当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音

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当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします

祈り満ちる街①

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精霊界の旅を終えて、城に戻ると、そこは魔導師長の部屋ではなかった。

城の広間の窓から、柔らかい朝の光が差し込んでいた。
旅の疲れがまだ少し残っているけど、手を繋ぎながらゆっくり歩いていると、どこかいつもと違う感じがした。

僕の銀髪の内側、髪の根元に微かに金色が光っているのがわかる。
外から見ると気づかないほどだけど、光にかざすとほんのりと温かい輝きを帯びている。
紫の瞳には、旅の間に得た静かな力と、祈りの余韻が宿っているのがわかる。

マクシミも同じで、黒髪の内側に金色の光が差し込んでいて、琥珀色の瞳にわずかな光の輪が揺れている。
胸元から肩先にかけて、守護者としての威厳と、精霊の加護を帯びた柔らかな温かさが感じられる。

僕たちは互いを見つめて、無言のまま手を握りしめる。
言葉はいらない——
長い旅を共に歩いて、祈り、守り合った二人の絆が、今この瞬間、確かなものとして空気に漂っていた。

「……少し、変わったかな、僕たち」

微笑みながらマクシミが
「ああ。君も、私も……
光が内側から、少しずつ放っているみたいだ」

窓から差し込む光に、僕たちの髪の内側の金色がわずかに輝き、まるで精霊がそっと祝福しているように見えた。
まだすぐ見てわかる変化ではないけど、僕たち二人にははっきりと感じられる。

マクシミがそっと僕たちの肩に手を置く。
僕は顔を少し赤くして笑い、胸の中で手を握り返す。

「……僕たち、もっと強くなれるんだね」

「もちろん。二人で、守り、祈る限り」

内側から芽生えた金色の光は、まだ控えめだが、僕たち二人の胸に確かな希望を灯していた。
それはこれから広がる力の、ほんの始まり——

光が裂け、世界が戻る。


白い輝きの霧が晴れると、
そこは王宮の大聖堂──
祭壇の上に、僕たち二人が立っていた。

静寂。
次の瞬間、天井から光が降り注ぎ、
色ガラスが虹を落とす。

僕の白金の髪が光を弾き、
マクシミの肩に蒼い影の翼が揺らめく。

ざわめきが広がり、誰かが震える声で言う。

「……戻られた……」
「聖なる……お二人が……!」

兵も、侍女も、神官も、皆膝をついた。
涙を流しながら、祈るように手を合わせる。

その荘厳の中で、僕たちはそっと視線を交わした。

僕が小声で囁く。
「……帰って、きたね」

マクシミが微笑んで、僕の手をしっかりと握る。
「お前と一緒なら、どこへでも。ここが、私たちの世界だ」

音もなく、指が絡む。
その仕草だけが、世界の喧騒よりも強く響いた。


それから離宮に戻る。

「かかさま……?」
「ととさま……!」

幼い声が聞こえる。
アレクシオとセリオが侍女の手を振りほどいて、駆け出してくる。

僕の心が弾ける。
涙が一気に視界を滲ませた。

「――ただいま」

膝をついた瞬間、
二人の小さな天使たちが胸に飛び込んでくる。

温かい息。
柔らかな髪。
小さな手が僕の頬を触れる。

「おかえりなしゃい……!」
「いっしょ……!」

マクシミは腕を広げて、僕と子どもたちを包み込むように抱き寄せる。

世界の光より、この小さな命の重みが尊い。

そこへ、
「エリアスーーーっ!!!!」
「おかえり……!本当に……!」

レイナ様が泣き崩れていて、
アンドリア王子も人目も気にせず涙を拭わずに嗚咽している。

僕は笑いながら泣き、手を振る。

「ただいま……遅くなって、ごめんね」

レイナ様が、
「帰ってきてくれたらそれでいいの!!もうどこにも行かないで!!」

アンドリア王子
「兄上、エリアス、……よくぞ……よくぞご無事で……!」

僕はマクシミと手を繋いだままで、アンドリア王子の冷ややかな目線を感じる。
マクシミは少し照れながらも、しっかりと言う。

「私が離すと思うか?」
僕の手を握り直す。

ため息と涙と笑いが、世界中の祈りのように溢れた。


世界を守る者は、まず愛する者を抱きしめる。
その小さな奇跡が、この国の信仰を再び灯す。

二人の帰還は、戦勝でも儀式でもない。
愛が帰ってきた瞬間だった。


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