当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音

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当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件

プロローグ(エリアス)

──祈りは、風に乗って世界の果てへ届く。

夜明け前の神殿はひどく静かで、祈りの声だけが淡く響いていた。

冷たい大理石の床に膝をつき、いつものように両手を胸の前で組む。

今日もここで祈る時間が持てることに感謝して、
世界が平和でありますように。
誰かの涙がひとつでも少なく済みますように。

深く息を吐いた瞬間だった。

ふわり、と衣の裾が揺れた。
ひんやりとした風が頬を撫でた。
それはいつもの 精霊たちの訪れだとすぐに分かった。

『……ルヴァニエールの王……倒れた……』

小さな、でも確かに震える声。
胸の奥がぎゅうっと締めつけられる。

──ルヴァニエール国王陛下が……倒れた?

静かに立ち上がり、祈りを締めると、
すぐにマクシミリアンのもとへ向かった。

ドラヴァール国王陛下にも確認されて、
どうやら「重い病で伏せっているらしい」と知らされる。

ルヴァニエールの国王と親しいわけではない。
正直、アンドリュー殿下のことで会いたくない相手ではあった。
でも精霊の力を持って、ルヴァニエールへ帰ったらときに温かく迎えてくれた。
その笑顔が優しかったなぁ、と思い出す。

僕は胸に手を当てて、そっと祈った。

「……どうか。どうか、陛下が苦しみから解き放たれますように」

迷いはなかった。
それから僕は、自室に戻るとすぐに護符作りにした。

香草をすり潰す香りが静かに立ちのぼり、
祈りの言葉を書き込んだ紙に、ほんのりと淡い光が宿る。

さらに、祈りの言霊を込めたロザリオ──
珠をひとつひとつ通しながら、心を落ち着けていく。

ちいさな祈りを、珠に、紐に、光に封じ込めるように。

完成したそれらを包み、短い手紙を添えた。

「ルヴァニエール国王陛下のご快癒を、心より祈っております。
精霊のめぐみが陛下をお守りくださいますように」

ドラヴァール王家の使いに託し、僕は再び祈りへ戻った。


それから、時は流れ──
ルヴァニエールでは、倒れた国王に代わり、
巡察中のアンドリュー殿下が急ぎ帰還したと聞いた。

王位継承の準備が進んでいる、と。

なんだか、胸がざわついて、祈りの回数は自然と増えていった。

そんなある朝、精霊たちがまた訪れた。

『……王……光が戻った……』

その言葉を聞いた瞬間、肩から力が抜けて涙が滲んだ。

実際に届いた知らせは、
国王の容態が安定し、半年後──
アンドリュー殿下が無事に即位したというものだった。

「よかった……本当によかった……」

わたしは胸の前で手を組み、静かに感謝を捧げた。
精霊たちが届けてくれた祈りが、誰かを助けたのなら。
それだけで十分だった。


そして、
さらにその後、
アンドリュー陛下とジュリアン様の結婚式が開かれる、と報せが届いた。

思い返せばいろいろあった二人が、
こうして正式に夫婦になる。

嬉しくて、自然と頬が緩んだ。
僕は結婚式には出ないけど、お祝いとして、
祈りの力を宿す淡い光のブレスレットを作った。

二人が手を繋いだとき、
その光が優しく重なる──
きっと、未来を照らしてくれるように。

添える言葉は短いほうがいいかな。

包みに結びながら、そっとつぶやいた。

「結婚おめでとう。
祈りが、あなたたちを幸せへ導きますように」

そして、静かに目を閉じる。
遠い国にいるはずの二人の笑顔が、
暖かい光となって胸に広がっていった。

困難な道がおとずれようとも祈りの光が導いてくれるように。


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