(新章開始)当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音

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当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします

旅立つ二人①

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昼下がりの王宮は、陽光が柔らかく差し込み、白い石畳にあたたかな光を散らしていた。

「きゃぁ~……っ、きゃっ、きゃっ」
セリオが両手を伸ばし、何か見えないものを追うように、ふらふらと前へ走っていく。

その瞳はまっすぐ。
普段は慎重なはずのセリオが、迷いなく光に導かれるように。

アレクシオはその後ろで、くすぐったそうに笑いながら、ちょこちょことセリオの後を追いかける。
「きゃっ、あぁー!」
「あ、あっ!」 

言葉にはならないけれど、兄弟の世界がそこにある。
(セリオが光を見つけて、僕にも見せてくれてる──)
そんな心が自然と伝わるようだった。

少し離れて、僕は微笑みながら見守る。
乳母アリシアが手を伸ばし、従者マルクが静かに周囲を警戒して歩いている。

しかし──その瞬間、空気がふっと変わった。

聖印が、僕の胸元で温かく震えた。

次の瞬間、足元に光が走り、床に文様が浮かび上がる。
静かに、神秘的に、だが確かに。

ーー転移紋。

「……っ!?」
僕は一歩前に出て、思わず双子たちを抱き寄せる。
セリオはきらきらした光を掴もうとし、アレクシオは兄を真似して小さく手を伸ばす。

けれど、僕の胸には一瞬、冷たい恐怖が走った。
(連れていかれる……? この子たちが──)

「マルク、殿下を……!」
声は落ち着いていたが、指先は震えていた。

マルクがすぐに走り出す。



数分後、こちらに駆けてくる足音。
強く、急いで、まっすぐに。

マクシミリアン殿下が駆け込んできた。
こちらを見た瞬間、光る魔法陣に目を見張る。

「エリアス!」

僕は双子を抱いたまま振り返り、ほっと息を漏らした。
「マクシミ……陣が……突然……」

僕の声は、心細さを隠せていなかった。
マクシミリアン殿下は一瞬で距離を詰め、僕ごと双子を抱き寄せる。
「大丈夫だ。俺がいる」

その低くてあたたかな声に、僕の肩の力がふっと抜けた。
胸の奥のざわつきが、すこしだけ静まる。

光はまだ消えず、静かに世界の境界を照らしている。

これからの旅路を、そっと呼ぶように。



魔法陣の光が収まり、警戒態勢のまま静けさが戻る。

双子は興奮のあとで眠気が来て、
アレクシオがこすこすと目をこすり、
セリオはアレクシオの袖をつかんだまま、ぽてっと座り込む。

アリシアが「あら、眠たくなったのね」と微笑んで抱き上げ、
マルクがもう一人を抱いて控えの侍女に手際よく託す。

僕が双子の髪をそっと撫でて、
「ゆっくりおやすみ」と小声で言う。

そこでマクシミリアン殿下が護衛に簡潔に指示する。

「この周辺を封鎖しろ。魔術師団も呼ぶ。痕跡を残すな」

護衛たちが蜘蛛の子散らすように、動き出すのを背景に、僕の腕をそっと取るマクシミリアン殿下。

「エリアス、すぐに調べる」

僕は息を少し吐いて、
「……うん。僕も見たい」

2人で、視線を交わし、ほんの一瞬だけ指を絡める。
さっきの恐怖が、隣にいることでやっとほどけていくような気がした。

「図書塔へ。古文書と、宮廷魔導師長にも話を」
マクシミリアン殿下が僕の手をとる。
僕たちは二人で駆け足でその場をあとにした。

去っていく僕たちの背中を、アリシアがそっと見送っていた。

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