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11話
しおりを挟むそれから数日、授業はお休みになった。なんでもリアンが北の国境付近で起きている暴動を鎮めに出兵を命じられたそうだ。
「ま、あいつが行くと一瞬で片が付くんだけどね」
のほほんと妹のテラスに訪れたユリウスが、クッキーを頬張りながら教えてくれる。
「危険なことはないの?」
自分が知っている誰かが戦場に向かうなんてこと、エレノアは経験がなかったので不安にかられてそう尋ねる。
「ないない。暴動って言っても、国境付近で危ない商売をしていた連中が、逆上して起こしたって話だ。本来ならリアンが行くほどの事案でもない」
ユリウスの気軽さからいって、深刻な状況ではないようだ。ほっと胸を撫でおろして。はたと気づく。
あんな変態鬼畜宮廷魔術師なんて、いない方がいいはずなのに。
「あいつなぁんか、最近変なんだよね」
ぽり、と妹の分までクッキーを食べ始めながら、ユリウスが一人ごちる。
「変……?」
「そう。なんていうか、功を焦っているというか」
すでに宮廷魔術師という、最高位の職業につきながら、さらに何を求めるというのだろうか。
「いつも冷静そうに見えますけど……」
「まぁ、表面上はね。でも、リアンは――……」
ユリウスが何かを言いかけた時、彼専属の護衛騎士が何事か耳打ちしてきた。ユリウスの表情がにわかに厳しくなる。
「……お兄様?」
「……あいつ、何考えてんだ」
小さく呟いて、食べかけのクッキーを口の中に放り込むとユリウスが立ち上がった。心配そうに見上げてくるエレノアに、安心させるように微笑んで。
「リアンの奴が、暴動を沈めるついでに、北の国境まで迫っていた隣国の軍隊を消滅させたらしい」
「……そうですか……え?」
あまりにも想像の遥か斜め上を行く話に、エレノアの目が点になる。
「まぁ、隣国が攻め入ってくる可能性は元から想定して、国境の町に魔道具を行き渡らせるようにしたのもリアンだけどな」
まさか本当に一人で国の軍隊と戦うとは思ってもいなかった、とはぁ、とユリウスは呆れたため息をついた。
国に攻め入るほどの軍隊を相手にするのであれば、大量の魔道具を発動させる必要がある。本来であれば、一人の魔術師で賄える魔力量ではないはずだ。けれど、それが出来てしまうのも、リアンという男の特殊性でもあった。
ユリウスは呆れ半分で息を吐くと肩を竦めた。
「ま、でもこの功績をもって、あいつは二つ目の金の獅子勲章を戴き、魔術師団の団長になるだろう」
「どういう……ことですか?」
「どうって、今この国であいつを凌ぐ魔術師はいないってことだ」
それは……なんだかすごいことなのではないだろうか。
いや、すごいというか、もはやエレノアの頭の中では処理しきれない事実だ。あの、自分が幼少期、可愛がってしまっていた男の子が、国の……筆頭魔術師?
エレノアは知らず、血の気が引いて、そのまま倒れた。
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