当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音

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春告げの宴⑤

報告会の翌日。

王宮の廊下は祝賀の準備で慌ただしかった。

花飾りと紋章旗が並び、春の風が吹き抜ける。

その中で、僕は一人、回廊の影に立ち止まっていた。

マルクに促されて祝賀会の支度をしていたはずが、胸がざわついて落ち着かない。

「……僕が、殿下の隣に立つなんて」

思わず口に出ていた。

「その自信のなさ、あなたらしいわね」

ふいにかかった声に振り返ると、レイナ様がそこに立っていた。
光をまとったような薄桃色のドレス。
レイナ様は笑みを浮かべながら近づく。

「お怪我の具合はいかが?」

「え、あ……はい。もう大丈夫です」

「よかった。あの戦いのあと、ずっと目が覚めないって聞いて、気になっていたの」 

やさしい声だった。
それでも、僕は緊張して手をずっと握りしめてた。

「……僕、レイナ様に、謝らなくては」 

「謝る? 何を?」

「で、……殿下のことを……」

言葉が続かない。
レイナはふっと笑って首を振った。

「ああ、やっぱり。——ねぇ、あなたが“殿下”を好きだって、みんな気づいてるわよ」

「えっ!?」

「隠せてると思ってたの? 
殿下と目が合うたびに顔に出てたわよ」

僕は顔が熱くなって真っ赤になった。

レイナ様はそんな僕を見て、やさしく言葉を続ける。

「でもね、エリアス様。私はね、殿下を恋の相手としては見ていないのよ」

「……え?」

「殿下は尊敬すべき人。
殿下のお手伝いはしようと思うけれど、私が誰かを愛するとしたら——殿下ではないのよ」

レイナ様は遠くを見ていて、その眼差しはとても愛おしい。

エリアスは驚いて言葉を失った。

「だからね、エリアス様」

「……はい」

「あなたが殿下のことを想うのは、もう誰にも遠慮する必要なんてないの」

「でも……僕は——」

「大丈夫。自信を持って、ね」

レイナ様はまっすぐに言った。

優しくも、逃げ場を与えない言葉だった。

「恋をして傷つくのは、恥ずかしいことじゃないわ。
誰かを心から想える人は、強いの。
……あなたは、強い人よ」

その言葉に、胸の奥が熱くなった。
目の奥がじんわりと滲む。

「……ありがとうございます、レイナ様」

「いいえ。もう“様”なんて呼ばないで。私たち、もう仲間でしょ?」

「……はい」

レイナ様が笑う。

その笑顔が、春の日差しのように温かかった。
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