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9話
しおりを挟む「魔道具を自分で決めたい?」
「えぇ!その方がこう、成功する確率が高い気がしますわ」
断られたら、どう切り返して丸めこもう、と握りこぶしで返すエレノアに、意外とあっさり、リアンは承諾をした。
エレノアが喜色を満面に浮かべると、さっそく魔道具を選ぶために城下町へ出ようということになった。貴族や富裕層がよく訪れる魔道具屋へとお忍びで訪れる。初めて王女殿下がくるということで、店内は貸し切りになったようだ。
リアンと店内へ足を踏み入れた瞬間、どこかから感嘆の声が漏れる。まぁ、それはそうだろう。リアンの容姿は本当に目を惹く。先日の抱きかかえられた時も、メイドはリアンと一言二言でも言葉を交わせただけで嬉しそうに頬を染めていた。
中身はこんなに鬼畜なのに
周囲に訴えられないことが本当に悔しい。万一言おうものなら過去の自分の所業も芋づる式にバレてしまうのだ。リアンと争ったところで国に必要なのは自分より優秀なリアンだろう。つまり、体よく理由をつけて他国にでも嫁がされたらたまらない。
エレノアとしては出来れば国内の適度な有力貴族と婚姻を結んで今まで通りダラダラと過ごしたいのだ。
店の中は貴族や宮廷魔術師御用達ということで格式ある上品な佇まいだ。内装も床には絨毯が敷かれており、壁一面に商品を並べる棚は茶褐色のウォールナットで出来ている。店内は暖色系のオレンジの色で統一されており、上品な雰囲気だ。
エレノアは思わず目を輝かせてきょろきょろと見回す。様々な魔道具が、綺麗に陳列されていた。
なんだかんだ言いつつも、リアンに習うようになって魔道具へ興味がわき始めたのは事実だった。
あれは何かしら。双眼鏡のようだけれど……。
じっと見つめていると、店主が笑顔で話しかけてくる。
「ようこそ、いらっしゃいました。尊きお方のご来訪を一同大変光栄に感じております」
ハッとしてエレノアは扇子で口元を隠す。視線だけリアンに送れば、彼は人当たりの良さそうな笑みを浮かべて店主に答える。
「この度は突然の申し入れ、ご快諾ありがとうございます」
「いえ、いえ、お得意様であるリアン様のお頼みでしたらいつでも!」
どうやら店主とは顔なじみのようだ。
「王女殿下、その双眼鏡は魔力を流すとあらかじめ決めた場所の様子をうかがうことが可能になります」
「……どういうこと?」
どうぞ、と手にとると、繊細な細工を施された小さめの双眼鏡を覗く。すると、そこには店内ではなく街の様子が映し出された。
「街が見えるわ!」
驚くエレノアに、店主は気をよくしたようで、声を弾ませて説明を続ける。
「こちらは、皆様が例えば遠出した折に、留守を任せている子供やペットを見守るために使用いたします。観られる場所は一箇所のみ。その場所の登録は魔道具省にて行いますので、覗きといったことには利用できませんのでご安心を」
なるほど、確かに自分が不在の時に家の中の様子を確認できるのはとても便利かもしれない。本当に魔道具とは人の生活に根付いているらしい。
エレノアが世間知らずだと呆れたユリウスの言葉を思い出して、少々むっとするが、確かにこの事態を抜け出すために、苦手だった勉強をやり直したり、こうして街へ出かける機会が増えるのは良い傾向なのかもしれない。おかげで今まで気にしたことのなかった魔道具の話を聞くのを楽しいと感じる。
エレノアは気になる魔道具の使い方を店主に一つ一つ聞いていく。リアンはその間後ろに控えて、口を出すことはない。本当にエレノアに選ばせてくれる気があるようだ。
「その……子供でも扱えるようなものはありまして?」
「えぇ、ございますとも」
店主はそう言うと、ある一角にまとまっているコーナーへエレノアを案内する。そこには少し先ほどまで見ていたものよりもカラフルな魔道具が並んでいる。子供心を掴むために明るい色を取り入れているのだろう。
「最近、人気があるのはこちらの玩具ですね」
そう言って店主が見せてきたのは、綺麗な透明の瓶。その中には、透けるような青い水が入っている。
水が、玩具?と首を傾げるエレノアに、店主はふふふ、といたずらっ子のように笑い、瓶のふたを開けると、魔力を流し込む。すると水だった液体がゼリー状に変化し、ぐにょんと瓶から飛び出した。
「!」
驚くエレノアの目の前で、そのゼリーは形を変えて、伝説上の生物ユニコーンを象った。そのままくるくるとエレノアの周りを飛び回る。
「素敵……!」
可愛らしいユニコーンが光を受けてキラキラと輝きながら空中を飛ぶ様は、確かに子供たちの心を掴みそうだ。さらにユニコーンは形を変えて、今度はドラゴンになる。かと思えば可愛らしい兎になったり、とどうやら形は変幻自在のようだ。
ワクワクさせるような仕掛けに、エレノアはすっかり夢中になって。子供用の魔道具だし、作りは単純で、危険もないだろうと判断した。
「マクガフィン卿、私、これがいいわ!」
まるで新しい玩具を前にしたような輝かんばかりの笑顔をエレノアが見せると、リアン以外のその場にいた全員がなんだか胸を押さえた気がするが、まぁ気のせいだろう。
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