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才子佳人(サイシカジン)

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お堀沿いに米問屋【豊穣屋】(ホウジョウヤ)と塩問屋【塩屋】(シオヤ)は隣通しに店を構えていた。
 もともと豊穣屋と塩屋は【柳谷 助蔵】(ヤナギヤ スケゾウ)という翁が店を切り盛りしていたが、年齢を理由に助蔵の二人の娘がそれぞれの商いを引き継ぐことになった。

 二十歳そこそこで【サト】という幼馴染を妻に娶ったが子に恵まれず、跡取りを産めぬ罪悪感からかサトは次第に食欲が落ち、はやり病であっけなく死んでしまった。
 子に恵まれはしなかったが、サトを生涯の伴侶にと決めたほど好いていたため、助蔵はなかなか後妻を迎えようとはしなかった。
 四十路を迎えるころ、【お初】(オハツ)という娘に出会った。
 町外れの茶屋で働くお初は人懐っこそうな笑顔の看板娘だった。
 二十も年の違うお初に年甲斐もなく引かれた助蔵が、やっとの思いで口説き落としてお初と結ばれた。
 そのお初との間に産まれたのが【お夏】(オナツ)と【冬子】(フユコ)だった。
 夏産まれのお夏。その翌冬産まれの冬子。
 一つ違いの姉妹はともに美しく育ち年頃を迎えた。

自慢の二人に良い婿をと方々に口利きを頼むと、程なく助蔵の眼鏡に叶う候補が見つかった。

 湾のほど近くに船問屋【豊船屋】(トヨフネヤ)があった。
 職人の腕も世間の評判もいい豊船屋には3人の息子がいた。
 年の頃合も良く、男前といわれる三兄弟のうち、次男【豊二】(トヨジ)をお夏に、三男【勝三】(カツゾウ)を冬子にと話をつけるため、勇んで豊船屋に向かった。
 豊船屋の大旦那である【木島 勝豊】(キジマ カツトヨ)が助蔵の申し出をいたく気に入り、縁談はトントン拍子に進んだ。
 巷では『美男美女の婚礼』と瓦版の号外が出るほど、世の中の注目を集めた。

 二月後、二組の祝言が豊穣屋で盛大に執り行われた。
 飛び上がるほど大喜びをした助蔵がはるか遠くの長屋にまで、祝いの餅を配り歩くほどだった。


 翌年、二人の姉妹にはそれぞれ玉のような男児が授かり、助蔵は豊穣屋と塩屋はもはや安泰だとほっと胸をなでおろしたのであった。
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