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当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件
結婚式と小さな旅②
──今日という日は、奇跡のような日だ。
王城の鐘が、朝の空気を震わせた。
澄んだ青空の下、王都は祝祭のような活気に満ちている。
人々の声、花の香り、優しいざわめき──
すべてが、今日のために整えられているかのようだった。
侍女に衣装を整えられながら、
僕は静かに目を閉じる。
思えば、自分が王太子と結ばれる未来など、想像したことがなかった。
身分が違う。
分をわきまえなければならない。
諦めるのが当然だ──そう思っていた。
だが運命は残酷で、
――そして優しかった。
完璧な「当て馬」として現れたエリアス様。
利用する形で、彼の心を踏みにじってしまった過去。
そこから始まった苦しみと、罪の重さ。
アンドリュー様もまた、自分の弱さと向き合い、
二人で、同じ痛みを抱えて旅をした。
悔い、赦し、そして成長する長い長い道のり。
今日という日は、「終わり」ではなく
ようやく掴んだ「始まり」なんだと思う。
侍女たちが下がり、静かになった部屋で、僕は胸の前でそっと指を組んだ。
手首のブレスレットが、エリアス様の祈りを思わせる。
扉がノックされる。
「ジュリアン。……迎えに来た」
振り返ると、式の衣装に身を包んだアンドリュー様が立っていた。
柔らかく微笑むその姿は、かつての冷たさとはまるで違う。
「アンディ様……今日は、やけに優しい顔してます……」
「当然だろう」
アンドリュー様は近づくと、微笑みを浮かべながら僕の頬にそっと触れた。
「長いこと、君を待っていた」
胸がじんと熱くなる。
「……僕も。……あなたの隣に戻るまで、ずっと遠回りをした気がします」
「その間に、強くなったな」
アンドリュー様は優しく額を重ねる。
「君が誇らしいよ、ジュリアン」
僕たちは静かに見つめ合い──
短く、ぎゅっと抱きしめ合った。
式場へ向かう廊下には花弁が敷き詰められ、
陽光が反射して、淡く揺れる光の粒が漂っている。
民衆の歓声が遠くから聞こえ、
扉の向こうでは司祭と王族、貴族たちが待っている。
アンドリュー様が手を差し出す。
「行こう。……夫としての最初の一歩だ」
「はい。あなたとなら、どこへでも」
手を繋いだ瞬間、二人のブレスレットが微かに光る。
エリアス様の祈りがそっと寄り添うようだった。
扉が開かれ、光の中へ。
式は、誰もが息を呑むほど美しかった。
誓いの言葉を交わすたびに
僕の心は静かに満たされていく。
──これでようやく、あなたの隣に立てる。
アンドリュー様の瞳はただ一人、僕だけを映していた。
王都の人々が歓声を上げ、祝福の鐘が大きく鳴り響く。
僕は微笑んだ。
今日という日を、きっと一生忘れないだろう。
――だが、その祝福の最中。
式場の外から、
ばさばさ、と羽ばたくような音が聞こえた。
次いで、警備兵の険しい声。
「……何だ? 今の影は……」
「鳥か? いや、違う……魔物か?」
人々のざわつきが波紋のように広がる。
僕は振り返り、曇り始めた空を見上げた。
まるで祝福の光に混ざって、
黒い影がそっと忍び寄るような──
そんな予感が、胸をかすめた。
アンドリュー様が僕の肩に手を置く。
「大丈夫だ。何があっても、私が守る。君はもう一人じゃない」
その言葉に、僕は小さく頷いた。
祝祭の鐘は鳴り続ける。
しかし空の高みでは、小さな揺らぎが生まれていた。
二人の未来には、まだ越えるべき障壁がある。
だが、二人なら必ず乗り越えられる──
そんな確かな絆が、この日の証だった。
王城の鐘が、朝の空気を震わせた。
澄んだ青空の下、王都は祝祭のような活気に満ちている。
人々の声、花の香り、優しいざわめき──
すべてが、今日のために整えられているかのようだった。
侍女に衣装を整えられながら、
僕は静かに目を閉じる。
思えば、自分が王太子と結ばれる未来など、想像したことがなかった。
身分が違う。
分をわきまえなければならない。
諦めるのが当然だ──そう思っていた。
だが運命は残酷で、
――そして優しかった。
完璧な「当て馬」として現れたエリアス様。
利用する形で、彼の心を踏みにじってしまった過去。
そこから始まった苦しみと、罪の重さ。
アンドリュー様もまた、自分の弱さと向き合い、
二人で、同じ痛みを抱えて旅をした。
悔い、赦し、そして成長する長い長い道のり。
今日という日は、「終わり」ではなく
ようやく掴んだ「始まり」なんだと思う。
侍女たちが下がり、静かになった部屋で、僕は胸の前でそっと指を組んだ。
手首のブレスレットが、エリアス様の祈りを思わせる。
扉がノックされる。
「ジュリアン。……迎えに来た」
振り返ると、式の衣装に身を包んだアンドリュー様が立っていた。
柔らかく微笑むその姿は、かつての冷たさとはまるで違う。
「アンディ様……今日は、やけに優しい顔してます……」
「当然だろう」
アンドリュー様は近づくと、微笑みを浮かべながら僕の頬にそっと触れた。
「長いこと、君を待っていた」
胸がじんと熱くなる。
「……僕も。……あなたの隣に戻るまで、ずっと遠回りをした気がします」
「その間に、強くなったな」
アンドリュー様は優しく額を重ねる。
「君が誇らしいよ、ジュリアン」
僕たちは静かに見つめ合い──
短く、ぎゅっと抱きしめ合った。
式場へ向かう廊下には花弁が敷き詰められ、
陽光が反射して、淡く揺れる光の粒が漂っている。
民衆の歓声が遠くから聞こえ、
扉の向こうでは司祭と王族、貴族たちが待っている。
アンドリュー様が手を差し出す。
「行こう。……夫としての最初の一歩だ」
「はい。あなたとなら、どこへでも」
手を繋いだ瞬間、二人のブレスレットが微かに光る。
エリアス様の祈りがそっと寄り添うようだった。
扉が開かれ、光の中へ。
式は、誰もが息を呑むほど美しかった。
誓いの言葉を交わすたびに
僕の心は静かに満たされていく。
──これでようやく、あなたの隣に立てる。
アンドリュー様の瞳はただ一人、僕だけを映していた。
王都の人々が歓声を上げ、祝福の鐘が大きく鳴り響く。
僕は微笑んだ。
今日という日を、きっと一生忘れないだろう。
――だが、その祝福の最中。
式場の外から、
ばさばさ、と羽ばたくような音が聞こえた。
次いで、警備兵の険しい声。
「……何だ? 今の影は……」
「鳥か? いや、違う……魔物か?」
人々のざわつきが波紋のように広がる。
僕は振り返り、曇り始めた空を見上げた。
まるで祝福の光に混ざって、
黒い影がそっと忍び寄るような──
そんな予感が、胸をかすめた。
アンドリュー様が僕の肩に手を置く。
「大丈夫だ。何があっても、私が守る。君はもう一人じゃない」
その言葉に、僕は小さく頷いた。
祝祭の鐘は鳴り続ける。
しかし空の高みでは、小さな揺らぎが生まれていた。
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だが、二人なら必ず乗り越えられる──
そんな確かな絆が、この日の証だった。
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