魔王さまに抱かれるもふもふツンデレオオカミの僕

蒼井梨音

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64.周年祭

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朝は、思ったよりも早く訪れた。

リュカは、まだ薄暗い部屋で目を覚ます。
窓の向こうは淡い光。春の気配が、空気の中に混じっていた。

隣を見る。

ゼファールはまだ眠っている。
深く、穏やかな寝息。
普段の堂々とした姿とは違う、無防備な横顔。

――今日は、がんばる。

胸の奥で、そっと言葉を刻む。
領主の伴侶として。
ゼファの隣に立つ者として。

そう思った、そのとき。

「……そんなに気負わなくていい」
低い声。

驚いて振り向くと、ゼファールが目を開けていた。
まだ眠そうなのに、こちらを見る眼は優しい。

ゼファールは、何も言わずに腕を伸ばし、リュカを抱き寄せる。
「リュカは、そのままでいいよ」
胸に押し込まれ、体温が伝わってくる。

昨日も聞いたはずなのに、この言葉は、何度聞いても胸に響いてくる。

リュカは少し迷ってから、こくんと頷いた。
「……うん」

ゼファは満足そうに、もう一度抱きしめる。

それから、静かに朝は動き出した。


式典の準備は、慌ただしい。

正装を整えられ、髪を結われ、いつもの服とは違う重みを身に纏う。
鏡に映る自分を見て、リュカは一瞬だけ息を呑んだ。
――もう、子どもじゃないな。

そう、はっきりわかる。

会場へ向かうと、すでに人々のざわめきが広がっていた。
周年祭。
この地が築かれ、多くの種族が共に暮らし始めた日を祝う祭。

リュカは、ゼファの隣に座る。
高座から見下ろす光景。
獣人も、亜人も、人間も、魔族も。
笑顔と祝福が入り混じる。

お祝いの言葉。踊り。音楽。

ゼファールは領主として堂々と応じ、
リュカもまた、伴侶として、隣で微笑み、視線を交わし、頷く。

――一緒に、ここにいる。

それだけで、胸が少し強くなる。
やがて、音楽が止まり、場の空気が変わった。

周年祭が進み、ゼファールが前へ出た。
「この地が、今日を迎えられたのは
ここに集うすべての者が、それぞれの立場で力を尽くしてきたからだ。
人も、獣人も、亜人も、魔族も。
出自も種も違えど、同じ土地に根を下ろし、共に生きてきた。
俺は、その歩みを、誇りに思う」

ゼファールは、ここで一度、会場を見渡した。

……よく、ここまで来たな。俺は、この先もこの地を導く。
そして、お前たちと共に進む」

静寂が訪れた。
それから拍手が始まっていく。

「……魔王さま」
「魔王さま!」
「魔王さまー!」

集まった民衆の声に呼応するように、
「――俺には、共に未来を築くと決めた相手がいる」
ゼファールが、リュカの手を取って、一歩前に出る。
強くない。
でも、確かに繋がる温もり。

「――これより、婚約の儀を執り行います」
司祭のその言葉に、心臓が跳ねる。

リュカは、ゼファールの方を見る。
ゼファールは、落ち着いた表情で頷いた。

――大丈夫だ。

そう言われている気がして、
リュカは、背筋を伸ばし、前を向いた。

二人は、共に立ち上がる。

これから始まるのは、ただの儀式ではない。

隣に立ち、選び、歩いていくという誓い。

リュカは、その一歩を踏み出した。



※年明けるまでに、もう1話あげたかっんですが、間に合わなかったです。。。


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