探偵、ロード

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事件録1:道標と道を進む者

第2話 死因

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 今回の仕事場は、凄かった。仕事場の正面に設けられた鉄門はもちろん、その奥に広がっている前庭も、今まで見てきたどの仕事場よりも華やかだった。
 
 ロードは警官の案内で、前庭の中に入った。

 前庭の中は、綺麗だった。地面の芝生が見事に手入れされていて、左右の木々も美しい左右対称シンメトリーを描いていた。
 
 彼はその光景に「すごい」と驚き、警官もその感想に「そうですね」と同意した。

「しかし、中に入ったら。もっと驚く事になります」

 警官は、彼の足を促した。

「進もうか?」

「は、はい!」

 ロードは彼の後を追いつつ、周りの景色をしばらく眺めていたが、ふとある視線に気づくと、今までの思考を忘れて、その視線に素早く振り返った。

 視線の先には、若い男が一人。

 男は彼の視線に苛立つと、恐ろしい顔でロードの顔を睨みつけた。

 ロードはその視線に怯んでしまい、慌てて目の前の警官に話し掛けた。

「あ、あの?」

「はい?」

「あちらの方は?」

 警官は、彼の見つめる先に目をやった。

「ああ、彼ですか。彼は、ここの庭師ですよ。かなり前から働いているらしくて。名前の方はまだ、伺っておりませんが」

「そ、そうですか」

 ロードは警官にお礼を言い、自分の正面に向き直った。

 二人は、屋敷の中に入った。

「凄いシャンデリアですね。天井があんなに高いのに」

「まるで目の前に迫ってくるように見える、ですか。私も、入った時は驚きましたよ。『まさか、世の中にこんなシャンデリアがあるのか!』ってね。廊下の大理石にも、思わず驚いてしまいました」
 
 警官は横目で、ロードの顔を見た。

「クリス警部は、屋敷の応接間にいらっしゃいますが。どうしますか? 先に現場の方を見ていきます? それとも」

「現場に行きます。死因の方も知りたいですし。クリス警部にも、その方が色々と話しやすいと思いますから」

「分かりました。なら、そのようにお伝えしておきます」

 警官は「ニコッ」」と笑って、彼の前から歩き出した。

「少し待っていて下さい」

 ロードは、警官が戻って来るのを待った。

「お待たせしました。それでは、行きましょう」

「はい」

 ロードは彼に続いて、ジョン・アグールの部屋に行った。

 ジョン・アグールの部屋は、屋敷の一番奥にあった。大理石の廊下を進んだ先にある、とても静かで不気味な雰囲気の漂う部屋。部屋の前には、二人の警官が立っていた。
 
 ロードは、二人の警官に頭を下げた。

「お疲れ様です」

 二人の警官は、彼の挨拶に応えた。

「毎度毎度、すまないな」

「今回も、お得意の名推理を見せてくれよ」

「はい」と、うなずくロード。

 彼は扉の前に跪き、その鍵穴に目をやった。

「すいません。ここの所を少し、見せて貰っても良いですか?」

「良いよ」と、警官達はうなずいた。「好きなだけ覗いてくれ」

 ロードは、鍵穴の中を覗いた。

「新しい物では、ないけど。こじ開けられた跡がある。鉄製の器具でガリガリと引っかいたような」

 警官達は、彼の横顔に話し掛けた。

「ロード君」

「はい?」

「何か分かったか?」

 の質問に笑みを浮かべるロード。

「ええ、まあ。でも、まだ何とも言えません。この手掛かりが……」

 彼は二人の警官に頭を下げると、立ち入り禁止のロープを跨いで、事件現場の中に入った。

 事件現場の中は、警官達の姿で溢れていた。近くの仲間と意見を言い合う者、部屋の中を静かに見渡す者。遺体の近くにいる警官は、隣の上司に「こいつは、どう見ても自殺ですよ。それ以外には、考えられません」と言っていった。
 
 ロードは、彼らの近くに歩み寄った。

「本当にそうですか?」の言葉に驚く警官達。

「うわっ!」

「って、なんだ、坊主か。いきなり話し掛けるんじゃねぇよ」

「すいません」

 上司の警官は、彼の謝罪に溜め息をついた。

「それで、今日も呼ばれたのか?」

「はい。部屋の外には、案内役の人も待っています」

「そっか。ふん! まるで要人だな。実際は、ただのガキだって言うのに。十四の探偵は、どんなに凄くても、やっぱり子どもだよ」

 警官は、床の遺体に視線を戻した。

「坊主」

「はい?」

「この死体をどう見る?」

「……そうですね」

 ロードは、ジョン氏の遺体を見下ろした。

 ジョン氏の遺体は聞いた通り、床の上に倒れている。まるで永遠の楽園でも見つけたかのように。遺体の近くには、割れたワイングラスと、そのグラスから漏れた赤ワインが零れていた。
 
 ロードは、ジョン氏の遺体を調べた。

「遺体の状態から見て……死亡推定時刻は、昨日の午後11時から今日の午前2時の間でしょう。今の季節から考えれば」

「うむ。それで、その死因は?」

 少年の目が鋭くなった。

「彼の死因は、中毒死です。それも、極めて毒性の強い。服用者の死に快楽を与える程の」

 ロードは、床の上から立ち上がった。

「使われたのは、禁止薬物のデロメラブレですね? 『自殺志望者』が良く好んで使う、別名『死の快楽酒』とも呼ばれる猛毒の。この猛毒を飲んだ人は、あらゆる苦痛を快楽に変えて」

「あの世に旅立てる、か?」

「はい。だから、自殺者達に人気なんです。気持ち良く死ねますからね。首吊りの『それ』よりも、ずっと楽である筈だ。でも」

「ん?」

「それだけで『自殺だ』と決めつけるわけには、いかない。デロメラブレが検出された場所は、何処ですか?」

「ワイングラスの内側だ。それが赤ワインの中に混じって」

「『ジョン氏の命を奪った』と?」

「ああ。俺の推理じゃあな。周りの奴らも、そう考えているよ。ボトルの中にも、毒は入っていなかったし。あの世に旅立つ流れとしちゃ、この出発点しか考えられねぇ」

「なるほど。それじゃ」

「ん?」

「ワイングラスのボウルには、『指紋』は残っていましたか?」

「……いや。本人のそれ以外、他の指紋は出て来なかったよ」

「そうですか。なら、『ワインボトル』の方には? テーブルの上にずっと……おそらくは、昨晩から置かれている筈の。そこに指紋が残っていれば」

「残念ながら、そこにも指紋は残っていなかった」

「ワインボトルのラベルにも?」

「ああ。ボトルの裏にも、底にも。犯人……って奴がいればだが、意図的に拭き取ったんだろう。自分の痕跡を残すために、な」

 警官は、少年の目を睨んだ。

「坊主」

「はい?」

「今回の事件は、自殺か? それとも」
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