家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました

朔夜

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1章

迫る王国の影

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アイラの魔力量が“測定不能”だったという報告は、
たった一日で王城の最高会議にまで届いた。
 王族や大臣たちは、この異常な事態に顔を曇らせる。
「王国史に例のない魔力……放置はできません」
「危険な力を持つ者は、王家で管理すべきだ」
「いっそ、研究対象に——」
「いや、女の子だろう? まだ十歳だぞ」
「だからこそ、早く手を打たねば。成長してからでは遅すぎる」
 議論は二日二晩続き、ある方針が決定された。
──特殊魔力を持つ子どもは、王家の監督下に置く──
 その知らせは、王国騎士団によって
アストリア家のもとへ届けられた。
「……っ、これは……!」
 父ガルドは震える手で通達書を持つ。
母ライラの顔は真っ青になった。
 王家の紋章が刻まれ、
“アイラを王城へ移送する”と、
はっきり書かれている。
「待ってください! アイラはただの子どもです!」
母ライラが声を荒げる。
「ええ、そうだ。まだ十歳の少女だ。
災厄をもたらしたわけでもない。連れて行く必要などない!」
 父ガルドも必死に訴えるが、
騎士団長は一歩も引かなかった。
「我々もできれば穏便に済ませたいのだ。
だが、王命だ。
従わなければ、アストリア家に“反逆”の疑いがかかる」
 その言葉に、両親の血の気が引く。
「……反逆……?」
「子ひとりのために、家族全員が処罰されるなど……誰も望まないだろう」
 騎士団長は淡々とした声で言う。
だがその裏には──
“拒めば、家ごと消す”という冷酷な意志が透けて見えた。
 母ライラは震えながら言葉を紡ぐ。
「そんな……アイラを……娘を手放せなんて……!」
「手放せとは言っていない。
“預かる”だけだ。監視と研究のためにな」
 その瞬間、ライラは言葉を失った。
 彼らの“預かる”が何を意味するのか、
誰よりも理解していたからだ。
──アイラは、もう家に戻れなくなる。
 その日の夜。
父も母も、食事の席で沈黙したままだった。
 兄ルーグも姉ミリアも、ただ不安そうに顔を見合わせる。
「……お父さん?」
アイラが小さな声で尋ねる。
「……アイラ。今日は……少し疲れただけだ」
父ガルドは無理に笑った。
 しかし、その目は笑っていなかった。
 食事が終わり、子どもたちが部屋に戻ったあと。
両親は重い沈黙を破った。
「ガルド……どうするの……?」
母ライラの声は震えていた。
「どうもこうも……もう逃げられん。
王家を敵に回せば、家族全員……いや、この村の者たちまで巻き込まれる」
「でも……アイラを……あの子を……!」
 母は泣き崩れた。
父は唇を強く噛みしめ、拳を握りしめた。
「……俺だって……渡したくない。
子の力が強すぎるだけで、なぜ連れていかれねばならん……!」
 しかし現実は残酷だった。
 “拒めば反逆”
 “従えば娘を失う”
 どちらを選んでも、地獄だ。
 翌日、村では早くも噂が広がっていた。
「王家がアストリア家の娘を引き取るって?」
「やっぱり危険なんだろうな」
「測定不能だなんて……魔物より怖いじゃないか」
 アイラが外を歩けば、
怯えた大人たちに避けられ、
友だちにも近寄られなくなった。
(どうして……みんな私を見て怖がるの……?)
 アイラは誰にも言えず、
一人で胸に問いかけた。
 家族の心に生まれた“影”は、
王家からの圧力によってさらに濃く、深く広がっていく。
 この影が、やがて
「愛していたはずの家族」がアイラを捨てる理由となっていく。
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