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30-2.
しおりを挟むキリッと凛々しく眉を上げて、リナリアが宣言する。
「罰ゲーム?」
聞いたことがない単語に首を傾げると、リナリアは身振り手振りを加えながら説明してくれる。
「勝った人が、負けた人に何か一つお願いができるの。例えば、焼きそばパン買ってこい!とか」
「……やきそばぱん……?」
「逆立ちして校庭一周!とか……あ、痛いのとかはダメだよ?」
リナリアが真剣な表情で説明しているので、聞きなれない単語については一旦流す。説明の雰囲気からすると、勝った人間が負けた人間に何かを自由に命令できる、というだけの話のようだ。少し難しいお題を与えてそれができるかを楽しむ、といった趣向だと理解する。
まぁ、それはかまわないが……
「また負けたぁ」
リナリアが情けない声で悔しそうに呻く。
そもそもリナリアは、カードゲームが弱いというのに、勝負を持ち掛けてどうするんだ。なんて呆れつつも、一生懸命な彼女を眺められるだけでも楽しいので良しとしよう。
フィグルドからの罰ゲームは歌を歌わせたり、この世界の神を祈る言葉を覚えたかテストしたりなど簡単なものばかりだ。
そろそろ適当な罰ゲームも思いつかなくなってきたので、最後だけわざと負けてやると、リナリアはぱっと顔を輝かせて身を乗り出した。
「じゃぁ、負けた人は勝った人を抱っこ!」
そこでようやく、彼女のやりたかったことに気づく。
なるほど……?つまりは誘惑のために密着する理由を作ろうとしていたのか
胡坐をかいて座っている自分の腕の中に飛び込んでくるリナリアが可愛くて、苦笑しつつその身体を正面から受け止める。
そのまま、すり、と頬を触れ合わせて甘えるような仕草が、本当はリナリアも自分のことを忘れたくないと、離れたくないと伝えてくるようで、胸が軋んだ。
互いの体温を分け合いながら、しばらくの間じっとしていると。リナリアがもぞもぞと動き出す。フィグルドの耳に、ふぅと息を吹きかけてきた。
ぴくり、と眉があがる。
「……き、気持ちいい?」
聞いてくるわりに、リナリアの方が明らかに頬が赤い。気持ちいいかと聞いてくるということは、フィグルドが普段彼女の耳にちょっかいかけるのを、気持ちがいいと感じている証拠だ。
そのことがバレるのが恥ずかしいのならしなければいいのに、と思いながらお返しにリナリアの耳に息を吹きかけてやると。
「こしょばい~!」
逃げるように耳を両手で隠した。その様子に、思わず破顔してしまうと。リナリアが驚いて目を見開いた。
「初めて……見たかも……フィグの笑った顔」
「……そんなはずは……」
ないだろう、いつだってリナリアを見つめている時は笑顔のはずだ。と言いかけてフィグルドは手記の最初の方に書かれていたことを思い出した。
表情がなくて怖い、ちょっと苦手かも、話す時緊張するといったリナリアの言葉に、少なからずショックを受けたのだ。怖がられていたなんて露とも思っていなかった。何故なら、フィグルド本人はリナリアを前にすると気持ちが高揚していたからだ。
言葉を詰まらせたフィグルドに気づくことなく、リナリアが嬉しそうに相好を崩した。
「笑った顔、可愛い」
「……」
まさかそんな評価を受けるとは思っておらず、言われ慣れない「可愛い」という言葉に対する気恥ずかしさに少し目を逸らすと。
「あ、照れた?」
とリナリアが揶揄ってくる。形勢逆転とばかりにぐいぐいと強気に絡んでくるリナリアに、お仕置きするように脇腹の弱いところを掴んで擽ってやると、途端に身体を捻って笑い転げる。
そんなくだらないじゃれ合いをしながら穏やかに時間が過ぎていく。
そうしてより嵐が激しくなる夕方が近づくにつれ、リナリアが焦り出すのを認識しながら、その時を待った。
どんどんどん、と玄関のドアが激しく叩かれる。
結婚してこの家に住むと決めた時、近所の住民には挨拶をし、身分を明かした上で、いつでも困ったことがあったら助けを求めてほしいことは伝えてあった。
リナリアの顔色が、蒼白になっている。
おそらく凶事の回避のための無の力が間に合わなかったことに、不安と恐怖を与えてしまっているのだろう。
大丈夫だ、と抱きしめてやりたいが、今は先にやらねばならないことがある。
フィグルドが玄関へ赴き、扉を開けると、予想通り隣の家の主人が嵐の中立っていた。
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