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第三部
Ⅶ
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白いテントが並ぶガーデンには、
緑の芝と花の香り、そして穏やかな風。
チャペルでの式を終えた俺たちふたりが、
祝福の拍手に包まれながら入場すると、
みんなが笑顔で迎えた。
「直樹、きれいだったよ!」
「迅さん、かっこよかったですよ!」
「二人とも、おめでとう!」
笑いと涙の入り交じる声。
俺は照れくさそうに頬を赤らめながら、
何度も「ありがとう」と頭を下げた。
司会の声が、ガーデンに明るく響いた。
「それではここで――お二人の“初めての共同作業”、
ウエディングケーキ入刀です!」
わぁっ、と歓声が上がる。
花で飾られた白い三段ケーキが、テーブルの上で輝いていた。
陽の光を受けて、リボンやベリーがきらきらしている。
「直樹、いくぞ」
「う、うん……!」
迅さんと並んでナイフを手に取る。
一瞬だけ視線が合って、心臓がどくんと跳ねた。
「せーの!」
二人でナイフを入れると、
拍手とフラッシュの音がいっせいに上がった。
その瞬間、なんだか世界がぱっと明るくなった気がした。
「はい! お二人の初めての共同作業、大成功です!」
司会の声に続いて、
「次は――ファーストバイトです!」
歓声が一段と大きくなる。
「直樹、やるしかないな」
「えっ……や、やるの!?」
「みんな見てるぞ」
迅さんの笑みが優しくて、俺はもう顔が真っ赤だった。
司会の女性がフォークを渡してくれる。
「まずは新婦の直樹さんから、新郎の迅さんへ!」
「は、はいっ」
フォークにケーキを乗せる。
でも思ったよりもケーキが大きくて、
ぐらぐらして、
「えっ、あっ……」
と慌てているうちに――
「直樹、大丈夫だ。ゆっくりでいい」
「う、うん……じゃあ、あーん……」
迅さんが少しかがんで口を開く。
その顔が近くて、
手が震えて、
結果――
「……!? お、おっきすぎた……!」
ほっぺたにケーキがついた迅さん。
会場が爆笑に包まれた。
「わー! 大胆!」
「愛情たっぷりですね~!」
俺はもう顔から火が出そうだった。
「ご、ごめんなさいっ!」
「いや、甘くてうまい」
迅さんが笑いながら、指でクリームをぬぐって、
そのままペロリと舐めて見せた。
「……っ!」
歓声がさらに大きくなる。
「次は、新郎の迅さんから、直樹さんへ!」
今度は、迅さんが、小さくケーキを切り取って、
優しくフォークを差し出す。
「ほら、直樹。あーん」
その声の優しさに、
直樹は涙が出そうになった。
「……あーん……」
ケーキが口に入る。
ふわふわで、甘くて、
それよりも、迅さんの笑顔が甘すぎた。
「おいしい?」
「……うん。すごく」
二人の笑顔に、また拍手が沸き起こる。
料理が並び、談笑が弾み、
少し場が落ち着いたころ――司会の声が響く。
「ここで、新郎の直樹さんからご両親へのお手紙があります」
一瞬、静まり返る。
俺は胸のポケットから丁寧に折りたたまれた便箋を取り出し、
マイクを受け取った。
「……あの、ちょっと長くなるかもしれませんけど、聞いてください」
小さな笑いが起きる。
でも、すぐにまっすぐな響きを取り戻した。
⸻
お父さん、お母さん。
いままで本当にありがとう。
俺がオメガだってわかったとき、
どうしていいかわからなくて、
怖くて、泣いてばっかりいたけど、
お母さんが“直樹は直樹でしょ”って笑ってくれて、
お父さんが“そんなん気にすんな”って頭をくしゃくしゃにしてくれて――
あの時、救われました。
うまくいかないこともあったけど、
いつも“失敗しても大丈夫だ”って背中を押してくれて、
その言葉が、今の僕をつくってくれました。
だから、今日ここで、
ちゃんとありがとうを言いたかったです。
育ててくれて、信じてくれて、本当にありがとう」
読みながら、声が震える。
両親は涙ぐみながら笑っていた。
母が口に手を当て、父が黙ってうなずいている。
弟の智樹も泣いている。
司会が優しく促す。
「そして……もう一通、直樹さんからの手紙があります」
ざわ、と場が少しざわめいた。
迅さんが驚いたようにこっちを見つめる。
俺は照れ笑いを浮かべて、もう一枚の手紙を開く。
⸻
そして――迅さんへ。
最初に出会ったとき、
俺はたぶん、ものすごく生意気で、
仕事もできなくて、失敗ばっかりしてました。
迅さんはオメガが苦手って聞いてたから、
嫌われないようにしよう、
迷惑かけないようにしようって、
必死でした。
でも、どんなときも迅さんは、
ちゃんと俺のことを見てくれてました。
叱ってくれて、励ましてくれて、
気づいたら――俺は、迅さんのことが好きでたまらなくなってました。
仕事のときも、家に帰るときも、
同じ時間を過ごすたびに、
“この人と一緒にいたい”って思いました。
不器用な俺を選んでくれて、
守ってくれて、愛してくれて――ありがとう。
これからは俺が、迅さんを守ります。
たくさん笑って、たまに泣いて、
それでもずっと一緒にいられるように、頑張ります。
迅さん、これからもよろしくお願いします
⸻
読み終えた瞬間、
静かな拍手が、次第に大きな波のように広がっていった。
俺は涙で目を潤ませながら、
迅さんを見た。
迅さんは椅子から立ち上がり、
真っ直ぐに歩み寄ってくる。
人前なんて関係なく、
静かに、でも確かに抱き寄せて――
「……ありがとう。直樹。
俺の方こそ、よろしくな」
その声が耳に届いた瞬間、
こらえていた涙が、あふれた。
風がやさしく吹いて、花びらが二人のまわりを舞う。
――幸せって、きっと、こういう瞬間なんだ。
胸の中でそう呟いて、笑いながら涙をぬぐった。
陽の光の下、花びらが舞って、
二人のまわりは笑顔でいっぱいだった。
――この瞬間を、一生覚えておきたい。
俺はそう思いながら、
迅さんと手をつないで、照れくさく笑い合った。
緑の芝と花の香り、そして穏やかな風。
チャペルでの式を終えた俺たちふたりが、
祝福の拍手に包まれながら入場すると、
みんなが笑顔で迎えた。
「直樹、きれいだったよ!」
「迅さん、かっこよかったですよ!」
「二人とも、おめでとう!」
笑いと涙の入り交じる声。
俺は照れくさそうに頬を赤らめながら、
何度も「ありがとう」と頭を下げた。
司会の声が、ガーデンに明るく響いた。
「それではここで――お二人の“初めての共同作業”、
ウエディングケーキ入刀です!」
わぁっ、と歓声が上がる。
花で飾られた白い三段ケーキが、テーブルの上で輝いていた。
陽の光を受けて、リボンやベリーがきらきらしている。
「直樹、いくぞ」
「う、うん……!」
迅さんと並んでナイフを手に取る。
一瞬だけ視線が合って、心臓がどくんと跳ねた。
「せーの!」
二人でナイフを入れると、
拍手とフラッシュの音がいっせいに上がった。
その瞬間、なんだか世界がぱっと明るくなった気がした。
「はい! お二人の初めての共同作業、大成功です!」
司会の声に続いて、
「次は――ファーストバイトです!」
歓声が一段と大きくなる。
「直樹、やるしかないな」
「えっ……や、やるの!?」
「みんな見てるぞ」
迅さんの笑みが優しくて、俺はもう顔が真っ赤だった。
司会の女性がフォークを渡してくれる。
「まずは新婦の直樹さんから、新郎の迅さんへ!」
「は、はいっ」
フォークにケーキを乗せる。
でも思ったよりもケーキが大きくて、
ぐらぐらして、
「えっ、あっ……」
と慌てているうちに――
「直樹、大丈夫だ。ゆっくりでいい」
「う、うん……じゃあ、あーん……」
迅さんが少しかがんで口を開く。
その顔が近くて、
手が震えて、
結果――
「……!? お、おっきすぎた……!」
ほっぺたにケーキがついた迅さん。
会場が爆笑に包まれた。
「わー! 大胆!」
「愛情たっぷりですね~!」
俺はもう顔から火が出そうだった。
「ご、ごめんなさいっ!」
「いや、甘くてうまい」
迅さんが笑いながら、指でクリームをぬぐって、
そのままペロリと舐めて見せた。
「……っ!」
歓声がさらに大きくなる。
「次は、新郎の迅さんから、直樹さんへ!」
今度は、迅さんが、小さくケーキを切り取って、
優しくフォークを差し出す。
「ほら、直樹。あーん」
その声の優しさに、
直樹は涙が出そうになった。
「……あーん……」
ケーキが口に入る。
ふわふわで、甘くて、
それよりも、迅さんの笑顔が甘すぎた。
「おいしい?」
「……うん。すごく」
二人の笑顔に、また拍手が沸き起こる。
料理が並び、談笑が弾み、
少し場が落ち着いたころ――司会の声が響く。
「ここで、新郎の直樹さんからご両親へのお手紙があります」
一瞬、静まり返る。
俺は胸のポケットから丁寧に折りたたまれた便箋を取り出し、
マイクを受け取った。
「……あの、ちょっと長くなるかもしれませんけど、聞いてください」
小さな笑いが起きる。
でも、すぐにまっすぐな響きを取り戻した。
⸻
お父さん、お母さん。
いままで本当にありがとう。
俺がオメガだってわかったとき、
どうしていいかわからなくて、
怖くて、泣いてばっかりいたけど、
お母さんが“直樹は直樹でしょ”って笑ってくれて、
お父さんが“そんなん気にすんな”って頭をくしゃくしゃにしてくれて――
あの時、救われました。
うまくいかないこともあったけど、
いつも“失敗しても大丈夫だ”って背中を押してくれて、
その言葉が、今の僕をつくってくれました。
だから、今日ここで、
ちゃんとありがとうを言いたかったです。
育ててくれて、信じてくれて、本当にありがとう」
読みながら、声が震える。
両親は涙ぐみながら笑っていた。
母が口に手を当て、父が黙ってうなずいている。
弟の智樹も泣いている。
司会が優しく促す。
「そして……もう一通、直樹さんからの手紙があります」
ざわ、と場が少しざわめいた。
迅さんが驚いたようにこっちを見つめる。
俺は照れ笑いを浮かべて、もう一枚の手紙を開く。
⸻
そして――迅さんへ。
最初に出会ったとき、
俺はたぶん、ものすごく生意気で、
仕事もできなくて、失敗ばっかりしてました。
迅さんはオメガが苦手って聞いてたから、
嫌われないようにしよう、
迷惑かけないようにしようって、
必死でした。
でも、どんなときも迅さんは、
ちゃんと俺のことを見てくれてました。
叱ってくれて、励ましてくれて、
気づいたら――俺は、迅さんのことが好きでたまらなくなってました。
仕事のときも、家に帰るときも、
同じ時間を過ごすたびに、
“この人と一緒にいたい”って思いました。
不器用な俺を選んでくれて、
守ってくれて、愛してくれて――ありがとう。
これからは俺が、迅さんを守ります。
たくさん笑って、たまに泣いて、
それでもずっと一緒にいられるように、頑張ります。
迅さん、これからもよろしくお願いします
⸻
読み終えた瞬間、
静かな拍手が、次第に大きな波のように広がっていった。
俺は涙で目を潤ませながら、
迅さんを見た。
迅さんは椅子から立ち上がり、
真っ直ぐに歩み寄ってくる。
人前なんて関係なく、
静かに、でも確かに抱き寄せて――
「……ありがとう。直樹。
俺の方こそ、よろしくな」
その声が耳に届いた瞬間、
こらえていた涙が、あふれた。
風がやさしく吹いて、花びらが二人のまわりを舞う。
――幸せって、きっと、こういう瞬間なんだ。
胸の中でそう呟いて、笑いながら涙をぬぐった。
陽の光の下、花びらが舞って、
二人のまわりは笑顔でいっぱいだった。
――この瞬間を、一生覚えておきたい。
俺はそう思いながら、
迅さんと手をつないで、照れくさく笑い合った。
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