拝啓、聖騎士様。もうすぐ貴方を忘れるから離縁しましょう~履いてない!?聖女逃亡手記~

花虎

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その言葉を、フィグルドが淡々とした声音で肯定する。

「だろうな」

ディーはそのまま天井を仰ぎ見て、不満をにじませた声音で説明した。

「特に雷神ティガーの聖騎士を目の敵にしてやがる。サイアスは光の国でもあるからな、汚染が思うように進まない。そこで、時間はかかるが感知されない人間との融合での攻撃を画策するんだ」
 
 予知夢の中で命を狙われたフィグルド
 フィグルドに恨みのある怪しい人物をリストアップしてきたディー
 闇神フォグによる精神汚染と聖騎士への殺意……

 リナリアは答え合わせのような符号の一致を感じて、もう一度カリーテ嬢の絵姿を見る。つまり、彼女は闇神フォグに汚染された人間ということ……?

 だが、まだもう一つピースが足りない。たとえそうだとしても、何故教会で結婚式を……。

黙り込んだリナリアの様子に、フィグルドが促すように問いかける。
 
「それで?リナリアは何故、カリーテ嬢を?」
 
ここまで、覆せない凶兆の予知夢のことは伝えるべきではない、と思っていた。だが、この大量の候補全員を聖騎士達が警戒するのは難しいだろう。

 あの夢に解決策は提示されなかった。それでも、とリナリアは唇を引き締めた。

 結末は……自分が変えればいいだけだ。
 
「夢に……彼女が……」
 
 ぴくり、と二人が反応したのがわかった。

「彼女が、そうなのかまでは……私にも……」
 
自信がない、と伝えると、フィグルドが問題ないと頷いた。
 
「どちらにしろ、彼女も警戒対象だ。早く見極められるならそれに越したことはない」
「接触するのか?」

ディーの問いかけに、フィグルドは淡々と答える。

「あぁ、彼女が子爵家へ養女に入ってからは、一度も顔を合わせていないからな」
「了解。じゃぁ俺らは念のため、残りの奴らの身辺調査でいいな?」
 
やることが決まると決断が早い。ディーはそう言うと、テーブルに散らばった紙束を風の魔法で集めた。

 それから、リナリアが手に持つカリーテのものもぴっと指で引き抜く。
 
「他の奴らにも説明する。着いてこい」
 
くい、と顎で示すと、立ち上がった。そのままリナリアを待つでもなくさっさと歩き出す。リナリアも慌ててたちあがると、フィグルドに軽く一礼した後、手記を握りしめてその背中を追いかけた。

 フィグルドは手紙を書く作業に戻るようで、着いてはこない。

 身長がさほど変わらないのに、足の速いディーに追いつくには自然と小走りになってしまう。おそらくコンパスの差か?と思うと少々恨めしくなりつつ、声をかけた。

「あの……っ」
「ん?」
 
少し歩く速度を緩めてくれるのにほっとしつつ、歩きながら質問した。
 
「その……元婚約者に……フィグルドさんが会いにいくの、今の婚約者さん、嫌じゃないんでしょうか」
「……は?」
 
食堂を抜けて、宿を出たところでディーは足を止めると、リナリアを振り返った。その顔はまさに「何を言っているんだこいつ?」という不思議そうな表情をしていた。
 
「今の婚約者?」
「はい……」

ディーの表情になんだか自信がなくなって声が小さくなる。怒られているわけではないのに、怒られているような感覚だ。

「誰の」
「フィ……グルドさんの」
 
ディーはさらに奇妙な表情になる。美少年は変な顔も麗しいな、なんて場違いに見惚れていると、ディーは呆れた口調で返してきた。
 
「あいつ、婚約者なんていないぞ?」
「え?じゃぁ……恋人?」

おずおずと言い換えると、ディーは変な顔をしたまま答える。

「恋人もいなかったはず。と、いうか、あいつの属性、真実だぞ。相手がいてお前の―――……」
 
 だが、最後まで言い切る前に、再び苦虫を噛み潰した顔をした。リナリアが不思議に思って小首を傾げると、ディーはがしがしと頭をかく。

「あ~、とにかく……あいつは不誠実に簡単に手を出すような奴じゃない。安心しろ」
 
何か肝心な部分を濁された気もするが、深く聞いても答えてくれなさそうな空気感を感じた。
 
 不誠実に……簡単に……手は出さない。
 
リナリアは胸の中に、それだけを書き留める。それでも夢の中の結婚式が何故起きたのか知りたくて、勇気を出して口を開く。
 
「フィグルドさん、結婚の予定があるって……」
「あ?そりゃぁあるだろ。俺たち貴族は義務みたいなもんだし。まぁ相手作る余裕が今はないけどな」
 
そうだった。フィグルドは侯爵家、ディーは伯爵家の血筋だ。この世界での貴族は、家のための婚姻も当たり前の世界。リナリアのいた世界とは、結婚観が違う。

 ということは……フィグルドのあの言葉は、将来的には、という意味だったのかもしれない。と納得して頷くと、ディーは少しほっとした表情になった。
 
「大丈夫ならもう行くぞ」
 
と促されて、他の聖騎士達が待機している場所へと歩き出したディーをリナリアは小走りで再び追いかけたのだった。



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