拝啓、聖騎士様。もうすぐ貴方を忘れるから離縁しましょう~履いてない!?聖女逃亡手記~

花虎

文字の大きさ
25 / 80

10.浄化の儀式

しおりを挟む





 翌日、リナリアは自分にあてがわれた宿屋の一室で目が覚めた。身体はさっぱりとしており、新しい夜着を着ている。

 おそらく、あのまま気を失うように眠ってしまったリナリアを、フィグルドが身綺麗にしてくれた上で、部屋まで運んでくれたのだろう。

 まだ昨夜の感触が身体のあちこちに残っていて、リナリアは恥ずかしさに布団から出られなかった。

 すると、コンコンと扉がノックされたので慌てて寝台から降りようとして、身体を起こして足を床につけたが、腰に力が入らず、ぺちゃりと床に座り込んでしまった。
 
「おーい、リナリア、今日は町へ調味料を見に行きたいって言ったのお前だろ。いつまで寝てんだ」
 
 扉の向こうから声をかけてきたのは、ディーだ。確かに、昨日のお昼間、この町の市場に行ってみたいのでついてきてほしいという話をしたのを覚えている。

 だけど昨夜の名残で、リナリアは立ち上がれそうになくて、困ってしまった。返事をあまり長い間しないと心配してディーが部屋に入って来てしまう。そして今の状況を見られてしまうのは非常に気まずい。何故立ち上がれなくなったのかと聞かれて、うまく言い訳が出来る気がしない。

 ひとまず本日は部屋で過ごしたいと伝えるには、何て答えればいいだろうと窮していると。

「ディー、リナリア様は具合が悪いようだから、本日は休養にあてる」
 
扉の向こうから聞こえてきたバリトンボイスに、どきりと心臓が跳ねた。
 
「あ……?風邪でもひいたか?」
 
なんの疑いもなく、ディーがフィグルドに尋ねている。きしきしと床板を踏み鳴らしながら、声の主であるフィグルドが近づいてくるのがわかる。
 
「あぁ。俺は書類仕事が溜まっている。今日の身辺警護を代わろう。すまないが、ディーは周辺の偵察に回ってくれ」

聖女には常に一人、ないし二人の警護がつく。基本的には隣の部屋で待機し、聖女が出かけたいといえば随行するような形だ。

「ん~……。わかった。今日はリナリアが元居た世界のカレー?とか言うの作ってくれるはずだったから楽しみにしてたけど……具合悪いなら仕方ねぇか。ノエスと精の付きそうなもんでもついでに取ってくるわ」
 
ディーは少し残念そうに言うと、団長であるフィグルドからの命令を了承して、階下へと降りて行った。

 なんとなく息を詰めて気配を殺していたリナリアは、ディーの気配が消えたことにほっと一息をつく。それから、改めて扉を一枚隔てたそこに彼がいると思うと、うるさいくらい鼓動が早まっていく。
 
「……開けても?」

潜めた声に、リナリアは何故か逆らえず、「はい」と答えてしまった。カチャリと扉が開き、昨夜とは違い、聖騎士の制服をかっちりと着こみ綺麗に髪を整えた、いつもの見目麗しいフィグルドが顔を出す。

 まるで、昨夜のことなど何もなかったかのようなその佇まいに、なんだか自分ばかりが意識しているのではないか、とリナリアは居た堪れなくなって俯く。フィグルドは部屋に入ると扉を閉め、床に座り込んでいるリナリアに近づくと、その体をひょいと抱き上げて寝台へ戻した。
 
「す、すみません……」

緊張で身体を硬くし、恐縮して謝るリナリアに、フィグルドは淡々と答える。
 
「謝ることはありません。身体は大丈夫ですか?」

(様子を見に来てよかった……初めての彼女に、やりすぎてしまったからな……)

「あ、その……力が、は……入らなくて」

初めてのリナリアは、何故自分が腰を抜かしてしまっているかの理由まで思い至ってないようだ。ただ、昨夜の余韻で身体が思うように動かせないことは理解している様子が伺える。

「本日の予定は全てキャンセルしましょう。お腹は空いていませんか?」
 
提案されて、リナリアはそこでやっと空腹に気付く。素直にそれを伝えると、フィグルドは一つ頷いて消化にいいものを後で侍女に持ってこさせます、と口にする。

 それから、本日は身体を休めることをリナリアに言い含めると、軽く聖騎士達それぞれの予定を報告すると、サイドテーブルに一冊の本を置いた。

「この世界の、児童書です。読みやすいので、もし寝ているだけに飽いたらお読みください」
 
 本の表紙には、可愛らしい女神様と五神のイラストが描かれている。おそらく、神様たちがモチーフの物語なのだろうことが察せられる。

「あ、ありがとうございます」

 お礼を告げると、リナリアはいよいよ何を話せばと慌て始めるが、フィグルドは用事は終えたとばかりに、すぐ部屋を出て行ってしまった。

 あんなことがあったのに、あまりにもあっけない元通りの態度に、リナリアはつきりと胸が痛んだ。

 あんなこと……?
 あれだけの美貌の聖騎士様だもの……もしかしたら、彼にとって大したことじゃなかったのかもしれない……
 
 自分にとっては最大級の勇気と覚悟をこめた初めての夜だったけれど、彼にとってはきっとそうじゃない。

 なんなら……もしかしたら聖女の欲求不満を解消する役割も聖騎士は担ってるとか……ないよね?

 何故自分があんなことをしたか聞いてこない彼に、そんな邪推をしてしまう。あまりにも下世話な想像に、リナリアはぶんぶんと頭を振った。ひとまず忘れないうちに、と引き出しにしまっていた手記を取り出すと、昨夜の出来事を書き留めた。

 「無の力」の初めての行使。その代償は一部の記憶の消失だという。けれど目覚めたリナリアに、違和感はさほどない。

 一部って言うから、気づけないほど小さな部分なのかな?そう考えると、そんなに実害はないのかもしれない

 能力関係なく、人間は自分に起きた全ての事柄を覚えていられるわけではない。それなら、普通に年月が経って忘れてしまうようなことと、さほど違いはないのかもしれない。

 なんて思いながら、リナリアは手記を書き終えて閉じると、せっかくだから、とフィグルドが持ってきてくれた児童書を手にとった。その時、ぱさり、と本の下から落ちてきたものに、目線がいく。
 
「……これ……」
 
それは綺麗に洗濯された「黒うさぎのパンツ」

 フィグルドがわざわざ持ってきてくれて、さらにリナリアに羞恥を感じさせないために本の下に隠して戻してくれたことを理解して、胸がきゅっとなる。

 リナリアは黒うさぎのパンツをぎゅっと握りしめると羞恥にじたばたと身悶えた。
 
 うぅ……この手慣れた感じ……絶対あの人モテる……
 
 自分の思考に再び落ち込んでしまったが、ひとまず明日からまた浄化を再開せねばならない。気鬱を払うように児童書を読む方へと意識を向けようとした。しかし、ふと気になるのはやはり彼のことだ。
 
 あれ……?そういえば……向こうの世界の下着なんて彼は初めて見たはずなのに、何故あの時、脱がせ方を知っていたのだろう。
 
 この世界での女性の下着は、両腰で布を結ぶタイプだ。こんなゴムの入った下着など見たことがないはず?

 うーん……ま、あの状況でそんなところ気にしなかっただけよね……きっと……






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの世界に転移したら、推しではない王子に溺愛されています

砂月美乃
恋愛
繭(まゆ)、26歳。気がついたら、乙女ゲームのヒロイン、フェリシア(17歳)になっていた。そして横には、超絶イケメン王子のリュシアンが……。推しでもないリュシアンに、ひょんなことからベタベタにに溺愛されまくることになるお話です。 「ヒミツの恋愛遊戯」シリーズその①、リュシアン編です。 ムーンライトノベルズさんにも投稿しています。

『完結・R18』公爵様は異世界転移したモブ顔の私を溺愛しているそうですが、私はそれになかなか気付きませんでした。

カヨワイさつき
恋愛
「えっ?ない?!」 なんで?! 家に帰ると出し忘れたゴミのように、ビニール袋がポツンとあるだけだった。 自分の誕生日=中学生卒業後の日、母親に捨てられた私は生活の為、年齢を偽りバイトを掛け持ちしていたが……気づいたら見知らぬ場所に。 黒は尊く神に愛された色、白は"色なし"と呼ばれ忌み嫌われる色。 しかも小柄で黒髪に黒目、さらに女性である私は、皆から狙われる存在。 10人に1人いるかないかの貴重な女性。 小柄で黒い色はこの世界では、凄くモテるそうだ。 それに対して、銀色の髪に水色の目、王子様カラーなのにこの世界では忌み嫌われる色。 独特な美醜。 やたらとモテるモブ顔の私、それに気づかない私とイケメンなのに忌み嫌われている、不器用な公爵様との恋物語。 じれったい恋物語。 登場人物、割と少なめ(作者比)

洞窟ダンジョン体験ツアー案内人役のイケメン冒険者に、ラッキースケベを連発してしまった私が患う恋の病。

待鳥園子
恋愛
人気のダンジョン冒険ツアーに参加してきたけど、案内人のイケメン冒険者にラッキースケベを連発してしまった。けど、もう一度彼に会いたいと冒険者ギルド前で待ち伏せしたら、思いもよらぬことになった話。

『魔王』へ嫁入り~魔王の子供を産むために王妃になりました~【完結】

新月蕾
恋愛
村の人々から理由もわからず迫害を受けていたミラベル。 彼女はある日、『魔王』ユリウス・カルステン・シュヴァルツに魔王城へと連れて行かれる。 ミラベルの母は魔族の子を産める一族の末裔だった。 その娘のミラベルに自分の後継者となる魔王の子を産んでくれ、と要請するユリウス。 迫害される人間界に住むよりはマシだと魔界に足を踏み入れるミラベル。 個性豊かな魔族たちに戸惑いながらも、ミラベルは魔王城に王妃として馴染んでいく。 そして子供を作るための契約結婚だったはずが、次第に二人は心を通わせていく。 本編完結しました。 番外編、完結しました。 ムーンライトノベルズにも掲載しています。

【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~

世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。 ──え……この方、誰? 相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。 けれど私は、自分の名前すら思い出せない。 訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。 「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」 ……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!? しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。 もしかして、そのせいで私は命を狙われている? 公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。 全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね! ※本作品はR18表現があります、ご注意ください。

義姉の身代わりで変態侯爵に嫁ぐはずが囚われました〜助けた人は騎士団長で溺愛してきます〜

涙乃(るの)
恋愛
「お姉さまが死んだ……?」 「なくなったというのがきこえなかったのか!お前は耳までグズだな!」 母が亡くなり、後妻としてやってきたメアリー夫人と連れ子のステラによって、執拗に嫌がらせをされて育ったルーナ。 ある日ハワード伯爵は、もうすぐ50になる嗜虐趣味のあるイエール侯爵にステラの身代わりにルーナを嫁がせようとしていた。 結婚が嫌で逃亡したステラのことを誤魔化すように、なくなったと伝えるようにと強要して。 足枷をされていて逃げることのできないルーナは、嫁ぐことを決意する。 最後の日に行き倒れている老人を助けたのだが、その人物はじつは……。 不遇なルーナが溺愛さるまで ゆるっとサクッとショートストーリー ムーンライトノベルズ様にも投稿しています

世界で1番幸せな私~イケメン御曹司の一途で情熱的な溺愛に包まれて~

けいこ
恋愛
付き合っていた彼に騙され、借金を追った双葉。 それでも前を向こうと、必死にもがいてた。 そんな双葉に声をかけてくれたのは、とてつもなくイケメンで、高身長、スタイル抜群の男性―― 常磐グループの御曹司 常磐 理仁だった。 夢みたいな展開に心は踊るのに…… 一途に愛をくれる御曹司を素直に受け入れられずに、双葉は離れることを選んだ。 つらい家庭環境と将来の夢。 そして、可愛い我が子―― 様々な思いが溢れ出しては絡まり合う複雑な毎日。 周りとの人間関係にも大いに悩みながら、双葉は愛する人との幸せな未来を手に入れることができるのか…… 松雪 双葉(まつゆき ふたば)26歳 ‪✕‬ 常磐 理仁(ときわ りひと)30歳

ただの政略結婚だと思っていたのにわんこ系騎士から溺愛――いや、可及的速やかに挿れて頂きたいのだが!!

藤原ライラ
恋愛
 生粋の文官家系の生まれのフランツィスカは、王命で武官家系のレオンハルトと結婚させられることになる。生まれも育ちも違う彼と分かり合うことなどそもそも諦めていたフランツィスカだったが、次第に彼の率直さに惹かれていく。  けれど、初夜で彼が泣き出してしまい――。    ツンデレ才女×わんこ騎士の、政略結婚からはじまる恋のお話。  ☆ムーンライトノベルズにも掲載しています☆

処理中です...