魔王さまに抱かれるもふもふツンデレオオカミの僕

蒼井梨音

文字の大きさ
18 / 32

18.祝勝会を抜け出して

しおりを挟む
青年兵に囲まれていたリュカを奪い返し、ゼファールはリュカの手首を掴んだまま、祝勝会の喧騒からゆっくりと離れた。

外の空気が触れる静かな部屋の隅に来ると、リュカはようやくぷいと顔をそむける。

「……べ、別に困ってなかったし」
リュカの尻尾はばっさばっさ揺れている。

ゼファールは思わず口元を緩めた。
「嘘が下手すぎる。尻尾が喧嘩売ってるぞ」

「う、うるせー……!」

真っ赤になって反論するリュカの肩に、ゼファールがそっと手を添えた。
「……こっちへ来い」

それだけ言うと、リュカの返事も待たず、
そのまま魔王の私室へとゆっくり導いていった。

騎士も侍従も、魔王さまに連れていかれる少年を止める者はいなかった。
誰もが下がり、道を開けた。


ゼファールの部屋の重い扉が閉まると、外の喧騒は一気に消えた。

リュカは少しだけびくっとする。

「……ここ、ゼファの部屋じゃねぇか」

「そうだ。お前を落ち着かせる場所くらい、俺の部屋でいいだろう」

「別に落ち着いてるっつーの!」
と言い返すリュカの尻尾は、さっきよりさらに強烈に揺れている。

ゼファはため息をつきながら、リュカの額に指先で触れた。
その瞬間だった。

ふっと、リュカの魔力がゼファールの魔力に呼応した。

金色と紅の混ざる小さな光が、リュカの瞳に浮かぶ。

「……リュカ?」

リュカは息をのんだ。

「あ……な、なんか、胸の奥が、あつ……」

狼の耳がぴん、と立っている。
尻尾だけがゼファの腰にそっと巻きつき、リュカ本人は何が起こっているのか、わからない。

ゼファールは一瞬だけ驚いたけど、すぐにリュカの肩を両手で抱えた。

「大丈夫だ。怖いものじゃない」

「こ、怖くねぇって!」

震えているのに、言葉はツンツンしている。

ゼファールはその震えごと抱き寄せる。

胸に押し付けられたリュカの体から、微かに脈打つ魔力。
ゼファールの魔力を吸い寄せるように揺れていた。

──魔力の同調……

魔王だけが感じ取れる、特別な気配。

ゼファールはゆっくり息を吐いた。

「……お前は、俺の魔力に反応している。
どうしてかはまだ分からないけど……」

そして、リュカの耳元で低く続けた。
「――お前に触れられるのは、俺だけでいい」

リュカの体がびくっと跳ねた。
「はっ……!? なに言って……!」
リュカは、顔を真っ赤にして後ろに下がろうとするが、尻尾がゼファに絡んだまま離れない。

ゼファはそれに気づき、くすっと笑った。

「尻尾が嘘をつかせてくれないな」

「ち、ちがっ……これ勝手に……!」
リュカは完全にしどろもどろだ。

ゼファールはその可愛さに、胸の奥が強く疼くのを自覚しながら、そっとリュカの頭に手を置いた。

「……祝勝会は、もう十分だ。行かなくていい。疲れただろう?」

リュカは黙ってうなずき、
そのままゼファールの胸に額を押しつけた。

「……あいつら、なんでおれに構ってくんだよ。
……ゼファの、側にいたかっただけなのに……」

ぼそっと漏らされたリュカの小さな本音。

ゼファールはその言葉に、はっきりと胸が熱くなるのを感じた。

「そう言うなら、最初から俺から離れるな」

低く、静かな声で囁いた。

リュカは真っ赤なまま文句を言おうとしたけど、言葉に詰まり、ただ尻尾だけがゼファに巻きついていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

処理中です...