5 / 19
1章
迫る王国の影
しおりを挟む
アイラの魔力量が“測定不能”だったという報告は、
たった一日で王城の最高会議にまで届いた。
王族や大臣たちは、この異常な事態に顔を曇らせる。
「王国史に例のない魔力……放置はできません」
「危険な力を持つ者は、王家で管理すべきだ」
「いっそ、研究対象に——」
「いや、女の子だろう? まだ十歳だぞ」
「だからこそ、早く手を打たねば。成長してからでは遅すぎる」
議論は二日二晩続き、ある方針が決定された。
──特殊魔力を持つ子どもは、王家の監督下に置く──
その知らせは、王国騎士団によって
アストリア家のもとへ届けられた。
「……っ、これは……!」
父ガルドは震える手で通達書を持つ。
母ライラの顔は真っ青になった。
王家の紋章が刻まれ、
“アイラを王城へ移送する”と、
はっきり書かれている。
「待ってください! アイラはただの子どもです!」
母ライラが声を荒げる。
「ええ、そうだ。まだ十歳の少女だ。
災厄をもたらしたわけでもない。連れて行く必要などない!」
父ガルドも必死に訴えるが、
騎士団長は一歩も引かなかった。
「我々もできれば穏便に済ませたいのだ。
だが、王命だ。
従わなければ、アストリア家に“反逆”の疑いがかかる」
その言葉に、両親の血の気が引く。
「……反逆……?」
「子ひとりのために、家族全員が処罰されるなど……誰も望まないだろう」
騎士団長は淡々とした声で言う。
だがその裏には──
“拒めば、家ごと消す”という冷酷な意志が透けて見えた。
母ライラは震えながら言葉を紡ぐ。
「そんな……アイラを……娘を手放せなんて……!」
「手放せとは言っていない。
“預かる”だけだ。監視と研究のためにな」
その瞬間、ライラは言葉を失った。
彼らの“預かる”が何を意味するのか、
誰よりも理解していたからだ。
──アイラは、もう家に戻れなくなる。
その日の夜。
父も母も、食事の席で沈黙したままだった。
兄ルーグも姉ミリアも、ただ不安そうに顔を見合わせる。
「……お父さん?」
アイラが小さな声で尋ねる。
「……アイラ。今日は……少し疲れただけだ」
父ガルドは無理に笑った。
しかし、その目は笑っていなかった。
食事が終わり、子どもたちが部屋に戻ったあと。
両親は重い沈黙を破った。
「ガルド……どうするの……?」
母ライラの声は震えていた。
「どうもこうも……もう逃げられん。
王家を敵に回せば、家族全員……いや、この村の者たちまで巻き込まれる」
「でも……アイラを……あの子を……!」
母は泣き崩れた。
父は唇を強く噛みしめ、拳を握りしめた。
「……俺だって……渡したくない。
子の力が強すぎるだけで、なぜ連れていかれねばならん……!」
しかし現実は残酷だった。
“拒めば反逆”
“従えば娘を失う”
どちらを選んでも、地獄だ。
翌日、村では早くも噂が広がっていた。
「王家がアストリア家の娘を引き取るって?」
「やっぱり危険なんだろうな」
「測定不能だなんて……魔物より怖いじゃないか」
アイラが外を歩けば、
怯えた大人たちに避けられ、
友だちにも近寄られなくなった。
(どうして……みんな私を見て怖がるの……?)
アイラは誰にも言えず、
一人で胸に問いかけた。
家族の心に生まれた“影”は、
王家からの圧力によってさらに濃く、深く広がっていく。
この影が、やがて
「愛していたはずの家族」がアイラを捨てる理由となっていく。
たった一日で王城の最高会議にまで届いた。
王族や大臣たちは、この異常な事態に顔を曇らせる。
「王国史に例のない魔力……放置はできません」
「危険な力を持つ者は、王家で管理すべきだ」
「いっそ、研究対象に——」
「いや、女の子だろう? まだ十歳だぞ」
「だからこそ、早く手を打たねば。成長してからでは遅すぎる」
議論は二日二晩続き、ある方針が決定された。
──特殊魔力を持つ子どもは、王家の監督下に置く──
その知らせは、王国騎士団によって
アストリア家のもとへ届けられた。
「……っ、これは……!」
父ガルドは震える手で通達書を持つ。
母ライラの顔は真っ青になった。
王家の紋章が刻まれ、
“アイラを王城へ移送する”と、
はっきり書かれている。
「待ってください! アイラはただの子どもです!」
母ライラが声を荒げる。
「ええ、そうだ。まだ十歳の少女だ。
災厄をもたらしたわけでもない。連れて行く必要などない!」
父ガルドも必死に訴えるが、
騎士団長は一歩も引かなかった。
「我々もできれば穏便に済ませたいのだ。
だが、王命だ。
従わなければ、アストリア家に“反逆”の疑いがかかる」
その言葉に、両親の血の気が引く。
「……反逆……?」
「子ひとりのために、家族全員が処罰されるなど……誰も望まないだろう」
騎士団長は淡々とした声で言う。
だがその裏には──
“拒めば、家ごと消す”という冷酷な意志が透けて見えた。
母ライラは震えながら言葉を紡ぐ。
「そんな……アイラを……娘を手放せなんて……!」
「手放せとは言っていない。
“預かる”だけだ。監視と研究のためにな」
その瞬間、ライラは言葉を失った。
彼らの“預かる”が何を意味するのか、
誰よりも理解していたからだ。
──アイラは、もう家に戻れなくなる。
その日の夜。
父も母も、食事の席で沈黙したままだった。
兄ルーグも姉ミリアも、ただ不安そうに顔を見合わせる。
「……お父さん?」
アイラが小さな声で尋ねる。
「……アイラ。今日は……少し疲れただけだ」
父ガルドは無理に笑った。
しかし、その目は笑っていなかった。
食事が終わり、子どもたちが部屋に戻ったあと。
両親は重い沈黙を破った。
「ガルド……どうするの……?」
母ライラの声は震えていた。
「どうもこうも……もう逃げられん。
王家を敵に回せば、家族全員……いや、この村の者たちまで巻き込まれる」
「でも……アイラを……あの子を……!」
母は泣き崩れた。
父は唇を強く噛みしめ、拳を握りしめた。
「……俺だって……渡したくない。
子の力が強すぎるだけで、なぜ連れていかれねばならん……!」
しかし現実は残酷だった。
“拒めば反逆”
“従えば娘を失う”
どちらを選んでも、地獄だ。
翌日、村では早くも噂が広がっていた。
「王家がアストリア家の娘を引き取るって?」
「やっぱり危険なんだろうな」
「測定不能だなんて……魔物より怖いじゃないか」
アイラが外を歩けば、
怯えた大人たちに避けられ、
友だちにも近寄られなくなった。
(どうして……みんな私を見て怖がるの……?)
アイラは誰にも言えず、
一人で胸に問いかけた。
家族の心に生まれた“影”は、
王家からの圧力によってさらに濃く、深く広がっていく。
この影が、やがて
「愛していたはずの家族」がアイラを捨てる理由となっていく。
15
あなたにおすすめの小説
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
女神様、もっと早く祝福が欲しかった。
しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。
今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。
女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか?
一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる