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それぞれの利
しおりを挟む常田大勇が堤金次郎に締結の旨を伝えた。
一国一城の主の座と紫苑の存在が、賭けに出る必要のない大勇の決断を後押ししたのであった。
「それでは、常田様には兵を用意してもらいます。
こちらは、すでに米と塩の確保はしておりますので、準備がそろい次第決行できまする。
それと、こちらはわれわれに賛同する者たちの連判状にございます。
常田様も、こちらにご署名を」
「うむ、致しかたあるまい。
ときに紫苑は、紫苑はいつ引き渡すのじゃ。」
「本懐を遂げた暁には、必ず」
「真であろうな。わしを謀ろうものならその首いつでも切り捨ててやる」
「ご安心くださいませ。紫苑はわたくしが安全に保護しております。奉行所も、まさかわたくしが紫苑を攫ったとは思いますまい。
まして連判状がある限り、わたくし達は一蓮托生、約束を保護には出来ませぬ」
二人の男が互いに違う『利』を求めて動き出したのだった。
その頃。
白茶が茜の寝室近くの木の枝で『プルップー』と鳴いたのは、紫苑が行方知れずになってからゆうに七日が経ってからであった。
その鳴き声で白茶と知った茜が、裸足のまま木の根元まで近寄った。
「白茶」と呼ぶと、白鳩は茜の指に舞い降りた。枝には白百合の姿もあった。
(白茶は紫苑の言葉でしか動かない。もし紫苑が死んでいれば白茶も死ぬまでその場を決して離れることはしない。それは、白百合にも言えること。つまり、白茶を僕のもとに向かわせたのは紫苑に間違いない)
紫苑が生きていることを知った茜が、少しだけ安堵した。
すぐさま一豊にもその旨を伝え白百合と白茶の話をすると、始めこそ驚いた様子だった一豊が、持ち前の聡明さで理解した。
翌朝、早馬を用意した茜が白茶を放って後をつけたると、着いた先は堤金次郎の屋敷であった。 その瓦の屋根で白茶が羽を休めた。
紫苑がこの屋敷にいると確信し、城へ戻るとすぐさま茜が一豊に報告した。
しかし、白茶の話だけでは何の証拠にもならず、仮にも老中である金次郎の屋敷にむやみに押し入ることも出来ない。そればかりか、無断で潜入し見つかれば首を刎ねられても文句は言えないと逆に一豊が茜を諭した。一豊の意見は正論であった。
茜が八方塞に頭を悩ませていた。
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