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チャプター3
最後のリング part1
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午後16時
広場公園で、一つのリングが用意されていた。
タイタンは、スタッフから意味も分からずに車椅子を押され、広場公園にやって来た。
飽きもせず“マルセル、マルセル”と呟くタイタンだが、このセリフは永眠するまで言い続けるのだろうか。
タイタンは、リングの上ではどんな強敵も打ち倒してきた、どんな過酷な環境下でも耐えてきた。
でもそれは、戦友のマルセルと乗り越えられてきたからで、一人では何も出来ない“弱さ”を備えていた
妻子が無理心中してから、タイタンはプロレス界を追放され、巻き添えを恐れたマルセルは、彼を見捨てた。
妻子を失い、友には見捨てられた、連続の“絶望”に耐えられるほど彼は強くなかった。
失った彼を取り戻すには、戦友の“マルセル”が彼の前に現れ、「待たせたなタイタン、俺が来たからには大丈夫だ!」と、助け舟を出す。
そして試合に勝利すれば、リングの上で、お互いのおでこをくっつけ合い、“永遠の友“の誓いをするのが、お約束だった。
広場公園には、タイタンを迎える為に、“彼“・”エリーゼ”・“マドレーヌ“、そしてもう”一人“が待っていた。
三人はリングの上に、車椅子ごとタイタンを上げる。
一体、彼らは何をするつもりなのか。
タイタン
「マル・・・セル」
マルセル
「タイタン!」
タイタンは、自分の名前を呼んだ方向に少し首を傾ける。
すると視界に、青色のマスクを被った“マルセル”がリングの中心で仁王立ちしていた。
タイタン
「マルセル・・・マルセル!」
マルセル
「タイタン! 待たせたな、俺が来たからにはもう大丈夫だ!」
タイタンの瞳孔が開き、僅かながら生命が蘇り、表情も微笑んでいる。
求めていた戦友のマルセルが目の前に現れ、彼の元気な源となり、そして次の瞬間、ゆっくりと立ち上がる。
これには、流石に周囲のメンバーは驚愕した。
それだけじゃない、一歩ずつ、一歩ずつ、ゆっくりと、ゆっくりと歩き出し、マルセルの方に向かう。
しかし、体重が支えきれなくなり、倒れそうになった瞬間、マルセルが間一髪にタイタンを支える。
タイタンとマルセルは、リングの上でオデコをくっつけ合う。
リングの上で強敵に勝利した後、二人は向かい合ってオデコをくっつけ合っていた。
タイタン
「・・・マルセル・・・マルセル!」
いつも口癖の様に吐いていた「マルセル」は、求めていた“意味”だが。
この日の「マルセル!」は、求めていた者が手に入り、喜びの「マルセル」だった。
マルセルの正体は、“マルセル・キング“。
体格も身長も酷似しており、名前も一緒。
だけど正義の味方とは程遠い、彼の経歴はどちらかと言うと“悪者“。
<マルセル・キングの記憶>
脅迫・薬物・盗み・殺人、神様に嫌われる行為は何でもした。
それが当たり前だった、そうしないと生きられないからと、彼は自分を正当化した。
ギャングは他人の人生を奪う行為を正当化している。
キング自身も、自分は吸血鬼だと自負していた。
ロサンゼルスでは、常に敵対組織と縄張り抗争を繰り広げ、領土を増やし、勢力を拡大するのがギャングの目標。
そして気づけば、キングはロサンゼルス内の巨大犯罪組織の首領となっていた。
悪事で働いて稼いだ莫大な資産、妻と子も授かった。
しかし、キングは闇社会の人間、順風満帆な人生を与えられるわけがない。
FBIの囮捜査により、彼は人生2度目のお縄にかかり、檻の中に10年収監された。
刑を満期出所して、自分の巣に帰るつもりでいたが、闇の社会構造も、表社会と同じく1年でだいぶ変わる。
キングが束ねていた組織は、かつての自分の仲間が首領の座につき、先代であったキングは蔑ろにされた。
つまりキングが不在の間に起きた、事実上のクーデター。
それだけじゃない、キングは仲間に見放されただけではなく、愛していた妻子はギャング抗争に巻き込まれ死亡してしまう。
キングの帰る所は無くなっていた。
我に返り、自分がしてきた事は単なる、お遊戯でしかない事に気づいた。
自分の愚かさを受け入れ、闇社会から足を洗う決意をするが、社会のはみ出し者であったキングを温かく向かい入れる程、世間が優しくないのは、言うまでもない。
表の世界でも、裏の世界でも、生き場を失った男。
キングは影武者の頼みを、ためらいもなく、あっさりと引き受けた。
引き受けた時の彼のセリフは。
キング
「最後ぐらいは、“人間”らしい事をしたい」
キングもタイタンも、妻子を失った者同士、共感する部分があったのだろう。
5月2日午前10時
今宵も、希望者達の“生か死”の選択肢を迫られるが、この部屋に入る前から既に運命が決まっている男もいる。
その男は、初期の認知症症状が出てから、安楽死の希望を政府に申請していた。
それだけじゃなく、レストガーデンに来るずっと前に“終命書”に承諾印を押していた。
フランスの安楽死法では、認知症患者は特別待遇を受ける。
元プロレスラーの男は、最後は幸せな表情で「マルセル」と、カプセルの中で呟く。
正義の味方のまま、強さと共に天国に向かう。
ジョルジュ・ル・タイタン・デュラン
終命書に承諾印を確認
5月2日 レストガーデンより永眠。
part2に続く
広場公園で、一つのリングが用意されていた。
タイタンは、スタッフから意味も分からずに車椅子を押され、広場公園にやって来た。
飽きもせず“マルセル、マルセル”と呟くタイタンだが、このセリフは永眠するまで言い続けるのだろうか。
タイタンは、リングの上ではどんな強敵も打ち倒してきた、どんな過酷な環境下でも耐えてきた。
でもそれは、戦友のマルセルと乗り越えられてきたからで、一人では何も出来ない“弱さ”を備えていた
妻子が無理心中してから、タイタンはプロレス界を追放され、巻き添えを恐れたマルセルは、彼を見捨てた。
妻子を失い、友には見捨てられた、連続の“絶望”に耐えられるほど彼は強くなかった。
失った彼を取り戻すには、戦友の“マルセル”が彼の前に現れ、「待たせたなタイタン、俺が来たからには大丈夫だ!」と、助け舟を出す。
そして試合に勝利すれば、リングの上で、お互いのおでこをくっつけ合い、“永遠の友“の誓いをするのが、お約束だった。
広場公園には、タイタンを迎える為に、“彼“・”エリーゼ”・“マドレーヌ“、そしてもう”一人“が待っていた。
三人はリングの上に、車椅子ごとタイタンを上げる。
一体、彼らは何をするつもりなのか。
タイタン
「マル・・・セル」
マルセル
「タイタン!」
タイタンは、自分の名前を呼んだ方向に少し首を傾ける。
すると視界に、青色のマスクを被った“マルセル”がリングの中心で仁王立ちしていた。
タイタン
「マルセル・・・マルセル!」
マルセル
「タイタン! 待たせたな、俺が来たからにはもう大丈夫だ!」
タイタンの瞳孔が開き、僅かながら生命が蘇り、表情も微笑んでいる。
求めていた戦友のマルセルが目の前に現れ、彼の元気な源となり、そして次の瞬間、ゆっくりと立ち上がる。
これには、流石に周囲のメンバーは驚愕した。
それだけじゃない、一歩ずつ、一歩ずつ、ゆっくりと、ゆっくりと歩き出し、マルセルの方に向かう。
しかし、体重が支えきれなくなり、倒れそうになった瞬間、マルセルが間一髪にタイタンを支える。
タイタンとマルセルは、リングの上でオデコをくっつけ合う。
リングの上で強敵に勝利した後、二人は向かい合ってオデコをくっつけ合っていた。
タイタン
「・・・マルセル・・・マルセル!」
いつも口癖の様に吐いていた「マルセル」は、求めていた“意味”だが。
この日の「マルセル!」は、求めていた者が手に入り、喜びの「マルセル」だった。
マルセルの正体は、“マルセル・キング“。
体格も身長も酷似しており、名前も一緒。
だけど正義の味方とは程遠い、彼の経歴はどちらかと言うと“悪者“。
<マルセル・キングの記憶>
脅迫・薬物・盗み・殺人、神様に嫌われる行為は何でもした。
それが当たり前だった、そうしないと生きられないからと、彼は自分を正当化した。
ギャングは他人の人生を奪う行為を正当化している。
キング自身も、自分は吸血鬼だと自負していた。
ロサンゼルスでは、常に敵対組織と縄張り抗争を繰り広げ、領土を増やし、勢力を拡大するのがギャングの目標。
そして気づけば、キングはロサンゼルス内の巨大犯罪組織の首領となっていた。
悪事で働いて稼いだ莫大な資産、妻と子も授かった。
しかし、キングは闇社会の人間、順風満帆な人生を与えられるわけがない。
FBIの囮捜査により、彼は人生2度目のお縄にかかり、檻の中に10年収監された。
刑を満期出所して、自分の巣に帰るつもりでいたが、闇の社会構造も、表社会と同じく1年でだいぶ変わる。
キングが束ねていた組織は、かつての自分の仲間が首領の座につき、先代であったキングは蔑ろにされた。
つまりキングが不在の間に起きた、事実上のクーデター。
それだけじゃない、キングは仲間に見放されただけではなく、愛していた妻子はギャング抗争に巻き込まれ死亡してしまう。
キングの帰る所は無くなっていた。
我に返り、自分がしてきた事は単なる、お遊戯でしかない事に気づいた。
自分の愚かさを受け入れ、闇社会から足を洗う決意をするが、社会のはみ出し者であったキングを温かく向かい入れる程、世間が優しくないのは、言うまでもない。
表の世界でも、裏の世界でも、生き場を失った男。
キングは影武者の頼みを、ためらいもなく、あっさりと引き受けた。
引き受けた時の彼のセリフは。
キング
「最後ぐらいは、“人間”らしい事をしたい」
キングもタイタンも、妻子を失った者同士、共感する部分があったのだろう。
5月2日午前10時
今宵も、希望者達の“生か死”の選択肢を迫られるが、この部屋に入る前から既に運命が決まっている男もいる。
その男は、初期の認知症症状が出てから、安楽死の希望を政府に申請していた。
それだけじゃなく、レストガーデンに来るずっと前に“終命書”に承諾印を押していた。
フランスの安楽死法では、認知症患者は特別待遇を受ける。
元プロレスラーの男は、最後は幸せな表情で「マルセル」と、カプセルの中で呟く。
正義の味方のまま、強さと共に天国に向かう。
ジョルジュ・ル・タイタン・デュラン
終命書に承諾印を確認
5月2日 レストガーデンより永眠。
part2に続く
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