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双子の迂闊
しおりを挟む若草と鶯は一卵性双生児として生を受けた。
先に生まれた【若草】(ワカクサ)は物静かで落ち着いた性格の持ち主で、【鶯】(ウグイス)はどこか落ち着きのない忙しない性格をしていた。
一卵性として生を受けているため、顔や背格好はそっくりだが二人並ぶと鶯の方が若干、目が釣り上がっている。
二人のことを知らないもの達はよく二人を間違えた。
しかし、二人を良く知る里の者や、よろず屋の男児たちは若草と鶯を間違えることはなかった。
よ ろず屋で酒や料理を運ぶ仕事をする二人は、店に来る女客の口伝えで、『サーカス』と言う見世物小屋の評判を耳にした。
夕方までの合間の時間に二人でサーカスへとくり出した。
評判通りサーカスは多くの人で溢れていたため、逸れぬようにと手をつないで入場の列に並んでいた。
「柑子兄さんの旦那様って、柑子兄さんに骨抜きなんだって。知ってた?
【萱草】(カンゾウ)料理長がさ、毎日三度三度の食事を用意して夜は酒もだろ。
本宅にはまったく帰る気配がないから、よほど柑子兄さんのこと好いてるんだろうって。
米問屋らしいけど、商いは大丈夫なのかね?って心配するくらい」
話に乗ってこない若草をよそに、鶯はなおも独り言のように話し始めた。
「それにきはだ兄さんだって本宅に奥様がいらっしゃるのに、離れで住まわせてもらうなんてさ。
二人とも玉の輿だよね。
いいなぁ。僕も誰かに見初められないかなぁ」
両手を後ろで組み、鶯が心底うらやましげに呟いた。
「こんなところであれこれ話してはいけないよ。
どこで誰が聞いているかわからないし、柑子兄も、きはだ兄も、所詮は本宅に奥方様がいらっしゃるわけだからね。いくら好かれても日陰は日陰さ」
夢見がちに憧れる鶯とは違い、若草はどこか冷めていた。
「でもさ、兄さん達の旦那様方は本宅の奥様とは、もう夜のほうは全くって専らの噂なんだよ」
「鶯は、好かれていれば日陰でも構わないの?
僕は嫌だな。僕は、僕一人を好いてくれる人じゃなくちゃ嫌だな。
さあ、もうこの話はお終いにしよう。
誰かに聞かれていい話ではないのだから」
若草と鶯は笑いながら他の話題で盛り上がり始めたが、すぐ近くで先ほどの話題に聞き耳を立てていた人物がいたことを二人は知る由もなかった。
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