強くなりたいと言ったら、元魔王に開発調教されていました~宝石姫と元魔王の恋物語~

花虎

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9-2.


「きゃぁあああああ!!」
「ぅわぁああああ」


びしゃびしゃと、フィンリーの頭に血の雨が降り注ぐ。どろりとした鮮血を全身にかぶり、フィンリーは息を飲んだ。
 視線を上げれば、一段高いところでこちらを見下ろしていた人間たちの半数以上が、上半身を切断されて絶命していた。

「は……はははは!素晴らしい!」

同時に、自分の目の前まで肉薄していたタッタリアは、ごっそりと脇腹が抉れている。だというのに、タッタリアは頬を紅潮させ、歓喜の声を上げる。

「やはり貴方は最高だ!レストヴィータ様!」

フィンリーの後方から、がらり、と吹き飛んだ屋根の瓦礫が崩れる音がして、それ、が現れたことを示した。

「力加減間違えたな……」

つまらなさそうに、吐き捨てるように言ったその声、は。いつもフィンリーを導いてくれていた、あの、声。

「ひぃいいい!化け物……!誰かぁあ!」

ギリギリで生き残った人間が泣きわめきながら逃げようとするが、レストがそちらへ視線をくれただけで、その体がはじけ飛んだ。
阿鼻叫喚の世界の中、フィンリーだけは振り向けずにいた。

 だって、そんな、まさか。

眼前にいるタッタリアが、恍惚とした表情でフィンリーの後方にいる相手へ両手を伸ばした。

「さぁ、貴方の大切な宝石を奪い、壊した私に罰を与えてください!」

倒錯したような爛々と輝く漆黒の瞳が、訴える。けれど、求められた者は、その願いに応えることはない。

「ぅわ、どろどろになっちゃいましたねぇ、すみません」

ひょこん、といつもの調子で、フィンリーの顔を後ろから覗き込んできたのは、狐顔の胡散臭い笑顔を張り付けた男。
 違うのは、その髪が、瞳が、いつもとは違って漆黒であるということ。

「レ……ストせんせ……」
「はいはい。先生ですよ」

気の抜けるようなのほほんとした返事をしながら、レストは縮こまって固まってしまったフィンリーを軽々と抱き上げた。じゃらり、と合わせてなった足枷と鎖をレストが視線を送っただけで、パキン、と割れて落ちた。
 そのまま大きな翼を広げて飛び立とうとしたレストを、魔力の塊が襲う。
 まるで火花が散るように大きなスパークがレストの周りに発生する。

「レストヴィータ様!何故私に応えてくれぬのですか!」

横っ腹を抉られてなお、しっかり二本の足で立ったタッタリアの攻撃だと、理解する。
 何?彼は一体何を……
レストの胸元の服をぎゅう、と掴むと、レストはちろ、とそれを見た後、面倒臭そうにようやっとタッタリアを視界にいれた。

「お前、うるさい」

にべもない一言と共に。

「ぐ……っ」

タッタリアが大きな目に見えない空気の塊に殴られるように、吹き飛んだ。そのまま、瓦礫の中へと突っ込んでいく。

 え……えぇえええ

フィンリーが恐怖した相手を、うるさい、の一言だけで吹き飛ばした。
 レスト先生って……
見上げると、フィンリーの視線に気づいたレストがいつもの胡散臭い笑顔を浮かべる。

「怖いですか?」

口調も、顔も、フィンリーのよく知るレストだけれど、何かが違う。その瞳の奥に深淵の闇を宿していた。
 それは、先ほどフィンリーが感じたものとは、次元が違うもの、だ。

 ガラガラと、瓦礫からタッタリアが立ち上がる。その背には翼が広がり、頭には細長い角が生えていた。見た感じダメージをほぼ食らっていないどころか、抉れた脇腹が煙をあげながら修復されていっている。

「素晴らしい……素晴らしい!素晴らしい!!」

雄叫びと共に、ばさぁ、とタッタリアが翼を大きく広げる。と、そのすぐ傍に腰をぬかした公爵がいた。

「た……タッタリア何をしている!こいつらを殺……」

最後まで言い終わる前に、公爵の首が飛ぶ。タッタリアの指先には、その血がべっとりとついていた。

「やはり、貴方は王になるべきだ。レストヴィータ様」

恍惚とした表情を崩さぬまま、タッタリアが両手を広げる。

「三百年前、気まぐれに王座を捨てた貴方を、どれだけ探したか」

 王座を捨てた……?何……?

あまりにも衝撃な言葉の数々に、フィンリーの頭が追い付かない。レストは張り付けたような笑顔のまま、すげなくタッタリアに答える。

「そんなもの、お前にくれてやりますけど」
「お戯れを……!私などに務まるわけがありますまい。唯一、私に死の恐怖を与えられるのも、死の狂喜を与えられるのも、貴方様だけ……!」

熱い語りを聞いているレストのこめかみに、うっすら青筋が立っているのが見える。
 なんとなくだけど、レストは普段から笑顔を張り付けているくせに、気は長くない。いや……多分短い。

「せ、先生……僕が言うのもなんだけど……あの人……先生のこと……好き……?なのでは?」

 恐る恐る言うと、レストの目に殺意が籠った。

「タッタリアは私に何度も殺されかけて、頭がおかしいんですよ」

まともに相手してはいけません、と諭される。まぁ、確かに、かなりアレな感じはするけれど。

「そぅ、貴方はいつも寸でのところで私を殺してくれない。だから今回は貴方が大切にしている宝石を砕くことにしたのです。そうすれば貴方は、私を心の底から憎むでしょう?」

 タッタリアの目が弧を描く。その笑顔が奇妙で、恐ろしくて、フィンリーは再びレストの胸に顔を埋めた。
 ちら、と横目でフィンリーを見て、それからレストの顔から笑顔が消える。射るような真っすぐな視線が、タッタリアを捉える。

「……お前の目は節穴か」
「貴方ほどの方が、そんな脆弱な存在に拘られるべきではありません」

貴方に相応しいのは、もっと気高く、強く、この世界を飲み込むほどの悪意だ、と。陶酔したように語るタッタリアに、レストははぁ、とため息一つ。

「お前にこいつの価値なんざわかってほしくもねぇが」

そのままフィンリーを抱えていない方の右手を前に出す。這うような黒い魔力が、ずずず、とレストの足元からあがってくる。禍々しいはずのそれは、フィンリーの身体をも撫でていくけれど、嫌悪感がまったく生まれない。
 それどころか、懐かしささえ感じる。なんでだろう、と考えた時、ふと思い出した。いつも自分に流し込まれて刻まれる紋様。あれは、レストの魔力だ。
 いつの間にか自分になじんでいた魔力の形に、少し驚く。
蠢く闇のような魔力が大きな爪のような形をとり、タッタリアに向けて放たれる。タッタリアもまた、全身に火花を散らせてその闇を防ごうとした。

 バチチッパァンッパアァンッ

と周囲を巻き込むような破裂音がひっきりなしに起こる。耳に痛い音に、思わずフィンリーは両耳を塞ぐ。
 タッタリアを守るように弾けていた火花が、一つ、一つ黒い闇に飲まれて消えていく。最初は互角に見えたその押し合いも、やがてタッタリアが表情を歪ませることで、劣勢を伝えてくる。
 もう彼を守る火花の結界は、手を伸ばした長さしかない。
止まない破裂音の中、レストは静かに告げた。

「フィンリーはお前が思うほど弱くねぇよ」

 バンッ!!!

とひと際大きな破裂音と共に、タッタリアが闇に飲まれた。
 そして、訪れる静寂。
恐る恐るまわりを見渡せば、おそらく邸らしきものがあったところは完全に瓦礫の山と化していた。
 生き物の気配はない。
フィンリー自身、魔族同士の戦いを初めて見たが、あまりにも自分の思い描く戦いとは違いすぎて、理解が追い付かなかった。

「……さ、さっきの人……し、死んじゃった?」

尋ねると、手のひらにまとわりついた魔力の残滓を振り払っていたレストが、こちらを見る。いつの間にか、瞳が見慣れたアッシュグレーに、髪が白に戻っている。

「どうですかねぇ……。あれ、あんなんでも私の次に強いですから」

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