当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音

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当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします

精霊界の試練④

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それから、また進む。
霧が淡く揺れる中、光の柱の間にアレクシオとセリオの双子の幻影が現れた。
二人と同じ姿の、しかし表情は無邪気で、どこか手の届かない存在。

「……アレクシオとセリオ……?」
僕は戸惑いながらも、手を強く握り返す。

精霊の声が響く。
「互いの愛、そして無償の愛を示せ。手を離す者は道を失う」

アレクシオとセリオの双子の幻影は僕たちを引き離そうと、柔らかな光の腕で手を押す。
「離れないよ……!」
マクシミが僕の手をさらに強く握り、背後から支える。

僕は小さく目を閉じ、静かに祈る。
「どうか……マクシミリアンを、そしてこの子たちを、守ってください」
祈りの言葉が霧の中に光となって広がると、双子の幻影の表情が少しずつ柔らかくなる。

しかし、幻影はまだ道を塞ぐ。力だけでは進めない。
「私の役目は、お前を守ることだ。絶対に離さない」
マクシミは身体全体で私を支え、手を離さず、前に進もうとする。

僕の祈りと、マクシミの守る力が重なった瞬間、双子の幻影は微笑み、光の道を指し示した。
霧が晴れ、柔らかな光の橋が現れる。
二人の手は離れず、互いの温もりが確かに感じられる。

「……進めるね」
「ああ、一緒なら、どこでも行ける」

二人は笑みを交わしながら、光の道を歩き出す。
双子の幻影の試練は、互いの愛と信頼、そして他者への無償の愛を心で示すことで乗り越えられた。


「おうおう、順調じゃん。ちゃんと最後まで、手、離しちゃダメだよぉ。
ちゃんと見せつけてねぇ」

フィルが笑いながら僕たちを見ていた。

それからまた光の道を歩いていた。
もうずいぶん歩いているのに。
「ねえ、どのくらい歩いたのかな。今はもう夜なのかな。」
僕が思ってることを話す。
「ここには時間とか距離とか、そういうのはないんじゃないか」

「キラーン。
よくわかったね、ここにはそんなものはないんだ。
お腹空かないでしょ」
フィルに言われて、お腹をさすってみたけど、本当だ。
お腹もすかないし、トイレに行きたいとも思わない。

「だから安心して。
帰っても全然、時間経ってないから」
フィルはいたずらっぽく笑うとまたどこかに消えていった。


それから僕たちは、終わりのない光の階段を登る。
上り切った先は、霧がほどけ、静寂が広がっていた。

風も、光も、音さえも透明な場所。
そこにただ白い花だけが咲いている草原があった。

僕が息を飲む。
手を繋ぐ指先が小さく震えた。

「ここが……」

マクシミは僕の手を握り直す。
戦で鍛えた掌が、今はただ優しい。

「女神の御座……」
僕の瞳が潤む。
これは旅の疲れではない。
ここまで来られた、その奇跡に。

光が柔らかく揺れ、
草原の中心に銀の水面が浮かび上がる。

水鏡の上に、
淡い黄金の光が静かに立ち上がった。

声は聞こえない。
けれど、心が震えた。
魂が呼ばれている──

マクシミが低く囁く。
「……エリアス。お前の願いを、届けに来たんだ」

僕はそっと祈りの印を結ぶ。
姿勢は自然に、凛として美しく。

「……女神さま。
どうか……私たちに、道をお示しください」

足元の光が優しく僕たちを包む。
光は祝福のようで、試しのようでもある。

祈りと守り。
僕たちが重ねてきた旅が、
今、運命の扉の前にある。


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