無自覚オメガとオメガ嫌いの上司

蒼井梨音

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第二部

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穏やかな午後、俺は橘さんの番の啓さんとカフェの窓際の席に座っていた。
啓さんのお腹は少しふっくらしてきた。
テーブルの上には、香りの良いコーヒーとケーキが並ぶ。

「……直樹くんってさ、無自覚だよね」
啓さんはさらりと言った。
俺はふと口を止め、首をかしげる。
「え? 無自覚って?」

啓さんは微笑みながら言葉を続ける。
「溢れる魅力に気づかないで、周りをコロッと惹きつけちゃう。白鷹さん、毎日大変だろうなって」

俺はその言葉に少し驚きながらも、心の奥がじんわり温かくなるのを感じる。
「……そっか、迅さん、大変なのかなぁ?」
「うん、でも楽しそうだよね。大切にしてもらってるんだなって思う」
啓さんの柔らかい声に、俺は少し笑った。
「俺は、そんなふうに大切にされているのかなぁ」

啓さんは微笑みを返し、
「白鷹さんは直樹くんのことが心配で、かわいくて仕方ないんだと思うよ」
ちょっと照れくさくなってきた。啓さんは俺の反応を見ながら、なおも続けて
「白鷹さんはオメガで苦労してきたんだろうけど、直樹くんに出会えてよかったんだと思うよ。
直樹くん、今、幸せ?」
俺は真っ赤になって、頷いた。

そしたら啓さんも少し照れくさそうに言った。
「うちもいろいろあったんだけど、結婚して、妊娠して……。翔ちゃんに支えられて、今、幸せだよ」
啓さんは少し大きくなったお腹をさすりながら幸せそうな顔をしている。
俺も啓さんもなんだか、少し恥ずかしくなってきてケーキを食べ出した。

「へぇ……結婚式とかも?」
「もちろん。家族や友達に祝ってもらえて、すごくよかったよ。すごいね、温かい式だったよ」
ケーキを食べ終えて、結婚式の話をした。
俺は、啓さんの言葉を聞いて、
「いいなぁ……羨ましい。俺も迅さんと……結婚式したいなぁ」

啓はくすっと笑い、軽く肩をすくめた。
「直樹くんはもう十分可愛がられてるじゃん。無自覚で、人たらしなんだから。
直樹くんが結婚式やりたいって言ったら白鷹さんは喜んで準備始めると思うよ」

俺は照れながらも、嬉しそうにコーヒーを口に運んだ。
「……そうなのかな。迅さんは喜んでくれるのかなぁ」

午後の柔らかな光の中で、二人の会話は自然と途切れず、カフェの時間はゆっくりと流れていった。 

啓さんは、俺を見ては微笑んでいて、
俺は啓さんに羨ましさと憧れを抱きつつ、その温かさを胸に刻んだ。


帰宅すると、俺はソファにどかっと座り込み、頭を抱えるようにして深呼吸した。

「……あぁ、迅さん……、俺、めっちゃ愛されてるんだな……」

カフェで啓さんから聞いた話が頭の中でぐるぐる回る。
「自分じゃわかんないけど、無自覚で人たらだから、白鷹さん大変だろうけど……」
その言葉を思い出すと、胸がじんわり熱くなる。

俺は自分の頬に手を当て、赤くなった顔に気づいて驚く。
「……や、やばい、赤くなってる……」
自然と頬が熱く、心臓も早く打つ。

でも、同時に心の奥は幸福感でいっぱいだ。
“俺のこと、あんなに大事に思ってくれてるんだ……”
想像するだけで、自然とにやけてしまう。

思わず小さくつぶやいた。
「迅さんのことが、好きだ……」

胸の奥で、愛されることの温かさを噛みしめながら、俺はますます赤面した。

甘えん坊な自分が、これほどまでに愛されているなんて、信じられない気持ちと嬉しさが入り混じる。

(……迅さん、いつもありがとう……俺、本当に幸せだよ)

そう思いながら、俺は照れ笑いを浮かべつつ、胸の高鳴りを感じる。

みんなが言う無自覚の、甘えたな自分が、迅さんの愛をより強く引き出しているんだ、と思うと、なんだか恥ずかしくて迅さんの顔が見れなくなってしまった……。



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