった俺は未だ発情期がない。十代後半からあらわれるはずだから、近いうちになることは予想がつく。
ただでさえ学校の中で好奇な目で見られることが多く、大人しそうに見える容姿から、理由もなく喧嘩をふっかけられたことも、レイプされそうになったことも二度や三度どころの話ではない。
甘んじて受け入れるタイプではないので、殴られれば殴り返すし、レイプされそうになったら、股間を蹴るか、咥えたタイミングであそこに噛みついて不能にしてやるくらいの気概で抵抗する。今だから跳ね返すことができるが、それが自制できない発情期になったら、と思っただけで血の気が引く。レイプされることは確かに怖いが、それ以上に自分をコントロールできなくなることが堪らなく怖い。
目の前に立つ男は二十歳ぐらいだろうか。俺が怖いと思っている経験を多分、何度かくぐり抜けてきたことだろう。首輪をつけているということは番がいない状態である。オメガだからといってアルファと番うことはないが、それが一番オメガにとって安定をもたらすものだとわかっているから、みな目指すところはそこなのだろう。
今まで恋をしたこともない俺にとって、番という存在は漠然としていて、掴みどころもない、このオレンジ色した夕日に似ている。こうして誰の目にも映るのに、掴もうとしても掴めない。
あまりじろじろ見ていたわけではないが、不意に男の目とかち合った。
すると、男は見下したような表情で目を細め、頭を押しつけている男から見えないようにあざ笑いを浮かべた。
アルファとオメガなら勝ち負けの概念もあるかもしれないが、オメガ同士で何に優劣をつけるのかは理解できない。あるとしたら先ほど男の首輪を見た時に感じたときのような同族嫌悪に他ならない。
見せつけるように男が隣の男の頬を触ったり、二人だけにしかわからない親密な会話をし始めたので、俺は椅子から立ち上った。
同じくして降りる駅がアナウンスされたので、ドアに向かって歩く。
オメガは誰もが鬱屈した思いを抱いている。どれほど愛されようと、どれほど安心できる場所にいようと、オメガの持つ特別な性は常に揺らぎをもたらす。
電車が停まり、ドアが開くと、俺は振り返ることなく足早に電車から降りた。
携帯電話が震えたので、ポケットから取り出して確認する。母さんから『帰りに牛乳買ってきて』と短いメールが入っていた。『了解』と打ってから『他に必要なものある?』とつけ足してメールを送り返す。
すぐに『なし』という返事が返ってきて、あまりにも短すぎるメールに思わず笑いがこみあげる。
いつものことなので素っ気ないメールはいいとして、少し気にかかることもあったのでメールを送ろうか悩んだが、結局やめて携帯電話をしまった。
早く帰れば母さんに会えるし話もできるだろう。
駅を出て、いつもなら右に曲がって細い路地へと入るが、今日は大通りを通って商店街に向かった。スーパーに寄ったついでに、牛乳以外にも安い野菜などを買う。
母さんと二人暮らしの俺は、自主的に料理をしている。母さんが夜の仕事……いわゆる水商売という仕事柄、生活時間がほとんど合わないということもあるが、母さんは料理が下手だった。食べ盛りの思春期にとって悶々とするような欠点だ。
小さい頃は惣菜や弁当で過ごしていた俺も、包丁が握れるようになると、濃い味付けや代り映えしない弁当に飽きて自ら料理を作るようになった。
今では誰に食べさせても恥ずかしくない腕前にまでなっている。まあ、母さん以外誰にも食べさせる相手はいないが、料理ができないよりできるほうが当然いい。
アパートの部屋の前まで来ると、鍵を開けて中に入った。
「ただいま」
買ったものをキッチンのテーブルに置き、冷蔵庫にしまっていると、母さんが慌てた様子で出てきた。
「お帰り、叶人。ごめんね、もう行くから」
「え? もう?」
「急に入ってね」
何が急に入ったのかよくわからないが、母さんは仕事の内容をほとんど話すことはないし、俺も訊かないようにしている。でも気にかけていたことだけは知りたかった。
「母さん、昨日言ってたストーカー大丈夫なの?」
「次店に来たら出禁にするって言うし、多分大丈夫じゃない」
呑気なことを言ながら慌ただしくハイヒールに足を入れた背中に、俺は畳みかけるように言った。
「大丈夫って本当に大丈夫なのかよ。俺にも気をつけるように言ってたじゃ」
「戸締り、ガスの元栓、気をつけてね」
文句を言う暇もなく、俺の髪をかき乱すだけかき乱して母さんはドアを開けて出て行く。
あとに残された俺は、ぼさぼさの髪のまま、消化不良の気持ちをどこにぶつければいいのかわからずに、ため息を吐く。
毎日のように店に来る男性から嫌がらせのようなものを受けていると、昨日聞かされたときは驚いたが、まったく気にしていない今しがたの言葉にもっとびっくりする。
普段、仕事のことを話さない母さんが俺にそんなことを言ったのは、被害が及ぶ可能性もあったからじゃないのかと思って深刻に受け止めていたが、当の本人はまったく気にかけていないらしい。
勤めている店の人が守ってくれるならいいが、しっかりした会社ならまだしも、水商売の店なら日常茶飯事として片付けられていそうな気がする。店の中で起こったことなら店側で対応してくれるだろうが、それ以外関知しないのは、どこの会社でも一緒だろう。
母さんは俺を十八歳の時に産んだ。高校生の子供がいるとは思えないほど若く美人だ。父親のことは知らされていない。母さんは知らないと言っていたが、知らないわけはないだろうから、言いたくないだけなのだろう。
完璧に化粧を施した姿は、どんな男でもひれ伏す妖艶な美女という感じではあるが、息子にとってはただのズボラで料理が下手な母親でしかない。
気まぐれな人だからと諦めの境地になるのは、もう十七年間も一緒に暮らしていれば、互いの性格に妥協点を見出していくしかないからだ。
ただ、今回ばかりは呆れつつも身の危険に関することだから気にはなる。
「母さん、大丈夫かな」
呟いて、出て行ったドアを見つめ、嫌な気配を追い払うように頭を振る。考えすぎるのは悪い癖だ。
夜の十一時を回ったところで俺は電気を消して家を出た。首輪が見えないようにTシャツの上にパーカーを羽織り、ファスナーを上まであげてオメガだとわからないようにしている。
行き先は母さんの勤務先。心配性だと笑えばいい。
何時に仕事が終わるかわからないが、店を出てくるまで待つつもりだ。
ばれたら叱られるのは目に見えているが、心配で眠れずに帰ってくるのを家で待っているより迎えに行こうと思ったのだ。
場所はわからないが、店の名前と電話番号は知っている。携帯電話で地図を確認して電車に乗った。
くたびれた様子で鞄を胸に抱え眠っているサラリーマンから離れた場所に座り、イヤホンで耳を塞ぐ。酒の入った数人の若い男性が立ったままゲラゲラ笑いながら話をしているものだから、座っていた女性は迷惑そうに席を立って隣の車両へと移った。
俺は無関心を決めこんで、視線を床に落としたまま、ひたすら音楽に耳を傾けた。
そのうち目的地の駅に着いたので、降りて駅を出ると、携帯電話を手に持ち確認しながら道を進む。
夜でも昼のように明るい煌びやかな街を、周囲を見回すことはせずに地図通りにすいすい歩いていく。数分で迷うことなく店を見つけた。
店に着いたはいいが、さてどうしようかと少し離れた場所に立ち店構えを観察していると、運悪く母さんがスーツ姿の男性と一緒に出てきた。慌てて隠れようとしたが、それが目に留まったのか、ばっちり目が合ってしまった。
母さんはすぐにわかったらしく、般若のような顔で俺を睨んだ後、何事もなかったかのようにスーツ姿の男性に向かって艶やかに微笑む。俺はといえば、ばれてしまったのはしょうがないと開き直って、スーツ姿の男性がタクシーに乗って去っていくまで頭を下げて見送りしている姿を、その場で黙って見ていた。
働いている姿をはじめて目にした俺は、不自由なく生活できる自分の存在がこうした仕事の上に成り立っているのだと知って、ひどく情けなくも、虚しい気持ちになった。もっと勉強を頑張って、いい大学に入って、一流企業に就職して、養っていくだけの稼ぎを……と強く思うと同時に、世間一般ではオメガは役立たずと見下されていることから、どんなに努力をしても報われることはないという現実に、苛立ちに似た焦りがこみあげてくる。
「叶人!」
名前を呼ばれてはっと我に返ると、母さんが般若から鬼のような形相へと変えて近づいてくる。
俺は観念して一息つき、パーカーのポケットに手を突っこんで、歩いていった。
「ごめん」
怒られる前に謝ると、母さんの表情が一瞬だけ緩む。だが、眦を釣りあげて「子供はこんなところに来ちゃいけないって言ったでしょ!」と怒鳴りつけた。一緒にいた黒服が何事かと思ったのか不審なものを見る目つきで近づいてきたので、母さんはばつが悪そうな表情で俺の腕を掴み、店の前から移動しようとした。
その時だった。
「ねえ、何やってるの沙希?」
どこからともなく現れたよれよれのTシャツを着た男は、口元に薄い笑いを浮かべて母さんの名前を呼んで腕を掴んだ。
ただならぬ雰囲気と、目にこめられた嘲りと狂気を感じ取った俺は、咄嗟に母さんより前に出た。そこに男が包丁を突きつけたのは同時だった。
「君は誰? 沙希とどんな関係?」
男の声には執念深さが滲んでいる。ストーカーだと瞬時に悟った。
「お前こそ誰だよ。ストーカー野郎」
俺は母さんを守るように背中に隠し、怒りを押し殺して聞き返す。自分でも驚くほどの冷静さで包丁を両手で持っている男の前に立ち、拳を握りしめる。
男の口元が歪んだと思ったら、そのまま突進してきた。母さんを背に庇ったまま寸前で躱したが、男の反撃は早かった。包丁を持ち直した男は、逆手で包丁を握り締めて振りかざした。やばいと思ったのは、このまま切られるとわかったからだ。
ところが、包丁を振りかざした男の手を、サングラスをかけた別の男が掴んだ。
「なんの騒ぎだ?」
新たに現れた男は、包丁を握りしめた男の手を掴んだまま微動だにしない。
俺は助かったとほっと胸を撫で下ろすと同時に、新たに現れた男のもつ威圧的なオーラに気圧されて、体がかっと熱くなった。
周りでは警察を呼べ、とか早くしろ、とか慌ただしく動いているのに、俺はなぜかその男から目が離せないでいた。
かなり背が高い。百九十センチはあるだろう長身に、スリーピースの細身のスーツを着た姿は経営者という風体に見えなくもないが、男の持つ威圧感は、気迫というより暴力を想像させるような荒々しさがある。そう、普通の人とは違うそっちの筋のアウトロー的な気配がぷんぷんしていた。
男は包丁を持った手を捩じり、あっという間に男を地面にうつ伏せにさせて拘束する。一糸の乱れもないことから、こういうことに慣れているのだろう。
男は黒服たちに包丁を持った男を預け、俺のほうに顔を向けた。
その瞬間、全ての感覚が男に向かって流れていくような強い引力と、目の前に体を投げ出して暴かれたいという女々しい欲望が体を駆け巡った。
男の顔も微かに強張ったように見えた。
互いに目を逸らせないまま、俺は眩暈にも似たふらつきを感じ、がくりとアスファルトに膝をつく。
体が熱い。燃えるように熱く、気がつくとぶるぶる震えていた。
「この匂い……オメガか!?」
誰かのそんな声が聞こえたような気がしたが、俺にはもう目の前の男しか目に入らなかった。
「叶人? 叶人!」
母さんが俺の体を揺さぶっているが、勃起した股間を見られるのが恥ずかしくて両手で押さえたまま、耐えるように縋るように男を見つめる。
男は唇を舐めて俺の目の前に立った。
「お前は誰だ」
尋ねる声は低く、サングラス越しの冷たい視線はひしひしと感じたが、男はどこか戸惑っているようにも、怒りで震えているようにも見える。
僅かに煙草の匂いがした。それだけでくらくらする。頭を押さえ、片手で勃起を悟られないように隠したまま、俺は男の視線から逃れるようにぎゅっと目を瞑った。目が潤んでいたせいで、一筋の涙が頬を伝う。
男はいきなり俺の前髪を乱暴に掴んだ。痛みに顔を歪め、目を開くと、男は俺の顔を近づけて何かを探るように見つめる。形のいい唇から俺と同じような熱い吐息を感じる。
無性に男に抱きつきたくて……抱かれたくて、交わりたくて、体内で感じたくて、頭がおかしくなりそうだった。
「いやだ……いやだ」
俺は男の手を振り払って、後ずさりする。
こんな初対面の男に欲情するはずがないのに、頭ではわかっているのに、手が伸びそうになる。縋りつきそうになる。
母さんが男に向かって何かを言いながら頭を下げているが、俺にはもうわけがわからなかった。
男は俺を見据えたまま後ずさりした分だけ近づいた。
「来るな……」
発した言葉も震えて呂律が回らない。
男が怖い。こんな風に欲情させるこの男が本当に怖い。
潤んだ目で睨みつけると、僅かに男の口角があがる。男は股間を押さえている俺の右手ごと足で踏みつけた。
屈したくない思いから、俺は男に向かって挑発的に中指を突き立てる。手がぶるぶる震えていたが、男はそれを見るなり何を思ったか、屈んで俺の突き立てた中指に舌を伸ばしてつけ根から指先までねっとりと舐める。
その瞬間俺は箍が外れたように、男にしがみついた。頭が真っ白になり、気がつけば体をびくびく震わせて射精していた。
強くしがみついたまま射精した余韻から頭がぼうっとしてした俺を、男はやすやすと抱え立ち上がった。
母さんが何か叫んだ。
「この男は俺の運命の番だ」
熱を孕んだ声が耳元で囁く。たちまち今しがた達したばかりの俺の下半身が張りつめて、濡れた下着を押し上げる。
「もう、離れられない」
そう言って俺の耳をぬるりと舐める男の体もまた高ぶり、勃起していた。
聴覚以外のすべての感覚を鈍らせていくような、水底に沈んでいくかのような恍惚の中、この世界だけは傷つかずに自由に泳げる。何もかもを忘れ、ひたすら音という波に漂えば、自分の存在すら溶けてなくなるような気がした。
曲が終わり、イヤホンが音を発しなくなったタイミングで、浮上していく鯨のように意識が水面まで引き戻される。
息継ぎには水面に顔を出さないと、空気が吸いこめない。それでも息を吸うより溺れていたいと願うのは、たゆたうだけこの世界が現実より優しいことを知っているから。自殺願望があるわけではなく、傷つくことも傷つけることもない柔らかな波間に時間が許す限り身を任せていたかった。
膝に誰かが触れたタイミングで、無理やり意識が現実に戻る。反射的に目が開き、波間から顔を出した鯨のように、眩しさに目を眇めて、目の前に立っている男の膝をぼんやりと見つめる。
隣に座っている女性のきつい香水の匂いが鼻を掠め、握り締めていたウォークマンの滑らかで冷たい金属の感触が指先に伝わってくると、不規則に揺れる電車の振動に僅かに揺れる自分の体が波間に漂うものとは似ても似つかないものだとわかり、失望に変わる。
次の曲が始まっていたが、耳を素通りしていく音は虚しいだけだった。無視するべきは現実のほうであるが、意識が戻ってしまえば、再び沈むには時間もかかれる。億劫にもなる。
目線を上げると、窓から西日が差しこんでいて、電車内はビルの合間から伸びるオレンジの線が消えては現れて、また消えていく。
不意に目の前の男が大きく右に傾いた。男は隣に立つ男に凭れかかり、親しげ……というより甘えたように胸元に頭を押しつけている。
男のシャツの間から覗く革の首輪が見えた瞬間、嫌なものを見たという嫌悪は、そのまま俺を見た誰かにもあてはまる。顔が歪み、無意識のうちにそっと自分の首輪を撫でていた。
この先、死ぬまで俺や目の前にいる男がオメガという性に振り回されることは明白だ。アルファ以上の希少種であるにもかかわらず、常に発情に苛まされ、他人に疎まれ、蔑まれ、社会的な地位の低さや、偏見に晒され続ける。もっともこんな種などアルファ以上いたところで、人類のゴミが増えるだけだ。
呪われた性、と誰よりも痛感しているのはオメガ自身だ。
今年十七歳になった俺は未だ発情期がない。十代後半からあらわれるはずだから、近いうちになることは予想がつく。
ただでさえ学校の中で好奇な目で見られることが多く、大人しそうに見える容姿から、理由もなく喧嘩をふっかけられたことも、レイプされそうになったことも二度や三度どころの話ではない。
甘んじて受け入れるタイプではないので、殴られれば殴り返すし、レイプされそうになったら、股間を蹴るか、咥えたタイミングであそこに噛みついて不能にしてやるくらいの気概で抵抗する。今だから跳ね返すことができるが、それが自制できない発情期になったら、と思っただけで血の気が引く。レイプされることは確かに怖いが、それ以上に自分をコントロールできなくなることが堪らなく怖い。
目の前に立つ男は二十歳ぐらいだろうか。俺が怖いと思っている経験を多分、何度かくぐり抜けてきたことだろう。首輪をつけているということは番がいない状態である。オメガだからといってアルファと番うことはないが、それが一番オメガにとって安定をもたらすものだとわかっているから、みな目指すところはそこなのだろう。
今まで恋をしたこともない俺にとって、番という存在は漠然としていて、掴みどころもない、このオレンジ色した夕日に似ている。こうして誰の目にも映るのに、掴もうとしても掴めない。
あまりじろじろ見ていたわけではないが、不意に男の目とかち合った。
すると、男は見下したような表情で目を細め、頭を押しつけている男から見えないようにあざ笑いを浮かべた。
アルファとオメガなら勝ち負けの概念もあるかもしれないが、オメガ同士で何に優劣をつけるのかは理解できない。あるとしたら先ほど男の首輪を見た時に感じたときのような同族嫌悪に他ならない。
見せつけるように男が隣の男の頬を触ったり、二人だけにしかわからない親密な会話をし始めたので、俺は椅子から立ち上った。
同じくして降りる駅がアナウンスされたので、ドアに向かって歩く。
オメガは誰もが鬱屈した思いを抱いている。どれほど愛されようと、どれほど安心できる場所にいようと、オメガの持つ特別な性は常に揺らぎをもたらす。
電車が停まり、ドアが開くと、俺は振り返ることなく足早に電車から降りた。
携帯電話が震えたので、ポケットから取り出して確認する。母さんから『帰りに牛乳買ってきて』と短いメールが入っていた。『了解』と打ってから『他に必要なものある?』とつけ足してメールを送り返す。
すぐに『なし』という返事が返ってきて、あまりにも短すぎるメールに思わず笑いがこみあげる。
いつものことなので素っ気ないメールはいいとして、少し気にかかることもあったのでメールを送ろうか悩んだが、結局やめて携帯電話をしまった。
早く帰れば母さんに会えるし話もできるだろう。
駅を出て、いつもなら右に曲がって細い路地へと入るが、今日は大通りを通って商店街に向かった。スーパーに寄ったついでに、牛乳以外にも安い野菜などを買う。
母さんと二人暮らしの俺は、自主的に料理をしている。母さんが夜の仕事……いわゆる水商売という仕事柄、生活時間がほとんど合わないということもあるが、母さんは料理が下手だった。食べ盛りの思春期にとって悶々とするような欠点だ。
小さい頃は惣菜や弁当で過ごしていた俺も、包丁が握れるようになると、濃い味付けや代り映えしない弁当に飽きて自ら料理を作るようになった。
今では誰に食べさせても恥ずかしくない腕前にまでなっている。まあ、母さん以外誰にも食べさせる相手はいないが、料理ができないよりできるほうが当然いい。
アパートの部屋の前まで来ると、鍵を開けて中に入った。
「ただいま」
買ったものをキッチンのテーブルに置き、冷蔵庫にしまっていると、母さんが慌てた様子で出てきた。
「お帰り、叶人。ごめんね、もう行くから」
「え? もう?」
「急に入ってね」
何が急に入ったのかよくわからないが、母さんは仕事の内容をほとんど話すことはないし、俺も訊かないようにしている。でも気にかけていたことだけは知りたかった。
「母さん、昨日言ってたストーカー大丈夫なの?」
「次店に来たら出禁にするって言うし、多分大丈夫じゃない」
呑気なことを言ながら慌ただしくハイヒールに足を入れた背中に、俺は畳みかけるように言った。
「大丈夫って本当に大丈夫なのかよ。俺にも気をつけるように言ってたじゃ」
「戸締り、ガスの元栓、気をつけてね」
文句を言う暇もなく、俺の髪をかき乱すだけかき乱して母さんはドアを開けて出て行く。
あとに残された俺は、ぼさぼさの髪のまま、消化不良の気持ちをどこにぶつければいいのかわからずに、ため息を吐く。
毎日のように店に来る男性から嫌がらせのようなものを受けていると、昨日聞かされたときは驚いたが、まったく気にしていない今しがたの言葉にもっとびっくりする。
普段、仕事のことを話さない母さんが俺にそんなことを言ったのは、被害が及ぶ可能性もあったからじゃないのかと思って深刻に受け止めていたが、当の本人はまったく気にかけていないらしい。
勤めている店の人が守ってくれるならいいが、しっかりした会社ならまだしも、水商売の店なら日常茶飯事として片付けられていそうな気がする。店の中で起こったことなら店側で対応してくれるだろうが、それ以外関知しないのは、どこの会社でも一緒だろう。
母さんは俺を十八歳の時に産んだ。高校生の子供がいるとは思えないほど若く美人だ。父親のことは知らされていない。母さんは知らないと言っていたが、知らないわけはないだろうから、言いたくないだけなのだろう。
完璧に化粧を施した姿は、どんな男でもひれ伏す妖艶な美女という感じではあるが、息子にとってはただのズボラで料理が下手な母親でしかない。
気まぐれな人だからと諦めの境地になるのは、もう十七年間も一緒に暮らしていれば、互いの性格に妥協点を見出していくしかないからだ。
ただ、今回ばかりは呆れつつも身の危険に関することだから気にはなる。
「母さん、大丈夫かな」
呟いて、出て行ったドアを見つめ、嫌な気配を追い払うように頭を振る。考えすぎるのは悪い癖だ。
夜の十一時を回ったところで俺は電気を消して家を出た。首輪が見えないようにTシャツの上にパーカーを羽織り、ファスナーを上まであげてオメガだとわからないようにしている。
行き先は母さんの勤務先。心配性だと笑えばいい。
何時に仕事が終わるかわからないが、店を出てくるまで待つつもりだ。
ばれたら叱られるのは目に見えているが、心配で眠れずに帰ってくるのを家で待っているより迎えに行こうと思ったのだ。
場所はわからないが、店の名前と電話番号は知っている。携帯電話で地図を確認して電車に乗った。
くたびれた様子で鞄を胸に抱え眠っているサラリーマンから離れた場所に座り、イヤホンで耳を塞ぐ。酒の入った数人の若い男性が立ったままゲラゲラ笑いながら話をしているものだから、座っていた女性は迷惑そうに席を立って隣の車両へと移った。
俺は無関心を決めこんで、視線を床に落としたまま、ひたすら音楽に耳を傾けた。
そのうち目的地の駅に着いたので、降りて駅を出ると、携帯電話を手に持ち確認しながら道を進む。
夜でも昼のように明るい煌びやかな街を、周囲を見回すことはせずに地図通りにすいすい歩いていく。数分で迷うことなく店を見つけた。
店に着いたはいいが、さてどうしようかと少し離れた場所に立ち店構えを観察していると、運悪く母さんがスーツ姿の男性と一緒に出てきた。慌てて隠れようとしたが、それが目に留まったのか、ばっちり目が合ってしまった。
母さんはすぐにわかったらしく、般若のような顔で俺を睨んだ後、何事もなかったかのようにスーツ姿の男性に向かって艶やかに微笑む。俺はといえば、ばれてしまったのはしょうがないと開き直って、スーツ姿の男性がタクシーに乗って去っていくまで頭を下げて見送りしている姿を、その場で黙って見ていた。
働いている姿をはじめて目にした俺は、不自由なく生活できる自分の存在がこうした仕事の上に成り立っているのだと知って、ひどく情けなくも、虚しい気持ちになった。もっと勉強を頑張って、いい大学に入って、一流企業に就職して、養っていくだけの稼ぎを……と強く思うと同時に、世間一般ではオメガは役立たずと見下されていることから、どんなに努力をしても報われることはないという現実に、苛立ちに似た焦りがこみあげてくる。
「叶人!」
名前を呼ばれてはっと我に返ると、母さんが般若から鬼のような形相へと変えて近づいてくる。
俺は観念して一息つき、パーカーのポケットに手を突っこんで、歩いていった。
「ごめん」
怒られる前に謝ると、母さんの表情が一瞬だけ緩む。だが、眦を釣りあげて「子供はこんなところに来ちゃいけないって言ったでしょ!」と怒鳴りつけた。一緒にいた黒服が何事かと思ったのか不審なものを見る目つきで近づいてきたので、母さんはばつが悪そうな表情で俺の腕を掴み、店の前から移動しようとした。
その時だった。
「ねえ、何やってるの沙希?」
どこからともなく現れたよれよれのTシャツを着た男は、口元に薄い笑いを浮かべて母さんの名前を呼んで腕を掴んだ。
ただならぬ雰囲気と、目にこめられた嘲りと狂気を感じ取った俺は、咄嗟に母さんより前に出た。そこに男が包丁を突きつけたのは同時だった。
「君は誰? 沙希とどんな関係?」
男の声には執念深さが滲んでいる。ストーカーだと瞬時に悟った。
「お前こそ誰だよ。ストーカー野郎」
俺は母さんを守るように背中に隠し、怒りを押し殺して聞き返す。自分でも驚くほどの冷静さで包丁を両手で持っている男の前に立ち、拳を握りしめる。
男の口元が歪んだと思ったら、そのまま突進してきた。母さんを背に庇ったまま寸前で躱したが、男の反撃は早かった。包丁を持ち直した男は、逆手で包丁を握り締めて振りかざした。やばいと思ったのは、このまま切られるとわかったからだ。
ところが、包丁を振りかざした男の手を、サングラスをかけた別の男が掴んだ。
「なんの騒ぎだ?」
新たに現れた男は、包丁を握りしめた男の手を掴んだまま微動だにしない。
俺は助かったとほっと胸を撫で下ろすと同時に、新たに現れた男のもつ威圧的なオーラに気圧されて、体がかっと熱くなった。
周りでは警察を呼べ、とか早くしろ、とか慌ただしく動いているのに、俺はなぜかその男から目が離せないでいた。
かなり背が高い。百九十センチはあるだろう長身に、スリーピースの細身のスーツを着た姿は経営者という風体に見えなくもないが、男の持つ威圧感は、気迫というより暴力を想像させるような荒々しさがある。そう、普通の人とは違うそっちの筋のアウトロー的な気配がぷんぷんしていた。
男は包丁を持った手を捩じり、あっという間に男を地面にうつ伏せにさせて拘束する。一糸の乱れもないことから、こういうことに慣れているのだろう。
男は黒服たちに包丁を持った男を預け、俺のほうに顔を向けた。
その瞬間、全ての感覚が男に向かって流れていくような強い引力と、目の前に体を投げ出して暴かれたいという女々しい欲望が体を駆け巡った。
男の顔も微かに強張ったように見えた。
互いに目を逸らせないまま、俺は眩暈にも似たふらつきを感じ、がくりとアスファルトに膝をつく。
体が熱い。燃えるように熱く、気がつくとぶるぶる震えていた。
「この匂い……オメガか!?」
誰かのそんな声が聞こえたような気がしたが、俺にはもう目の前の男しか目に入らなかった。
「叶人? 叶人!」
母さんが俺の体を揺さぶっているが、勃起した股間を見られるのが恥ずかしくて両手で押さえたまま、耐えるように縋るように男を見つめる。
男は唇を舐めて俺の目の前に立った。
「お前は誰だ」
尋ねる声は低く、サングラス越しの冷たい視線はひしひしと感じたが、男はどこか戸惑っているようにも、怒りで震えているようにも見える。
僅かに煙草の匂いがした。それだけでくらくらする。頭を押さえ、片手で勃起を悟られないように隠したまま、俺は男の視線から逃れるようにぎゅっと目を瞑った。目が潤んでいたせいで、一筋の涙が頬を伝う。
男はいきなり俺の前髪を乱暴に掴んだ。痛みに顔を歪め、目を開くと、男は俺の顔を近づけて何かを探るように見つめる。形のいい唇から俺と同じような熱い吐息を感じる。
無性に男に抱きつきたくて……抱かれたくて、交わりたくて、体内で感じたくて、頭がおかしくなりそうだった。
「いやだ……いやだ」
俺は男の手を振り払って、後ずさりする。
こんな初対面の男に欲情するはずがないのに、頭ではわかっているのに、手が伸びそうになる。縋りつきそうになる。
母さんが男に向かって何かを言いながら頭を下げているが、俺にはもうわけがわからなかった。
男は俺を見据えたまま後ずさりした分だけ近づいた。
「来るな……」
発した言葉も震えて呂律が回らない。
男が怖い。こんな風に欲情させるこの男が本当に怖い。
潤んだ目で睨みつけると、僅かに男の口角があがる。男は股間を押さえている俺の右手ごと足で踏みつけた。
屈したくない思いから、俺は男に向かって挑発的に中指を突き立てる。手がぶるぶる震えていたが、男はそれを見るなり何を思ったか、屈んで俺の突き立てた中指に舌を伸ばしてつけ根から指先までねっとりと舐める。
その瞬間俺は箍が外れたように、男にしがみついた。頭が真っ白になり、気がつけば体をびくびく震わせて射精していた。
強くしがみついたまま射精した余韻から頭がぼうっとしてした俺を、男はやすやすと抱え立ち上がった。
母さんが何か叫んだ。
「この男は俺の運命の番だ」
熱を孕んだ声が耳元で囁く。たちまち今しがた達したばかりの俺の下半身が張りつめて、濡れた下着を押し上げる。
「もう、離れられない」
そう言って俺の耳をぬるりと舐める男の体もまた高ぶり、勃起していた。
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