天地のレストガーデン

keiTO

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最終章

さらば、レストガーデン part0

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                          5月8日  午前5時半


とうとう、この日の”朝”が来た。

いつもと変わらない”朝”、レストガーデンでも、外の社会も、朝は変わらない。

レストガーデンにいる希望者達は施設の娯楽を楽しむ。

何にも縛られず、何も恐れず。

でも働く社会人は、出勤する準備をして、”組織”として活動する。

朝を迎えるのは辛い、でも自然の”朝”は変わらない。

例え辛くても、苦しくても、楽しくても、”朝は変わらない。”
                      


午前6時

彼”はあと3日でレストガーデンを去り、同時にこの世を去る。
今日はここに来て初めての早起きした理由は、エリーゼと約束との約束を守る為だった。
レストガーデンの全てを堪能して悔いを残さない事、その為に1秒でも時間を有効に使いたいらしい。

彼は部屋を出て2階の本の部屋に向かった、エリーゼとはそこで落ち合う決まりだからだ。
彼は誰もいないレストガーデンで、優越感を感じながらゆっくりと歩く。
本の部屋に到着、そしてドアを開く、すると既にエリーゼは本の部屋に先に着いて、くつろいでいた。

エリーゼはソファーに寄りかかり、完結していない冒険漫画 “ワンピース"の最新巻を読んでいる。
エリーゼは漫画に集中していて、彼の存在に気づかない。
彼は気を遣い、エリーゼが読み終わるまで待つ為に、自分も棚から日本の漫画“寄生獣"を取り出し、ソファーに座って読む。

彼は全巻読んだ“寄生獣“を、また一巻から読み直している。
今まで文字だけの小説しか読まず、生まれて初めて見た漫画はグロテスクで神秘的で深い物語の漫画だった。
他にも面白い漫画があるのかもしれない、でももう時間が無い、もし他の漫画を見つけたら、死ぬのを拒んでしまいたくなる、彼はそう思い他の漫画の一巻は読まなかった。
寄生獣の一巻を読み終えた後、本棚にしまおうとした時、目の前にエリーゼが立っていた。

彼はいつの間に目の前にいた事に驚いた。


「ごめん、待たせちゃった? 読み終わったら、話しかけてくれてもよかったのに」

エリーゼ「集中してたみたいだから、それにまだ読み終わってないよ」


「えっ?」

エリーゼ「ワンピースはまだ完結してないの、完結するまで、あと数年はかかると思う」

その事を聞かされた彼は、どうしようか戸惑ったが、自分にはどうする事も出来ないとすぐに分かり、とにかく何でもいいから返答した。



「そうかそれじゃあ・・・どうする?」

エリーゼ
「私が1番気になるのはワンピースの"正体"だけど、こればかりは作者にでも聞かないとどうしようもないよ」


「そっか・・・そうだよね、それじゃあ日本に行って、作者本人に聞いてみるってのは?」

エリーゼ
「そんな事より、早く朝食食べに行こう、早くしないと皆起きちゃうから!」


エリーゼは元気よく彼の腕を掴み、引っ張りながら食堂に向かう。

今日の朝食メニューは、トースト・スクランブルエッグ・サラダ・ウィンナー・ベーコン・コーヒー・牛乳。

彼とエリーゼは、それぞれ好みのメニューを取り、テーブルで向かい合わせに座り、朝食を始める。

彼はトースト・スクランブルエッグ・サラダ・ベーコン・牛乳。

エリーゼはトースト・スクランブルエッグ・ウィンナー・コーヒー。


エリーゼは大の野菜嫌いで、サラダを取らなかった。
エリーゼがサラダを取っていない事に気づいた、それを指摘した彼は、エリーゼにサラダを食べるように促す。


「エリー、サラダぐらい食べないと大人になったとは言えないよ、ほら食べてみな」

彼は自分の皿にあるサラダをエリーゼの皿の上に置いた。

エリー「ゼじゃあキミも砂糖無しコーヒー飲んでよ、そしたらサラダを食べてあげるから」


「舌が受け付けない、大人の飲み物って言われているけど、あんな不味いのをわざわざ胃の中に入れる必要はないだろう」

エリーゼ
「それなら味のしない草なんて胃の中に入れる必要ないでしょ」


「マヨネーズをたっぷり付けたら、食べられるかもよ?」

エリーゼ
「ミルクをたっぷり入れたら、コーヒー飲めるかもよ?」


二人はお互い助言し合い、エリーはマヨネーズをたっぷりと付けて野菜を味見する、彼は取った牛乳をエリーのコーヒーに入れて飲む。

嫌いな物を二人は口、そして胃の中に入れた、初めて嫌いな物を体感した時は嘔吐しそうになったが、二回目は対策を打った事で克服出来たのか分からない。

二人は見つめ合い、返答はせずにただ苦笑いをするだけだったが、吐き出す事はしなかった。


大きな声で楽しそうに会話をする彼とエリーは周囲を気にしなかった。

調理員を除いて食堂には二人だけ、この空間はまるで地球には二人しかいない感覚だった。



7時を過ぎれば続々と同居者達が起きて食堂に向かう、その前に二人は移動して、3Fのスポーツジムに向かい一汗をかこうとする。

3Fは食堂と違って、早朝から利用する者が少なからずいる。

彼とエリーは、二人で出来るスポーツをする事にした。

バトミントン・卓球・クライミングなどのスポーツで競い合い、勝ち負けに囚われず、無邪気に楽しんだ。

激しい運動で、二人の全身汗だくだったが、エリーゼがある事に気づく。

エリーゼ
「やばい、もうこんな時間!」


本来なら、運動をした後はすぐに風呂につかるが、娯楽の汗をかいたまま、二人が次に向かった場所は“映画館”。



二人が観る映画は、実話に基づいたラブストーリー映画、“タイタニック”。

親しい同期や同居者達から票を集め、上映が決定された。


小さなスクリーンであるが、人間よりは大きく、睡眠部屋の中にある小さなテレビ画面とは違って、映像や効果音の迫力が上がった。

悲恋のストーリーに感情移入した彼は、そっと隣の席に座っているエリーゼの手に触れるが、エリーゼに反応がなかった。
彼は瞬きをする暇もなく映画に没頭したが、一方のエリーゼは途中で飽きたのか、上映が終了するまでいびきをかいて寝ていた。

エリーゼが観たいと言っていた映画なのに、当の本人が眠ってしまっては、彼も苦笑いをするしかなかった。

今の二人にとって、息をしている1秒は貴重な時間で無駄にする訳にはいかない。

二人は昼食も夕食も抜いて、今度は建物の外に出てイチゴを始めた。
その場で食べるのではなく、籠いっぱいに取ったイチゴを入れた。




                      
午後19時

二人が最後に向かった場所は、二人が一番最初に出会った談話室。
ここは、彼にとっても、エリーゼのとっても、最も思い入れがある場所。

まずここが無ければ、二人は出会わなかった、この空間が無ければ誰とも分かり合えずに最後を迎えていた。



彼とエリーゼは、オカザキのサプライズにより個室の特別席を用意された。
部屋の中を暗くして、円卓の真ん中に収穫したイチゴとキャンドルを置き、二人だけの空間を楽しむ。

オカザキからもう一つサプライズプレゼント、高級ワインを提供された。
お互い交互に、グラスにワインを注ぎ、乾杯して飲む。

この贅沢な空間を二人は、談笑の時間にはしなかった。
なぜならもう充分に二人は笑った、この時間はお互いの“人間”を語る時間。



エリーゼは語る

エリーゼ
「人は死ぬ寸前に脳内でドーパミンが分泌されて、セックスの何十倍も快感を得られるんだって、もしそれが本当なら、明日が楽しみになってきた」



彼は告げる


「僕はセックスもした事がないよ、恥ずかしい話だけど、僕は子供の頃、赤ちゃんの作り方は男女のキスだけで子作り完了だと思っていたんだ、これも全部ハリウッド映画のせいなんだけど、おかげで今になっても女性との経験は無いんだ」



エリーゼは告げる

エリーゼ
「私・・・“セックス”は気持ちいいと思った事ないの、今まで嫌いな人、“恋”をした人に抱かれたけど、何も感じなかった・・・アナタに聞きたい事があるの、セックスで何を感じるの?」



彼は答える。


「それは僕にも分からないよ、なんせ経験が無いんだから、でも嫌いな人や恋をした人と何も感じないなら、“愛”なら感じるんじゃない、人間は愛には勝てないっていうし」

エリーゼ
「なに一丁前にカッコつけてんのよ、チェリボーイのくせに、フフフ」


「そっちが意見を求めてきたんだろ、それに僕もそろそろカッコつけたいし」



彼はタイミングを見計らって、指輪を渡すつもりだった。

ヴィンスから譲って貰った10万円、その10万円でオカザキから指輪を買い取った。

エリーゼとこうして会話できるのは、今日で最後、渡すなら今しかない、場所や状況的にも絶交だと思った。

しかし、エリーゼのある“言葉と過去”で、渡せなくなってしまう。


エリーゼ
「ねぇ、私の初体験を聞かないの?」


「⁉」

エリーゼ 
「私の女を奪ったのは誰なのか、気にならない?」



彼は言葉に詰まらせた、聞くも何も知っている、エリーゼの中の女を奪った人物を、でも知っていると答えれば、秘密の約束を破る事になる。

でも聞けば彼女の苦い追憶により、彼女の心の病を悪化させてしまう、その気遣いが彼女を逆に傷つけてしまう。

嘘でも「聞きたい、教えて」と誤魔化せば、嘘を見破られずに彼女の罠にかかる事はなかった。

エリーゼはうっすらと笑い、全てを明かす。


エリーゼ
「・・・嘘をつけないのね、知っているんでしょ、私の忘れたい“記憶”を」


「‼」



エリーゼは告げる。

エリーゼ
「一日も忘れた事はないわ・・・忘れたい、忘れたい、何回もそう思った、けど忘れられない。

レストガーデンは本当に心が休まる場所だった、でもこんな天国みたいな場所でも、染みついた記憶は剝がれない・・・ねぇ、どうしたらいいと思う?」



彼は指輪を渡そうと思ったが、脳内で拒否反応が起きる。

エリーゼは全てを打ち明け、彼に助言を求めた。

今指輪を渡しても、受け取ってくれる訳ない。



「・・・」


エリーゼは、彼にある提案をする。



エリーゼ
「・・・死ねばもう、思い出さなくていいと思うの・・・だから私を殺して」


「えっ‼」



彼はエリーゼの言っている事に理解が出来なかった。



しかし、次のエリーゼの言葉で理解が出来た。

エリーゼ
「死とセックスは似ている。
アナタが言った、“愛”のあるセックスなら何かを感じる・・・」

エリーゼ
「私と一緒に“生と死の狭間”を体験してみない」


                       
part1に続く
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