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春告げの宴⑥
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春を告げる祝宴の夜。
王宮の大広間は花と光に満ちていた。
シャンデリアの灯が金色の海のように揺れ、
弦楽器の穏やかな調べが、人々のざわめきを包み込む。
報告会を終え、王の御前での式典も滞りなく進んだ。
そして、戦いの終結と平和の回復を祝う宴が始まってた。
僕は会場の隅で乾いた喉を潤すように、グラスを手にする。
「大丈夫。エリアス様なら、ちゃんと笑顔でいられますよ」
マルクがそっと背中を押してくれる。
「……うん」
僕は緊張と自信のなさで、返事が消え入りそうになる。
マクシミリアン殿下の隣に立つ資格があるのか。
そう思うたびに、胸が締めつけられる。
でも、レイナ様の言葉が支えになっていた。
——逃げるのは、もうやめよう。
そのとき、楽団の音が静まり、国王陛下の名が告げられた。
続いて、王太子マクシミリアンの登壇を知らせる声。
白と赤の礼装に身を包んだ殿下が、壇上に立つ。
会場の空気が一瞬で変わった。
僕の鼓動も、自然と早まる。
「諸君。——この春を迎えられたことを、
心から誇りに思う」
国王陛下の堂々とした声が、広間を満たす。
「多くの者が、この国を、そして互いを守るために戦った」
マクシミリアン殿下の挨拶が始まった。
殿下の視線が静かに動いている。
「そこに——私が最も信頼する仲間がいる」
ざわめきが広がる。
マクシミリアン殿下の視線が、まっすぐに僕の方へ向いた。
僕は息を呑む。
「公爵令息、エリアス・アーデント」
マクシミリアン殿下が僕を呼ぶ声が、どこまでも優しく響く。
「彼の勇気と知恵がなければ、我々はこの春を迎えられなかった。
彼は私にとって、仲間であり、友であり——」
言葉が途切れる。
会場の空気が凍るように静まる。
マクシミリアンは深く息を吸い、
ーーその瞳に揺るぎない光を宿した。
「そして、私が生涯を賭けて守りたい人だ」
歓声でも悲鳴でもなく、
一瞬の“息を呑む音”だけが広間に満ちた。
「エリアス。——私の隣に来てくれないか」
誰もが動けない中で、僕は自然と足が前に進んでいた。
気づけば壇上の下で、マクシミリアン殿下を見上げていた。
「……僕なんかで、いいんでしょうか」
「“なんかで”なんて言うな」
殿下の声が、穏やかに、しかし熱を帯びて降りてくる。
「君でなければ、私はここまで来られなかった」
その瞳に映るのは、自分だけだった。
歓声が少しずつ、波のように広がる。
その時、壇上の脇で控えていたレイナ様が一歩前に出た。
「マクシミリアン殿下の言葉に、わたくしも賛同いたします」
そしてそっと、隣に立つアンドリア殿下を見上げて微笑む。
「——私たちも、共に歩むことを決めました」
アンドリア殿下と手をとる。
その言葉に会場がどよめき、
張りつめていた空気が柔らかくほどけていく。
マクシミリアン殿下が、僕の前で手を差し伸べた。
「エリアス」
その手を取る指先が、震えていた。
「……殿下」
「マクシミリアン、だ」
そっと訂正する声。
その響きに、胸が熱くなった。
「……マクシミリアン様。
僕は——あなたが好きです」
涙が頬を伝う。
会場のどこかで拍手が起き、それが次第に大きく広がっていく。
マクシミリアン殿下が僕の手を取り、そっと抱き寄せた。
春の風が窓から吹き抜け、花びらが舞う。
「これからも、共に在ってくれるか」
「はい。……いつまでも」
祝賀の鐘が鳴り響く中、
僕はその胸の中で小さく息をついた。
長く閉ざしていた心に、ようやく春を迎えられたように——。
王宮の大広間は花と光に満ちていた。
シャンデリアの灯が金色の海のように揺れ、
弦楽器の穏やかな調べが、人々のざわめきを包み込む。
報告会を終え、王の御前での式典も滞りなく進んだ。
そして、戦いの終結と平和の回復を祝う宴が始まってた。
僕は会場の隅で乾いた喉を潤すように、グラスを手にする。
「大丈夫。エリアス様なら、ちゃんと笑顔でいられますよ」
マルクがそっと背中を押してくれる。
「……うん」
僕は緊張と自信のなさで、返事が消え入りそうになる。
マクシミリアン殿下の隣に立つ資格があるのか。
そう思うたびに、胸が締めつけられる。
でも、レイナ様の言葉が支えになっていた。
——逃げるのは、もうやめよう。
そのとき、楽団の音が静まり、国王陛下の名が告げられた。
続いて、王太子マクシミリアンの登壇を知らせる声。
白と赤の礼装に身を包んだ殿下が、壇上に立つ。
会場の空気が一瞬で変わった。
僕の鼓動も、自然と早まる。
「諸君。——この春を迎えられたことを、
心から誇りに思う」
国王陛下の堂々とした声が、広間を満たす。
「多くの者が、この国を、そして互いを守るために戦った」
マクシミリアン殿下の挨拶が始まった。
殿下の視線が静かに動いている。
「そこに——私が最も信頼する仲間がいる」
ざわめきが広がる。
マクシミリアン殿下の視線が、まっすぐに僕の方へ向いた。
僕は息を呑む。
「公爵令息、エリアス・アーデント」
マクシミリアン殿下が僕を呼ぶ声が、どこまでも優しく響く。
「彼の勇気と知恵がなければ、我々はこの春を迎えられなかった。
彼は私にとって、仲間であり、友であり——」
言葉が途切れる。
会場の空気が凍るように静まる。
マクシミリアンは深く息を吸い、
ーーその瞳に揺るぎない光を宿した。
「そして、私が生涯を賭けて守りたい人だ」
歓声でも悲鳴でもなく、
一瞬の“息を呑む音”だけが広間に満ちた。
「エリアス。——私の隣に来てくれないか」
誰もが動けない中で、僕は自然と足が前に進んでいた。
気づけば壇上の下で、マクシミリアン殿下を見上げていた。
「……僕なんかで、いいんでしょうか」
「“なんかで”なんて言うな」
殿下の声が、穏やかに、しかし熱を帯びて降りてくる。
「君でなければ、私はここまで来られなかった」
その瞳に映るのは、自分だけだった。
歓声が少しずつ、波のように広がる。
その時、壇上の脇で控えていたレイナ様が一歩前に出た。
「マクシミリアン殿下の言葉に、わたくしも賛同いたします」
そしてそっと、隣に立つアンドリア殿下を見上げて微笑む。
「——私たちも、共に歩むことを決めました」
アンドリア殿下と手をとる。
その言葉に会場がどよめき、
張りつめていた空気が柔らかくほどけていく。
マクシミリアン殿下が、僕の前で手を差し伸べた。
「エリアス」
その手を取る指先が、震えていた。
「……殿下」
「マクシミリアン、だ」
そっと訂正する声。
その響きに、胸が熱くなった。
「……マクシミリアン様。
僕は——あなたが好きです」
涙が頬を伝う。
会場のどこかで拍手が起き、それが次第に大きく広がっていく。
マクシミリアン殿下が僕の手を取り、そっと抱き寄せた。
春の風が窓から吹き抜け、花びらが舞う。
「これからも、共に在ってくれるか」
「はい。……いつまでも」
祝賀の鐘が鳴り響く中、
僕はその胸の中で小さく息をついた。
長く閉ざしていた心に、ようやく春を迎えられたように——。
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