よろず恋花(こいばな)

伊織 蒼司

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毒蛇の油断 R18

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 最も使いたくなかった手段を現実にしなければならない茜が何故か嬉しそうに微笑んだ後、金次郎を一瞥した。

 (これで、心置きなく毒蛇退治ができる)
 茜が不思議な高揚感に包まれていた。

 床の引いてある部屋に戻ると、金次郎がすぐさま茜に覆いかぶさってきた。しかし茜がそれをかわして再び妖艶に微笑んだ。逆に金次郎を床に横たえさせ、懐にしまっていた木箱を取り出して、勿体をつけるように金次郎に見せ付けて主導権を握った。

 「熟れた果実の食し方、僕が教えて差し上げましょう。
 これは秘儀。
 一豊様が愛して止まない隠避な玩具」
 小さいほうの丸薬を摘んだ茜が、なるべく卑猥に見えるように金次郎に見せつけながら舐めた。少しずつ溶けながら桃の甘い香りが漂いだした。丸薬を口に含んだまま金次郎に唇を寄せると、堪らずに金次郎が吸い付いてきた。
 クチュクチュと二人で丸薬を舐めしゃぶりながら、茜が金次郎の下肢に手を伸ばす。

 「上手い、ああ、なんと言う上手さじゃ」
 金次郎が恍惚とした顔を見せた。
 唇を離すと、金次郎が足りないとばかりに起き上がってきた。
 
 「ずいぶんとせっかちなんですね。まだ始まったばかりですよ」
 茜がやんわりと金次郎の体を床に押し付け、丸薬を含んだまま金次郎の性器を口に含んだ。興奮のあまり既に蜜を溢していた金次郎の性器を、茜の口内の丸薬と舌で刺激した。
 「おお、なんと。なんと、素晴らしい。このような高ぶりはいままで味わったことはない」
 金次郎から何度もうめき声がもれる。
 「まだまだこれからでございます」
 桃の味が変わり始めた事に気づいた茜が、再び金次郎に口付けて丸薬を金次郎の口内に預けた。

 「これはほんの序の口、この後が秘儀中の秘儀にございます」
 大きな丸薬を取り出した茜が、自らの蕾にそれを押し込んだ。昨日の一豊との交わりのため、丸薬は難なく茜の胎内に飲み込まれた。そしてそのまま金次郎の性器を迎え入れた。

 「これから、堤様に天にも昇るひと時を与えて差し上げましょう」

 (まさにあの世に行かせてあげる)
 茜が心の中で憎悪を燃やし続けていた。
 金次郎の性器が茜の胎内の丸薬に押し当たるたびに、金次郎がうめき声を上げた。
 興奮のあまり口内の丸薬をガリガリと噛み砕いて飲み込んだ金次郎を見た茜が、薄ら笑いを浮かべたが、茜の胎内に夢中になっている金次郎はその事に気づきもしなかった。

 「おお、おおお。これは、天にも昇るとはこの事か」
 陶酔した表情は、金次郎が茜の与える快楽にのめり込んでいる事を明確にしていた。

 茜の持っていた小さな丸薬は痺れ薬であった。
 痺れ薬に糖を混ぜ固めたものの表面に、桃の味の糖で包んだもので、幼子や衰弱した老人などは死んでしまうほどの強い毒であった。
 桃の味が薄れた頃合を見計らって金次郎に与えたのはそのためであった。

 そして大きいほうの丸薬は『死に玉』もしくは『呪玉』と言われるものであった。
 こちらも糖で固められているが、中心部はドロリと濃い液体のままの毒薬が入っていた。
 糖が溶けると隙間から毒が流れ出し、内臓からでも皮膚からでも浸透する、即効性の高い毒であった。だがこの丸薬は中心部の液体を閉じ込めるために硬い飴で覆われているため、溶けるまでに時間がかかるのが難点であった。
 金次郎を確実に死に追いやるには、服用させるか、何らかの方法で体に毒を塗りつける必要があった。茜に執心している金次郎に警戒させないためには、この方法が最も効果的であると茜が確信を持ったのは、城内の廊下での会話の最中であった。

 茜の両襟に隠し入れた、指で潰し固めた平たい物体はそれぞれの解毒薬であった。
 どちらの丸薬も、紅には使用を強く止められたていた。

 二人の接合部から卑猥な音がぐちゅぐちゅとし始めた。それは、金次郎が興奮のあまりに出しているであろう先走りと、昨晩茜の胎内の奥深くに放たれた一豊の精が織り成していた。

 (僕の胎内の一豊様、どうか僕に力を貸してください)
 金次郎の体が痺れて動かなくなるのを心待ちにするように、茜が腰を動かし続けた。
 静かな部屋に唯一奏でられる卑猥な音が、金次郎の愉悦を誘った。


 茜が金次郎の屋敷に入ったのを見届けてから、セツも潜入した。

 セツの推測ではこの階には茜と金次郎、紫苑、そして少し厄介な男が二人いた。
 瓦屋根の上に上がったセツが、辺りを見回した。
 かまどから立ち上る煙に、セツが一か八かの賭けに出た。
 わらの束を一階にある奥座敷に畳の上に広げ火種を真ん中に置き、息を吹いて火をつけた。セツが火をつけたのは、茜たちのいる部屋から最も離れた部屋だった。

 (今日の風向きならば、煙はあちらには届くまい)
 セツが少し厄介な二人の男を監視しに、屋根裏へと潜り込んだ。


 「火事だぁ」
 階下が騒がしくなり始めた頃、金次郎の体は痺れ薬に犯されていた。

 「なにごとじゃ、ゲン。ゲンはおらぬか」
 慌てて身を起こそうとした金次郎が、指の一本も動かすことが出来なかった。

 「か、体が動かぬ。貴様わしに何をした」
 茜の体を突き飛ばすことも出来ず、金次郎がワナワナと怒りに震えていた。
 何度もゲンと叫ぶが、襖を開ける者は誰もいなかった。

 「もう少し、味わったら。せっかく甘い蜜が、僕の胎内からあふれてきたんだから」
 茜が腰を揺すると、甘い香りと共にドロリとした濃い蜜が二人の下肢を濡らした。
 金次郎になるべく広範囲に毒を塗るため、茜が腰を大きく揺すりながら蜜を少しずつ溢れさせてはお互いの下肢に擦りつけた。
 怒りに震えながらも茜の与える快楽には勝てず、金次郎が快楽の証を何度も茜の胎内に放った。そのことでますます胎内から溢れた蜜がお互いの下肢を淫らに濡らした。

 毒が二人の体を蝕み始めた頃、茜は左襟にある解毒薬を自らの口に含んで飲み込んだ。
 そして、苦しそうな金次郎に、右襟の解毒薬をちらつかせると、「助けてくれ。まだ死にたくない」と情けなく懇願した。

 「謀反に加担した者たちの連判状はどこ?
 このままだと確実に死ぬよ。解毒薬、欲しいでしょ?」
 毒のせいで虫の息の金次郎が何かを言おうとしたが、舌も麻痺したようで言葉にはならなかった。

 「目で教えて」
 金次郎が眼球の動きだけで床の間の掛け軸を見た。
 ふらつく体で掛け軸に近づいた茜が掛け軸を捲ると本紙の裏に張られていた連判状が現れた。
 安堵の息を吐いた茜が大事に連判状を胸に抱いたまま、滑り落ちるようにその場に座りこんだ。
 茜が冷たい目で金次郎をみやると、すでに虫の息であった。
 金次郎に下毒薬をちらつかせた茜が、それを部屋の最も遠いところへ放り投げた。
 金次郎のガラス玉のような目に絶望の色が浮かんだ。そして茜が殺気を帯びた目で金次郎を見やると、大きく咳き込んだ後、金次郎が絶命した。口の端からたらりと一筋の血が伝った。

 解毒薬を飲んだ茜だが体の奥深くまで入り込んだ毒は、既に全身を冒していた。解毒薬が体内の中和をするだけの体力が既に茜には残されていなかった。金次郎より先に命を落とさぬためと、セツが現れるのを待つための時間稼ぎのためだけに解毒薬を飲んだのだった。
 もっと早くに解毒薬を服用していればもちろん命は助かるが、金次郎との駆け引きに勝つためにも、毒が効果を発揮する頃合を正確に知る必要が茜にはあった。連判状のありかを聞き出すために。
 そして何よりも、金次郎と体を繋げるという行為を選んだ事が、茜に生を放棄させていた。


 
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