53 / 92
【第3章 理不尽賢者ローズマリーと魔法科学国オルケイア】
【理不尽賢者とその舎弟Ⅵ】
しおりを挟む
ロレンツィオ・リリンツェは葡萄酒をグラスに注ぎゆっくりと回した。王侯貴族にしか飲むことが許されない王宮専用のブドウ畑で採れたものを使っている葡萄酒だ。あの小童共は私の眼にかなうだろうか? 度量が試されるな……。華の都リリンツェの長としての器が……。このロレンツィオという壮年の男は二つ名に『キングメーカー』と呼ばれている。オルケイア貴族の大派閥の長でもあるのだ。
「ザリナ! いるか?」
「はい、ご主人様」すっと影のようにザリナと言う名のメイド長が現れた。
「大賢者いや聖女ローズマリーに会いに行くぞ、支度の準備をせい!」
「かしこまりました」ザリナはまた影のように部屋から出て行った。
「今宵、次の王の席に誰が付くか決まる……クックック」華の都で享楽を愉しむのも好きだが『王』を決める力が自分にあると思うと酒で酔うより気分が良くなる。
早朝からルーンベルトは殺気を放ちながら美術品管理組合に怒鳴り込みに行った。警備の者が寝ていたんだろうとスゴイ剣幕で受付嬢をドン引きさせていた。しかし、相手も歴戦の商人を相手にしている身ルーンベルトに当番の警備員はちゃんと起きていたと作業日誌を見せてきた。しっかりと何が起きたか書いてある。野良犬が通りを歩いていたことや夜に出かける隊商の名前まではっきりと。蝋燭が何本消えたかまでも克明に記されているのでルーンベルトはしょんぼりしながらカウンターを離れ他の皆のところにやって来た。
「駄目だ、手掛かりゼロだ、父上に今度こそ勘当させられる……」ルーンベルトは焦っていた。
「私も探すのを手伝いますよ。他の皆さんは猫の尻尾亭で、この街ならではの料理にでも舌鼓を打っていてください」
「ルーンを頼んだぞ、クリフト!」
「私に任せてください、じゃあ行きましょう。港の入港記録と衛兵に街の出入りなどを聞いてみましょう」
まあこの華の都にここまで精通しているクリフトなら犯人の洗い出しくらい楽勝だろう。
と言うわけで猫の尻尾亭は置いておいてセレーナが来たがっていたリリンツェ大聖堂にやって来た。何でもこの大陸に深く根差した宗教シンダリア教徒なら一度は拝みたい場所らしい。
中は圧巻だった壁の装飾から神々の彫刻に至るまで精巧に作られており天井にはヒューム、エルフ、ドワーフと言った人間族と他に獣人族や魔族の神までもが描かれていた。色彩は時に精緻に時に大胆に塗られていて万華鏡を覗いているようだった。
「魔族にも神がいるんだな」ローズマリーが言うと即座にセレーナに指摘された。
「悪霊みたいなものよ、魔界の主ナハトって言うのよ」
「じゃあ魔界があるってことは天界はあるのか?」
「そこまでは分からない……」
ビーと言う高い音と共にパイプオルガンらしきものを演奏している者がいた。始めは観光客を引き寄せる為かどデカい音を出し始めたが、あとは軽快なリズムで曲を奏でている。まるで踊っているかのようなその音色は洗練され、手業が熟練したものが扱っていると容易に分かるような存在感のある響きだった。曲が終わると奏者は真っ先にローズマリーに会いに来た。よく見れば普通王侯貴族にしか許されない金糸の入った朱色のマントを羽織っている。
「やあ、お嬢さん。私の奏でる音はどう響いたかな?」
「ああ、感動したよ。あんたがこの街の長ロレンツィオ・リリンツェ本人なんだろ」
「おや、第一問を聞く前に早々と答えてしまうとは流石だね。クリフトの坊やはどうだい? 元気にしているのかい?」
「あんたが犯人だな? 怪盗アルセインさん」
「ふっふっふっはっはっはっはっは、これまた見事だ。何故それが分かった」
「この街で一番偉いのはあんただ。そのあんたがわざわざ美術品を盗まれた翌日に現れるのはおかしいと思ったからだよ。きっと鍵のスペアを預けられ持っているんだろう?」
「その通りだ。クリフトもやはり若い。あの宿屋は泊まるなら最高のもてなしをしてくれるが金庫をしっかりと守っていなかったからな」
「クリフトは一体何者なんだ?」
「質問は慎重に選び給え。私は屋敷にすぐに帰ることもできるんだ」
「ご機嫌取りは苦手でね」
「本人に聞くのが一番だろう? クリフト、隠れていないで出てきておいで」
ローズマリー達が振り返ると大聖堂の大扉にクリフトが隠れていた。呼ばれるとすぐにこちらに出てきた。後ろには青筋立てているルーンベルトもいる。
「叔父様、僕に何の用でしょうか?」
「お前が直に首都サザールに行かずにわざわざここを通った意味が分からぬ俺だと思っているのか?」
「僕は叔父様には敵いませんね、僕の意図は見抜かれていたというわけですね」
「しかも当然こちらが把握している首都や王宮の情報も新鮮なものばかりだ」
「知りたいですが、どうしたら情報をくれるでしょうか? 僕はサザールに下手に行ってしまったら殺されてしまうでしょう。僕が次の王になるとでも言いましょうか!」
「良いだろう!その言葉、及第点だ。我が屋敷に仲間を連れて夕方訪れるように」
そう言い残しこの街の支配者ロレンツィオは優雅にマントを翻し去っていった。
こうして謎の剣士クリフトの正体が徐々に明らかになっていった。
「ザリナ! いるか?」
「はい、ご主人様」すっと影のようにザリナと言う名のメイド長が現れた。
「大賢者いや聖女ローズマリーに会いに行くぞ、支度の準備をせい!」
「かしこまりました」ザリナはまた影のように部屋から出て行った。
「今宵、次の王の席に誰が付くか決まる……クックック」華の都で享楽を愉しむのも好きだが『王』を決める力が自分にあると思うと酒で酔うより気分が良くなる。
早朝からルーンベルトは殺気を放ちながら美術品管理組合に怒鳴り込みに行った。警備の者が寝ていたんだろうとスゴイ剣幕で受付嬢をドン引きさせていた。しかし、相手も歴戦の商人を相手にしている身ルーンベルトに当番の警備員はちゃんと起きていたと作業日誌を見せてきた。しっかりと何が起きたか書いてある。野良犬が通りを歩いていたことや夜に出かける隊商の名前まではっきりと。蝋燭が何本消えたかまでも克明に記されているのでルーンベルトはしょんぼりしながらカウンターを離れ他の皆のところにやって来た。
「駄目だ、手掛かりゼロだ、父上に今度こそ勘当させられる……」ルーンベルトは焦っていた。
「私も探すのを手伝いますよ。他の皆さんは猫の尻尾亭で、この街ならではの料理にでも舌鼓を打っていてください」
「ルーンを頼んだぞ、クリフト!」
「私に任せてください、じゃあ行きましょう。港の入港記録と衛兵に街の出入りなどを聞いてみましょう」
まあこの華の都にここまで精通しているクリフトなら犯人の洗い出しくらい楽勝だろう。
と言うわけで猫の尻尾亭は置いておいてセレーナが来たがっていたリリンツェ大聖堂にやって来た。何でもこの大陸に深く根差した宗教シンダリア教徒なら一度は拝みたい場所らしい。
中は圧巻だった壁の装飾から神々の彫刻に至るまで精巧に作られており天井にはヒューム、エルフ、ドワーフと言った人間族と他に獣人族や魔族の神までもが描かれていた。色彩は時に精緻に時に大胆に塗られていて万華鏡を覗いているようだった。
「魔族にも神がいるんだな」ローズマリーが言うと即座にセレーナに指摘された。
「悪霊みたいなものよ、魔界の主ナハトって言うのよ」
「じゃあ魔界があるってことは天界はあるのか?」
「そこまでは分からない……」
ビーと言う高い音と共にパイプオルガンらしきものを演奏している者がいた。始めは観光客を引き寄せる為かどデカい音を出し始めたが、あとは軽快なリズムで曲を奏でている。まるで踊っているかのようなその音色は洗練され、手業が熟練したものが扱っていると容易に分かるような存在感のある響きだった。曲が終わると奏者は真っ先にローズマリーに会いに来た。よく見れば普通王侯貴族にしか許されない金糸の入った朱色のマントを羽織っている。
「やあ、お嬢さん。私の奏でる音はどう響いたかな?」
「ああ、感動したよ。あんたがこの街の長ロレンツィオ・リリンツェ本人なんだろ」
「おや、第一問を聞く前に早々と答えてしまうとは流石だね。クリフトの坊やはどうだい? 元気にしているのかい?」
「あんたが犯人だな? 怪盗アルセインさん」
「ふっふっふっはっはっはっはっは、これまた見事だ。何故それが分かった」
「この街で一番偉いのはあんただ。そのあんたがわざわざ美術品を盗まれた翌日に現れるのはおかしいと思ったからだよ。きっと鍵のスペアを預けられ持っているんだろう?」
「その通りだ。クリフトもやはり若い。あの宿屋は泊まるなら最高のもてなしをしてくれるが金庫をしっかりと守っていなかったからな」
「クリフトは一体何者なんだ?」
「質問は慎重に選び給え。私は屋敷にすぐに帰ることもできるんだ」
「ご機嫌取りは苦手でね」
「本人に聞くのが一番だろう? クリフト、隠れていないで出てきておいで」
ローズマリー達が振り返ると大聖堂の大扉にクリフトが隠れていた。呼ばれるとすぐにこちらに出てきた。後ろには青筋立てているルーンベルトもいる。
「叔父様、僕に何の用でしょうか?」
「お前が直に首都サザールに行かずにわざわざここを通った意味が分からぬ俺だと思っているのか?」
「僕は叔父様には敵いませんね、僕の意図は見抜かれていたというわけですね」
「しかも当然こちらが把握している首都や王宮の情報も新鮮なものばかりだ」
「知りたいですが、どうしたら情報をくれるでしょうか? 僕はサザールに下手に行ってしまったら殺されてしまうでしょう。僕が次の王になるとでも言いましょうか!」
「良いだろう!その言葉、及第点だ。我が屋敷に仲間を連れて夕方訪れるように」
そう言い残しこの街の支配者ロレンツィオは優雅にマントを翻し去っていった。
こうして謎の剣士クリフトの正体が徐々に明らかになっていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる