当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音

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当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします

祈り満ちる街②

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静かな寝室。
蝋燭の炎が柔らかく揺れ、
窓の外にはうっすらと星の帯。

僕は布団の上で、マクシミの腕に身を預けている。

指は──当然のように絡んだまま。
手を離さない、もう、離せない。

「……なんだか、夢みたいだね」
僕が小さく笑う。
その声は夜の静けさに馴染み、柔らかく響いた。

「精霊界の風の匂い、まだ覚えてる」
「忘れないさ」
マクシミが頬を寄せる。
「君が震えるたび、手を握った」
「……うん。握っててくれた」

僕の耳が赤くなるのがわかる。
嬉しくて、恥ずかしくて、胸が温かい。

「僕ね」
マクシミの方を見上げる。
「迷ったり、怖くなったりもしたけど……
でも、マクシミがそばにいてくれたから、
“祈る”って、強くなれることなんだって思えた」

マクシミの指が、そっと僕の指先を撫でる。
愛おしさを確かめるように。

「君の祈りは弱さじゃない。力だ」
「……僕も、そう思えるようになったよ」
「私も同じだ。守るだけが強さだと思っていた」
「ふふ。今は?」
「君に守られている俺は、誰より強い」

僕の胸が震える。
目を伏せ、マクシミの肩に額をこすりつけた。

「マクシミ……、ずるい」
「本当のことだ」

しばし、静寂。
炎がパチ、と小さく鳴る。

「……ねぇ」
小さく問いかける。
「これからの世界、僕たちはどう作っていくの?」

マクシミは少し考えて、僕の髪を撫でながら答えた。

「祈りだけでも、力だけでも、支えられない世界だ」
「うん」
「人が人を想う力と……君と俺が示す“信じる形”で、
ゆっくりと、灯を戻していこう」

僕は息を飲み、そっと目を閉じる。
その言葉は胸の奥に、静かな火を灯した。

「子どもたちも、きっと……、なにか、大事なものを持っているのかもしれない」
マクシミの声が少し震えている。
「この世界で、最も望まれた子たちだよ」
「うん」
「私たちがこの世界を守る理由が、またひとつ増えたな」

僕の目が優しく細まる。

「僕、あの子たちに教えたい」
「何を?」
「祈ることと、誰かの手を離さない強さ」

マクシミが優しい、慈愛の満ちた顔をしている。
僕を腕に抱いて、頬をよせている。
ーーこの世界で何より、愛しい。

「俺も教えよう」
「……ふふ、何を?」
「君がどれほど美しくて、強くて、愛しい人か」
「やめてってば……恥ずかしい……」

僕は声が震えていて、ぎゅっとマクシミの手を握る。

「……でも……ありがとう」

二人は額を寄せ合う。
呼吸が混ざる距離で、囁く。

「エリアス」
「……なに?」
「愛している」
「……僕も。この世界で、いちばん。あなたを愛してる」

その言葉は、静かに世界に溶けていく。
祈りにも似た甘い響きで。

二人は指を絡めたまま、
そっと目を閉じる。

精霊界の旅で得たもの──

信じる心。
手を繋ぐ勇気。
そして、永遠に離れない絆。

僕たちはまだ手を離さず、布団の中で寄り添ったまま。
夜の闇が静かに包む。

「……眠くなってきたね」
僕が小さく呟く。

マクシミは微笑みながら、額をそっと彼の額に寄せる。
「寝てもいいよ、私がずっとそばにいるから」
「……うん」

僕たちの指は絡んだまま、時折握り直す。
その温もりだけで、互いに安心できる。

僕は小さく息を漏らし、胸に顔を埋めながら囁く。

「……ねぇ、キスしてもいい?」

マクシミは微笑み、そっと唇を重ねる。
静かで甘い、深く優しいキス。
長くもなく短くもなく、
互いの存在を確かめ合うように。

「……愛してる」
「僕も……愛してる」

夜の静けさに溶けるその声。
窓の外の星の光が、二人の額にそっと落ちる。

そして、布団の中で寄り添ったまま、二人は静かに眠りに落ちていった。


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