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 君の旅立ちに“けだま”のぬくもりを捧ぐ

 実験台の上で目を覚ますと、俺は毛玉になっていた。
 鎖で繋がれた体を何やら弄ろうとする白衣共の前で、「改造するならキュートなぬいぐるみにしてくれよ」などと冗談を吹いた結果がこれである。
 関節の存在しない、短く丸まった手足。
 なめし革の水袋の様にたぷたぷと膨らんだお腹。
 一度触れたら病みつきになるほど肌触りの良い毛並み。
 そして、鏡に映った自分をも魅了する、黒水晶の如き大きな瞳。
 確かに、注文通りだ。きっと向こうの研究員の中に、こういうのが好きな奴が居るのだろう。
 いいセンスをしているな。と呟くが、内心冷や汗が止まらない。
 ――本当にやるヤツがあるか。
 
 幾つかの疑問が、脳内でひしめく。
 だが、その殆どに、奴らは答えようとはしない。
 与えられた命令を確認した後は、新しい体の説明書を読み上げるのみであった。
 『元の身体』を人質に、“俺が完成させる筈だった”空間転移装置へと、放り込まれる。
 かくして、僅か50センチの体に不釣り合いな使命を負わされた俺は、飽きた玩具(オモチャ)がゴミ置き場に投げ捨てられるかの如く、現実から、望む大地へと摘まみ出されたのだった。
 
        ◆

「“ダイヤは自らの手で掴むからこそ美しく輝く”……ってワケでもないか」
 
 高くそびえる木の根元に、膨らむ背を預け、≪ガレットピア≫の青空を見上げる。
 喜びと葛藤が混ざり合い、眩んだ頭を休ませる為、俺、『藤宮寿人(ふじみやひさと)』は溜息と共に瞳を閉じた。
 晩夏の生温かな風が、全身を覆うモフモフを慰めるようにくすぐる。
 気持ちが良い。体に触れる光の一つ一つが真っ白な肌を焼いて、布地と綿で作られた俺に生きている実感を与えてくれる。
 
 ――あれから、12年か。
 他界した祖父の研究室から異次元世界研究の資料を引継ぎ、ひたすらこの世界に思いを馳せた青春時代。
 IQ125の頭脳を生かし、遂に≪ガレットピア≫との移動理論を完成させたのが、ちょうど四年前。
 そこから、この世界の文化、歴史、生態系、地理、それに政治や金融。魔術や戦闘理論についての考察を行っていざ、出発の筈だったのに。
 
 どうして、こんな事に巻き込まれてしまったのだろう。
 
「――ぬいぐるみ、かな」
 
 聞こえてくる、朗らかな少女の声。
 明らかに俺を指したその言葉に、思わず背中が震える。
 反射が起きるというのは、改造された体が馴染んでいる証拠だろうとポジティブに受け止めて、俺は両手をぐぅと天に向け、伸ばした。
 
「うわわっ、動いた。生きてる……? 魔族……? うさぎ……?」
 
 雨上がりの泥を踏みしめる足音が、虫網を振りかざす小学生の様な速度で近づいてくる。
 寝ている相手を刺激させないよう声を抑えてるみたいだが、生憎今の俺は耳が長くて大きいため、全て筒抜けである。
 便利な事もあるものだなと、少しだけ、この姿を好きになった。
 
 閉じたばかりの丸い目を再び開き、音のする方へと寝返りをうつ。
 どうせ誰かに声をかけなければならないのだ。それなら、女の子の方が良いに決まっている。
 
「なぁ、お嬢さ――ん」
 
 語り掛けたその瞬間。
 
「えっ? え゛ええぇぇぇぇえぇえぇえええええええ!!!!!!」
 
 木漏れ日を引き裂くような悲鳴が、森の入り口に響いた。
 この身体になって初めて聞く大きな音に、思わず両耳をターバンの如く頭に巻き付け、縮こまってしまう。
 前言撤回だ。この感度の良すぎるモコモコは不便な事この上ない。
 アンバランスな頭部を丸々覆う、長い耳の内側が、カラシでも塗られたみたいに熱くなっていた。
 よく考えずとも、ほわほわとしたウサギに近いヘンテコ生物が突然目の前で喋り出したらそりゃぁ驚くなんてこと、簡単に予測出来たはずなのに。未体験の空間という事象はここまで人を麻痺させる物か。
 
「よしっ」
 
 俺が耳を戻すため、首を振るのと同時。
 近くで靴音が一つ、大きく跳ねた。
 巨大な影が、身体を包む。
 腰を落とした少女の顔が急速に近づいて、ふわりと鼻を掠めるハチミツの様な香りに、俺は呆然と固まっていた。
 
 ―――空色の、瞳をしていた。
 
 絹で織られた様な細い指先が、柔らかな体を掴み上げる。
 しゃがみ込んだ時にむちっと膨れ上がる、スパッツに包まれた健康的な太腿が、眩しい。
 汗を浮き上がらせる腹と、そう太さの変わらない平坦な胸をすり抜けて、背中まで伸びた桃色の髪が風でたなびくのを瞳の中に捕らえた。
 電飾を巻いた向日葵みたいな、明るすぎる少女であった。
 
「本当に、喋ってる……超☆柔らかい……!かわいい、かわいい可愛いカワイイっ!」
 

 驚いた表情で、俺の腹をブニブニと揉む少女の青い目が輝いている。
 わかる。自分でもその感触の気持ちよさは理解できている。
 しかし、見ず知らずの他人から地肌を触られるというのは、流石に気恥ずかしい。
 そもそも裸一貫にネクタイ一本という今の俺のコーディネート自体がかなり羞恥的なのだが……ま、いいか。気に入られてるみたいだし。
 
「あ、ありがとうな、お嬢さん。悪いけど手を――」
「でも声がイメージと違いますね」
「失礼だな君は」
 
 愛らしい見た目に、やや低目のボイスという組み合わせ。個人的にはチャームポイントとして捕らえていた部分を、突然言葉の槍で貫かれた気分だ。
 少なくとも初対面の人間に……いや、今の俺はウサギのぬいぐるみだったか。にしたって、幾ら畜生相手でも矜持(きょうじ)というものがあると俺は考える。
 アサガオだって褒めた方が綺麗に咲くのと同じで、ぬいぐるみにだって優しい言葉をかけた方が可愛くなるに違いないのだ。
 そんな思考を浮かべている間に、彼女は俺の事を完全にオモチャだと認識したらしい。
 今度はその両手で体を抱きしめ、揺らし、ふさふさと俺の頭を撫で始めた。
 
「よーちよーち、良い子良い子~ばぶばぶ」
 
 ――ああ、ナメられているな。これは。
 
「お嬢ちゃん。悪いが俺は君の素敵なオママゴトに付き合ってあげる程暇じゃないんだ。それに、俺は君より年上だ」
「つまり、わたしが赤ちゃんという事ですか……!?」

 ――どうしてそうなる!!
 
「うぐぐ……そうなると、目上の人ですから呼び捨ては良く無いですよね……。えっと、うさぎ……ウサ……」
 
 そうだ。しっかり考えてくれたまえ。
 使いやすい敬称が有るならこれからも流用できるかもしれないし――
 
「『デブうさぎさん』で!」

 屈託のない笑顔だ。

「……ええと、それは、“fat”と“rabbit”で韻を踏むとかいう高度なギャグかい?」
「いえ、普通にデブのうさぎだからです」
「ただの暴言じゃないか!!」
 
 何だったんだあの無駄な思考時間は!? 
 確かに『デブ猫』みたいな、そういった可愛げは有るのかもしれないが、言われる側は結構なダメージだぞ、これは。
 TVに映ったりする太った猫が大体ふてくされた顔をしているのは、きっとこのせいだ。俺はまた一つ真理に辿り着いてしまった。
 
「じゃぁ……『ピザうさぎさん』で」
「何ちょっと“譲歩しました”みたいになってるんだ。他人の身体的特徴を悪く言うのは6000年も前からご法度だぞ」

 そう言いつつ、俺は彼女の平坦な胸部に視線を移す。
 添わせた水滴が自由落下しそうな垂直さに空虚なモノを感じて、俺は思わず真顔になってしまった。

「……『ブタうさぎさん』に変更しました」
 
 なっ、自分の気にしてる所突かれるのは嫌だろう?
 っと……まあ良い。ココは用件だけ告げて、さっさとこの先の村に居る目的の子の所まで連れて行って頂こう。
 ターゲットさえ発見できれば、こんな、話をしているだけでこちらの大脳新皮質をシャベルカーの如く削りとる娘はポイだ。
 
「俺の呼び方はともかく、実は人を探していてな。この先の村に『ミルフィ=アントルメ』って女の子が居ると思うんだけど、何か知らないか? キミと同じくらいの年だと思うんだが」
「ミルフィ……ですか」

 ふむふむ、と首を振って澄ました表情を浮かべる少女は、こうして見ると、やはり愛嬌のある顔をしている。
 モデルというよりアイドルに近いというか、若干の田舎臭さを含んでいる感じが、逆に親近感を覚えるタイプだ。
 中身はどうあれ、その可愛らしさだけは認めてやる必要があるな、と俺は目を細め、喉を鳴らした。
 
 大きく頷いた少女の、薄い桜色をした唇が、不意ににこりと持ち上がる。
 何か引っかかる物を思い出したらしい彼女に、俺が期待の目を向けると、返ってきたのは明後日の方を向いた回答であった。
 
「ねぇ、ピザうさぎさん。ちょっと……走りませんか?」
「は?」
 
 有無を言わさず、抱きしめられた。
 顔は正面、モコモコとした背中には彼女の布越しの胸が当たる形で。
 不思議とそういう気分にならないのは、やはり彼女がまだ未熟な高校生くらいだからか、はたまた貧乳だからか。
 
 きつめに身体を締め付ける、少しだけ鍛えられた両腕が、俺から逃げるという選択肢を奪っていた。
 そのまま彼女は大きく足を踏みしめると、村まで続く石造りの通りへ向けて、力強く駆け出した。
 
 太くまとまった長い耳が、風を切る少女の背中に尾を伸ばす。
 俺の元居た世界での女の子と比べて、彼女の足はかなり速い方だった。
 きっと何かスポーツ……若しくはスクールでの訓練を受けていたのだろう。5キロ近い俺を抱えてなお軸がブレない体幹の強さが、彼女の才能の豊かさを感じさせた。
 
「やるじゃないか、キミ」
 
 こういう時は素直になるのが吉だ。
 これっきりの付き合いとはいえ、褒める事の出来るタイミングで女の子を褒められないようじゃ、女児に人気のマスコットにはなれない。
 その証拠に、俺の言葉を聞いた彼女の顔は、さもご機嫌といった風に笑顔を蓄え、心なしか抱きしめる腕の力も強くなったように感じた。
 なんとも、わかりやすい娘である。
 
「ふふん。驚くのはこれからですよ!」
 
 石で造られた粗末な道路を抜けると、木々の間から道が開けて、目的の村――≪ピュロ村≫の風景が広がっていた。
 
「――で、このサビれた村のどこに驚く要素があるんだ? お嬢さん」
 
 どう見ても、ただの農村だ。
 確かに、村の中心と思しき場所にはぽつんと教会が立っていて、その周りに連なるように幾つかの商店が立ち並んでいる。
 しかし、それ以外は殆どボロっちい――とは言っても、建築にマナを用いている為それなりに丈夫な民家と、畑と田んぼ。昼夜問わず鳴いているのであろう蛙やらの声がうるさくて仕方ない。
 シティ生まれシティ育ちの俺に言わせれば、『住んでみたいと口では言うけれど、絶対に住みたくはない村』の雰囲気であった。
 
 怪訝そうにする俺を「まぁまぁ」とニヤケ顔でなだめて、ランニングを続ける少女。
 教会を目指すその方角から、バケットを抱える一人の妙齢の女性がこちらへ歩いてくる。第一村人発見、というやつだ。
 
「こんにちは!」
「あぁミルフィちゃん。いつもご苦労様ね」
 
 すれ違いざま、疲れなど一切感じさせない明るい声をかける少女に、励まされた様な顔をした女性が、バケットの中のパンを差し出す。
 彼女はそれをお辞儀一つで受け取り、さも美味そうにほうばってみせる。美しいご近所付き合い、村社会の温かみというヤツであろうか。
 ――ん?
 
 いや、待て。
 
 そんな事。
 
 ちらり、と上方を見上げる。
 
 うまうまと頬を膨らませる、間抜けヅラが目に入る。
 
 落ち着け。その可能性、考えなかった訳ではないだろうフジミヤ・ヒサト。
 
 自分のどこかで目を背けていたのではないのかフジミヤ・ヒサト。
 
 村の総人口がおおよそ150人で、出稼ぎもしてない16歳の少女が大体何人居るなんて、一瞬も計算しなかったとは言わせないぞ俺!!
 
 冷たい汗が、固まった頬の辺りを滑り落ちる。
 
 ごくり、と、わざとらしく生唾を飲み込み、目を凝らしながら再び見上げると。
 
 ソコには、目じりと口元をいっぱいに引き上げ、顔全体で俺を嘲笑(あざわら)う少女――いや、ミルフィの姿があった。
 
「うぷぷ~! 驚いちゃいましたぁ?」
 
 ムカつく。
 このあどけない少女の、どこに、これほどまで憎らしい表情を作る才能が有るのかと、俺の元研究者の血を騒がせる程に腹立たしい煽り顔が、近づいてくる。
 こうなると、俺は『はい、驚きました』と言うワケにはいかない。なんせ、ちゃんとその可能性は予見していたのだから。そうだ。俺はこの女狐の言いなりになる理由などない。正しい事を言うんだから。
 決して悔しいわけではない!!!!
  
「ははは……いや、運命というモノを呪いたくなっただけさ」
「ふんっ。素直じゃないうさぎさんですね」
 
 知ったような口を利くなメスガキ!!!
 
 「ま、いいです」と、勝ち誇った微笑みを見せ、正面に向き直ったミルフィは、俺の歯ぎしりを鼻歌で掻き消し、村の通りを抜けていく。
 商店が並ぶ道まで来ると、挨拶一つでおじいちゃまおばあちゃま方が色んな物を恵んでくれて、あっという間に俺の頭の上は彼女への貢物でいっぱいになってしまった。
 ――看板娘というヤツなのだろう。
 ここ、ガレットピアでは、15、6歳にもなると、田舎から抜け出して大きな町で商売をやったり、国家資格を取得して冒険者になるのが一般的である。
 きっと、このジジババ達も皆、自分の息子や娘が村を出てしまって、その面影を彼女に投影しているのだ。
 ――俺はこんな風に、歳をとれるのかな。なんて、一瞬感慨にふけってしまった。そんな時。
 
「ふひまひふぁよ、うふぁひふぁん」(着きましたよ、うさぎさん)
 
 胡麻色をしたまんじゅうを咥えるミルフィの足が止まった。教会を抜けて少し行った、中央通りの端である。
 短い首を捻じり見上げると、このさびれた村にはあまり似付かない、レンガ造りの二階建てがぽんと建っていた。
 『レストラン・モットー』と書かれた看板は、相当年季が入っているのか、今にも崩れ落ちそうであったが、小窓から覗く内装はなかなかこじゃれている。
 
「キミの家か?」
「はい……まぁ、そんな所です」
 
 少し含みのある言い方をするなと思いつつ、彼女に続いてドアをくぐる。
 ワインレッドを基調とした店内に、5卓のテーブルと、3席のカウンター。その全てに人は座っておらず、店の端に設置された鍵盤も閉じられたままである。
 ――準備中だから当たり前なのだが。
 少し窮屈なフロアを抜けて、厨房の先の階段を上り、木製の廊下をどたどたと駆け抜けたその一番奥。
 唯一名札の無いドアを彼女は慣れた手付きで引いて、中に入るとすぐ、鍵をかけた。
 
 ――驚くほどに、簡素な内装であった。
 
「えへへ。ココがわたしの“今の”お部屋です」
「ああ、そうか」
 
 と、俺は当たり障りの無い返事をするしか無かった。
 なにせ、目に付くものといえばシングルベッドが一つと、服やらをしまう棚。それから、何冊かの本が積まれた机が一脚と、大きめのリュックが一つ。
 
 それだけ。
 
 とても、年ごろの少女の部屋とは思えない造りに、彼女が店前でどもった理由を察してしまう。
 
「あっ! 良いんですよ。そんな気使わなくて。ゆっくり、くつろいで下さい。……なんて、わたしの家じゃないですけど」
 
 腕からぴょいんと抜け出した俺に向かって、笑顔で両手を振るミルフィの、瞳の奥に寂しさを見る。
 
「それじゃ、お言葉に甘えて」
 
 そう言いつつ、ごろごろと床を転がってみせた。
 使い込まれていない木の感触が、ひんやりして気持ち良い。
 俺のプリティな仕草に和んだのか、少しだけ彼女の顔から緊張の色が抜ける。
 今なら、話せるか。と思った矢先、彼女の口が先に開いた。
 
「《星懸かりの証》……ですか?」
 
 俺の動きが、止まった。
 
「……話が早いな」
「色んな人に、言い寄られましたから」
「だろうな」
 
 《星懸かりの証》というのは、言ってしまえば“突然変異”の一種だ。
 元の世界でいう所のアルビノだとか、オッドアイみたいなのと同じで、ガレットピアではごくごく稀に、身体の一部に女性の乳房の形をした紋章を持つ者が生まれる。
 ――『乳房』というのは、俺が勝手にそう言ってるのではなく、実際どの文献でもそういう記述になっているのだから、仕方がない。
 伝承では、その証を持つ者は『大いなる力』を秘めているだとか、災厄の前触れだとか伝えられ、良くも悪くも人知を超えたナニカ、として認識されている。
 これにより、《星懸かりの証》を発症した者はたいてい、神聖シュマーレン帝国の大聖堂に聖職者として就職し、大神官のお膝元で余生を終えると言われているが――実際、何をさせられているかは一般人の知る所ではない。
 
 彼女はその、証を持つ者の一人なのだ。
 
「うさぎさんも、わたしを連れ出しに来た、どこかの回し者なんですか?」
 
 窓際で、ティーカップに紅茶を注ぐミルフィの背中が、震えている。
 
「教会? 魔族? それとも……ジリールの奴隷売りさん?」
「まさか。キミは俺が、そんなおっかない連中の手先だと思ってるのかい?」
「じゃ……どこから」
 
 床の上に置かれたカップを倒し、中身を一口すすった。
 ――シブい。全然美味しくない。が、ここで苦い顔をするのは格好悪い気がして、俺は精一杯のニヤケ顔を作って、言い放つ。
 
「見りゃわかるだろう?おとぎの国さ」
「……」
 
 反応は、無し。
 どうやら盛大に、スベってしまったみたいだ。
 と思ったら、ミルフィは少し考えた後、急に小さく吹き出して、慌てる俺を持ち上げた。
 一人と一匹。向かい合わせるように仰向けで寝転がった彼女は、気持ちよさそうに俺の腹を弄り、笑っている。
 
「何がおかしい?」
「うさぎさんの……顔がおかしいです」
「やはり失礼だな君は」
「でも、悪い人には見えません」
「だろうな。なんせ、人じゃないんだから」
 
 ――そういう意味じゃありません。と俺を諭し、立ち上がったミルフィの足取りは、平時の余裕を取り戻したみたいだった。
 ぼすん。とベッドの上に腰を下ろす。
 そのまま膝の上に俺を乗せ、少しためらった様子の後、彼女は天井に話しかけるように口を開いた。
 
「わたし、旅に出たいんです」
 
 ――今までの会話の中で、一番はっきりした言葉だった。
 
「旅に出て、悪い魔族を倒したり国を救ったりして、色んな人に感謝されて――」
 
 彼女の語気が、徐々に強くなる。
 
「みんなが笑顔で暮らせて、争いは無くならないかもしれないけど、それなりに平和な世界になって」
 
 ぎゅう、と、抱きしめられた腹が、締め付けられて少し痛い。
 
「平和の象徴として私の巨大な銅像が、あちこちに建造されて、メディアへの出演も増えて」
 
 ――ん?
 
「自叙伝で一発当てた後は愛する旦那と世界全土を回るクルージングを慣行、優雅なマダム生活ののち、再び観衆の前に颯爽と姿を現し」
 
 はぁ……。
 
「そして政界にエントリー! あらゆる業種を牛耳りつつ、裏では法でさばけぬ悪を排除する成敗人として大活躍!」
 
 がたり、と跳ねる様に立ち上がった。
 
「そうしてわたしは念願の――『超勇者』になるんです!」
「あぁ……そう……。良いんじゃ、ないの?」
 
 凄く真剣ゆえ、ツッコみもできない。
 俺がお前の親父だったら張り倒してるが、所詮は他人である。
 それに、こういうのを無理に否定する事がどれ程迷惑かは、自分の経験上よーくわかっているつもりだ。
 何より、“彼女を冒険者にする”という俺の第一目標から考えれば、まさに願ったり叶ったりの心意気ではないか。
 
「むぅ。あまり反応が良くありませんね……。まさかアルディーノヴァを知らないなんて事は無いでしょうし……?」
「何だ、それ」
「ご存じない!!!!」
 
 うるさい。
 タダでさえ大きな目を更に見開いて、オーバーに驚く顔までうるさい。
 
「あの、30年に渡ってお茶の間の子共達を魅了して来た超☆国民的特撮番組『超勇者シリーズ』を! ご存じない!! 第21代目にして最高傑作と名高いアルディーノヴァを!? はぁ゛~呆れた。人生の99%損してますよ。それ」

 キミの99%がその番組なら、俺は知らなくて心底正解だったと思う。と、言い返そうとする間に、彼女はごそごそと大きなバッグを漁りだす。
 ――そこまで時間をおいて、頭の端にひっかかってた記憶がようやく戻ってきた。
 『超勇者シリーズ』……《ガレットピア》全土の人間に向けて放送されている、勧善懲悪プロパガンダ番組。みたいな記述が資料の文化の項目に、確かにあった。実物を見たことは無いが、かなり子供向けの内容って事で間違いない筈だ。
 とはいえ、俺が調べた事あるのはせいぜいタイトルまで。
 実際の所、俺の研究はこの世界で生き抜く事に特化するあまり、細かな娯楽関連までは手が回っていないのだ。
 各村ごとに置かれているマナポートを通じて、大国から一方向的な放送が行われている事は知っているが、その内容についてまではおぼろげにしか理解していない。
 
「あったあった……。一度しかやりませんからね。よーく見てて下さいよ……」

 そう言って、中から取り出した真っ赤なブレスレットを、左腕に巻き付けるミルフィ。
 ちらりと見えたバッグの中は、カラフルな人形やらで埋まっており、俺に突発的な眩暈を起こさせた。
 ――まさか、中身、全部アルディーノヴァのグッズなのか……?
 
「いきます……」
 
 哀れなウサギのささやかな嘆きには耳も貸さず、部屋の中央に仁王立ち。
 わざとらしく息を吸い、メカニカルな装飾の付いたブレスレットの、風車の部分に手をかける。
 ――あれが回って、周りが光るんだな。と一瞬でわからせる造りのそれを、彼女は恥ずかしげも無く右手でスラッシュし、叫んだ。
 
「豪……着‼」
 
 そのまま上下に伸ばした両手を、回し受けの様に一周させ、天に向かって右手を突き出す。
 
「アルディィィイイイイイイイイイ!!!! ノ゛ヴァ!!!」
 
 全力全開のシャウト。「ノ」の部分に「゛」が付いている所に、こだわりを感じた。
 
 やり切った表情のミルフィが、額の汗を拭い、呆然としたままの俺にドヤ顔を向けて感想を迫る。
 確かに、玩具のデキの良さや彼女の熱意は感じた。
 だが、これは正直……
 
「ダサい」
「なんですとー!!」
 
 ぷんすか、と頭から蒸気を上げ、ふてくされる彼女は、あろうことか性懲りも無く俺にアルディーノヴァのPRを続けてきた。
 
「良いですか! アルディーノヴァの変身は子供の心をガッチリ掴むキャッチーさと、玩具の良さを両方惹き立てる画期的な動きなんです。これは演出家のオグレリア氏が撮影中に偶然思いついた動きでですね……――何と言っても、主役のヴォルティのカッコよさ! 風来坊という設定ながら熱い心の持ち主で、時には敵のモンスターを助ける優しい一面を孕んだ……――伝説の23話、『炎の中の決闘』で、悪魔帝グライゼルと互いに人間の姿で感情をぶつけ合う殴り合いのシーンが……――スーツアクターのメッジーモさんの腹筋はもうめちゃめちゃ凄くて、マナを使わずベンチプレス150kgを――」

 ――気持ち悪ッ!? 何だコイツ!!
 よくもまぁ、ロクに知らない相手にここまでベラベラと語れるもんだよ!!
 …と、一瞬考えたが、自分にも思い当たるフシを幾つも思い出し、押し黙る。
 せめてもの救いは、顔をテカテカさせながら、さも楽しそうに身振り手振り付けて喋る相手が、可愛らしい少女である事のみであった。
 
「聞いてます!?」
「あ、ああ。続けてくれ……」
 
 興味の無い科目の授業よりかは幾分マシな時間を過ごすと、いつの間にか日は頭の上を通り過ぎ、静けさの残る昼下がりを迎えていた。
 
         ◆
 
「ふい~」
「満足したか?」
「ご清聴ありがとうございました……」
 
 満足げな表情でベッドに倒れ込むミルフィの隣にちょこんと座り、アクションの説明は結構面白かったな、と感想を告げる。
 子供がパン生地をこねる様に、もにゅもにゅと俺の耳を弄る手付きが、くすぐったい。
 
「なぁ、ミルフィ……ちゃん」
 
 暖かな西日を頬で受け止め、俺はバツが悪そうに口を開いた。
 
「呼び捨てで良いですよ」
「……じゃあ、ミルフィ。君はそんな風に思ってて、どうして村から出ようとしないんだ?年齢的にはもう、十分だと思うんだが」
 
 顔色を伺いながら、途切れ途切れの言葉を繋ぐ。
 歪んでいるとはいえ、これ程の熱意を持っている少女が、未だこの小さな村でこぢんまりとした生活を送っている事が、俺にはどうしても納得できなかった。
 何か、大きな理由があって言いづらいのかと思い、聞くのをためらっていたものの、やはり心のさもしい部分が疼いてしまう。
 それに、俺が元の身体を取り戻す為に彼女の協力は不可欠であり、その為にもミルフィには旅に出て貰わねばならないのだ。
 ここは聞いておく必要がある。
 
 少しの間をおいて、唇をもじもじとさせたミルフィが、呟くように語り出した。
 
「――わたし、お父さんが冒険者なんです。だから、わたしがこの村に残ってないと、お父さん…帰って来る場所、無くなっちゃいますし」
 
 それだけか、と言いかけて、それだけじゃないからこんなにも歯切れが悪いのだと、俺は彼女の態度から悟った。
 村から出ない言い訳として父を使ってしまう事に、罪悪感を覚えているような、悲しげな表情をしている。
 真っ白なシーツの上で、小さな胸がちくちくと動悸していた。
 
「村の人の事も、あるしな」
 
 俺はそう言って、彼女の逃げ先を増やす。
 心の中では既に、『どうやって本心を聞き出さずに彼女を連れ出すか』を、考え始めていた。
 その時だった。
 
 窓の外で突然、“ゴウッ!!”と唸る暴風が吹き抜けた。
 煉瓦造りの一室が、軋んで靡く。
 
「何だ!?」
 
 驚いて立ち上がった瞬間、床を跳ね上げるような地響きが走り、俺は坂の上のチーズの如くベッドの上を転がり落ちた。
 邪魔な前耳を後ろに投げて、バランスを取りつつ前へと進む。
 窓を見つめるミルフィの、小さな悲鳴が聞こえた。
 慌てて、耳をプロペラの様に回し、空を飛ぶ。
 半分だけ光の差す小窓をのぞき込み、絶句した。
 
 ――森が、抉られている。
 丁度、俺とミルフィが出会った辺りの木々が、根こそぎ吹き倒れて、丸い舞台の様な空間を作り上げていた。
 そして、その中央に居る生き物。ここから見ても明らかに巨大である事が解る、大岩の如きバケモノを、俺は知っていた。
 
「≪ドウマル≫だ……」
 
 ≪ドウマル≫とは、魔族の9分類のうち、竜王目――現世で言う所の“ドラゴン”に近いグループに属する、生物の種名である。
 全長15mにもなる巨体に、二本の前腕と四本の脚を持つ肉食動物で、言語を操る高い知能を持つ。
 何より特徴的なのが――
 
「……行かなきゃ」
 
 どん、と床を踏みぬく音が、俺の思考を一度断ち切った。
 振り返ると、鬼気迫る顔のミルフィが、震える身体を滾らせドアの方へと向かっている。
 
「何するつもりだ!!」
 
 窓枠を蹴って跳ね、背中からミルフィの首に耳を巻き付ける…が、そもそも俺と彼女ではサイズが違う為、制止力にはならない。
 鉄砲玉の如く廊下に飛び出しつんのめった背中に、精一杯の肉球でしがみつくと、少し硬めの生地で織られたオレンジ色のジャケットが、風を薙ぐ様にはためいていた。
 
「村の人達が安全に避難できるまで、何とかします!!」
「何とかって!?」
「ちょっと囮になるだけです! アイツの狙いは、多分わたしですから」
「ヤツの走行速度は時速70キロだ。どんなに必死こいて逃げても10秒も経たずに丸焦げのバーベキューだぞ!」
「御託は終わってから聞きます!!」
 
 階段を転げ落ちそうな速度で駆け降りる、脚が止まらない。
 勢いをそのままに、椅子や机を飛び越え、一気にフロアを抜ける。
 乱暴な走りだ。
 顔を見なくとも、彼女がヤケになっている事がハッキリと分かった。
 
「落ち着けミルフィ」
 
 俺は彼女を一旦止めようと、肩に登って身体を正面に回した。
 
「キミが行って、何が出来るって言うんだ」

 ――軽く、諭すだけのつもりだった。
 赤紫のドアの前で、ミルフィの身体がぴたりと静止する。
 爪を食い込ませ、綿が飛び出そうな程強く俺を握る両手が、わなわなと震えている。
 俺は彼女を批難の目線で覗き込もうと、影の差す方を見上げて。
 
 そこで、息苦しくなった。
 
 唇を噛み締める彼女の、ぎらぎらと眩く瞳の中に、鬱屈とした喜びが蠢いていた。
 
「出来なくても、やらなきゃいけない事があるんです」
 
 彼女は呻いた。
 喉から絞り出したような、必死さにも似た呟きであった。
 あまりにも幼稚な言い分が、俺の中に小さな怒りを沸き上がらせる。
 が、そんな独(ひと)り善(よ)がり――勇気と無謀は云々みたいな古臭い論など、彼女の前では意味をなさない事に気付いて、俺は圧し潰されそうなプレッシャーから、ゆっくりと目を逸らした。
 
「ありがとう……ございます」

 彼女は優しそうに呟いて、扉を開く。
 途端、高低入り混じった悲鳴が、四方八方から襲いかかって来た。
 
         ◆
 
「地獄絵図だな、こりゃ」
 
 まるで他人事の様にぼやく俺を抱えて、ミルフィは人の波と反対方向に走り出す。
 すれ違う老若男女はみな逃げる事に必死な様子で、彼女の姿を横目で見るだけで声すらかけやしない。
 なんとも薄情な奴らだ、とはならなかった。自分の身が危ういとなれば、至極当たり前の反応である。むしろミルフィを捕えて生贄として差し出したりしないだけ、人格者の集まりの様にも思えた。
 ――俺が、今の立場でなければ確実にそうしている。
 
「マナポートはどうなってるんだ!!」
「それが……誰かに壊されてたんだよ、畜生が!!」
 
 正面から逃げて来る、壮年の二人組の会話が聞こえた。
 ≪マナポート≫……各村に置かれた魔力供給装置から発せられる障壁によって、村は魔族の侵入から守られている筈であるが、どうやらそのマナポートが何者かによって破壊されていたらしい。
 陰謀めいたものを感じて、抑えられなくなる好奇心は――悪い癖だな。と、自分を戒めている所に、どすんと何かが衝突した。
 
「ご隠居さま!!」
「おお、ミルフィ君か……。早く逃げなさい」
 
 倒れかかった老紳士――ご隠居と呼ばれた白髪の翁(おきな)を、ミルフィが肩で支えている。
 古い紙束の香りが服に染み付いているのと、相当年配であるにも関わらずハキハキとした声色が、濃い知性を感じさせる老人である。
 
「いえ……あの――」
 
 うろたえながら周囲を見渡し、彼を預けられる人を探すミルフィ。
 その邪魔にならぬよう、ぴょこんと飛びのいた俺の毛が、着地と同時に逆立った。
 
 ――“暑”い。
 
 周囲の気温が突然吹き上がり、肌から水が抜けていくのを感じる。
 
『オ゛ォォォ……』
 
 地面を揺らす、ドウマルの唸り声。
 強大なマナの滾りを知覚し、叫ぶ。
 
「かがめ!! ミルフィ!!!」
 
 咄嗟に、ジャケットのフードを引き下ろした。
 ぶわぁっと吹き抜ける怒涛の熱風が、桃色の髪を痛めつける。
 周囲の建物の表面が削れ、吹き飛ばされた壁や、熱で溶けかけたガラスが、俺の隣を転がっていた。
 ――ドラゴンだから火を吐くなんて芸の無い攻撃だ。などと、笑っていられる状況ではなかった。
 
「あ……ああっ……!! はたけが、みんなの、家が……」
 
 奥歯を鳴らす、ミルフィの顔が青ざめている。
 ――村の半分、これから収穫期を迎える筈だった田畑が、まるまる消し炭と化していた。
 空色の瞳に滲む、熱い涙。
 強張る舌の隙間からは、堪えきれない悲憤の息遣いが漏れ出している。
 
「く、ぅぅう゛う゛う゛うう!!!!!!」
 
 拳を握り、ご隠居の制止を振り切って、彼女は乱暴に走り出した。それに半歩遅れて、俺が後ろから陽炎を纏った背を追う。
 くそっ、脚が短い。
 余りにも緊張感の無い絵面だが、俺は彼女に追いつく事を優先し、耳を振り回して飛んだ。
 
 来た通り――今は焦げた獣道と化してしまったソコを抜け、村の入り口。
 俺と彼女が出会ったあの木の焼け跡に、やっとの思いで辿り着く。
 肩で息をする俺の前に、ミルフィの背中が見える。そして彼女が歯を食いしばって見上げる先には。
 
(はは、ヤベぇな…こいつは)
 
 ――予想通り、“白い壁”が蠢いていた。
 
 俺の全長よりはるかに大きな四本の爪を持つ、異常に発達した前脚。
 
 地面から3mほどの位置を起点として、直立するように胴が伸び、その中腹には二本の禍々しい前腕が生えている。
 そして、俺の目をくらませるのが、≪ドウマル≫最大の特徴である、全身を覆い輝く白の外骨格。
 皮骨が変化し鎧の如く硬質化したそこから覗く、灰がかった緑の体皮がうねり。油のような濃い体液が、凹凸の深い表面を濡らしていた。
 
(こういった恐怖には、慣れてるつもりだったんだが……)
 
 心臓が、ねじ切れそうだ。
 アラスカでグリズリーと対峙した時の比ではない。
 人生で味わった事の無い強大なプレッシャーを浴び、綿が抜かれてしまったみたいに体が動かなくなる。
 地面に、へたり込んだ。
 対象が大きすぎて顔が見えないゆえに、何とか正気を保っていられるが、いつ気絶してもおかしくない――それ程の重圧が俺の全身をキリキリと締め付けていた。
 
「証を持つ者か」
 
 野太く、地を抉るような声に、吹き飛ばされそうになる。
 
「我と共に来い。この意味が判らぬほど、愚かでは無いな」
 
 有無を言わさぬ脅迫だった。
 力の強い者が弱い者を蹂躙する、弱肉強食の世界で生きて来た者の、言葉。
 腹の底が冷え上がるような恐怖に、尾っぽの先から毛が縮む。
 幾多の困難を乗り越えて来たいい大人の俺ですら、これ程までにおそれを感じているのだ。齢16の少女には耐えがたいものだろうと、固まった首を軋ませるように捻り、斜め前の少女を見やった。
 
 ――彼女は、天を睨み付けていた。
 
「なんだ……喋れるんじゃないですか」
 
 ――両足を、大きく開き、腕を腰に当て。
 
「てっきり、言葉わかんないと思ってましたよ」
 
 ――威風堂々と、もの申す。
 
「だったら……謝って下さいよ!!あれ!!」
 
 ……バカか??
 彼女がビシィと指さす先は、当然村の焼け跡だ。
 だが、そんなことはどうでもいい。この、自分より数倍は大きな敵を前にして、なぜそう…無遠慮でいられるのか、俺には理解不能であった。
 
「この村は……野菜は、稲は、みんなが一生懸命汗水たらして作ったモノなんです。もうすぐ収穫祭だねって、昨日もご隠居が話してたんです!!」
 
 ミルフィの怒号は徐々に大きく響くようになり、感情が乗って来る。
 
「それを……何ですか! 一言いえば良かったじゃないですか!! 『星懸かりの証を持ってる人は居ますかー』って! 何の為にデカい口付けてるんですか飾りですかバカですか!!!!」
 
 幼稚園で友達を虐めてしまった子に、先生がするお説教みたいな事を言いだした。
 謎の勢いに気圧されたのか、ドウマルの喉仏が大きく上下し、あらぬ方を向いていた首がしっかりと下を向いてミルフィの姿を捉える。 
 こ……怖えぇぇ……。
 骨格で作られた鉄仮面の内側に、保護膜に包まれる大きな眼がぎょろりと覗いて、耳の辺りまで裂けた鰐(わに)に似る口からは、獲物を前にした肉食獣の如く大量の涎が溢れていた。

「貴様、自分の立場がわかっているのか」
「わかりませんよそんなの! でも……わたしは私の正しいと思う事をする……今の私のしている事は、間違ってなんかいない筈です!!」
「力の無い者が……」
 
 ゴウ、と翼が舞い、暴風が吹き荒れる。
 かまいたちが木々を薙ぎ、地を踏みしめるミルフィの頬に、一筋の斬り傷が生々しく刻まれた。
 それでも彼女は巨体を睨んだまま、目を離さない。
 
「力がない事は、抗っちゃいけない理由にはならない……」
 
 風が、治まった。
 ミルフィは右手の人差し指をカギの形にして、頬の血をビュッと払う。
 闘志を纏う背中が、頼もしい。
 
「では、どうするというのだ」
「それは……それは――」
 
  こすった指を、そのまま顎に持ってきて、首を捻る。
 まさか何も考えて無かったのではと、訝(いぶか)しんだ瞬間。ミルフィの表情が、お花畑のようにぱぁっと明るくなった。
 アホ毛が立ち上がり、二重丸を描く。
 
「うさぎさん! ジャンプです!!」
 
 振り向いたミルフィが、両手を広げて俺に合図を出した。
 よくわからないが乗るしかないと、その胸元へ飛び込んでみせる。
 ――何か、思いついたのか?
 
「ああ、違う違う……。こっちじゃなくて、逆向き……」
 
 体を回された。俺のプリティなお尻がミルフィの腹の辺りをふさふさと撫でる。
 
「な……何をするつもりだ? 悪いがソッチの開発はまだだぞ!!」
「痛かったら、ごめんなさい……ね!!」
「ひう゛ッ!!」
 
 ぐに、と尾骶(びてい)を思いきり掴まれた感覚が、俺の腹綿(ハラワタ)を突き抜けた。
 全身の体毛が光を放ち、うずもれたお腹の中で、魔力の爆発が無数に飛び散り――。
 
 ――驚き、見開かれた空色の瞳。その光を弾く瞳孔(どうこう)に、俺の姿が反射して映る。
 正確にはそれは、俺の元の姿を模した、パペットの像であった。
 もっと正式に言えば、ハンド・パペット。あの、口が真っ二つに裂けてて、親指とその他四本の指でパクパクさせる、アレだ。
 生地の質感をそのままに形を変えた俺の身体(からだ)が、すっぽりとミルフィの右手を覆って、彼女の意のままに動く形へと変形していた。 
 
「え゛ぇぇぇぇえええええええ!!!! 何だこれ!!」
 
 ……あ、喋れた。って、そんな事はどうでもいい。
 何だこの、腹の中に別の人間の手が蠢いている感覚は!! 
 
「うわっ! 本当に出来ました!!」
「『できましたぁ!』じゃない! 説明しろミルフィ……って、“お前”、それ……」
 
 喜び、跳ねたミルフィの中央で。『ぽよんっ』と、何かが揺れていた。
 いや、女の子の身体の真ん中で揺れるモノなんて一つしか無いのだが、彼女に限ってそれは、無かった筈の物であった。
 視線が、吸い寄せられる。
 違和感に気づいたのか、ミルフィの首が恐る恐る真下を覗く。
 ――足元は、見えない筈だ。
 
 スポブラに似た、薄手で黒い胸部の布地。伸縮性の高い服の内側がはち切れん程に伸びきって、繊維と繊維の隙間から、うら若き生肌が透けている。
 体を揺らす度、一つのまとまりとなって震える双丘は、確かに、ミルフィのなだらかな鎖骨から、同じ皮膚をつたって膨らんでいた。
 押し詰められた乳の中央部では、肉の渓谷がひしめき合い。まろやかな果実の頂点では、小生意気な突起がぷっくりと張り出して、そのいじらしさを主張している。
 とどのつまり、ミルフィちゃんは巨乳になっていたのだ。
 
 野暮な事を言うが、この現象は『こっち世界』では有り得ない事ではない。
 ガレットピアに存在する《マナ》――大雑把に言えば『魔術の材料』は、生命力の最も密集した部分、即ち人間であれば胸部に密集する性質がある。
 個々人で異なるマナの最大貯蔵量に近ければ近い程、その胸は大きく膨らみ、何らかの方法で消耗すれば、一時的に縮むという現象が起きるのである。
 つまり今回のケースは、俺の意識が介在された事によって一時的にミルフィの体内でマナの上限が解放され、貯蔵タンクである乳が膨らんだ…という事になる。
 などと、大真面目に考察してはみたものの、当の本人は。
 
「おっぱ…おぱぱ、おぱ、ぱいおっぱぱ…」
 
 ……余りの感激に、頭がショートしていた。
 声を上づらせ、半泣きになりながら、両手で自らの膨らみを揉みしだいている。
 そんなに嬉しかったか。嬉しいだろうなあ。男で言ったら突然身長が10センチ伸びたようなモンだもの。
 ――ちなみに、モミモミする片方の手は、パペットになった俺の口の部分だ。多くは語らないが……素晴らしい舌触りであった。
 
「って、感激している場合じゃないぞミルフィ」
「だって! おっぱいが…お゛ぉっぱいがあああ!!」
「少しは落ち着いて……――ッ来る!!」
 
 突然、空が暗くなる。
 見上げると同時、巨木の如きドウマルの前脚が、轟音を上げて迫った。
 脱力しきった身体に力を籠め、必死に後ろへ飛び去る――
 
「うわっ! あっ! とっ……!」
 
 思いもよらない風圧が、ミルフィの背を薙いだ。
 周囲の木々が一瞬にして前方へと流れ、直後、体勢を崩して宙返る。
 倒れないよう、両手を地面に着いた。
 四足の獣の如き体勢で、爪を立て土を掘り、やっとの思いで止まる。
 地を削る俺の口にもガリガリと小石がなだれ込んでいるのだが――まぁ、許そう。さっきのと相殺だ。
 向き直った時、ミルフィとドウマルとの距離は10mほどまで広がっていた。
 
「ど……どうなってるんです? これ!?」
「身体能力が格段に向上しているな。俺に何をした? ミルフィ」
「マジックアイテムの……起動の術式です」
「――なるほど理解した。偶然とはいえ天才的な発想だ。しょっぱな俺をアイテム扱いした事は非常に遺憾だがな」
 
 会話する俺達を、再び巨影が覆い隠す。
 今度は横っ飛び――行き過ぎた分、木に手をついて衝撃を抑える。
 
「えへへ、褒められちゃいましたぁ☆ ――で、何が『なるほど』なんですか!?」
「マナにおける形質操作の転移ってヤツだ。今は理解しなくていい」
「あぁ゛……一生理解しなくていいです……」
 
 明らかに嫌そうな顔をするミルフィに向け、間髪入れず、風の凶器が襲い掛かる。
 木の根が抜けるほどの防風に舞い上げられ、間合いが離された。
 効果的だが、単調な攻撃。
 ドウマル自体、人間のような矮小な生物と戦う為に進化した身体ではないゆえに、本人もやきもきしている様に見える。
 それに、ミルフィの方もコツを掴んだみたいで、既に着地までの動きはかなり安定していた。
 
(やはり、この娘のセンスはずば抜けている……が、動作は“まがい物”のそれだな。戦闘術の……真似事か)

「あの風、厄介ですね」
「ああ。体勢でどうにか出来る次元の風力じゃない」
「どうすれば良いんですか?」
「何とか力を左右に逃がすか、翼を戻す時の逆風を利用するしかないでしょ」
「……超☆了解です!」

 グォォォ……!!
 轟音を纏った羽ばたきが、空気の壁を作り出し、迫る。
 ミルフィはそれに正対し、半月立ち――少し足幅を狭めて腰を落とす。
 指先をぴんと伸ばし、上段に構えた。
 肺に空気を送り、唇を噛み締める。
 木々のざわめきが順に近づき、桃色の髪を撫でる寸前。
 マナを帯びた手刀が、短い呼吸と共に、振り下ろされた。
 
 ――風圧が、“斬”れていた。
 ミルフィの左右の土が、抉れる。
 気流の中央に、空気の道が吹き抜け、境界面が軋んで吠える。
 ――デタラメな対処法すぎて、俺は思わず笑ってしまった。

 靴で地面を押し潰し、踏み出す。
 距離を詰め、どてっぱらに蹴りを放つ算段であった。
 10m近い間合いが、一瞬にして切迫する。
 その瞬間。
 右方から、強い生肉の臭いが襲った。

「う゛ッ!!」
 
 ぐぢり。
 繊維を、押し潰す音。
 跳ね飛ばされた感覚。
 幾つもの木々が四肢に当たって、それでも勢いは収まらず、小さな体が地面の上をバウンドする。
 砂埃を伴い地に横たわり、そこでやっと理解が追い付いた。
 ドウマルは前脚を折り、サケを捕まえる熊の如く、前腕で俺達の身体を掬い飛ばしたのだ。
 
「痛い痛い痛いいだいいいいい!!! 骨っ……骨イったぁあああ!!」
 
 俺の身体に埋もれた右腕を押さえながら、フリーキックを貰うサッカー選手の如く地面をのたうち回るミルフィ。
 その瞳の端に、小さく涙が浮かぶ。
 一般人なら間違いなく肉塊になっている一撃を受け、彼女は『痛い』程度の感想で済んでいた。
 それに、少々反応がオーバーすぎるだけで、実際のところ彼女の骨はどこも折れてなどいない。
 何というか、恐ろしいフィジカルのポテンシャルであった。
 
「そんだけはしゃげるなら平気だな。立て」
「酷い! おに! デスうさぎ!!」

 ――ついに『さん』まで取れてしまったのか。

「……でも、もう喰らいません。やっと“眼”が慣れてきましたから」

 立ち上がりつつ真剣にのたまい。
 犬歯むき出しに笑顔を見せる。
 
「アツいのが胸にグっと来た……!!」
 
 バサッと上着を脱ぎ捨てる。
 直後。
 桃色の閃光が跳ねた。
 ドウマルの羽ばたきよりも速く腹部に潜り込み、蹴り上げる。
 あの、10トンを超える四肢が浮く。
 着地する頃には既に、ミルフィは次の攻撃の体制に移っている。
 ズドン。
 蹴り抜く。
 確かに衝撃は行っている筈だが、手応えが無い。

「硬い……!!」

 ドウマルの外骨格はハガネの剛強さと、ゴムのしなやかさを併せ持つ、天然の強化装甲である。
 人間程度の“軽い生き物”の打撃では、そうそう傷を付ける事は出来ない。
 むしろそれ程の物質を、攻撃をヒットさせるたび徐々に削っていく、ミルフィの方が異常であった。
 
「しゃらくさい!!」

 体表を蹴って、胴を登った。

「これでぇ!!」

 身体の捻りを最大限に使い、兜の如き頭部を蹴り飛ばす。
 荘重な巨体がぐわんと揺れ、一瞬、前腕の動きが、空気をもがくように変わった。
 ドウマルを、脳震盪に陥らせたのだ。
 地に降り立ったミルフィが追撃しようと、見上げた瞬間。
 動かない筈の前脚が、迫る。
 ミルフィの両腕が、条件反射で持ち上がる。

「受け止めるな! 地面がもたない!」
「――ッ!!」

 地を転がり、間一髪で回避に成功した。

「はぁ……はぁッ……。どうして、アレで動けるんですか……!」
「一部の竜王目には脳が2つ、ないしは3つあるんだ。上半身を動かす為の脳と、下半身を動かす為の脳が分離していて、片方が一時的に機能を停止してももう片方で思考が可能だ」
「どんだけスキ無いんですか!!」
「だからヤバい奴なんだって!!」

 暴れる両脚を躱しつつ喋る間にも、ドウマルは徐々に意識を取り戻し始めていた。
 振り下ろされる手足の精度が上がり、さばききれない爪を両腕で受けなければならなくなる。
 隙を見てこちらが攻め入ろうとすると、翼を羽ばたかせ、空へと逃げる。
 ミルフィの顔に、明確な焦りが浮かんだ。
 ヒット・アンド・アウェイの動きに攻め手を欠き、次第にこちらが防戦一方になりつつある。
 ――やはり、無理をして貰わなきゃいけないか。
 
「ビームとか撃てないんですかビーム!!!」

 やけくそにも近いミルフィの悲痛な叫びに、俺はしばし考えて答える。

「……撃てるぞ」
「……は?」

 ミルフィの声のトーンが、1オクターヴ下がった気がした。

「その為にこんな、おあつらえ向きな形になってるんだろう?」
「出来るなら……先に言って下さいよおおおお!!!!」

 右腕に嵌められた俺の頭を、左手で握り潰そうとするミルフィ。
 パペットと喧嘩というのは一見すると一人芝居の様な状態だが、コチラとしては爪が食い込んで真剣に痛いのでやめて頂きたい。

「いつつつ……先に言ったらキミは撃ちまくってマナを無駄に消費するだろう!! 自分の扱いきれない魔術を使う事の危険性を……」
「わーかーってますぅ!! ……まったく、ガミガミうさぎさんなんだから」

 子供の様に拗ねるミルフィに、親の気持ちで念を押す。

「いいか、それでも効果があるのは、恐らく体内に直接ぶちこんだ時くらいだ。それ以外はあの鎧に阻まれてロクなダメージにはならない。くれぐれも無駄打ちしたり、力を籠めすぎないように」 
「はいはい」

 ズドゥゥゥゥン!!!
 いきなり、俺の口から桃色の光が放たれ、ドウマルの外殻を焼く。
 
「うおおおお!! かっこいいいいい!!!!」 
「話聞く気無いなぁ!?」

 途端、膜の中の黒目が、ぎょろり、とこちらを向いた。
 明らかに、怒っている。
 両腕を握りしめる、予備動作。
 ――火球が来る前触れであった。
 
「跳ぶぞ、ミルフィ」
「はいっ!」

 膝を曲げた太腿の筋肉に、血液が集中する。
 捻りを加えつつ身を跳ね上げ、宙を舞った。
 つられて、ドウマルの鎌首も、持ち上がる。
 その巨体が、視界に全て収まる程の中空で、ミルフィは銃口――俺の顔面を、その頭部に向けて構えた。
 
 ――右腕に左手を添える。
 咆哮を上げる剣山の如き口内に、チラチラと火花が覗く。
 すぅ。
 ミルフィが息を呑込むのと、俺の頬を冷や汗が伝うのが同時であった。
 
 体“内”が、煌く銀に包まれる。
 ミルフィの小さな身体の中に溜まっていた、とてつもない量のマナの本流が、繊維の一本一本に、血液の如く流れ出した。
 全身を脈動させる興奮のジェットポンプが、何秒にも渡ってその勢いを増す。
 快楽に、えづく。
 この世界に降り立って――いや、この世界に取り憑かれて以後何年もの間忘れていた、あらゆる緊張と感動が、まとめて脳を壊しにかかっているみたいだ。
 自然に、口が開いた。
 黒目の先に、ドウマルの全長を遥かに超えるサイズの球体が浮かぶ。
 桃色の暖かな光が、恒星の如く輝いて。
 
「――撃ちまぁあああああああああああす!!!!」
 
 ――――何も、見えなくなった。
 
         ◆
 
 大気が、澄んでいる。
 必死に閉じていた瞳を開くと、ちりぢりと雲が浮かんだ空の一点に、らせん状の穴があいていた。
 何が起きたのか理解できず、両眼をしきりにまばたきさせて、下を見る。
 呆然と立ち尽くすドウマルの隣。広大な森の数分の一を、高熱を帯びたクレーターが抉って、もうもうと煙を上げていた。
 ―――非常識だ。
 俺は衝撃と共に、おそれを抱いた。
 彼女が放った光の効果範囲、直径100m余りに存在する、全ての有機物が消滅していた。
 
 脱力し、空中でとんぼ返りをうったミルフィは、三点で着地して、汗にまみれた髪をなびかせ正面を向く。
 薄い唇を固く結んだ、真剣な眼差しである。
 肺の中の空気を二回吐き出して、正面の龍に向かい、ゆっくりと右腕を構える。
 生身の心臓が、力強く拍動していた。
 
「貴方では“今の”わたしには勝てません」
 
 どろり。
 光線が掠った熱量で、片翼の外殻が溶け落ちた。
 
「退いて、下さい」
 
 芯の太い、明瞭な発音で、ドウマルを追い詰める。
 数秒の間。
 睨み合う視線の圧に、堂々とした巨体が半歩分、下がった。
 
「……人間の娘に、情けをかけられるとはな」
 
 地を震わせる声色の中に、ほんの少しだけ温かみを感じる。
 恐怖ではなく、自尊心を傷つけるに足る相手と認めるような、何かを堪能したかの如き落ち着いた喋りであった。
 
「『すまなかった』と、伝えておいてくれ」
 
 そう言い残し、ドウマルは大きな翼を広げ、羽ばたいた。
 砂埃が舞い、大きな瞳を焼く。
 それでも俺は、傷を庇う事無く雄々しく飛び立つ彼の背を、見つめ続ける。
 ――目をつぶってしまうのが、惜しかった。
 
 翼の形を保った影が、少しずつ小さな黒点へと変わり、遂に見えなくなった時。
 がくり、とミルフィの身体が崩れ落ちた。
 
「ぷはぁっ……。はぁッ、はぁぁ……あぁ……」
 
 冷たい地面に大の字になり、安堵と疲労の入り混じった深呼吸を、何度も繰り返す。
 張りつめていた汗が滲み出て、柔肌の至る所を濡らしている。
 小さく萎んでしまった胸を激しく上下させるミルフィの顔は、これ以上ない程満足げで、ほんの少しだけ、泣いている様にも見えた。
 
「凄いよ、お前は」

 俺も疲れているからだろうか。思った事を、そのまま口に出してしまった。
 目を細め、白い歯を見せ笑うミルフィの口元が、おぼろげに動く。

「へへっ。これで、すこしは、みんなの……役、に……」
 
 そのまま意識を失って、俺とミルフィの体が分離した。
 ぽてっ、と地に足を着け、目をつぶりながら、全身を震わせ泥を払う。
 腕も、足もちゃんと動く。疲労はあるが、大きな外傷は無い。俺の方は大丈夫だ。
 さて、問題はミルフィの方だが―――
 
「ぴぎぃぃいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!」
 
 ―――やはり、か。
 
「痛い痛い痛゛い゛ッ!ひぃっ!!あ゛ッ!待って、待って、しぬ……しにゅううう!!!!!!」
 
 すぐに気絶から覚醒し、煮立った油に放り込まれたタコの如く顔を真っ赤にして地面を跳ね、もんどりうつ桃髪。
 どの脚を地面につけば良いのか分からなくなっている様子から、全身肉離れになっている事が見て取れた。
 
「あ゛あ゛っ! たしゅけて……うひゃぎさん! 何かね、これ、ブチブチって!! ねぇ!!」
「身体に無理をさせ過ぎたんだよ。教会に行って、専用の治癒魔術をかけて貰うんだな」
「『貰うんだな~』って、こんな体でどうやって行けって言うんですか!!! うわ痛ったァ!!」
 
 息を荒くし、半泣きになりつつ乞うミルフィを見て、思わず頬がつり上がる。
 ――笑えることに、安堵していた。
 本来、マジックアイテムを用いて行う魔術は、自分のマナ許容量の限界を超えられないように出来ている。
 しかし例外的に、人知を超えた力を術者に与える道具はこの世界に幾つも存在し、また、それを使った者はたいてい何らかの『リスク』を負うハメになるというのが常識であった。
 ――ドーピング剤の副作用を、想像して頂けると分かりやすい。
 その内容は、『ニキビが増える』みたいに軽いものから、『命を失う』の様な取り返しのつかないモノまで多種多様で、効果が大きくなればその分、リスクも大きくなるというのが常である。
 ゆえに、俺は、自分を媒介にしたミルフィの戦闘力の異様な向上を危惧し、最悪スプラッターシーンまで想定していたのだが……
 杞憂に済んだみたいで、本当によかった。
  
「あっ、何ですかその顔!! あなた時々、人生の酸いも甘いも噛み分けたような顔してますけどねぇ……こちとら人間様ですよ!!」
 
 ――俺も人間様だよ。
 と、口に出す代わりに、耳で腹筋をぺちんと叩いた。 
 
「ギョギョギョオオオ!!!!」
「あっはははは!!!!」
 
 お魚博士めいた悲鳴を上げ、転がりまわるミルフィを眺めて笑う。
 自業自得で苦しむ他人を見て愉悦を覚えてしまうのは人の性(さが)ゆえ仕方がない……とか考えていた、その時。
 背後から、黒い影が差した。
 
「な……何だ……何が起きている……!?」
 
 ちっ。様子を見に来た村人に厄介な所を見られてしまったな……
 
         ◆
 
 傷を負った様子で逃げ去ったドラゴン。目の前には奇声を上げてのたうち回る少女と、それをバリトンボイスで嘲笑うウサギみたいなバケモノ。
 ――俺が同じ状況でも、自分の正気を疑う光景だ。
 
「こんな小さな魔族が、喋っている……?? ……ミルフィちゃん……いったい何が有ったんだ!?」
 
 やはり、ミルフィとは知り合いみたいだ。
 話している所を見られてしまったのは正直痛手だが……助かる。このガタイの良い農夫のオジサンに、ミルフィを運んで頂こう。
 
「あっ! ポロマフさぁん……ソイツ、ソイツです!! そのうさぎさんが……!!」
 
 ――――は?
 なんで苦しそうな顔しながら俺を指さすんだコイツは??
 俺、何か恨まれるような事したか!?
 ……したな。10秒前に。
 
「コイツが元凶なのか!? 確かに、可愛い見た目してるクセに目の奥が笑ってないぜ。まさか、あのデカいのを呼んだのも……!!」 
 
 厚ぼったい手で耳を掴み、俺を睨み付ける髭づらのオッサン。
 こういう、汗と泥の入り混じった臭いは印象としては嫌いでは無いのだが、やはりいい物ではない。
 パンチの一発くらい覚悟しようかと、すさんだ瞳で睨み返す、その背後から。
 
「その子を放してあげなさい」
 
 聞き覚えのある声がかかった。
 獲物を仕留めた狩人みたいにぶらぶらと吊られたまま、振り返る。
 ――ご隠居だ。
 
「で……ですがご隠居、コイツが……」
「いいからいいから。その子は老いぼれに任せて、ミルフィを早く教会に連れて行ってあげなさい。――それと、今見た事は忘れること。いいね」
 
 まるで俺が喋れる事を知っているような台詞に、一瞬ぎくりとした。
 が、ドウマルの火が村を焼く時に、この人の前では声を発していたことを思い出す。
 騒ぎになると面倒だから俺は人間の言葉を喋れない設定でいくと、出会ってすぐにミルフィとは約束したのに、あの時は咄嗟の事で忘れていたのだ。
 
「はい……」
 
 苦々しい一瞥の後、放り捨てられる俺。
 両足で着地し首を回した所に、爪先の丸い靴を履いたご隠居が、ゆっくりと歩み寄って来る。
 幾らか皺の刻まれた目じりを持ち上げて、老人は屈み、同じ目線になる。
 高級そうなローブの尻を泥で濡らして、にっこりと笑いながら、ふさふさと俺の頭を撫でた。
 
「君が、ミルフィを救ってくれたのだろう?」
 
 皮が幾つも擦り剝けた、硬い手の平だった。
 柔らかく、染み入るような声に、口の中がもぞもぞとかじかむ。
 はい、とも、いいえ、とも言えないままの俺に、老人は咽びつつ、「ありがとう」とだけ言って、白髪だらけの頭をゆっくりと下げた。
 褒められ慣れていない俺は、どうしたら良いのか判らなくて。
 ちびっ子が見よう見まねでそうするみたいに、小さくお辞儀を返す事しか、出来なかった。
 
         ◆
 
 Sideミルフィ
 
 ――暗い。
 目は開いているのに、真っ暗で、何も見えない。
 
「って、当たり前か……」
 
 そう言って目元に巻かれた白布を取ると、教会備え付けのベッドの上に、私は横になっていた。
 どうしてこんな監禁者みたいな恰好をしなければならないのか、というと、教会の掟によって、術を行う際は必ず目に覆いをする事が義務付けられているからである。
 『聖職者以外に治療の魔法陣を見られてはならない』という理由らしいけど、正直、よくわからない。
 
 体を起こし、首を回すついでに、視線を泳がせる。
 柔らかなベッドに、清潔な仕切りのカーテン。服は……誰かが着替えさせたのだろう。昼間に来ていたお気に入りの冒険着から、風通しの良い病衣に変わっている。
 空気が、少し冷たい。
 あれから結構な時間、気を失っていたのだろう。窓の外では日が沈み、星空が広がっていた。
  
「本当に……傷も、全部治ってる」
 
 ドウマルさんとの闘いで体についた細かい傷は全てきれいさっぱり消えていて、腕を動かしても、――少しだるいけど、あの時みたいな焼けるような痛みは感じない。
 
「起きたの!? ミルフィ!!」
 
 しゃっ、と勢いよくカーテンが開いて、ランプの光がもろに差し込んで来た。
 眩しい。
 一瞬手で仕切りを作って、ゆっくり離すと、そこにはセントおばさん――今、私に家を貸してくれているレストランの店長さんが、目を真っ赤に腫らして抱き着く準備をしていた。
 脂肪たっぷりの太い両腕が、背中まで絡みつく。
 いつも色んな食材の匂いでいっぱいの彼女から、今日はそういう感じがしなくて、すごく、申し訳ない気分になった。
 
「心配、したのよ。ごめんね……大事な時に店空けてて……でも、本当に良かった。良かったわぁ」
 
 肩口で切り揃えられたさらさらの赤髪。頬に押し付けられて顔は良く見えないが、背中は小刻みに震えている。
 
「ごめんなさい。おばさん」
 
 私はそう言って彼女の体を抱き返し、向こうから離れるのを確認してから、ゆっくりとベッドを降りた。
 
「何してるの……? 駄目よ、まだ動いちゃ!!」
「――ごめんなさい。行かなきゃいけない所があるんです」
 
 足を地面についた瞬間、踵に痺れるような痛みが走った。
 少しよろけて、両手を地面につく。
 大丈夫。歩き慣れてないだけで、すぐにハッキリしてくる。
 大きく息を吐いて、立ち上がる。
 
「――行って、きます」
「ミルフィ!?」
 
 私を止めようとする手が、遠慮で空気を掻いた。
 それと同時に膝を曲げ、踏ん張る体勢を整える。
 ――駆け出せ。
 裸足のまま、木製の床を蹴り出した。
 横開きのドアをこじ開け、音の鳴りにくい廊下を走る。
 壁にいくつも掛けられた、宗教画の天使達が私を見送っている。
 階段を駆け下りて、書斎の前でほんの少しだけ減速して、礼拝堂まで辿り着く。
 出口が、見えた。
 ベンチとベンチの間を抜けるのが、じれったい。
 頭に浮かんでいるのは、あの荘厳な扉の向こうに居る、一匹の獣の事だけだった。
 神聖な場所だとか、身体の痛みとかそんな事、どうでもよくなっていた。
 動け。
 ふらつく頭を左右にふって、礼拝堂の一番真ん中まで、やっとの思いで辿り着いて、最後の直線にかかる。
 動け。
 治りきっていない体が、熱を発してよろめかせる。
 動け!!
 影の扉まで、手を伸ばす――――
 
 ばたん。
 もう、あと1歩の所で。
 赤い絨毯が脚を絡めとり、私は地面に伏してしまった。
 涙が、こみ上げてくる。
 熱く熱く、拳を握る。
 立ち上がろうと、腕に力を入れようとしているのに、頭と体がこんがらがって、喉に空気がつっかえて。
 苦しいのに、ため息が出そうになって、真っ赤になった顔が赤ちゃんみたいにぐちゃぐちゃに崩れて。
 その時。
 
 
「ほう。綺麗なステンドグラスじゃないか」
 
 
 ――――開いた扉の隙間から、月光を背に佇む兎が、ニヤリと私に微笑みかけた。
 
「うさぎ……さん……」

 小さな影と共に伸びる片耳を、もふりと掴んで身体を起こす。
 
「うさぎさぁん……!!!」

 そのまま引き寄せ、抱きしめた。
 人間とは違う、濃い暖かさを近くに感じて、固まった氷が溶けるみたいに、雫が頬を伝いだす。
 
「おいおい。綿が濡れちまうぜ」
「ひっぐ……だって、どこか、行っちゃうかもしれないって、思って」
「俺はドコにも行かねーよ。ぬいぐるみは女の子を悲しませちゃいけないんだから」

 ――クサい台詞も、今ではほんの少しだけ素敵に聞こえる。
 ふわふわと包み返す柔らかな耳が、私の背中を優しく撫でる。
 震えが治まるまで、彼は黙って私を抱いて、呼吸が落ち着いたのを見計らったところで、小さな口を開いた。
 
「――ご隠居から、聞いたよ。色々と。」
 
 そうか。うさぎさんは今までご隠居様の所に。
 だったら、知られてしまった筈だ。私の今の境遇も――多分、お父さんの事も。

「なら……もう誤魔化しなんて、出来ませんね」
 
 でっぷりと太った体を放して、立ち上がる。
 お腹を冷たくしないと、脳が熱くてしょうがなかった。
 大きく息を吸って、喉につかえた異物を吐き出すみたいに、切り出す。
 ――今、言わなきゃいけない事があった。
 
「わたし、強くなりたかったんです」

 一歩、二歩、踏み出して、礼拝場の敷居を跨いだ。
 小砂利が足の裏を刺して、すぐに元の絨毯へと翻す。
 見つめる月の明りが身体を照らし、背中から黒い光を伸ばす。

「勇気じゃ誰も救えない。気持ちじゃ何も変わらない。だから、強くなきゃいけないと思って、色々やって……そのたびに、自分の無力さを知って」

 出来るだけ明るい声のトーンで、考えていた事を思い出し、喋る。

「人間一人が出来る事なんて……小さい事じゃないですか。だから、弱いのに旅に出て、テキトーに人助けするより、今の村の人達が楽しく生活できるように……なんて、言い訳ですよね。結果的に、私のせいで皆が不幸になる」

 ――だめだ。全然、笑えてない。

「ただの、いくじなしなんです。わたし」

 うつむき、影を見つめる私に、待っていたようなタイミングで、うさぎさんの言葉が飛んでくる。

「でも君は、一人でドウマルに立ち向かったじゃないか」
「だから、嫌なんです」

 拳を、握り締めた。矛盾しているとわかっているのに、全部が全部ダメな自分を、認めきれなかった。

「弱いのに、どうしても人の事ほっておけなくて、それで余計に迷惑かけてばっかりで。でも、自分の事になると怖くて、旅にも出れなくて」

 苦しくなって、屈みこんだ。
 うさぎさんの、短い腕の下に、親指を差し込み、持ち上げる。
 今の私の姿はこの大きな瞳に、どう映っているのだろうか。そう考える度に、自信が無くなって。

「それでも、うさぎさんが居れば……わたしは、もっと沢山の人を守れる。こんなわたしでも、いっぱい人を幸せに出来る」

 甘えた言葉を、絞り出す。
 本当はこんな風じゃなくて、もっと、カッコ良くしなきゃいけないのに。

「わたしは貴方となら……貴方とじゃなきゃ、いけないんです」

 私は、すがった。
 初めてうさぎさんと繋がった時の、安心感が、愛おしかったのだ。
 自分の全てを解決してくれる、魔法みたいなあの幻想を、醜い私が求めているのだ。

「お願いです。わたしと一緒に――」

 瞳を閉じて、祈る。
 指先が、強張った。
 顔を、見る事が出来ない。
 最後の言葉を紡ごうと、葛藤を呑みこむ、それを。
 
「――駄目だ」
 
 冷たい一言が、遮った。
 なんとなくわかっていた筈なのに、理不尽な悔しさへの動悸がおさまらない。

「どうして、ですか」
「君はまた、無茶をやるつもりだろう」
「それの何がいけないんですか!!」

 怒りに声を荒げてしまった。
 直後、爪の先がお腹に食い込んでいるのに気づいて、手を放す。
 ぱんぱんと身体を払ったうさぎさんは、拗ねた様子もなく、ただ背中を私に向けて、教会の太陽十字を見つめている。
 一瞬、静かになって、頭が冷えた。
 
「……君が一番理解している筈だ」
 
 見透かしたような事を、言われてしまった。
 今日と同じことを何度もやっていたら、その末路がどうなるかなんてわかりきっていた。
 それでも。だとしても。
 否定の言葉をこらえて、歯を食いしばる。
 
 たじろぐ私をよそに、目の前のうさぎは何やら小さな体をもぞもぞとさせていた。
 わざとらしく耳を突き上げ、腹をぐにーっと上に伸ばし、たぽん、と下ろして小さく息を吐く。
 そして彼は覗き込もうとする私の影を、狙ったみたいに振り返った。
 ――笑顔、だった。
 
「だから、さ。もっと正攻法でやってみないか」
「それじゃ……足りないんですよ」
「今日やった事が全部、君の力だったとしてもか?」

 ――何を、言ってるんだ。

「あれは、うさぎさんが居たから!」
「俺がやったのは、君がコントロール出来るマナの許容値を増やして、一部を身体能力に転換しただけだ」
「言っている意味が、よくわかりません」
「あの時出した力は全部、君のマナを元にしているって事だ。今は体の成長度が使えるマナの量を抑えているから、魔術もへっぽこかもしれないが、鍛えればアレぐらいの事、自分一人で必ず出来る様になる。君は広大なプールからたった一杯の水をコップにすくっただけで、そのコップが限界だと思い込んでるんだ。その証拠に、この年になっても君の……可愛らしいプリンちゃんはちっとも膨らんでいないじゃないか」
「言葉を選んだ結果がそれですか!?」

 ぺたり、と触れているだけで虚しくなる自分の胸を撫でる。
 スクールでも『潜在能力はある』とか言われて、結果、全然育たなかったそれを、彼は自信のこもった視線で見上げて。

「キミには才能があるんだ。他の人間とは違う、特別な。それこそ世界中で苦しんでる人達を、“おおよそ”ハッピーに出来るだけの才能が、な」

 その気にさせる為の、上っ面だけの言葉ではない。
 ほのぼのとした顔つきながら、目だけは真剣に、私の胸を貫く。

「俺はワケあって、この世界の事情にはかなり詳しい。魔術も、体術も、“人間の姿”で出来る事は沢山知っている」

 歯切れ悪く言う声色に、後悔の念が見える。
 彼もまた、何かを抱えているのだとわかって。私の身体を覆うブロンズが、その自責と混ざり、溶け落ちていく。

「今の俺ならきっと、君の“チカラ”になれる。……いや、その為に、ここに居るんだ」

 そう言って彼は、信じられないくらい真面目に頭を下げた。

「頼む、ミルフィ。俺に、君のコーチをやらせてくれないか」
 
 ――伸(の)るか反るかの打算より早く、私の身体は熱くなっていた。
 
「なんですか、それ」

 彼の描く理想は、諦めていた夢のカタチ、そのもので。
 それが、一番望んでいた姿で。
 私が一番欲しかった答えで。
 チャンスだとか、信頼だとか、そういう事より何よりも。

「――超☆ワクワクするじゃないですか……!!」
 
 未来図が、流星の如く溢れ出した。
 
 両手を広げる私に、今度は、彼の方から飛びついてくる。
 背後に倒れつつ、強く、抱きしめる。
 土と薬品の織り交ざった、よくわからない……でも、不思議と心地よい香りに包まれて、私達は笑った。
 涙の伝う、頬と頬を、すり寄せる。
 
「ミルフィ。俺と一緒に、旅に出て欲しい」
「はいっ……よろしく、お願いします。わたしのうさぎさん!」

 聖母の微笑みと、満月の光が二人を照らす。
 私達の旅路は、今日、この瞬間をもって、始まりの時を迎えたのだ。









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