拝啓、聖騎士様。もうすぐ貴方を忘れるから離縁しましょう~履いてない!?聖女逃亡手記~

花虎

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23.偽装婚約

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「お前は馬鹿か!?」
 
 ディーの声が室内に響く。

 それは、サイアス王国の浄化の旅が全行程中半分ほど進んだ時だった。作戦室としてその時泊まっていた宿の一番広いリナリアの客室で全員が集まっていた。中央の丸テーブルにリナリア、エカルラート、フィグルド、イサラの順に座っていて、ノエスはイサラの後ろに立ち、ディーは一人その近くにあるソファにあぐらをかいて座っている。皆で情報を持ち寄っていたところ、フィグルドが爆弾を落とした。

 その発言に、ディーが眦を釣り上げたのである。
 
「……あの状況では致し方なかった」
 
心無しか、少し憮然とした空気を出しながら、フィグルドが答えた。彼が不服そうな感情を表に出すのは珍しいな、と思いつつリナリアはハラハラと二人を交互に見る。その横で、エカルラートが同情的に呟いた。
 
「まぁ……そうよねぇ……。会わせないって言われてるのに何回も元婚約者が会いにきたら、求婚しているって勘違いされても……当然よねぇ」
 
 そう、フィグルドはただ、カリーテの様子を見に面会を申し込んだだけだったのだが、色々と因縁がある相手だ。子爵夫婦は養女を慮ってフィグルドを門前払いした。だが、フィグルドとしても闇神フォグに繋がる可能性の高いカリーテと会わないわけにもいかない、と浄化の旅の合間を縫って何度か尋ねているうちに、何故か……「元婚約者に改めて求婚している男」ということになっていた。

 フィグルドは当然、否定しようとした。だが、否定してしまったらカリーテと会う手段がなくなってしまう。カリーテは例の大量粛清事件から、社交界には一切顔を出していない。当然だ、当事者の娘とあれば周囲からの誹りは免れないことが容易に想像できる。

 そうなると、正攻法で会う以外の道がなかった。

フィグルドは子爵夫婦の誤解を、一旦解くことなく皆の待つ宿に戻って来たというわけである。

「きな臭いのは他にもいる。カリーテ嬢は一旦諦めて他から潰していくのはどうだ?」
 
事態をこじらせたフィグルドに対して、呆れたディーからのさっさと切り替える別の提案に、意外にも反対したのはリナリアだった。焦ったように誰かが別案に頷く前にと声をあげた。
 
「カリーテさんには……!……会うべきだと……思います」
「リナリア……」
 
 フィグルドが意外そうに自分の名を呼ぶ。

 今のフィグルドの状況はとても複雑だ。カリーテには会っておきたい。だが、会おうとすれば求婚と思われる。求婚ではないと明言すれば、おそらく会える可能性が閉ざされる。

 リナリアはぎゅ、と膝の上の拳を握りしめた。

 元婚約者に何度も会いたいと言われて、カリーテは何を思っただろう。いや、「養女の想いを」ということは、まだフィグルドが会いに来ていることを子爵夫婦が伝えていない可能性も高い。何故なら、獲物であるフィグルドが自分で近づいてくるのを、見逃すとは思えない。

 闇神フォグに乗っ取られているとしても性格や行動原理が大幅に変わるわけではないという。つまり、彼女がもしフィグルドを好きだった場合、その気持ちを利用することになる。

 彼女の気持ちを利用するようなこと……本当はしたくない。

 だけど、リナリアは知っている。彼女はもう……救えないと。

心臓が絞られるように苦しいけれど、リナリアはフィグルドを助けると心に決めている。
 
 覚悟を決めろ……

リナリアは正面に座るフィグルドの瞳をまっすぐ見つめたまま、告げた。
 
「……私の見た予知夢は、フィグルドさんとカリーテさんの結婚式でした」
 
その場にいた全員が、息を飲む。フィグルドはやはり彼にしては珍しく目を見開き、信じられない、という感じで呟く。
 
「カリーテ嬢と……結婚式……?」

あり得ない、と続きそうな言葉に被せるように、リナリアは力強く頷いた。

「はい。二人とも白い……。フィグルドさんは聖騎士の式典用制服で、カリーテさんも真っ白いドレスを……」

ずきずきと痛む胸を気づかない振りして、リナリアは思い出しながら説明を続ける。それを遮って、エカルラートが反応を示した。

「白?ちょっと待って、それは結婚式じゃないわ、リナリアちゃん」
 
 ――――え?
 
その指摘に、リナリアが瞬きをする。

 どういうことだろう。教会、白い正装に、純白のウェディングドレスが揃えば、それは結婚式ではないのか、と。

「この世界ではね、まず真っ白な衣装を着て『婚約式』を行うことで、互いの潔白を示し、次に信仰する神の色を身に着けて『結婚式』を行うことで、神に夫婦となる赦しをもらうのよ」
「……ええ?嘘……」

つまり、そもそもリナリアのいた世界とは結婚式の常識が違ったということだ。日本は純白を身に着ける意味は「純潔・清純・無垢」や「相手色に染まる」といったものを持つが、この世界では「潔白・誠実・嘘偽りない」という精神の清廉さの意味を示すらしい。

「嘘じゃないわ。サイアス王国だと雷神ティガーの色だから、おそらく金か金褐色のはずよ。ちなみに私のリム王国だと炎神サラマンダーの情熱の赤のドレスを身に着けるわ」
 
エカルラートの説明に、合点がいく。

 そうだった、ここは「信仰と魔法の世界フォルティアーナ」リナリアがいた世界よりもずっと神様が「身近」で「絶対的」な国。

 あの夢でみたあれは……結婚式では、なかった……?
 
 ゆるゆると事実を認識すると、心のどこかでほっとする自分を感じながら、リナリアが視線を手元に落とすと、イサラが口を開いた。
 
「……リナリアが夢に見たのなら……フィグルドはカリーテ嬢と偽装婚約をしたということ……?」

フィグルドがリナリアの代わりに肯定する。

「そういうことだろうな」

ソファで黙って聞いていたディーが納得したように呟くと、エカルラートも頷いた。

「なるほどな。婚約式で初めて顔合わせ、なんてことはここでは珍しくない」
「そこで尻尾を出すかもしれないわねぇ」
 
それから互いに視線を交わしてにやりと笑った。

 ディーがぱしん、とあぐらをかいた膝を叩き、顎に手をあてる。
 
「いいんじゃねぇか。偽装婚約。引きずり出すにはもってこいだ」
「あらあら、聖騎士がこんな悪巧みしていいのかしらねぇ」



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