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消えた【紫苑】
しおりを挟む(これ以上ここにいては一豊様を忘れられなくなる)
紫苑が日に日に焦りを感じていた。
ぼんやりと歩き、気づかずに一豊の部屋の前まで来ていた。
開け放たれた部屋の真ん中で珍しく一豊が無防備に眠っていた。
履物を無造作に脱ぎ捨てた紫苑が静々と一豊に近づいた。
初めてみる一豊の寝顔だった。
あたりを見渡して誰もいないことを確かめた紫苑が、自分の唇を一豊のそれに触れさせた。
(焦がれて止まない愛しい人。でも決して思いを告げてはいけない人。
これで一豊様を吹っ切れる。この口付けを思い出にして一生一人で生きてこう)
紫苑が一人心の中で誓った。
「んん、あか、ね」
一豊が寝言で茜の名を呼ぶが、目を覚ましていないことにホッとして振り返ったその時、両手で口元を覆い隠し、声を上げずに見ていた茜と紫苑が目を合わせた。
一瞬交錯した視線を振り切るように、履物も履かずに紫苑が部屋を飛び出した。その場にひとり残された茜が、呆然とその場に立ち尽くしていた。
闇雲に走った末に、以前金次郎にお茶を運ばされた部屋がある一角へと、紫苑が紛れ込んでいた。
(戻らなくては)
本能的に察するよりも早く、紫苑の意識はなくなっていた。
紫苑の味方になる者が周りに誰もいないことを、木の枝から一羽の白鳩だけが見つめていた。
ふと我に返った茜が、弾かれたように、紫苑が走り去って行ったほうへと走り出した。
しかし、紫苑の姿は何処にもなかった。
恥ずかしがって隠れていることも考えたが、誰かを巻き込んで迷惑をかけるような行いをしないことを知っているめ、事態はより深刻であると茜が認識した。
一豊に頼み、城内の捜索を試みたが紫苑を見たものも、いた形跡すらも掴めなかった。
明日一番で触書を城下に貼りだすと、一豊が迅速な行動をした。
一通りの対処を終えた一豊が、何があったのかを茜に尋ねた。いったん躊躇したように口元を引き締めたが、茜がゆっくりと重い口を開いた。
紫苑も一豊のことを好いていること。
偶然にも寝ている一豊に口付けしている紫苑の姿を見てショックを受けたこと。
そのために直ぐに追いかけられずに紫苑を見失ってしまったこと。
そこまで話した茜が、思い余って泣き出した。
一豊の胸に抱かれながら、(紫苑が無事に戻って来なければ自分のせいだ)と茜が自分を責めた。
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