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キョウモ ハカナイ ユメ ヲミル【そいつのこめかみに古傷みてえな痣、ねえか?】

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「いやー食った食った」
腹をさすりながらテツが満足な表情を浮かべて煙管に火をつけた。
「相変わらずハナちゃんとカッちゃんの飯は美味いねえ。
良い嫁を持って俺は嬉しいぜ」
テツが大袈裟なほどに喜びを伝えた。

「今日は染料屋の染五郎さんが鳥一羽をわざわざ持ってきてくれたので、ちょうど良かったです。お父さんに喜んでもらえて。
でもまだこれから食後のお菓子がありますよ」
花色がにっこりと微笑んだ。
「おお、そうだったそうだった。
カッちゃんが今日よろず屋で貰ってきてくれたのを仏壇に供えたのを忘れておった」
煙管に火をつけてしまい、しまったとばかりに眉を潜めた。

「俺が持ってきますよ」
勝色が立ち上がり、テツの寝室へと消えた。

「ハナちゃん、毎度のようにカッちゃんが貰ってくるあの菓子なんだが、よろず屋の料理長が作ってると言ってたな。そいつはどんな奴なんだい?」
テツが興味心身といった風で花色に尋ねた。

「どんなって。
ねえ、カツ、【杏】(キョウ)ってお父さんになんて伝えたら良いだろう」

「うーん。つかみどころの無い奴、かな」
花色に呼ばれた勝色が菓子を持って現れた。

「キョウ、か。ひょっとしてだが、そいつのこめかみに古傷みてえな痣、ねえか?」

「「親父、まさかあちこちで手出してんじゃねえよな」」
剛と柔が同時に叫んだ。

「ばかやろう。親を何だと思ってやがる」
テツが憤慨したが二人の息子の目は疑ったままだった。

「杏は前髪をいつも目が隠れるくらいに覆ってるので、俺達も杏の顔、子供の時以来見たことないな。ね、カツ」
花色が勝色に助け舟を求めると、勝色も同様の返答をした。
「そうか」
腑に落ちない表情をテツが浮かべたが、それはほんの一瞬だった。

「さあさ、頂こうじゃねえか。うん、昔から美味いなこの『加洲亭羅』(カステイラ)」
テツが最初に頬張りそう言うと、一つずつ手に取り皆食べ始めた。

(昔から?)花色と勝色が疑問に思ったが、テツの勘違いだろうと気にも止めなかった。

「残りは明日、職人の皆に出してくれや、ハナちゃん」
食べ終えたテツがあくびをしながらその場にごろんと横になった。

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