天地のレストガーデン

keiTO

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チャプター3

最後のリング part2

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午後23時45分

“彼“は今日もまた、夜景を見上げる。

彼にとって気持ちよく一人で居られる空間は、睡眠部屋ではなく、この屋上だった。

しかし、この日の夜は意外な邪魔者が入る。


マドレーヌ「毎日毎日、よく飽きませんね」


「マドレーヌさん!・・・どうしてここに?」

マドレーヌ
「アナタと二人きりで話したかったので、ここに来ました」


「どうして自分がここに居ると?」

マドレーヌ
「私は施設の責任者ですよ、ここにいる希望者達の行動は把握できています」


マドレーヌは、彼が望んでいた資料を渡した。


その資料とは、“エリーゼの過去”。


<エリーゼ・ドゥプレの記憶>

エリーゼの過去は、この世の"地獄"そのものだった。
子供にとっての仕事は、楽しむ事・遊ぶ事・笑う事。
男の子は外で活発にスポーツをする、家の中で友達とテレビゲームをする。
女の子は人形遊びか、手作り料理やお菓子などを作る。
大抵の子供時代はそんな物だが、エリーゼの子供時代は特殊だった・・・というよりハズレだった。
母は物心つく前に事故死、父にも早く"死んで"欲しいと願った。
父には男の味を無理やり、体に覚えさせられた。
恐怖でしかない、明日には人類に審判の日が訪れる日を毎日願った。
でもそう簡単に訪れない、そして生きていく、誰よりも早く"死"を身近に感じた子供時代だった。

15歳の頃に不良にデビュー。
同じ境遇の仲間達とつるむ様になり、家にも帰らなくなった。
そもそも家に帰りたくなかった、その理由は当然、父に会いたくなかったからだ。
女仲間も、自分程ではないが同様に冷たい環境で育った。
だからこそ、分かり合え、類は友を呼んだ。
彼女は充実したのだ、これが"友情"だと。
乙女の時期には、好きな男ができた。
彼女は実感したのだ、これが"恋"だと。

仲間も出来て、気が合う恋人も出来て、彼女は15年生きて、初めてこの世で幸福な時間でもあった。
しかし、結局自分は・・・獣達の欲を満たすだけの生物でしかなかった。
エリーゼが恋をした男は、自分の恋人が他の男に抱かれても、何とも思わない、ましてや自分の前で他の女仲間とキスをして体を絡ませる。
これが"普通"なのか、それとも父に弄ばされなければ、仲間同士の戯れが普通だと思えたのか?

彼女の中で、答えは出なかった。

成人を迎え、彼女が出した答えは・・・"死のう"。
エリーゼは雄との絡みに、快感を得た事はない。
憎しみはおろか、恋でも"感じない"と、彼女は実感したのだ。

レストガーデンで誰よりも幸せそうな彼女は、誰よりも悲劇のヒロインだった。




「こんなの・・・あんまりだ」

これを見た彼は、余りにも胸糞の悪い記録の資料を破り捨てたくなった。


マドレーヌ
「本来なら安楽死の希望動機を、ここまで聡明に書かない、でも一日でも早く安楽死をするには、審査員に思いを強く望めばいい・・・エリーゼさんは、よほどこの世界が嫌いみたいですね」


彼も19歳の頃に安楽死申請を政府に提出した記憶がある。
でも他にも世界中から希望者が殺到しているため、審査員の判断により結局1年も待つ羽目になった。


彼は、エリーゼの過去を知った事に後悔する、そして脳内から今すぐにでも消し去りたかった。

そもそも何故マドレーヌは、一度拒んだのにエリーゼの資料を彼に見せたのか。



「どうして・・・僕にこれを・・・マドレーヌさんらしくないですよ!」

マドレーヌ
「長い間、ここで働いてきたけど、私はアナタ達みたいに人に“幸福”を与えられる程、機転が利かない・・・そんな自分が憎いんです・・・私はただ“あの世行きの片道切符を切る”だけの役割」


「・・・マドレーヌさん」

マドレーヌ
「・・・アナタ達を見ていると、何だか落ち着くの」

マドレーヌはそう言い、彼の前から去っていく。


マドレーヌもまた、希望者達と同様に己の人生に苦しんでいる一人だった。





                         
5月6日午後23時30分

談話室は消灯時間残り30分になり、オカザキは後片付けをする。
グラスなどを洗い、水切りをして布で拭くのはオカザキの日課作業。

希望者の飲みたい飲み物を提供、そして談話室の軽い清掃が、彼の主な仕事だが、この男個人の仕事もある。

オカザキは床の掃除するため、円卓の上に椅子を上げている最中に、ある人物が談話室にやってきた。

やってきた人物は、私服姿の"彼"。


オカザキ
「・・・珍しいね、私服姿なんて、一瞬誰だか分からなかったよ」


「・・・」



彼は暗い表情をしており、オカザキに何かを言いたげなオーラが漂っていた。


オカザキのもう一つの仕事は、希望者達の愚痴を聞く事。
この仕事は、温厚で冷静沈着な人物が適している。
決して否定せず、怒ったりもせず、最後は相手を納得する判断を提案。

これがオカザキの、もう一つの仕事だった。


"彼"は、ここに来て初めて外出をした、彼が外に出た理由は、高価な"買い物"をするため。

彼が全財産の10万円で、購入したかった物は"指輪"。

しかし、思ったよりも高値で、10万円の大金でも買えなかった。
一応10万円以下の安物の指輪があったが、安物を買うぐらいなら、わざわざ買わないと決断した。

この内容をオカザキに報告して、ミルクを飲みながら相談に乗ってもらった。


オカザキ
「というか、買った指輪は誰に渡すつもりだったんだい?」


「・・・誰にって・・・自分が欲しいだけだよ」

オカザキ
「・・・もしかして、エリーゼちゃん?」


「なぁ!・・・それだと自分がエリーの事を" 好き"みたいじゃないですか?」

オカザキ
「みたいじゃなく、"好き"なんでしょ?」

エリーゼはあと3日、彼は4日、残された時間は僅かしかない、彼は時間が惜しくなり始めた。

初日に目撃した、レストガーデンで結ばれた、同期同士のカップル。
彼は、あの夫婦の気持ちを理解した、なぜなら彼も、そうなったから。

たったの40日間の短い間で、夫婦となるなんて、"同じ傷を背負った者同士"は惹かれ合うなんだと。

彼もエリーゼに、感謝と好意を抱くようになり、例えもうすぐお互いこの世を去っても、結ばれたいと思った。


もしレストガーデンではなく、外の世界で出会っていたら、一緒に手を繋いで横に歩き公園を散歩する、喫茶店で向かい合わせに座って、コーヒーとミルクを飲む、もう公開されていないが、映画館で"タイタニック"を観る、映画を観終わった後に、自分達の関係はさらに深まる。

今となっては、叶わない"夢恋"。


オカザキ
「一緒に手を繋ぐ、おしゃれな喫茶店でコーヒーとミルクを飲む、もう公開されていない"タイタニック"を観る、そしてプロポーズ・・・出来るじゃないか!」


「えっ!」

オカザキ
「全て出来ることだよ、この"レストガーデン"なら、キミが望んだ物が揃っているよ」


「・・・確かに!」


彼が今までレストガーデンを彷徨ってる場所は、屋上・談話室・食堂・睡眠部屋・銭湯など多く出入りしていて、数回しか訪れてない場所は、広場公園・漫画喫茶・体育館。

行ったことがないのは、イチゴ狩り農園・売店・スポーツジム・そして映画館。


映画は新作は公開されないが、自分にとっては好都合だった。
票を集めれば、"タイタニック"は劇場で鑑賞出来る。

レストガーデンでは最低基準の生活しかしていないから、映画館などがある事を彼は、すっかりと忘れていた。


オカザキ
「そして・・・"指輪"もある」


オカザキは棚から、指輪ケースをカウンターに置き、中に入っている指輪を彼に見せる。
オカザキが彼に見せた指輪は、本物で出来た"ダイヤモンドリング"、鮮やかなゴールド色の指輪。

一般のサラリーマンでも、買うのを渋るほどの高価な代物。


「こんな値打ちのある指輪を・・・僕に?」

オカザキ
「10万円でいいよ」


「そんな・・・どう見たって100万円以上はするでしょ、流石に受け取れないよ」

オカザキ
「どうせもう・・・使う道はないさ」


オカザキは下を向き、過去を思い出して、悲しげな表情をする。


オカザキ
「本当に渡したかった人は・・・僕じゃなく、他の人の指輪を受け取った」


彼は、オカザキのセリフと表情から、過去にオカザキが高い所から飛び降りた動機が、今分かった。



「・・・オカザキさん」

オカザキ
「それに、僕がここにいる理由は、みんなに生きて欲しいからかな」


「・・・」

オカザキ
「僕も死者の国の一歩手前まで観光した、そして今は二本足でちゃんと立っている、"生きる"ってこんなにも清々しい物なんだねって、気づかされた・・・ここは本当に"天国"だよ」



オカザキは希望者達に"希望"を与えていた、安楽死反対派と共感的部分もあるが、大いに違いがあるのは、反対派集団は自分の考えを一方的に押し付けている。

しかしオカザキは、押し付けではなく、動けている間は、少しでも人間らしく生きて欲しい、それが彼の望みでもあるが、自分も過去に身を投げた過去があるため、希望者達に強引に"生きろ"とは言えない立場である事を理解している。


本当に優しい人間は、最後まで他人を"尊重"出来る人間なのかもしれない。


「ありがたく・・・受け取ります」


彼はエリーゼに、想いを告げる覚悟をした。



オカザキ
「今のキミは、初めて見た時よりも、生気を感じるよ・・・見てて、自分の事のように嬉しくなる」


「オカザキさんのおかげです・・・外の世界もオカザキさんみたいな人が多かったから、醜くないのに」

オカザキ
「それは違う、この建物の中にいるから"思いやり"を持てるだけさ」
  



5月7日午前6時

エリーゼ・ドゥプレの朝は早い。
どの希望者達よりも目を覚まし、食堂に向かう。

                     
午前6時30分

朝食を食べ終えれば、漫画を読む為に"本の部屋"に向かう。



午前9時

本の部屋に用が無くなれば、談話室に向かう。
よく相席の仲間"彼"と話す予定でいたが、肝心の彼は今日は見当たらない。

いつもなら、自分より早く談話室に来て、テーブルに坐っているのだが、まだ姿を見せていない為、他の希望者達と痴話話をして、時間を潰す。

                      
午後2時

"彼"を待つ為に、同期や新人の希望者達と相席したが、味気なさを感じたエリーゼ。

待ちきれずに、先程まで彼の居そうな場所を見回ってみた。
本の部屋・広場公園・イチゴ狩り・彼の部屋・屋上、どこにも居なかった。

親しいオカザキに聞いてみたが、オカザキ本人も今日はまだ一度も見ていないらしい。


"彼"との待ち合わせ場所といえば談話室、相席で1番会話が弾むといえば"彼"。
でもどうしてか彼の姿が視界に映らない、私より1日後に安楽死のはず。

生きてるのは確か、なら施設のどこかにいるはず。


エリーゼは彼と初めて出会った時を懐かしむ。


<4月1日に、談話室で目が合う前、私は彼よりも先に視界に捉えた。

光を感じない死人の様な目、生きてるのに魂は失ってると感じさせる、あの"目"は私も持っている。

派手に化粧をして、派手に大笑いして、暴れ回っていた頃、自分を偽っていた私も死人の目をしていた。

男なんて女を遊ぶ為のおもちゃとしか思っていない、気持ち悪い物体。

"彼"も同じだと思い、試す事にした。

下心を持った化けの皮を剥がしてやる、そう企んだけど、彼はまだ私の肌に一度も触れていない。

気分を害す行為は何もしていない、気持ち悪さを感じない。

それでも皮を被っている可能性は捨てきれない、なんせここにいるのは40日間だけ、友達から恋人に変化するには、迅速でなければいけない。

でもだからこそ気になる、彼は外の世界では、どんな存在なのか?

自分とは無関係なのに、引退した元プロレスラーの心を救う事に一躍買った姿には感動を覚えた。

人を救うのには、心に余裕がいる。

彼は善人なのか、それとも・・・>





                      
午後15時

エリーゼは残された時間を、彼と一緒に過ごしたかったが、結局、彼はどこにも見当たらない為、談話室を後にする事にした。

談話室を出てすぐに、彼が視界に映った。



「・・・エリー」


エリーゼは彼に何も告げず、その場を立ち去る。



「エリー、話したい事があったんだ、ちょっと待って」


エリーゼは無視して、彼にそっぽ向く。

彼はエリーゼが怒っていると感じた。

彼が姿を現した事でエリーゼは内心は嬉しかったが、素直になれずにいた。


エリーゼ
「今さら姿を見せても、もう遅いわ、今は自分の部屋に戻って寝たい気分なの」


「今さら・・・ずっと待ってたの、談話室で?」


エリーゼは図星で、顔が真っ赤になり、つい本心を明かしてしまった。


エリーゼ
「別にずっとじゃないわ、少しの間だけよ、今日は居ないんだなって思っただけだから、勘違いしないでよね」


エリーゼは、似つかわしくないツンデレを発動する。



「そうなんだ・・・よかった」

エリーゼ
「それで、なんか用?」

彼 
「エリー、明日僕とデートして欲しいんだ」

エリーゼ
「・・・デート?」


「今日は票を集めに回ってたんだ、出来るだけ多く集めて、明日確実に"タイタニック"を映画館で鑑賞する為に」

エリーゼ
「票って・・・その為に今日は全然姿を見せなかったの?」


「・・・もうキミと居られる時間は、明日しかない、このレストガーデンの全ての施設を回って、キミとの思い出を作りたい」

エリーゼ
「・・・それって」


「ダメ・・・かな?」


エリーゼは、照れる表情を隠す為に、彼に自分の背中を見せる。

そして返答する。


エリーゼ
「明日の朝、6時に本の部屋に集合」


「えっ、6時!」

エリーゼ
「それぐらい早く起きないと、全部は回れないわ、ワンピースだってまだ未読なんだから・・・遅れないでよね」


彼は、デートの了承を得た事で安堵した。

そして微笑みながら、礼を言う。




「ありがとう、"時間"をくれて」





5月8日、"彼"とエリーゼの一生に一度のデートが始まる。






"さらば、レストガーデン"に続く


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