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第十六話 -半神-
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しおりを挟む「冥王に会った時に言われたんだ。俺も…どうやら半神らしい」
「………」
「だからなのか、それとも今の俺が人間としての記憶しか持ってないからなのか、それはわからないけど。俺はさ」
窓から細く入った日の光が、テーブルの上の本やカップを照らしていく。
「この世界に来て出会ったのが半神達で、良かったと思うよ」
◇
その後も少しヘラクレスと話して、アスクレピオスの私室から出る。いつもの執務机のある部屋でケイを待っていたらしいピラムが淡々と言った。
「…いったん物理世界に戻るよ。これ以上ここにいると会社に遅刻する」
「あ、ああ。そっか…。そんな時間か」
最近冥界にいる時間が長すぎて、時折自分が物理世界の住民でもあることを忘れそうになる。
「わかってると思うけど、俺がいない間に襲われたら迷わずクレスに守ってもらいなよ。今怪我したら…治らないからね」
「そう…だな」
チラッとアスクレピオスの部屋の扉を見たケイに、ピラムが苦笑した。
「ケイも物理世界に戻ったら?」
「?」
「………ナナミを頼むよ。俺はこっちでの記憶を東寺の方へ持っていけない。これはケイにしかできない」
好戦的な顔で指さして言ってくるピラムに、思わず気合の入った顔で叫ぶ。
「お、おう…ッ! 任せろッ」
アスクレピオスの物理世界側の人格であるナナミは、少なからず影響を受けているはずだから…と、ピラムは言っていたが。
「あ、ケイ起きた?」
何故か目が覚めると隣のベッドで寝ていたはずの嵯峨が起きていた。
「おま……ッ! 意識が戻ったのかッ?!」
思わず叫んでしまったケイに、病室に来ていた看護師が笑う。
「昨日の昼に、突然意識が戻ったんです。昨日は身内の方や会社の方なんかも来て大騒ぎだったのに、全然起きなかったから…」
二人部屋の狭い病室でそんなことが起きていたのなら普通は気が付いただろうが…。入院中だからと言ってあまり冥界に入りびたるのも考え物だ。昨日の昼と言えば、ちょうどアウトリュコスと一緒に冥王府に本を返却しに行っていた頃だ。あの時笑いながら話していた顔を思い出して、ケイの表情が沈む。もし一日前に戻れたら…ケイに彼を引き留めることはできるのだろうか。
「ケイ?」
嵯峨に訊かれて、慌てて顔をあげる。
「あ、ああ。ごめん。なんかちょっとまだ寝ぼけてて…。嵯峨はもう平気なのか?」
「うん…。なんか僕も長い夢でも見てたみたいでちょっとまだ寝ぼけてるというか、現実感がないけど、事故にあったことだけはなんとか覚えてたよ」
あはは…と、いつもの綺麗な顔で笑っている嵯峨に、必死で作り笑いを返すケイ。いくら心の中でこいつとアイムが別人と唱えても、普通に話すのはなかなかに難しい。
東寺と話すときはピラムとはまったく重ならないから不思議だが。
◇
結局、その日は夕方まで一日嵯峨と二人で色々話す羽目になった。
嵯峨はケイに比べて怪我は軽かったが、今まで寝ていたために身体が本人も驚くほど全く言うことを聞かないらしく、リハビリが必要なためしばらく入院が続くらしい。
昨日アポロンのところから戻ってきた後、覚悟を決めたケイがアイムに煮るなり焼くなり好きにしろと言いに行ったところ、自分は後でいいからお友達とのお別れをしてくるといいというようなことを言っていたが。
無論、今目の前でしゃべっている嵯峨に何を訊いても全く無意味だろう。
夕方ごろ、ちょうど嵯峨が車椅子で病室から出ているときにナナミがひょっこり顔を出した。
「あ、起きてる~」
そのあまりにのんびりしたいつもの口調に拍子抜けしたようにケイが笑う。
「仕方ないだろ。入院中暇なんだから」
「それにしたってケイはちょっと寝すぎ。今日だって東寺くんも誘ったのに、どうせあいつは今日も寝てるよって言ってさっさと帰っちゃったし」
いつもより少し不機嫌なナナミに苦笑して返す。
「まぁ、ホントにいつも寝てばっかだから仕方ないって。…ナナミは、相変わらず元気そうだな」
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