よろず恋花(こいばな)

伊織 蒼司

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【真朱】(マソウ)の執着心 R18

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 将軍家へ向かう紅は、【真朱】(マソウ)を伴っていた。
 足取りの重い紅は城に着くまでにも代替案をしきりに探っていた。

 「断っても良いのだぞ、真朱…」
 いつになく煮え切らない紅の様子が珍しく、真朱が噴出して大笑いした。
 「昨日もあんなに確認したのに。紅さまらしくない」

 それは昨夜のこと。
 「将軍に子を成させるためにお前の力が必要だ」
 紅の申し出に真朱は二つ返事で了承した。

 「いいけど?僕が奉公を受ける意味、わかってるよね?
 お望みどおり将軍様を勃たせてあげる。でも、僕へのご褒美忘れないでよ。
 僕が欲しいのは紅さま、貴方だけ。将軍様に通った分だけ紅さまをもらう。
 今日はまずは手付…もらうから」

 真朱が重みはあるがまだ何の兆しも見せない紅の性器を口に含んだ。
 紅より三つ年下の真朱の紅への執着は、小さなころから人一倍激しかった。
 大人になるにつれてそれはますます酷くなり、伴侶でないにも拘らず誰かれ構わずに嫉妬の炎を燃やした。

 その証拠に真朱が奉公を終えるたび、紅の快楽の証を欲しがった。体の繋がりはないがその代わりとでも言うのか、紅の性器を口内に誘い込み、快楽の証が出なくなってもなお、名残惜しそうに舐めたり含んだりと離さないのだ。
 あざとく、頭の切れる真朱は裏家業の稼ぎ頭であるため、紅も無碍には出来ずに内心困り果てていた。しかしその代償を払ってでも十分な成果を成し遂げる真朱に、紅は頭を悩ませていた。
 長丁場になることを嫌と言うほど心得ている紅は、真朱を気にすることなく、傍らに置いた店の帳簿を確認し始めた。少し滞り気味だった帳簿の確認も終わり、昼飯の前に真朱に任務の内容を告げたのにも拘らず、そろそろ夕刻に差し掛かるころになっても真朱が紅から離れることはなかった。

 紅は腰掛けた座椅子の背もたれに頭を預け、ひたすら時が過ぎるのを待った。
 忠臣の世継ぎが誕生するまで、幾度この行為を甘受しなければならないのかと、紅はますます気が滅入るばかりだった。

 ようやく真朱が部屋を出た後、紅は寝室の奥の襖を開けた。

 「…いたか」
 そこには恐ろしいほどの美貌の持ち主が、襖の傍で正座をしたままどす黒いオーラを放っていた。


 「新しい当主様の誕生だ。だが……」
 「--こんなところにある当主の証は、今までに例がない」

 三十三年前、三つ並んだ黒子を持つ男児が、よろずの里に産まれ出でた。
 その男児は【濡羽】(ヌレバ)と名づけられた。長老達によって確認された三つ並んだ黒子は、次期当主を現していた。


 そしてその6年後。

 「なんと、またしても新しい当主様の誕生だ。一体どういう事であろうか」
 里の長老達は、この異常な事態に頭を抱えた。
 よろずの里では十数年、もしくは数十年に一人、三つ並んだ黒子をもつ男児が誕生した。その黒子が次期当主その証であり、十三回目の春を迎えると同時に次の当主になる定めを負っていた。つまりは、世代交代の時期が決まった時点で誕生するのだが、六年と言う短い世代交代は前例のない事であった。
 里の長老達が頭を悩ませたのはそれだけではなかった。
 歴代の当主に現れる黒子の場所は、顔、首筋、手、足と、人に見せやすい場所に現れた。しかし先に生まれた濡羽の黒子は男性器に確認されたためであった。

 その濡羽が生まれたばかりの赤子と対面した。
 【紅】(コウ)と名づけられた赤子は、里に生まれる男児よりも二周りほど大きく、左の目尻の下に、三つ並んだ黒子があった。すぐさま濡羽が、「世話をしたい」と長老に申し出た。
 それからの濡羽の生活は、紅を中心に回っていた。朝起きてから夜寝るまでのそのほとんどの時間を紅に費やしていた。濡羽が世話をしているとき、紅は手の掛からない赤ん坊であった。しかし他者が抱いたり、世話をすると大泣きをして世話人の手を酷く煩わせた。

 四年が経ち、濡羽十歳、紅四歳のある日の事。

 紅の体を拭くための水を汲みに屋敷を出たが、桶に隙間を見つけて取り替えようと戻ったときの事だった。里人のひそひそとした会話を、濡羽は偶然にも聞いてしまった。

 「濡羽様は真に時期当主様なのかねえ」
 「歴代の党首様は皆、体躯もお顔も、惚れ惚れするほど雄雄しいのに、濡羽様は他のどの男児よりも女顔で華奢だろ。何かの間違いなんじゃないかねえ」
 「どうりで六年しか当主になれねえ筈さ」
 「紅さまがお生まれになるまでの時間稼ぎだったんじゃねえか?」
 「六年なら現党首様の【漆黒】(シッコク)様はまだ二十七さ」
 「まさか早死にされるとか?」
 「不吉な事言うもんじゃないよ」
 「すまねえ、でもよ、そうでもなくちゃ辻褄が合わねえだろ」

 濡羽は里人の会話を初めて聞いた。
 (俺は、紅の捨て駒なのか?)

 里人の好奇とも本心とも取れる発言を目の当たりにした濡羽は、初めて自分の出生に疑問を感じた。

 それ以来、濡羽は徐々に紅から遠ざかり、一年が経つ頃には完全に紅と距離を置くようになった。しかし今度は紅が、濡羽の部屋に入り浸るようになった。
 内向的で性格も大人しく、外で遊ぶ事を好まない濡羽は、部屋にいる事が多かった。その部屋の離れたところに紅はいつも座っていた。
 紅は、喜怒哀楽のない子供だった。どこか大人びた目で濡羽を見ていた。紅は、濡羽以外の誰にも関心を示すことは無かった。

 (どうぜ俺の事を心の中で馬鹿にして蔑んでいるに違いない)
 濡羽は、一人イライラを募らせていった。

 濡羽は、いつの間にか自傷行為を始めたが、その事に気づいて咎める者は誰一人としていなかった。
 濡羽の自傷行為の矛先は、三つ並んだ黒子、つまりは自らの性器に向いていた。

 皆が寝静まったある夜の事。
 自傷行為をしていた濡羽の部屋に、紅が音もなく入ってきた。手首を掴まれ、悲鳴を上げる寸前に紅のもう片方の手に口を塞がれた。

 「八年後、俺がお前の主人になる。俺の許可なくこれ以上傷つけるのは止めろ」
 濡羽は、初めて紅の声を聞いた。

 紅五歳、濡羽十一歳の夜の出来事だった。

 それ以後、自傷行為をしなくなった濡羽の感情がついに爆発したのは、翌年の春を迎えた時だった。
 うららかな春の日差しに小鳥が枝で囀りを披露していた。

 「どうせ俺なんか、いてもいなくてもいいんだろ。里の皆も長老達も、紅だってそう思ってるんだろ。たった六年の当主なんて」
 あと一年しか残されない猶予が起爆剤となり、濡羽の負の感情が一気に爆発した。
 濡羽が、何を思ったか突然走り出した。
 弾かれたように皆も、紅も後を追いかけた。
 濡羽が向かった先は、かまどのある土間の一角だった。

 「こんなものが、こんなものがあるから」
 かまど脇にある蒔き割りようの鉈を握った濡羽が踏み台にしゃがみこみ、あろう事か自分の性器の根元に振り下ろした。
 そして、ゆっくりと立ち上がった濡羽が、満足したように微笑んだ後、その場に崩れ落ちた。
 あっという間の出来事に、一同は呆然と見ていることしか出来ないでいた。

 「早く、手当ての用意をしろ!」
 初めて紅が里人に言葉を発した。

 その後、紅は濡羽の傍で必死に看病を続けた。三日三晩、寝ずの看病であった。

 四日目に目を覚ました濡羽に、紅が懇願する様に、搾り出すように言葉を発した。

 「俺が当主になればお前の主人は俺だ。頼むから、もうこんな事は止めてくれ」
 六歳の紅があの夜に次いで、再び子供らしからぬ発言をした。どこか泣いている様にも見える紅の姿も、濡羽には疎ましく思え、より卑屈にさせる題材にしかならなかった。

 (犬っころみたいに俺を買い殺して辱めるつもりなんだ。
 何処まで俺を貶めれば気が済むんだろう。
 美丈夫で誰よりも恵まれた体躯で、皆を引き付ける輝きがあるのに、どうして俺なんかを目の敵にするんだろう。たったの六年ぽっち、当主を奪われるのがそんなに屈辱なのか?
 なんで、平凡な俺なんかが選ばれたんだよ……。
 --もう、何も考えたくない)
 それ以降、濡羽は心を閉ざす事で身を守る事を選んだ。

 三つ並んだ次期当主の証は無くなったが、現当主である漆黒の決定で、濡羽は次期当主になるために里を出る事になった。
 その日は、長老達と共に七歳の紅も見送りに里外れまで出向いていた。
 あの日以来、表情が無くなった濡羽の背中が見えなくなるまで、紅はいつまでも見つめていた。
 それが、濡羽を見た最後だった。


 十三回目の春を迎えた紅が、よろず屋の敷居を跨いだ。その瞬間、紅が新当主になった。全ての引き継ぎを終えた三日後、漆黒は里へと戻って行った。

 その夜、紅は町民に酒と食事を格安で提供するという大盤振る舞いをした。町の男達はこぞって酒を堪能しにやってきた。

 紅の目的は、情報収集であった。
 その中の一つが紅の興味を引いた。

 「ちょいと聞いたかい、【黒田屋】(クロダヤ)って女郎屋の【濡れ烏】(ヌレガラス)の噂」
 「もちろんよ、難攻不落な女はまたしても陥落しなかった、ってんだろ」
 「おうともよ。息を忘れちまう程の美貌だがいつも能面みたいに無表情。
 どんな男にも心を開かねえだけじゃねえ。
 今まで誰一人として濡れ烏を喜ばせた男はいねえとさ」
 「ああ、だが濡れ烏と夜を共にした男はみーんな、一晩で篭絡されちまうって話だぜ」
 「俺も一晩で良いからお相手願いてえなあ」
 男が上の空で鼻の下を伸ばした。
 「ま、お前ははなからお呼びじゃねえな。金も、あっちも……」
 向かいに座る男が小指を立てた。
 「--るせいやい、わかってら」

 紅はこの短い会話が気になった。里出身の男児は『色』に因んで名付けられていた。
 紅は『濡羽』が別名『濡れ烏』と呼ばれる事に引っ掛かりを覚えた。

 次の日の夕刻、紅は同じ日に里から出てきた【杏】(キョウ)を伴って黒田屋へ向かった。

 黒田屋の女将は、見るからに強欲そうな女であった。
 懐に入れてきた金をチラつかせると、「十八、十九にしては金、持ってるじゃないか」と、大人びている紅の年を勘違いした。
 紅は杏を伴って、濡れ烏のいる部屋の襖を開けた。
 「今宵はずいぶん早いお客の入りだねえ」
 横を向いて煙管をふかしながら濡れ烏がゆっくりと紅へと流し目を向けた。紅の姿を捉えたその瞬間、濡れ烏の目尻がピクリと動いた。

 「--主人に向かいに来させるなんざ、なかなか出来る芸当じゃねえなあ、『濡羽』」
紅の放ったその一言の後、長い沈黙が訪れた。

 息をする事も忘れたように暫く固まっていた濡れ烏が、ハッとした顔をし、慌てて隣の部屋に続く襖の奥へと姿を消した。

 「明日、身請けに来るからな」
 紅は誰もいない部屋に呟いた。

 次の日の昼前に、紅は行動を起こした。
 杏を伴って黒田屋に向かうと、そこは夥しい数の奉行所の男達が占領していた。
 野次馬達の話で『昨日奉行所に店の裏帳簿が投げ込まれた』事を知り、紅はしてやられたと思った。しかし、すぐさま切り替え紅が、【花弁楼】(カベンロウ)へと足を向けた。

 「で、どこに行くのさ」
 「花弁楼だ」
 「相変わらずぶっきら棒だねえ。そこに濡羽がいるのか?」
 「ああ、たぶん十中八九間違いない」
 「あっそ。なんでって聞いても良い?」
 両手を頭の後ろで組みながら、杏が聞いた。
 「黒田屋はあくどい商売をしているが買い取る女に関しちゃかなりずさんで、手っ取り早く金を手にしたい輩の御用達だった。つまり俺から逃げたい濡羽にとって直ぐに身を隠すには同じようにあくどい商いをしてる所の方が匿ってもらえる確立が高い。昨晩奉行所に裏帳簿を投げ込んだ濡羽が、てめえの証文を持って花弁楼に走ったんだろうよ。
 表向き別の経営を装ってはいるが、黒田屋と花弁楼は姉妹店だ」
 「何時の間に調べたんだか」
 杏がそれ以上口を開く事は無かった。

 神経質そうな女、花弁楼の女将の口からは「知らないよ」の一点張りだった。紅は慌てるでも、苛立つでもなく女将の部屋をゆっくりと見回した。
 「あんた、綺麗好きみたいだが、この辺りずいぶんと汚れてるなあ」
 紅は、女将の横をすり抜けて、神棚に近づいた。

 「おお、おお、あるある。汚れきった証文がたくさん」
 紅はそのうちの一枚を取り出すと、神棚のろうそくにかざした。
 ジジジ、瞬く間に燃え始めた証文を、紅はそのまま放り投げた。

 「ちょっ、何すんだい。おい、誰か早く来ておくれ」
 程なく現れた二人の用心棒が、紅に間合いを詰め始めた。

 「あれ?俺、もしかしてのけ者扱い?」
 杏が緊迫した場にそぐわない事を言っても、用心棒の男達の目は、紅を捉えたままだった。
 男達が刀に手をかけた…その刹那、カキン、カキン、という音がした後に紅の蹴りが男達の胸部に命中した。男達が呻きながら倒れこんでいた。

 「安心せい、峰打ちだ。なーんてね」
 杏が冗談めいて笑った。
 「なんで出刃なんか持ってきてんだ?」
 「ああ、この後鍛冶屋に持っていくんだ、この出刃。
 角巻のところ緩くなっちまって」
 「商売道具傷つける真似しやがって。あいつを探して連れて来い」
 「へーーい」
 杏がサラシに巻いたままの出刃を懐に仕舞うと、組んだ両手を後頭部に回して部屋を出て行った。

 「見つけたよん」
 程なくして杏に腕を掴まれた濡れ烏が下唇を噛んで紅の前に姿を現した。ただならぬ事態に何事かと女郎達が襖の外から固唾を呑んで中の様子をを伺っていた。

 「さて、次は見受けの話に入ろうか」
 紅は、女将に向き直った。
 一向に首を縦に振らない女将に、紅は証文一通一通に目を通し、順に火をつけた。
 証文を読み上げる都度、襖近くにいる女が歓喜の悲鳴を上げた。それでも首を縦に振らないのは、それだけ濡れ烏のもたらす売り上げが莫大である事を示していた。
 全ての証文を燃やしても、濡れ烏の証文だけは出てこなかった。

 「あともう一通はここにあるんだろ」
 紅は濡れ烏に近づくと、戸惑いもせずに胸元をまさぐった。
 その行為に女将の顔からも、濡れ烏の顔からも血の気が引いた。
 紅の予想通り、濡羽の証文は紅の手に握られていた。
 紅は証文に記載どおりの額面を女将に渡し、その証文に火をつけた。

 「金は払ったぜ、濡れ烏はもうこの店とは関係ねえ」
 紅は放心状態の濡羽を連れて店を出た。店の中からは証文を燃やされた女達の奇声が、向こう三軒まで鳴り響いていた。

 初めてよろず屋の敷居を跨いだ濡羽に、男児達の好奇の視線がざわついた。それらを気にすることなく、紅は自室のその奥にある離れに濡羽を連れて行った。
離れに入ったとたんに濡羽が紅の手を振り払った。
 「どこまで俺を惨めにさせれば気が済むの。蔑んで、貶めて。
 だからあの時逃げたのに、お前から逃げたのに、何で……」
 濡羽が感情を露にした。里を出るときの無感情からはかけ離れた、憎悪にも似た目で紅を射た。 紅は、濡羽よりも大きく逞しい体で濡羽の体を優しく抱きしめた。

 「二度も俺の求婚を蹴るなんざ、どれだけ俺を振り回わしゃ気が済むんだ」

 紅のこの言葉に濡羽が動揺したように身じろいだ。
 「なに馬鹿なこと言って……」
 「--お前の主人になるって言ったろ」
 「だって、それは俺を犬っころみたいに飼い殺しにして辱めるつもりだったんだろ?」
 「お前の亭主になるんだから主人だろうが」
 「なんだよ、それ。だって、でも毎日俺の部屋に来て哀れんだ目で見てたじゃないか?」
 その一言に紅は小さくため息をついた。
 「お前も存外馬鹿だな。俺の嫁はお前しかいねえって、物心付いたときから決めてたんだ。
 未来の嫁を毎日見てえって思っちゃ悪いのか」
 紅のその発言に濡羽の頬に朱が差した。
 「だって、だって俺はお前より六つも上だし……」
 濡羽が口篭もった。
 「--俺は姉さん女房が餓鬼の頃からの夢でな。
 そうか、俺は言葉の言い回しを、間違えちまったんだな。すまねえ。
 お前の消息が消えても、きっと見つけられると思っていた。見つけてお前と所帯持つって。俺の嫁はお前しか考えられねえんだ。
 頼むからもう、俺から逃げないと約束してくれ。
 お前が望まねえなら、俺は、一生指一本触れねえと誓うから」
 紅の声は情けないほどに震えていた。

 濡羽の心が浄化されたかのように、見る間にその表情からは怒気が消えていき、静かに涙を流し始めた。


 泣きつかれて眠っている濡羽を見つめながら、紅は安堵の表情を浮かべた。子供の頃から喜怒哀楽の無かった紅の、初めての表情だった。
 紅十三歳、濡羽十九歳の春だった。

 その日から二人で離れに暮らし始めたが、紅は有言実行で濡羽には指の一本も触れず、寝室も別にしていた。

 数日経ったある朝、紅よりも早くに目を覚ました濡羽が、まだ眠る紅の傍らに静かに座った。
 「ここに来てからずっと考えてた。
 もう、自分の気持ちを押し殺す事に疲れた。
 惨めな当主だとか、年上だとか、もうどうでも良い。
 俺もお前が好きだったんだよ。
 子供の頃からお前の世話するのが好きだった。お前を初めて見た日は今でも忘れてない。俺…あの時よくわからないけど、ときめいたんだ、お前に。
 そして、初めてお前の声を聞いたあの夜、なぜだか無性に切なくなった。
 途中で変な片意地張ったり、勘違いしたけど、それを取っ払ったら、お前が好きって事しか残らないんだ」
 濡羽が淡々と紅に思いを告げた。

 「そんな大胆な告白されちゃ、今すぐ触れたくなっちまうだろ。俺の理性が働くうちに、部屋に戻るんだな」
 目を閉じたまま紅は、あえてつっけんどんに言った。

 「いやだ、難攻不落の俺を落とした紅に、今すぐ抱かれたい」
 紅の頬に微かに触れた濡羽の指を即座に掴み、起き上がった勢いのままに、紅が濡羽に口付けた。噛み付くような口付けだった。濡羽の後ろ髪を掴み、獲物に喰らい付くように紅は何度も角度を変えながら貪った』


 あれから…紅と濡羽は夫婦になって十四年目を迎えていた。


 「お前は、真朱には嫉妬するんだな」
 目を伏せたままの濡羽が下唇を噛みながら悔しそうにうっすらと頬を染めた。
 「お前の嫉妬がどれだけのもんか、脚を開いて見せてみろ」
 真朱がいる間中ずっと隣室で控えていた濡羽が、より一層頬を染め、下穿きの纏っていない下肢を露にさせた。
 「十四年も俺に見られてるのに、そういう所は未だに初心だな。
 もっとちゃんと脚開かねえと良く見えねえだろ」
 なかなか下肢を露にしない濡羽に、紅は咎めるでもなくむしろ挑発するように見つめながら、身らの着物を脱いで雄雄しい体を晒した。

 「お前もずいぶんと濡らすようになったじゃねえか」
 紅がゆっくりと顔を近づけて、大きく開かれた下肢を舐めるように観察すると、『コプッ』蜜が溢れ出た。
 「へええ、俺に見られて濡らすなんざ、亭主冥利に尽きるな。
 難攻不落で、誰にも濡れる事がなかったお前にしちゃ、上出来だ」
 決して厭味ではなく、さわやかに言い放つ紅を濡羽が軽く睨んだ。
 「ふん、亭主の濡れ場に知らん振りできるほど、俺は慎ましい嫁じゃない」
 頬を染めた濡羽も、紅の挑発に乗るように熱い視線で見つめ返した。
 それを合図に紅が濡羽の蜜を指で掬って、その奥にある濡羽の蕾を溶かし始めた。
 「そうだったな。多くの男を篭絡しても満足できねえくれえ、俺の嫁は貪欲だからな。
 大した嫁だ、お前は」
 紅の何気ない一言に濡羽の体が、一瞬にして強張った。
 「またそう言って責める……」
 とたんに濡羽が泣きそうに口を尖らせた。
 「--責めちゃいねえよ。誰に抱かれても、心も体も開かなかった事をむしろ褒めてんだ。
 脚は開いたがな。でもそれだけ俺を特別、って思ってたって事だろ。上等じゃねえか」
 返事の代わりにコプッ、と再び溢れた蜜を、紅が舌で救ってぺろりと舐めた。
 「お前を濡らせるのはこの世で俺だけなんて最高な嫁じゃねえか、お前は」
 紅が舌で掬うたび、コプッと蜜は絶え間なく溢れ続けた。

 「紅…。俺も…俺のだって、俺のものだって確認したい」

 「わかってる。ほら、好きにしろ」
 濡羽の蕾を溶かしながら体の向きを変えた紅が濡羽の顔を跨ぐと、濡羽が紅の腰に抱きついて即座に性器を咥えた。紅の性器は既に腹につくほどの剛直になっていた。濡羽は、それに自分以外の痕跡を消すように、淫乱に舌を這わせた。
  
 「今回は…はぁ、んっ、何回あげた、の?」
 「…二回だ」
 濡羽が喉元深くに紅の性器を飲み込んだ、刹那。

 「ッチッ、痛ってえな、噛むんじゃねえよ。仕方ねえだろ、アレは一種の生理現象だ。二回も出しゃ、もう出ねえよ」
 「じゃあ、俺にはもっと頂戴」
 「仕方ねえな…いっぺん出してやるからそれで我慢しろ」
 紅の下腹部の筋肉が盛り上がると、濡羽の喉が数回上下に動いた。

 「嫌!もっと!」
 「おいおい、お前口で絞り尽くす気じゃねえだろうな」
 くすくすと笑いながら紅は、濡羽の蕾を溶かす三本の指、人差し指、中指と薬指で、胎内のザラリとしたしこりを挟み掴んだ。その手の親指は、鉈で平らになった濡れた下生えを撫でる。濡羽の濡れた下生えがぬめりを伴って紅の親指に貼りついた。コプッ、コプッ、と蜜の溢れる口を確かめるように親指がなで上げる。
 
 「ん、ああっ」
 とっさに叫び声を上げた濡羽が、紅の性器を咥えて声を押し殺した。
紅は胎内の三本の指を一律に動かし始めると、押し出されるように蜜が湧き出した。
 「今日は一段と濡れるじゃねえか」
 紅が感心したように呟くと、今度は蜜口を親指で軽く押さえ、中と外の四本の指で掴んだ濡羽の下肢を、揺すり始めた。
 濡羽の、最も敏感な部分を鷲掴みにされ小刻みに揺すられ、濡羽は紅の腰に抱きついて紅の性器を咥えたまま、その強烈な刺激に耐える様に喉奥で叫び続けた。
 「そういうところも変わっちゃいねえな。
 聞きてえ奴には聞かせてやりゃあ良いじゃねえか」
 胎内と外から濡羽のむき出しの神経を鷲掴みにした紅は、その手の動きを次第に早めた。
 縦横無尽に動く紅の手に振り回されながらも、濡羽は紅の性器から口を離そうとはしなかった。

 「お前にはいつも腰が立たなくなるくれえ、俺をくれてるだろ」
 「んああーーっ」
 堪えきれず部屋中に響き渡る程の声を上げて、濡羽が体を硬直させた。

 トプトプトプトプ…。
 下肢からは湧き上がる泉のように蜜が溢れ続け、濡羽の体は、暫く震えが治まらなかった。
 紅は、その蜜を掬っては、たっぷりと己の性器に塗りこめた。

 「悪いな、口で搾り尽くされる訳にはいかねえんだ。
 貪欲な嫁の体を満足させなくちゃならねえからな。もう入れるぞ」
 紅が濡羽を見下ろしながら、両膝を掬い上げて大きく開脚させ、ゆっくりと挿入した。

 「今日は初めから全部入れるからな」
 「紅…さっきので、体が熟れてて…最初からそんな奥…したら、ああっ」
 緩く一突きされただけで、濡羽が弱弱しく喜びの声を上げた。
 「ここは俺以外の男は誰も知らねえんだろ」
 紅は嬉しそうに濡羽の下腹部を撫でさする。
 「俺のがここまでは入りこんでら」
 濡羽の胎内にある熱の塊を確かめるかのように腹部をさする指先に力を込めた。
 「だってそんな奥、届くなんて誰もいな、っんあっ」
 濡羽の腰が逃げないようにもう一方の手を手を回して固定し、紅は少しずつ動きを大きくしていく。

 「俺だけが届くって事は、お前と俺は夫婦になる運命だったって事だろ。
 亭主が嫁を可愛がるのは当然の権利だ。
 俺は嫁を満足させられねえ亭主になるのは死んでもごめんだからな。
 嫁の喜ぶ姿が見れるんだ、生憎だが今日は好きにさせてもらうぜ。
 言っとくが、先に欲しがったのはお前だからな、責任取って最後まで付き合え。
 望みどおり、お前の腹が一杯になるまでにくれてやる。何なら、見せてやるか」
 本格的に律動し始めた紅は、二つ向こうの襖で聞き耳を立てている真朱の存在を知りながら、濡羽を激しく啼かせ続けた。

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