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エピローグ.神の悪戯
しおりを挟むその空間は、常に雷雲が垂れこめ、稲妻が走り、轟音が空を裂いていた。光と音の洪水の中で、ぴくりと丸い獣の耳がわずかに動いた。
『ティガー』
レプスの軽やかな呼び声に、雷神ティガーが振り返る。
彼女が自分の元へ来る時は、大抵暇を持て余してかまってモードの時だ。ティガーは少々渋面をつくる。
『何用だ』
『冷たいなぁ……。やっと世界を救えたのに』
フォルティアーナを襲う闇神フォグの脅威を退けるために、レプスは大半の力を使い異世界より聖女を召喚する。そうして力を使い果たした彼女は、その後数百年は神格がティガー達と同等になる。それほどまでに、彼女はこのフォルティアーナを愛している。
レプスが生み出した、生命という不確かな存在。弱くて、脆くて、崩れやすい性質と、それを再生し、乗り越えては進化を繰り返す姿。
神である我々にはないその強かさを、愛している。
レプスは世界を救えたという自分の言葉で、今代呼び出した聖女達を思い出したらしい、珍しく彼らについて言及する。
『無事、あの二人は記憶を取り戻して、幸せに暮らしているみたいね』
『……こんな回りくどいことをせず、初めに教えてやればよかったではないか』
彼女の気まぐれはいつものことだから、どうせ耳をかさないだろうとわかっていつつもそう窘めると、レプスはティガーの傍までふわりと飛んでくる。
『ティガーって生意気!可愛がりの刑!』
そういいながら顎を撫でてくるからやめてほしい。ティガーはそれでも、腕を組んで仁王立ちした体勢から動かず、好きにさせる。レプスはもふもふを思い切り堪能しながら、唇を尖らせた。
『最初から種明かししちゃったらつまらないじゃない?』
『……』
ティガーの柔らかい頬の毛並みに顔を埋めながら、レプスは拗ねたように続ける。
『フォグを退けることが出来るのがこの世界で生まれていない人間という縛りのせいで、私が毎回苦労して召喚しているのよ?異世界なんて管轄外だもの、こちら側との何かしら強いつながりを媒介にしなければ呼び込めるわけがないわ』
『……全能神じゃない限りな』
皮肉気に呟かれて、ぷう、とレプスは頬を膨らませた。
『そうよ。私は愛の女神だもの。運命の魂を出会わせて何が悪いの?世界を救えて運命の相手と結ばれて、幸せな結末じゃない』
世界を救うためには召喚は必要不可欠だ。だが、誰でもいいわけではない。レプスの権能は運命の魂を引き合わせる。
『だから、召喚した聖女が元の世界に戻った記録がないのは、必ず魂の片割れがいるこのフォルティアーナで大恋愛して永住するからだって、どうして皆気づいてくれないのかしら』
どうやらレプスは世界を救わせる苦行だけではなく、その後の幸せを保証するという善行を働いているのに、何故か当事者達から敵視されたり感謝されないことが気に喰わないようだ。
ティガーは、ふん、と鼻を鳴らすと自業自得だ、と口を開いた。
『世界を救う聖女を……魂の片割れと出会わせること自体は悪くないがな。お主の場合その恋愛模様を楽しもうとするからそうなるんだろう』
図星を刺されて、レプスが押し黙る。それから、ティガーの髭をひっぱると、稲妻が轟く空間に負けないくらい、大きな声で叫んだ。
『もー!ティガーもティガーの子もやっぱり生意気―――!』
フォルティアーナは、今日も平和だ――――――――――――――――
END
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