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キョウモ ハカナイ ユメ ヲミル【挨拶ってもんは正装が当たりめえだろ】
しおりを挟む杏がテツの工房に来た翌日、テツが一人考えあぐねていた。
昨晩の一件を引きずってか、花色が杏を避けているのは明白だった。そのため勝色一人を呼び出した。
「なあ、かっちゃん。あんが俺んとこに身を寄せるのは良いとして、カッちゃんとハナちゃんのいたよろず屋は、大丈夫なのかい?
あんが突然いなくなったりして、あちらでは心配とか、してるんじゃねえだろうか?」
テツの心配事に、勝色があっけらかんと答えた。
「杏(キョウ)は紅様、ああ、紅様は俺達の親代わりみたいな存在なんですけど。たぶん杏は紅様に許してもらえないと思っているみたいですけど、紅様はご存知だと思いますよ、こうなることまで含めて。何でもお見通しの方なんです、紅様は」
「親代わりってことは、じゃあ、あんを嫁にくれと挨拶にでも行けばもしかしたら許してもらえるんじゃねえか?」
テツのその言葉に勝色が大笑いし始めた。
「テツさんって本当に真面目。
でも、紅様には挨拶に行った方が良いかも。このままだと杏と紅様の間に遺恨が残るかもしれないし。俺、今度町へ納品に行ったときに紅様に会ってきます」
その言葉の二日後に勝色がよろず屋に顔を出し、紅との約束を取り付けた。
その、約束の日。
「「親父、ほんとにそれで行くのかよ!」」
二人の息子が笑いを堪えながらテツを見ていた。
「挨拶ってもんは正装が当たりめえだろ」と意気込むテツの服装は紋付袴という大層な出で立ちであった。
「息子さんを下さいって言いに行くつもりかよ」
剛の冷めた問いかけに「おうともよ」とテツが意気込んだ。
「なんたって、あんの親代わりなんだろ、先方の紅様って奴は」
何も知らないテツが想像した紅を頭の中で思い浮かべていた。
「まあ、親代わりっちゃあ、そう、だよな」
紅を知っている柔が剛に同意を求めるように問いかけた。
「んん、まあ、そう、だな」珍しく剛も歯切れが悪かった。
その二人の空気を読まずに、テツが「んじゃ、行って来るわ」と意気揚々と工房を後にした。
「剛、言った方が良かったんじゃねえか?」
一抹の不安を抱えた柔が剛に同意を求めた。
「ああ、だけど、言える雰囲気があったか?あの親父に。紋付袴だぞ」
二人の息子はよろず屋で起こりうるあらゆる可能性に再び笑いを堪えるのに必死であった。
よろず屋の店の前に到着したテツが、「たのもうっ!」と、さも道場破りをするかのように暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ」
店の接客をしていた年端も行かない男児がテツに近づいた。
「お、俺はこちらの紅様という御仁に用があってまいったテツと申す」
昼時でもあり、ほぼ満席の店内の客が、場違いな衣装のテツを一斉に見た。そのため、一気に緊張したテツがギョッとして直立不動で固まった。
「ああ、紅様とお約束されていらっしゃるテツ様ですね。伺っております」
年端も行かぬ男児が奥へとテツを誘った。
「紅様、テツ様がお越しになられました」
年端も行かぬ男児が恭しく襖の奥へ向って告げ、襖を開けて中へと促すように微笑んだ。
「あ、あんたが」
中へと入ったテツがそのまま絶句した。
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