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17.ウェザービー王家の別邸(2)

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風に吹かれて、屋敷周りの森がざわざわと音を立てている。
だからと言ってはなんだが、エカテリーナはなかなか寝付くことが出来なかった。綺麗に整えられた客室で一人、寝返りをうったり目を瞑ってみたりしたものの一向に来るべき睡魔はやって来ない。ええい、と痺れをきらした彼女はこの気分転換に夜の城探検に出掛けることにしたのだった。
かなり古くに建てられたこの城、いくら内部は定期的に手入れされているとはいえ、夜歩くには幾分暗すぎるくらいだ。エカテリーナは手持ちのランタンにマッチで火をともすと、そおっと廊下へ出る。石畳で敷かれた長い廊下に、彼女自身の影が伸び、そして揺らめいていた。

ゆらゆらゆら

エカテリーナが歩く度に影は揺れ、ランタンの灯りに就寝中のシャンデリアがキラキラと反射する。そんなこんなしているうちに、一階の北にある図書室へと辿り着いた。図書室というのはどの家のものも皆、紙と埃の匂いがするものだ。実家のそれを思い出し、エカテリーナは安堵のため息をつきながら部屋の一番奥にある座り心地が良さそうなソファに腰を掛けた。

眠れない夜、思考が絡まってしまう夜、エカテリーナはいつも必ず図書室で過ごした。ただ図書室の椅子に体育座りで丸まり、目を瞑って無心になるのだ。今晩もそうすれば、1時間後にはきっと眠れるはずだった。しかし彼女のリラクゼーションタイムは思わぬ足音で中断される。

カツーン…、カツーン…

しまった、と直感的にエカテリーナは思った。いくら王家別邸といえども100%安全という訳ではない。もし足音の主が物好きな賊であれば、屋敷のものが寝静まった状態で一人図書室になぞいるエカテリーナの命は無いも等しい。

足音はそのまま真っ直ぐに図書室へと向かってくる。エカテリーナは側にあった重厚な本を一冊手に取ると、ぎぃっと音を立てて空いた扉の隙間めがけて勢いよく投げつけた。

「きゃぁ!」
「いてて…」

見知った声にランタンの光を投げかければ、そこにはロイドの姿があったのだった。
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