破鏡重円(ハキョウジュウエン) R18

伊織 蒼司

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生きる気力の無い二人2

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二人が目覚めてから十日と三日が経とうとしていたが、きはだと柑子の食は相変わらず細かった。重湯から粥になったが、二口、三口程で食べるのを止めてしまう。
目覚めた頃よりも幾分顔色も良くはなっているが、それでも体を癒すほどの食事が取れていないことで二人は見る間に痩せていった。
二人は何を言うでもなく、ただ静かに天井を見たまま身動き一つしようとしなかった。
み空が困った様に小さくため息をついた。
そんな時、階下から、男達の尋常ならざる声がみ空の耳に響いた。

気になったみ空が襖を開け、物音を立てずに階段を数段下りた。身をかがめ、こっそりと階段下の食事処よろず屋に目を凝らしたみ空の視線の先には、床に膝をつき、紅の足元に縋っている二人の男の姿があった。

(あの人たち、誰だろう? それに、紅さますごく怒ってる)
セツがみ空を嫁に貰いたいと言ったときと似たような緊迫感にみ空が眉根を顰めた。

そんな時だった。

ダダダーーーーッ。

み空の直ぐ脇を掠め、何かが勢いよく転げ落ちた。
それが『何』であるか気づいたみ空が、とっさに口を手で覆い、驚きのあまり硬直した。

階段下に勢い良く転がり落ちたのは、きはだと柑子だった。二人は弱弱しく這いながら男達のもとに行こうとしたが、いち早く気がついた男達が真っ先に駆け寄って、きはだと柑子をそれぞれの胸に抱いた。

「きはだ、こんなに痩せて」
声を震わせながら男がきはだの頬に手を当てると、きはだもまた男にしがみ付きながら涙をこぼした。
もう一人の男も同じように柑子を強く抱きしめると、「生きていた。良かった。生きていた」と、繰り返しながら泣いた。

(あの人たちがきはだと柑子の…)
階段で動けずにいたみ空が、溜飲が下がったとばかりにそのままぺたりと座り込んだ。
四人の姿を忌々しげに見ていた紅は、きはだと柑子を部屋へと運ぶように厨房の若い衆を呼んだが、二人とも勝三と豊二にしがみ付いて離れなかった。
致し方なく紅は勝三と豊二に、きはだと柑子を運んでもらった。

それぞれの布団に寝かされても、二人は勝三と豊二からは離れず、しっかり腰に腕を回して不安げに紅を見つめていた。

二人の姿を見せ付けられた紅は、諦めたように一旦目を伏せた後、静かに口を開いた。
「きはだと柑子は見ての通り、怪我の治りも悪く食も思うように取れぬまま、今日に至っておる。俺としては二人の回復が早くなるのなら手段は選ばぬ。
お二人に、きはだと柑子の世話をお願いできぬだろうか」
その言葉にいち早く反応したのは、きはだと柑子であった。一泊の間のあと、緊張の糸が切れたように二人は声を上げて泣き始めた。二人が感情を露にしたのも、泣いたのも、事件後初めてのことであった。

部屋を出た紅はみ空に、今夜からは隣の部屋で寝ることと、勝三と豊二に看病に必要な一切を教えるようにと伝えた。
「布団は」とみ空が尋ねると、紅は「客ではないからいらぬ」と薄情とも取れる決断を下した。
 
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